『絵本』


第七話 部隊ーX-ARMY−

 「こっちはクリスにダニーにトール、そっちはゴリアテにエヴァにハリー。
  また随分居なくなったものね。」

 ゴルゴンお姉ちゃんが寂しそうに呟く。

 「タルタロス、テテュスもな。」

 クリフ兄さんが消えていった仲間達の名を付け加える。

 私が能力を更に広げてから2年余り。

 また多くの仲間が消えて行った。

 そしてその事に慣れるのと同じ様に、私も忌まわしい能力と付き合っていく
 のに何とか慣れていた。

 人との付き合いを恐れ、人の顔色ばかり伺い、ただクリフ兄さんに依存する
 と言う歪んだ形となる事で・・・・・。

 そしてそんな私にお構いなく能力は広がっていった。

 今では私は、発狂したり廃人となる事無く成長したオリジナル以上の存在と
 して研究所員から高い評価を受けるまでになり、更なる能力の向上を望まれ
 ていた。

 私の気持ちとは関係なしに・・・・。

 「あいつらも、せめて一目でもいいから外の世界を見たかったでしょうね。」

 ゴルゴンお姉ちゃんが言葉を続ける。

 「あんたとこの眼鏡さんは、以前は時たま外に出てたようだけどね。」

 「眼鏡? ああキクロプスの事か。」

 クリフ兄さんが答える。

 「彼は一応シークレット・フォース特殊部隊の隊員も兼ねていたようだからな。」

 クリフ兄さんがその事を繰り返し考えている事が私には分かった。

 でもただ私は、何も言わず二人の会話を聞いていた。


 

 「確か軍服は支給したと聞いたのだが。」

 金髪の鋭い眼光をした軍服姿の男の人が嘲笑の響きを込めて言葉を続ける。

 「それともここを遊園地と勘違いしているのかな?クリフ君。」

 確かにその男の人の言う通りだろう。

 これから戦場となる地でクリフ兄さんはちょっとだぶついたスーツ姿、マーキュリー
 はTシャツにGパン、私はワンピースと言う姿なのだから。

 ただキクロプスだけは上のTシャツ以外は軍服だったけど・・・・。

 「お言葉ですがキース・レッド中佐。遊園地なんて敷居の高いものとは考えては
  いません。我々X-ARMYにとっては遊び場でしょうから。軍服なんかで大仰に飾る
  事は無いでしょう。」

 静かに、そして自信に満ち溢れた表情でクリフ兄さんが語る。

 内面に滲み出る緊張を隠しながら・・・・・・。

 そう、この服装も私達の初陣を印象付ける為のパフォーマンスに過ぎない。

 「フッ、まあいい。お手並みを拝見といこう。見事、反乱部隊を鎮圧したまえ。」

 《ガキが!粋がりやがって。》と言う心と共にその男の人、レッド中佐は言った。

 「いいな、30分間で鎮圧だ。それが過ぎれば包囲しているサイボーグ一個中隊
  に攻撃命令を出す。そして君達のX-ARMYの話も白紙とする。」




 その話をクリフ兄さんから聞いたのは、3ヶ月程前の事だった。

 いつものようにゴルゴンお姉ちゃんと話をしながら、私は時折キャロルに本を読む
 テディの様子を見ていた。

 私と同じくテレパシストのテディももう10歳。

 朗読もなかなか様になっている。

 あの忌まわしい力を手に入れ、私は人と会う事を恐れ、仲間も私の能力を前にして
 今まで以上に心をさらけ出すことを嫌った。

 クリフ兄さんとゴルゴンお姉ちゃん、そしてテディ達だけが私を受け入れてくれた。

 兄さんは私の能力を理解する事で、ゴルゴンお姉ちゃんは会話と心の声をなるべく
 同じにして私の負担を和らげることで、そしてテディ達は無邪気に開け広げた心で
 私を受け入れてくれた・・・・・。

 「ただいま。」

 クリフ兄さんが三人の客を連れて帰ってきた。

 「テディ、キャロル。僕達はこれから大切な話があるんだ。今日は帰ってくれない
  かな。」

 キャロルはちょっと愚図ついたけど、テディが彼女をなだめて部屋から連れて行った。

 「紹介するよ。ゴルゴンと僕の妹のユーゴー。ゴルゴン、ユーゴー。こちらは不死身
  のヴォルフと千里眼のキクロプス、そして韋駄天のマーキュリー。」

 筋骨隆々として髭をたくわえた男の人が挨拶した。

 「ヴォルフよ。よろしくねぇ。」

 黒髪の眼光鋭い男の人が、「よろしくな。」

 そして私も知っているキクロプスは、《久しぶりだな。お嬢ちゃん》と心の声を浮か
 べた。

 私達の挨拶が終わると、私のテレパシーを通じてクリフ兄さんが話を始めた。

 その話の内容は、現在この研究施設での被実験体である我々は「レッドキャップス」
 なる計画の為のデータ採取を目的とした存在に過ぎない事が明らかになった事。

 その為にこれからも多数の我々の仲間の犠牲者が予想される事。

 そしてプロジェクト「レッドキャップス」が完成した時、我々の安全の保障は定か
 では無い事。

 以上の事からプロジェクト「レッドキャップス」が完成する前に、何らかの形で
 我々の安全を保障する為のシステムをエグリゴリの組織の中に創り出す必要がある
 と思われる事。

 そして兄さん達が出した結論は、私達で編成され、特殊能力を駆使してエグリゴリ
 反乱もしくは敵対部隊鎮圧、第三世界に派遣する非合法な暗殺活動、破壊活動、
 秘密工作を行う部隊を研究所内に設け、やがて自立してエグリゴリの組織の一部と
 なる事が私達を救うというものだった。

 次の日、クリフにいさん達は研究所所長に研究所内の研究で私達を朽ち果てさせる
 のは効率の悪いものであり、それよりは一通りの実験を終えた者を実戦に投入する
 事が貴重なデータ採取にも、戦闘等に関しても効率的である事を力説した文書を
 提出した。

 それは拒否されるだろうと私は思っていた。

 それに人を殺す事にクリフ兄さんが関わる事も私は嫌だった。

 でも私の予想は外れた。

 たまたま研究所を訪れていたエージェントがその文書を目に留め、本部に提出し、
 部隊編成の許可を試験期間付きと言う条件で得たのだった。

 そのエージェントが、キース・レッド中佐だった。




 「ユーゴー、僕から離れるなよ。」

 荒野にひっそりと建っている施設を高台の岩に座って見下ろしながら、クリフ兄さん
 が私に話しかける。

 「キクロプス、どうだ様子は?」

 テレパシーで私は、施設周辺を偵察中のキクロプスからの研究施設の見張りの数と
 位置の思考を皆に伝える。

 私はレッド中佐の言葉を思い出した。

 「この施設は昨日早朝にミュラー大尉率いる強化人間(ブーステッドマン)
  の反乱部隊一個小隊に占拠された。どうやら自分達が廃棄処分される事を感付
  いたらしい。ただちに最寄のサイボーグ部隊二個小隊を主力とした部隊で奪回
  を図ったが、攻撃は全て撃退された。空軍を投入して殲滅する事も可能だが、
  なるべく穏便に済ましたい。そこで諸君等に出動要請が出たという訳だ。」

 《じゃあ行ってくるぜ。》

 マーキュリーがそう伝えると文字通り姿を消した。

 1〜1.5キロメートル離れた施設に篭る反乱部隊の人たちの思考が一つ二つ
 消えていく・・・・・・。

 《マーキュリーが見張りを全員始末した。》

 キクロプスの思念を伝えるか伝えないかのうちにマーキュリーが姿を見せる。

 《さすがに1キロ先だと瞬間移動は辛いな。》という思考と共に。

 《これで相手の目は潰れた。建物内から奴らが逃げる術は無い。》

 クリフ兄さんが立ち上がった。

 次の瞬間、研究所施設は巨大な見えない何者かに踏み潰されたように崩壊して
 いった。

 私に20人以上の断末魔の思念を残して・・・・・、俺達は強さを目指して今日

 まで生きてきた。その最後がこんなに簡・・・・と言う思念を・・・・・。

 「終わったわ・・・・兄さん。もうあそこからは誰の思考も入らない。」

 キクロプスも私の言葉を確認した。

 私の気持ちは重苦しく沈んでいた。

 せめてもの救いは兄さん達、そして私が殺めた人達を直接見ずに済んだと言う
 事。

 私は振り向いてクリフ兄さんの顔を見た。

 「どうしたユーゴー?」

 「ううん。なんでもないわ。」

 私は不安を感じていた。

 兄さんの顔が、一瞬、破壊の愉悦を貪る魔王(セイタン)に見えたから・・・・。


                         to be continued

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