Take.12



「青山、お前は知らなかったのか?」


突如としてそう語り掛けてくる天文寺

たまたま今日は下駄箱のところで一緒になりそのまま帰る事になった

考えてみれば一緒に下校するなどこれが初めての事かもしれない

俺は普段は磨有美と一緒に帰ることも多いし、天文寺は図書室で本を読んでるか、サッサと帰ってしまうことが多いからだ

だが今日は2人とも申し合わせたように下校時間に会い、一緒に帰るのが自然となっていた

ちなみに磨有美は風紀委員の仕事があるとかで先に帰ることにしている


そんな最中に突然に問い掛けてくる天文寺…


何を?とは聞くまでもなく当然磨有美のことだろう

磨有美のあの発言、父親の再婚話だ


「知らないもなにも、俺だって聞いたの今日が初めてだぜ」

「……まぁ〜確かに彼女のあの様子じゃ、お前に話してたとは思えないな …そもそもだからこそお前にも同席させたんだろうし」

「わかってるんなら聞くなよ」


なかば天文寺がからかっているようにも聞こえ、俺には少し不快だった

天文寺の方も俺のそんな様子がわかったらしく、フッと苦笑してそれ以上なにも言わなくなった


「まぁ彼女は実際変わってるよ」


不意に天文寺は語り出す


「俺は自分で言うのもなんだがクラスでは一線を引いていた。 …それは青山、お前だってわかってるだろ?」

「………」


俺は沈黙で応える

天文寺もそれを了承して続ける


「だけど彼女はそんなことには気にしないで声をかける……多分誰彼かまわずってわけじゃないんだろうけど、近いものがあるんじゃないか?」


言われてみて俺はなるほどと思った

そして同時に付き合っている俺よりも天文寺の方が磨有美のことをわかっているんじゃないか

……一瞬そんなことを考えてしまう


「つまりそれが彼女の長所でもあり短所でもある…… ま、お前はそれを受け入れなきゃならんわけだ」


天文寺はそう言って俺の肩をポンッと叩く

確かに天文寺の意見は的を射ていると、少なくとも俺はそう思う


「でも本当にそんな兆候とかなかったのか?」

「えっ?」


俺が考えている最中に突如問い掛ける天文寺


「だから彼女の父親の方の再婚話さ……それ事態の話は聞かなくても、なんか思い当たるような様子とかはなかったのか?」


俺は聞かれて改めて最近の磨有美の様子を思い出してみるが、それとわかる様子は思い出せない

…だが、一つあるとすれば……


「………ない ……けど」

「けど?」

「一つ思い当たるとすれば、天文寺…… お前との毎週月曜の昼食会だよ」

「俺との?」


問い直す天文寺に俺はコクリと頷く

磨有美がホテル街で天文寺を見かけ、毎週月曜の昼食に誘うようになったのぐらいしか磨有美の様子に変化が……

変化と呼べるものでもないが似たようなものが現われていたのは確かだ


「そうだ!そもそも天文寺、お前のあのホテル街でのことが!!」


今度は逆に天文寺に問い掛けようとした向き直った瞬間、天文寺の表情が一変する

俺は天文寺の視線の先を追うと、一人の子供がボールの後を追って車道に飛び出している

そして向こうから車が一台猛スピードで突進してくるのも見える

しかも子供も車も、お互いのことに気づいてないようだ


「おいっ、あぶなっ!!」


俺が子供に叫ぼうとした時、天文寺は肩にかけていたバッグを放り出すと
子供に向って一直線に駆け出した


「天文寺!!」


俺はヤツの名前を呼んで後に続こうとするが、目で追うだけで身体はいうことをきかなかった


(キキィィィィーーーーーーーッ)


そして車の急停止を試みるブレーキの音がそこら一帯に響くのであった



(つづく)

2001年9月15日


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