「 絆 」−後編−

これは4人目のARMSをもつ久留間 恵の視点で描かれております




・・・・・・高槻 涼・・・

私は別にあんたの仲間になるわけじゃないんだから!!

さっきの借りを返す

それだけなんだから!!



私が残りのARMSを持つもの騎士(ナイト)神宮 隼人、白兎(ホワイトラビット)巴 武士をと共に職員用の通路を戦場へと向けて走っていた

魔獣(ジャバオック)に精神を蝕まれかけているもう一人のARMSを持つ高槻 涼を救うべく



私達が職員用通路を駆け抜けて出口から外へ出てみるとそこはまだ戦場の真っ只中だった


     ドドドドド


「危ねぇ!!」

「うわぁあ!!」

「キャァァーー!!」

戦場の爆風の余波が私達へと襲いかかる


・・・・こ、これが魔獣(ジャバオック)の力!?

果たして私達にこの戦いを止める、いえ、高槻を救うことさえできるの!?

・・・・でも・・・やらなきゃ・・・・

高槻に借りを返す・・・・

・・・・・それが私の誇りだから

でも、そのためには彼女が・・・・


「!!あ・・・あそこに誰か倒れてるよ!!」

巴 武士が何かを見つけ私達がそこへ駆け寄ると、そこには一人の女が倒れていた

まさか死んでるの!?

もし死んでたら別の方法で高槻を助けなければならない

でも他の方法なんてこのときの私には考えられない

「お・・・おい、大丈夫か!?」

神宮 隼人が駆け寄って話し掛ける


・・・・どうなの?

生きてるの?・・・それとも死んでいるの・・・・・


「あ・・・・・あなた達・・・逃げて・・・・」

その女は微かに意識を保っているようで、かろうじて生きてはいるようだった

でも逃げろって・・・・

「早く逃げないと・・・全員殺されてしまう・・・」

「なにぃ!!」


彼女は殺されるといった

魔獣(ジャバオック)に私達が殺される?

・・・・でもそんなのわかりきっているわ


「・・・あなたがユーゴー・ギルバートね・・・ブルーメンでも噂には聞いていたわ・・・」

「私達はこれからジャバオックに取り込まれた高槻 涼を救出しに行くの。それにはあなたの助けが絶対必要なのよ!!」


私は彼女の目を見据えて話す

彼女ユーゴ・ギルバートの名前は私もブルーメンの資料で読んでだいたいのことはわかっている

彼女の能力の事も・・・・


彼女の方はまだ意識でもハッキリしないのか、空ろな瞳で私を見詰め返している

「え・・・・・どういうことだよ、久留間」

「彼女はエグリゴリでも有名なテレパシー能力の持ち主なのよ。間接的に自分以外の精神を送り込むことができる能力を持っているの」

「さあ、私達の精神をジャバオックに送り込んでよ!!」

「さっき、クリフにやったときと同じように!!」

・・・それしか高槻を助けにいく方法がないんだから

「・・・・・・・・・・・それは・・・・・・・・・・・・できないは・・・・・・」

彼女は私と視線を外して、俯いて私の要求を拒否した

「何故!?今さら敵も味方もないでしょ!?」

そう、今は敵味方がどうのと言ってる場合じゃない

「・・・・さっき私も高槻くんを呼び起こそうと、ジャバオックの精神に入ってみたのよ!!」

急にさっきまでの彼女とは打って変わって鬼気迫るといった表情で私達に告げる

「あれは・・・・破壊と滅亡だけを望んで生まれた悪魔のような存在・・・・わたしはあんなすごい精神エネルギーを見たことがない!!」

「あれだけの業火が渦巻く精神の中で、捜索するなんてほとんど不可能よ!!」

「・・・・・・・・・・」


私は黙って彼女が見てきたものの告白を聞いている。

・・・・でも、破壊と滅亡を望んで生まれたってどういう事?

ジャバオックとはいったいどのようなものなの?


「あんた達の精神だって燃やし尽くされてしまえば、二度と戻ってこれないのよ」

「・・・・・・・・・それに・・・・」

「・・・・たとえ見つけたとしても高槻君が出てくるか・・・・・」

「私達があんなひどい映像を見せなければ高槻君はジャバオックに取り込まれなかった・・・・」

「今、彼の精神は大きく揺れている・・・・・」

「だから、彼の意志なくして救出なんて不可能よ・・・・」

「ふん・・・・・奴の精神が揺れ動いているのなんて前から知っているよ」

彼女が話し終えるとさっきまで腕を組んでじっと黙って聞いていた神宮 隼人が口を開いた

「そしてオレ達がそれを救ってやらなきゃならん事もな!!」

「そう・・・・同じ運命の下に生まれた兄弟としてね・・・」

神宮 隼人に呼応するかのように巴 武士もさっき私に言ったのと同じ台詞をはく

「いつかはやらなきゃいけない事だ!」

「さあ、つべこべ言ってねーでオレ達を送れ!!」

「どのみち高槻がいなけりゃオレ達の戦いは始まらねえんだ!!」

「・・・・・・・・・・わかったわ・・・・・」

「・・・・彼を・・・・高槻君を救ってあげて・・・・」

神宮 隼人の説得に彼女は私達の精神を高槻の、ジャバオックの精神に送り込む事を承諾した


神宮 隼人が彼女の説得に成功したっていうのはしゃくだけど、私の目的はあくまで高槻に借りを返す事

・・・・・・それだけなんだから!!













「ほらそこ、危ないわよ」

「うわぁ」

    ゴウッ

「言ったでしょ、私の言う通り歩かないと、あんた達一瞬のうちに焼け死ぬわよ!!」

「・・・・・・・・・・あ・・・・ああ・・・」

「し・・・しかし、これがジャバオックの精神の中か・・・・まったくすげえもんだ・・・・・・・・・・」


無事ジャバオックの精神に彼女、ユーゴーの協力を得て入ることに成功した

だがそこはあたり一面炎が燃え盛る光景だった

・・・・・これがジャバオックの精神!?


「いくら精神内の移動とはいえまさかこれほどのエネルギーとは・・・」

「そうよ、燃えちゃったらもう二度とここから出られないのよ!!」

「でもすごいよ久留間さん、君の目は高槻君の精神内でも通用するんだね・・・」

巴 武士が言うように、確かに私のARMS“ハートの女王(クイーン・オブ・ハート)”はジャバオックの精神の中でもちゃんと発動していた

「私にもなぜだかわからんないわ・・・」

「でも今はそんなこと言ってる場合じゃ・・・・・」

「!!」

    ドン

「あた!!」

私は目前に炎以外の別のものを捉えた

「たっ、高槻ぃ!!」

どうやら神宮 隼人も私と同じ物を見つけたようだ

目の前には私達が探していた高槻が横たわっていた

気絶しているのかピクリとも動かない

「よーし武士、高槻を連れて帰るぞ、手伝え!!」

「うん!!」

二人は一目散に高槻に駆け寄ろうとする

・・・・・が、

「そこを動かないで!!」

私は二人に警告を与える

「・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・す・・・・・すごい・・・・エネルギー・・・・」


今までの炎とは比べ物にならない・・・・・

・・・・・・・・・・・・・これが・・・・

破壊と滅亡だけを望んで生まれた・・・・・

悪魔!!

・・・・・高槻は・・・・・こんな化け物を抱えていたの!?



我は絶対の破壊者、ジャバオック

全てを破壊し殺戮するために生まれた・・・・

我は魔獣!!

我を邪魔するものは、何人(なんぴと)たりとも許さん!!

我の内に侵入したおまえらも、破壊し燃やし尽くしてやる!!




「けっ、上等だぁ。燃やせるもんなら燃やしてみやがれ!!」

「待ってろよ高槻、今助けてやるからな!!」

「ジャバオック、テメーなんかにオレ達の仲間を好きにはさせねえ!!」

神宮 隼人はああ言って強がってはいるが、実際私にもこんなエネルギーを持った化け物相手に作戦なんか思いつかない

けど、その前に・・・・・・

・・・・・・・・私は仲間じゃないけどね・・・・・













    ズドォオ


精神内での私達の戦いははっきりいって私達に圧倒的に分が悪かった

ジャバオックの炎の爪は私達に容赦なく襲いかかり、私はその動きを“ハートの女王(クイーン・オブ・ハート)”で読んでかわすのがやっとだった

・・・・このままじゃ・・・


「くっそお高槻、いいかげん目を覚ませ!!早くしねーとオレ達、丸焼けになっちまうだろーが!!」

神宮 隼人もジャバオックの繰り出す攻撃に焦っている

クッ、このままじゃあ・・・

「お・・・・・おまえ達・・・・・・!?」

その時、いつのまにか起きたのか、ジャバオックの精神内の高槻が目を覚まして私達の存在を認識した

「おまえ達、何でこんなところにいるんだ!?」

「た・・・高槻君」

「よっしゃ、ようやくお目覚めか」。だったらとにかく早く戻ってこい・・」

「うわっ!!」


    ブワッ


クッ、高槻が起きたことに安心したせいか、そこに油断生じてジャバオックの攻撃が再び私達を襲う

「くっ!!」

そしてその攻撃の余波は高槻にも及んでいた


    ブオオッ


何故出ていこうとする!!

お前は我と力の契約を結んだはずだ!!


再びジャバオックの恐ろしい響きを持った声が聞こえる


今はお前のような弱い人間の出る幕ではない!!

我らの邪魔をする者は全て排除してやる!!


「冗談じゃねえ、オレはそんな事は望んじゃいねーぞ。ここはオレの意志の中だ。勝手な真似をしてんじゃねえ!!」


なんなの!?

ジャバオックの声は恐ろしいほどよく聞こえるけど、高槻の声はジャバオックのつくりだす炎の音で全然聞こえない

だが、高槻の様子からなにやら言いやっているようにも見える


笑わせるな、おまえの意志だけでなにができる・・・・だいたいお前の望みとはなんだ!?

カツミという人間を救う事か!?

ならばあきらめる事だ・・・・

あの女はすでに死んでいる

お前の“力”が足りなかったせいでな・・・・

所詮お前などひ弱な一人間にすぎないのだ!!

力が欲しいのならおまえは我に従えばいい

そしてカツミを殺した憎きエグリゴリを叩き潰すのだ!!



「おいおい、じょうだんじゃねえや。カツミはまだ生きてるぞ、勝手に殺すな」

「おい、高槻、お前がそう思わないでどうすんだよ。てめーが迷ってちゃカツミは絶対戻ってこれねーぞ!!」

「そうだ!!僕達だってカツミさんが生きてるって信じてるから、こうして君を助けに来たんだ!!」

「僕達同じ兄弟じゃないか!!これからも互いに助け合っていくんだろ!?」


神宮 隼人、巴 武士、そして高槻 涼・・・・

なぜ!?

なぜこいつらはこうも互いを思いやれるの・・・・・!?

・・・・・・・・・・兄弟・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・わたしも・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「だから一緒に帰ろう・・・・僕達の現実の世界へ!!」

二人の声が届いたのか、高槻は手を伸ばしながら真っ直ぐこちらに駆け寄ってくる

ジャバオックの業火の炎をものともせずに

そしてそれを契機に神宮 隼人、巴 武士も共に高槻に向かって手を差し出す















・・・・・・・・・・・・なにがおこったの・・・・・・!?

まわりを見渡すとすでにジャバオックのつくりだす炎は消えていた

そして目の前には4人手を合わせる私達がいる

・・・・・・・・・・・・・私達!?


「よかった高槻君、本当によかった」

「バカヤロー、てめーまったくハラハラさせやがって」

「・・・・・・・・・・・・・・ああ・・・・すまなかったなみんな・・・・・」

3人とも心から喜びを分かち合っている

・・・・わたしは・・・・

「ふん、なによ!!」

わたしはがっちりと組んでいた手を振り解いて3人から距離をとって虚勢を張る

しかし、その態度にこいつらは笑いかけてくる

わたしは思わず顔を赤面させてしまい

「・・・・わたしはただ助けてくれた借りを返しただけだからね」

顔の紅潮が消えぬまま自分でも強がりだと分かる言葉を放つ


その光景を近くでユーゴー・ギルバートと、ジャバオックに敗北したクリフ・ギルバートが見つめている

「・・・・・にいさん・・・・私達は・・・・完全に負けたのね・・・・」

「彼らはあのジャバオックに勝った・・・・・彼らなら勝てるかもしれない・・・あの・・・エグリゴリに・・・・」

「・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・ああ・・・そうだな・・・・・・」

「なんの恐れも不安もない・・・・その力強い絆で・・・・・!!」

















「・・・・・・・い・・・・・・・い・・・・・・・・・・・」

・・・・・なに・・・・・・この声は・・・・・!?

「・・・・・きろ・・・・・・・・い・・・・・・・・・・・・・・・い・・・・」

・・・・・・なんだかとっても心地よい・・・・・・・

・・・・・・・・そして・・・・・・・・



「恵!!」

突然名前を呼ばれたことにパッと目が開らくと、目の前には隼人が顔を近づけていた

「キャーーーーー!!」

突然のことに思わずわたしは叫んでしまった

「な、何!?」

「なに!?・・・・じゃねえだろ!!」

隼人が耳を押さえながら怒鳴る

「ったく、いつまで寝てんだよ!もう後少しで今日の目的地に着くんだからさっさとおきやがれ!!」

突然のことにしばらく頭がハッキリしなかったが、落ち着いて回りを見渡すと、隼人の他に涼、武士、ユーゴー、アル、運転席には兜がいた

「恵さん、よく寝てましたね・・・・結構疲れがたまってたんですか?」

ユーゴーが私に微笑みながら語り掛けてくる

「フン、これしきの旅で疲れてるなんてやはり凡人の証拠だな」

ノートパソコンのディスプレイを見、キーボードを叩きながらアルがつぶやく


    ゴンッ


その生意気な台詞に即座に隼人はアルの頭に鉄拳を食らわす

その光景も見慣れたものだけれど、この時にはなぜかとても暖かく感じられた

「それにしてもよく寝て・・・・・・・・・恵・・・泣いてるのか!?」

高槻の言葉に目の周りをぬぐうと確かに涙が流れていた

「な、なんでもないわよ・・・・」

私は顔を赤くしながら慌てて涙をぬぐう


しかし私にはなんとなくわかっていた・・・・・・

なんで涙を流したのか・・・・

なんであんな昔の夢を今頃見たのか・・・・

だが、理由はなんとなく分かる・・・・・

それは・・・・・・・・・

それは私にも仲間と呼べる存在ができたことだ・・・

力強い絆で結ばれた仲間が!!








私はこれからも生きていくの・・・・・・

この仲間達と一緒に・・・・

ずっと・・・・

仲間達と・・・・










「-絆-」・終





な、なんとか年内にUPすることができてホッとしています(^^;)
さてARMSノベル「絆」いかがでしたでしょうか?まあ、魔王(セイタン)クルフ・ギルバートとの戦いを“ハートの女王”のARMSを持つ久留間 恵の視点からというコンセプトで書いてみただけなのですが・・・・・・・。ですが未だにどうしてこの小説を書くにいたったかは本人でも未だに謎です(爆)はっきりいってARMSキャラで一番好きなのは女性では言わずもがな“天使”ユーゴー・ギルバートですからねぇ〜(ちなみに男性ではクリフなんです・・・ですから死んでしまってとても哀しい・・・)

今回の後編の執筆にあたってはジャバオックの精神世界を描くのが一番の難点でした。なにしろ本編でも恵の活躍はそこではあまり見られず、かといって変に活躍させても話しがめちゃくちゃになると思い、武士と隼人の行動を見詰める、といった内容にさせて頂きました。そしてラストは、まあお約束というか、アメリカに渡ったばかりの恵が夢で昔のことを思い出していたといったオチになってしまいましたが(笑)。まぁ書いていて楽しかったのは事実でしたからよしとしましょう!

さて、次回作ではSPRIGGANものを執筆してみたいと思いますので、これを読んで下さった方々にはまた読んで頂けると嬉しいです。タイトルは「 Trace Eden」です。日本語訳すると“エデンのルーツをたどる”とかそういう意味になるのでしょうが。主人公はもちろん御神苗 優で、他に“遺跡荒らし”の染井 芳乃の登場も考えていますんでその執筆をどうぞお待ち下さい。

では最後に今回の主人公久留間 恵 さんよりコメントを頂いております

「・・・・・・早く次回作でも書いてなさいよ。私はあなたと馴れ合うつもりはないんだから・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「クスン・・・・わたしは書いていくの・・・・・これからもずっと一人で・・・・・・・」


後書き・終



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