「…やっぱり私に入る余地はないみたいですね…カツミさんがこんなに強くあなたの中に住んでいる…」
「…でも悲しくはない…こんなふうに誰かを好きになれるなんて、昔の私にはなかったもの……」
私は確かに高槻君に自分の気持ちを伝えることはできなかった……
ううん、伝える必要はなかった
人の心がわかるだけに私は人と接するのさえ拒絶するようになっていた
だけど、高槻君……あなたの勇気が私を変えてくれた
それに心から好きだと思える人を私は救えた
あの時の私には救えることができなかったもの……
だから後悔は無い………
……私の頬を涙が伝う
この涙が私が心からの思っていることを代弁してくれる
私は精一杯に生き、そして愛せる人の為に命を賭けれたと
私は高槻君の精神世界の中をただ漂っている……
まわりは暗く、光さえも射し込んでは来ない
普通ならこの闇の恐怖に耐えきれずに発狂してしまうかもしれない
だけど不思議と恐怖は感じられなかった
私はこれが死ぬことなのだと思った……
「クリフ兄さんやみんなも ………そしてフランツもこう感じて来たのかしら?」
私はポツリとつぶやく
『フフフフ』
「!?」
「……今、確かに誰かの笑い声が聞こえたような……」
まわりを見渡すが先ほどまでと変わらずの闇だけが広がる
「気の…せい?」
そう納得しようとすると視線の先になにか白いものが見えた
いや、それは一滴の光であった
『フフフフ』
再び聞こえる笑い声、今度のは気のせいなどではない
「確かに聞こえた! ……誰、誰なのあなたは?」
やがてその光はゆっくりと私の方に近付いてくる
そして私の前までサッカーボールぐらいの大きさの光が来ると、それはそのスピードを抑え、やがて止まる
「………あなたは、誰?」
私はそう言いながら手を光に手を差し伸べ、ゆっくりと触れる
するとその光は眩いまでの光を発し出した
「な、なにこの光は!?」
私は眩いまでの光から目を逸らすことができずにいた
すると今まで闇で覆われていたまわりの空間、精神世界が闇から光り溢れる世界へと変貌した
さっきまでの闇はどこにも見当たらず、光で照らし出されたことによってあたり一面が見渡せた
「……こ、これは一体!?」
『フフフフ』
驚愕の表情でまわりを見渡していると再び先ほどの笑い声が聞こえる
そしてその声はやはり先ほどの光から発せられている
『私の名は、アザゼル ……そして待っていた』
「アザゼル……あたなが!?」
『私は待っていた。……強き心を者達を』
『私はかつてこの地にやってきた ……だが私は独りだった』
「ええ、わかるわ ……独りは寂しいもの」
「でも私にはフランツやクリフ兄さんがいた。そして今では高槻君や恵さん達が…」
「だからこそ独りは寂しいと思う……」
『寂しい ……それこそ人が持つ“心”が生み出すもの』
『その汝の頬を伝う水 ……それも“心”生み出すもの』
『私はそう学んだ。そしてその“心”は私にはない』
「人には心がある ……でもあなたにはない ………いいえ!!」
「あなたは寂しいと思っていた!私にはわかるわ」
『寂しい!?』
「そう、あなたは寂しいと感じることができた。それが心」
『………』
「あなたはすでに心を持っている、今あなたが思っていることがその証拠よ」
『……これが ……心…』
『私は最後の最後に心を得ることができたのか……』
「最後?アザゼル、あなたは……!?」
『ありがとう ……私は最後の力を使い、汝らを助けよう』
「アザゼルっ!!」
『……ありがとう』
「待って!まだあなたとは話したいことが!!」
『表の少年も汝を待っているのであろう』
「表の少年? ……高槻君!!」
その言葉の後に、光の中に高槻君の姿が投影される
涙を流し、私を抱えている姿が見える
その表情は哀しさに耐え、決意を感じさせる表情だ
『汝に頼みがある……』
「頼み!?」
『私の望みは………』
アザゼルが私に告げた望み、それは私には当然のことだとなぜか理解できる
そしてその望みを叶える事を約束するとアザゼルが放つ光がしぼみ始めてきた
同時にその光によって照らされていたまわりの景色が再び闇に戻り始める
だがその闇にはもう恐怖はなかった
何故なら……
「ありがとうアザゼル」
私はそう言うと、静かに目を閉じる…
目をゆっくりと開ける
そこには私の愛しい人がまだ泣いたままうずくまっている姿が映った
哀しみをこらえようとはしているが、うまくできていないようだ
私は口元に力を入れてなんとか唇を動かそうとする
そして伝えなきゃ………
「た……高槻君 ……私…!?」
やっとのことでなんとか言葉を出す
でも、自然と身体に力が戻ってくるのがわかる
「ユ…ユーゴー!?」
………伝えなきゃ……
……アザゼルが……
「………アザゼルが………」
……伝えなきゃ…アザゼルの……意志を……
「アザゼルが私を救ってくれた…」
「その最後の力を使って ……全ての毒ガスを中和してくれた」
私は高槻君い肩を貸してもらってなんとか立ちあがりアザゼルのあった方を見つめる
そこには未だに濛々と蒸気をあげているが、その蒸気の中にまるで誰かが立っているような影ができている
私も、そして高槻君もそれの正体はわかっている
「そして伝わってきます …アザゼルの意志が」
「これまでよりも… はっきりと…」
……そしてあのアザゼルとの会話も思い出す
「…」
私は振り返って高槻君の方を向くと、彼もコクリとうなづき視線をアザゼルへと向ける
「俺にもわかるよ。これは…哀しみだ!!」
「こいつ(アザゼル)は何十億年も独りぼっちだったんだ… だからジャバウォックに惹かれた…」
「ええ、まるで蛍が仲間の光を求めて飛ぶように ……あなたの、高槻君のジャバウォックに惹かれたんです」
蒸気が晴れ渡ると、そこには一人の少女を模したアザゼルが立っている
その少女は高槻君が助け出そうと一生懸命になっている人、カツミさんの姿だ
彫刻のように微動だにしないが、まるで今にも動き出しそうな感じを受ける
そしてそれこそがアザゼルの“心”が表現しているのだと私にはわかる
「…高槻君…アザゼルに触れてあげて…」
……それがアザゼルが私に頼んだ願い
いいえ、例え頼まなくても今のアザゼルの“心”ならそれは高槻君にも伝わっている
そんな私の考えもわかってか、高槻君はコクリと頷くと、ゆっくりとアザゼルの元へ歩み寄りその差し出された手に、ARMSを移植された側の手を差し出す
そして高槻君がアザゼルに触れた途端、アザゼルはその姿を維持することができなくなりまるで砂粒のように崩れ落ちて行く
だがそんな光景にも、高槻君にはなにかが伝わったようだ
その証拠に彼の目からは溢れんばかりの涙が零れ落ちている
その時、アザゼルの願いは叶ったのだとわかった……
『私の望みは………』
『私の望みは、最後に我が子らと触れ合いたい ……それだけだ』
「……」
『だが私にはどうすれば我が子らが私に触れてくれるのかわからない』
「……それは、簡単です…」
『……』
「あなたが望むもの、それを高槻君に示せばいいの」
「そしてあなたはすでにそれをわかっているわ」
「聞いていたのでしょ、さっきの私と高槻君との会話を」
それは私がカツミさんの姿を借りた姿での会話を指す
『……ありがとう』
アザゼルはただ一言、そう答えた
………アザゼル、私も一言言わせてもらうわ……
「私達を助けてくれてありがとう」
静かにそう言い終えた時、私の頬を再び涙が流れ落ちるのを感じた。
-天使の涙・完-
後書
えへっ。えへへへ………中編を書上げてからどれくらいの月日が流れたのでしょうか………
中編を書いたのは確か昨年の6月で、今はもう11月だから………い、1年と5ヶ月………
12月になってたら1年と半年も書いてなかったのか…(汗)いや〜、いくら連載じゃないとはいえ短期の読み切りにこんなに時間をかけたらいかんよね〜〜〜〜
でも書上げてホッと、安堵のため息をもらしております。
で、なんで突然書いたかっていうと、実は最後にアザゼルが模していたカツミの姿!実はあれ、カツミかユーゴーかって迷っている最中、みんな(ネッ友)に聞いてみると……どっちにもまたこれが別れたんです(爆)
んなもんでわかるまで執筆は保留と決断したら今までずっと決断してました。そして今放映中のProjectARMSで先週末にやっとこの回のが放映され、やはりカツミだということで落ちついたのでこうしてめでたく完結っていうわけなんです。
いや〜、書上げてホッと安堵の瞬間です。終わってもう書かなきゃっていうプレッシャーから解放されるっていいです〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜♪
さぁ、一杯やるか!!(爆)
2001年11月16日