−天使の決意−
「ここに今回の事件で亡くなった人たちの慰霊碑が建つらしいわ」
目の前には『藍空市テロ事件 犠牲者 慰霊碑建設予定地』と書かれた看板が建っている
私、ユーゴー・ギルバートはその建設予定地の下見に私の仲間キャロルと共に訪れていた
私達、エグリゴリの特殊部隊通称“X−ARMY(エグザミィ)”が高槻 涼のARMSジャバオックを倒すためにここ藍空市にやってきてから私には様々なことが起こった
ARMSを持つ少年達の絆の深さを知ること
仲間と、そして………
私の唯一の兄、クリフ兄さんの死…
テレパシストである私の唯一の心のよりどころであった兄の死・…
それは私にとって身を裂かれるような思いであった
私の頭の中にはまだ兄さんの最後の声が頭に残っている
『…高槻…よ…X-ARMYは……ここまで…だ…妹…・・やキャロルを…頼む…』
…兄さんは最後に私やキャロルの心配をしながら死んでいった
とても穏やかな顔で…
それまではジャバオックを倒すことだけに取り付かれていた兄はまともではなかった
でも、そんな兄も高槻君達に負けることで、自分の過ちに気付き、本来のやさしい兄に戻ってくれた
最後にはテレパシストの私の心の中さえ見抜くほどに心穏やかだった…
私の心…そう、私が高槻君に惹かれているという事に…
『高槻 涼のことが気になるのか…!?』
『ハハハ…テレパシーなどなくとも、お前の心は顔を見れば分かる!!』
兄さんの暖かい言葉がこのときは気持ちが良かった…
でもそんなささやかな平和なときさえ神は許してくれなかったのか
残ったX-ARMYの仲間を救うべく出発した私達にレッド・キャップスと名乗るエグリゴリの超人軍隊がやってきて仲間や兄を殺していった
…私とキャロルを残して
私は兄や仲間のことを思い出していたら不意に涙が頬を伝い始めた
「ど、どうしたのユーゴー!?」
それを見たキャロルが心配そうに声をかけてくれる
「な、なんでもないわキャロル…ちょっと兄さんことを思い出していたら…ねっ」
私は涙を拭いて笑顔をキャロルに向ける
でももう悲しくはないわ
「だって兄さん達はこの地で安らかに眠ることができる」
それに私には悲しんでいる時間は限られている
この後には私は高槻君達と一緒にエグリゴリの中枢であるアメリカ大陸へと渡らなければならない
本当の戦いはこれからなのだから…
「……ユーゴー…」
キャロルが思いつめた表情で私に語りかける
「…私…私…日本に残るつもりなの…」
「十三じいちゃんが私を養子として引き取ってくれるって…」
キャロルは私に後ろめたいのか、ちょっともうしわけなさそうに告げる
でも私は別に気にしていない
だって、キャロルは私の妹みたいなもの、幸せになって欲しいもの
「…うん…わかってるわ、キャロル…」
私は笑顔で心からそう告げる
「いいこと、キャロル!!十三さんのためにももうあなたの能力は二度と使っちゃ駄目よ」
「日本で第二の人生を幸せに暮らしなさい」
「…ユーゴー………」
「…ユーゴーも絶対生きて帰ってこなきゃ駄目だよ…」
キャロルは両目から涙をあふれさせ私にうったえる
「わ…私ずっと待ってるから…」
「……わかってる…」
だから
「だから、私がいない間も、ずっと兄さん達のお墓にお花を飾ってあげてね」
「…う、うん…グスッ…グスッ…」
「ほら、もういいかげん泣き止んで…」
私はハンカチを取り出してキャロルの涙を拭いてあげる
「…だって…だって…」
私はキャロルを強く抱きしめると、キャロルも泣きながら私に抱きついてきた
…そこにはもう言葉などいらない世界となっていた
出発前夜、私はこの藍空市が一望できる場所へとやってきた
「…奇麗…」
日本にやってきてから戦いの連続で、私にはこの街の光景を堪能することなどなかった
そう思ったからこそここへやってきて、街の光景を眺めようとやってきた
街がつくりだすライトのイルミネーションが輝かしいばかりに街を明るく作り出し
私にはその街に住む人々の笑顔を想像するだけで、自然と私まで幸せな気持ちになれる
レッドキャップスの襲撃で家族や親しいものを失ったものもいたであろうが、彼らも私も生きているのである
生きている人間には生き続けなければならない
…死んでしまった人間達のためにも
…私もその一人であるから
私はこの考えが頭の中に自然と浮かぶことができた
「フフ、兄さん…私も少しは強くなったのかしら…」
私は誰とも無しに語りかける
そんな自分がおかしかったのか、ちょっとクスクス笑っている私がいる
「…あれ…ユーゴーじゃないか!?」
不意に後ろから聞き覚えのある声にびっくりして振り向くとそこには高槻君がいた
私は慌てて背中を向けて顔が紅潮してないことを確認すると再び向き直る
「…どうしたんだユーゴー!?」
「い、いえ、なんでもないんです…ただちょっとこの街の風景を目に焼き付けておきたくて」
少し照れながら告げる
「…ユーゴーもか…実は俺もなんだ」
高槻君も照れて鼻を掻きながら話す
「ここは俺が小さいときから暮らしていて、まだARMSもエグリゴリもない本当に平和な生活だったんだ」
「…ええ、わかります…」
そして高槻君にとっては例のカツミさんとの思い出が詰まった街…
「でも今度の戦いで俺は、いや俺たちは決してARMSを拒絶してはいけないということがわかった」
高槻君は自分の右腕を見つめながら説明してくれる
「ジャバオックは俺の無念、絶望、怒りが生み出した、いわば俺自身だということがわかった」
「ええ、そうですね」
もう忌まわしい己のARMSに対する憎しみはなく、高槻君の笑顔はとても素敵で、私は少し胸がドキンとし、それが顔に出ていないか心配になった
だが………
それと同時に少し寂しくもあった
「なぁ、ユーゴー……ユーゴーは本当に俺たちと一緒についてきていいのか!?」
「え……!?」
「いや、ユーゴーは兄さんや仲間を失ってもう戦いに疲れているかもしれない」
「…………」
「だけど俺たちは明日更なる戦いのために旅発つんだ…・もし、もし無理をしているのであれば……」
高槻君が言い終える前に私は手を高槻君の口の前にかざし、首を振る
「いいんです…確かに私は兄達を失って悲しくないといえば嘘になります…でもあのスタジアム…いえ、兄さん達が殺された時点で私は決心しているんです」
『あなたたちを守るためなら死んでもかまわない』これが私、そして兄達の意志
「私もあなたたちと一緒に戦っていくって…」
「そ、そうなのか…悪かった、ユーゴーの決心を鈍らせるようなことを言って……・・あ〜俺ってホントにバカだ」
高槻君は頭を抱えてちょっと反省している
そんな姿が高槻君には悪いけどなんだかおかしく感じられる
この優しさが彼の……
でもそんな光景を見ながら私は心の奥底ではもう一つの理由があることを自覚している
それは、高槻君………私はあなたを……
「まあ、これからの戦いではユーゴーのテレパシー能力は本当に必要になると思うから、仲間としてはとても心強いよ」
いいながら高槻君は右腕を私に差し出す
「ええ、私もそう言ってくれると嬉しいです」
感情を心の奥にしまって、差し出された手を握り返した
…とても暖かい…
「あれ!?高槻達じゃねぇか!?」
「ホントだ!!高槻君にユーゴーさん!?」
「げ、高槻までいるの!?」
不意に声のした方を振り向くと、そこには隼人君と武士君、それに恵さんがやってきた
「あれ!?おまえらまでどうしたんだ」
「うん、今夜でこの街ともお別れだからね。最後にこの目に焼き付けておこうと思ってね」
「俺はそんなのガラじゃねえからいいって遠慮しようと思ったけどな…・」
ちょっと照れながら隼人君は言う。
「私はユーゴーを迎えにね…そしてら途中でこいつらと会っちゃったから…別にあんたらと群れるためじゃないわよ」
恵さんも口ではああ言ってるが、表情からテレパシーで心を読むまでもなく照れだとわかる
私はおもわずクスリと笑う
「な、なによ、ユーゴー…」
「いえ…別に」
私はにっこりと笑いながら答えると、それを見て恵さんはもう何も言わなかった
「まあ今夜でこの街、いや日本とだっておさらばなんだからな」
「うん…でも僕はもう一度生きて帰ってこの風景を見たいとここに来て改めてそうおもったよ」
「ああ、俺たちの誰一人欠けることなくな」
「……えぇ」
私達はみなこの光景を瞼に焼き付けるかのようにじっと眺めている
…不思議
いまこうしている瞬間がとても心が落ち着いて穏やかになれる…
………私はいまとても心の底から安心している
この強い絆と心を持った仲間達と一緒にいられて
「さぁ、明日も早いんだからさっさと帰って寝ようぜ」
「うん、そうだね」
隼人君が促すと武士君も高槻君もみなうなずき歩き出す
「そうよ、ここに遅くまでいて明日の集合時間に遅れるなんてことがあったら先が思いやられるわ」
「まぁ、そう言っていてお前が遅れりゃー世話ないけどな」
「なんですって!」
「…………」
その後ろ姿を見ながら、この時私の心の中ではあの時に誓った言葉が再び語られる
『兄さん…私はこれから強く歩いていきます…』
『この仲間達と共に…』
『“天使(エンジェル)ユーゴー”の名は捨て…』
『羽根ではなく、二本の足で前進していきます!!』
『どうか見守っていて下さい…』
「ん、どうしたんだユーゴー!?」
高槻君の言葉で私は我へとかえり
「いえ、なんでも」
私は微笑みながら高槻君達の元へと歩み寄っていく
そしてこの時なぜか私の中の兄さん、いやヴォルフやキクロプス、他の今はいない仲間達もみんな私に向かって笑いかけてくれているような気がした
なぜそんな気がしたのか私にはわからない
ふと歩みを止めて後ろを振り向くと、街の明かりがさっきよりいちだんと輝いているように見えた
私にはその輝きがどこか暖かく感じられたのは気のせいだろうか
私はその輝きに向かって微笑むと、再び高槻君達のもとへと歩んでいった
…最初の一歩を踏み出して
後書き
あ〜テス テス
あっ!どうも、本作品を書かせて頂いたパラサイトいいます。
いかがでしたでしょうか「−天使の決意−」は?この話は私がユーゴー好きということもあって構想は前からあったのですが、後に回しているうちにどんどんと遅くなっていってしまいました。しかし当“ユーゴー祭り”開催に至ってやっと執筆する気になり、これもきっかけをくださったアーカムさんに感謝します(発起人はアーカムさんでいいんですよね?)。
では短いコメントですがここらで終わりにします。
BY
ユーゴー Love☆Love★ パラサイト