Take.10


あれから何事もなく1ヶ月が経過した

そして磨有美はなにやら週に一回は天文寺と昼食を一緒に食べたりしているらしい

俺のほうは気にならないと言ってしまえば嘘になる

けれど磨有美を縛りたいというような願望や欲望はない

いや、そんなことを考えたことすらなかった

ただ磨有美という接点が俺と天文寺の仲を更に近付けるようになった

それだけは疑いようのない事実である



そうして俺の図書委員としての活動中に天文寺がやってくると、しばらく、2、3分ほどだが他愛もないお喋りをするようになる

半ばその行為は習慣的にもなってしまっている


そして天文寺は今日もやってきた


「よっ、相変わらず暇人だな」


と軽口をたたいてくる


「えー、えー…みんながみんな読書家だったら図書委員の仕事なんて忙しくてやってられないからな。暇だからこそ俺はこの仕事を選んだんだよ」

「彼女の方は別の委員を選んだのに…か?」


磨有美は2年になってから風紀委員なぞという校内を取り締まる側の委員に入ったのだ

もちろん俺も最初は誘われたが、面倒くさそうだったので断った


「それともクラス委員でも受け持った方がよかったかな?」


天文寺はカウンタにニッコリと微笑みながら両肘を乗せて語り掛ける


「冗談!」


俺はそれには即答して答える


「クラス委員なんてもっともゴメンこうむることだね。やってる天文寺の気が知れない」

「これでもやってみると面白いんだぜ」

「どこが?」

「こっちのペースで物事を運べるからね。他人のペースじゃなく」


なるほど、そういう考え方もあるのかと俺は納得したが次の天文寺の一言でその考えは即座に取り消された


「ってのは自分を納得させるための建前。本心ではたしかに面倒な仕事は多いって実感してるよ」


…と


「ところで今日はなんの本をお捜しだい?」

「そうだな〜……考古学の分野かな?」

「考古学?」

「そっ、読んでみるとこれがまた面白いんだぜ」

「ほんっと天文寺って知的向上心が高いんだな」

「ハハッ、そうじゃなくて俺の仕事に係わるのさ」

「仕事?」

「あ”っ」

「!?」

「なんでもない…今言ったことは忘れてくれ」


天文寺はそう言い残すと足早に真っ直ぐ自分が捜している図書のコーナーへと消えていった

俺は天文寺の最後の一言が気にはなったが取りたてて考えようとはしなかった


だが……


後日、俺は天文寺の仕事というのを知ってしまった

いや、正確には俺も係わりを持たされたのだ

それが俺、青山佑作の後に激動の年齢であったと自覚する17歳の出来事が始まるのであった



(つづく)

2001年8月15日


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