『絵本』
第一話 祖母ーメアリーおばあちゃんー 私には両親の思い出は何も無い。 クリフ兄さんと居たエグリゴリのPSIラボの無菌カプセルが、物心ついた時の私の世界 のすべてであり、両親の愛情に育まれた生活は私とは無縁の世界だった。 それでも私には家族が居た。 クリフ兄さん、ゴルゴンお姉ちゃん、そしてメアリーおばあちゃんが・・・・・。 クリフ兄さんに冷やかされた事がある。 「ユーゴーは本当にメアリーおばあちゃんの事が好きなんだな。」 発火能力者。コードネーム:サラマンダーと呼ばれたメアリーおばあちゃん! 私はメアリーおばあちゃんが大好きだった。 研究室での実験が終わると急いでおばあちゃんの部屋に行き、今日一日の事を話して それから絵本を読んでもらうのが、あの頃の私の日課となっていた。 おばあちゃんは朗読の名人だった。 人物や場面ごとに声を変えたり、大きくしたり小さくしたり、時には登場人物を私に 置き換えたり、悲しい結末を私が嫌がると物語をハッピーエンドにしてくれるのだ。 それが私には楽しくて仕方がなかった。 だから時には私達と別の部門で実験を受けているおばあちゃんの帰りが遅い時でも、 実験室に入る前おばあちゃんに貸してもらったカードで部屋に入った私は、部屋で おばあちゃんが戻ってくるのを待つ事は苦にならず、逆に私の実験が長引いてしまい おばあちゃんの部屋に行けない時ほどつらい事は無かった。 時にはクリフ兄さんに、「ユーゴー、メアリーおばあちゃんは今日は疲れているんだから もう部屋に戻ろうよ。」とたしなめられるほど私はおばちゃんにくっ付いていたけれど、 おばあちゃんは嫌な顔一つ見せずに私を可愛がってくれたものだった。 あの頃の私にはメアリーおばあちゃんこそが、お父さん、お母さんに代わる存在だった。 −to be continued− |
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