『絵本』


序章ープロローグー

 少女は絵本を手に取った。「人魚姫」と「銀河鉄道の夜」と表題が書かれた二冊の絵本を。
 
随分の歳月がその本を流れていったのだろう。
 
四隅が擦り切れ、色も黄ばんだ古い古い絵本。

 少女は後ろのページをめくった。
 
「人魚姫」にはメアリーとユーゴー、「銀河鉄道の夜」にはリンとユーゴーとそれぞれ
子供の字で書かれている。
 
眺める少女の脳裏をよぎるのは、少女が実の姉のように慕った女性の記憶。
 
 少女に優しい声で絵本を読む彼女の姿。
 少女の遊び相手をしてくれた彼女の姿。
 少女を暖かく見守ってくれた彼女の姿。
 そして彼女を見送った日の前夜の事。

 「クリフ兄さんには荷物になるって言われたけれど・・・持ってきて良かったわ。」
 「キャロル。私が帰ってくるまでこの絵本預かって欲しいの。」
 「ええ、この絵本は私にとって大切なものよ。」
 「じゃあこの本を私だと思って大切にしてね。」

 その日語った彼女の言葉。そして「絶対帰ってきてね。」と泣きながら彼女を見上げた
 自分の姿。

 今となっては、すべては遠い遠い記憶。


                           −to be continued−

作者の銀光さんへ感想等のある方はメールか掲示板で!

Novel