Take.11




すでに何の刺激もない生活が1ヶ月半経とうとしている

別に映画や小説のような波乱万丈な刺激続きの日常を求めているわけではない

そう、言い出せばキリがないという事は重々承知している

だけど俺自身まだ若い、それゆえにこう思うのだろう…

『もっと刺激が欲しい!!たまにでいいから…』と

自分でも都合のいい願望だとは承知している

こうして可愛い彼女、佐々木磨有美もいるのだから他人からみれば贅沢だとでも思われるかもしれない

確かに磨有美には俺自身なんの不満もないことは事実だ

更に言えば自分には相応しくないだろうという事も承知している

だが俺、青山佑作はここ屋上で何故か天文寺、磨有美と共に昼食を食べていた

サンドイッチにフライドチキン、ポテトフライといった
簡素なものだがその量が半端じゃない

天文寺もこの膨大な昼食の量を見て額に汗を浮かべている

作った当人だけがいそいそと昼食を食べる準備に夢中になっている

だがさすがに俺達の様子に気付いてか、手を頭の後ろに回し、


「へへへ、今日はちょっと作りすぎちゃってさ…」

「これが……」

「ちょっと…!?」


俺と天文寺は弁当と磨有美を交互に見ながら呟いた

そもそも今日はすでに毎週恒例となっている
磨有美と天文寺の昼食会のはずだった

俺もそのつもりで学食に行こうと教室を出ようとした時に磨有美に捕まったのである

確かにこの量は磨有美と天文寺2人では……

というか俺が加わったところで処理できるものでもないと感じられる

だが当の本人に至っては何故か、機嫌がいいのかずっと笑顔でいる

俺は磨有美のそんな笑顔を見ながらとりあえずサンドイッチを一つつまんで口に放りこむ

天文寺の方も俺に習ってか、箸で丁寧にフライドチキンをつまんで口に運んだ

だが俺達2人の疑問はこの磨有美の機嫌のよさであった

本人のとってよほど良いことがあったのだろう

俺がそう考えていると、天文寺の方も気になるらしく目で俺に聞いてみろと言っている


『俺がか!?』

『当然だろ。佐々木の彼氏はお前だろうが』

『………』


などという会話が俺達の視線で交わされていた

俺はやれやれといった感じで磨有美のほうに向きを変える

磨有美も自分で作ったサンドイッチを口に運んでいる最中だった

そして俺は意を決して口を開く


「な、なぁー磨有美……」

「ん?ゴメン…ひょっとして佑作の口に合わなかった?」

「え、いや…」

「う〜ん、やっぱサーモン(鮭)のサンドイッチは
もっと改良しなくちゃだめかな〜…」

「い、いやそうじゃなくてね…」

「やっぱもうちょっと塩味を加えてみるとかしないと」

「だ、だからな磨有美……」

「ごめんね佑作!今度はもっと美味しいサーモンのサンドイッチ
作れるようにしとくから」

「え?……お、おぅ…」


俺は思わず返事してしまい、一瞬自分の
言おうとしていたことを忘れかけてしまう

だがすぐに本来の目的を思い出し、


「ち、違う!!」

「えっ!?」

「お、俺が聞きたいのはなんで今日磨有美がそんなに機嫌がいいかってことだよ!!」


俺はやっと俺と天文寺が聞きたかった事を言葉に出す

そして聞かれた磨有美を見ると、磨有美はキョトンとして
俺のほうを見つめていた

この間が何故かこの時の俺にはやけに長く感じられた

そして磨有美の口がゆっくりと開かれ、言葉を発す


「あ、やっぱ分かる?う〜〜〜ん……いいや、2人には言っちゃお!! ジャジャーーン♪ 実はね、私のお父さんってば今度再婚するのじゃ!!」


と……

その言葉、リアクションは天文寺の予想にはなかったのだろう

唖然とした表情で磨有美を見ているのが分かる

そしておそらく俺もそうなのだろうと



これが後々に振りかかるであろう、俺が求めていた波乱万丈の日々の始まりを告げる言葉であった

そしてその時の俺にはまだその事を知る由もなかった



(つづく)

2001年9月11日


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