Take.15
プゥゥーーーーッと煙草の煙を口から噴き出す
煙は天井に届く寸前に換気扇に吸い込まれて外へと排出されてゆく
その煙の軌跡をソファーで寝転びながら静かに見つめていた
「仕事もしないでおさぼり、天文寺クン?」
背後から女性の声が響く
だがその声は別に咎めているというのではなく挨拶をしてくるような雰囲気であった
声をかけられた天文寺もそのことはわかっているために再び煙草を口に含む
「べっつに……ただ、この顔じゃ仕事どころじゃないだろ?」
天文寺は起きあがって声の主のほうを振り返る
顔には痛々しいまでのバンドエイドとガーゼが貼られていた
それを見せられた方は静かに天文寺のほうへ近寄り、顔にその美しいまでな手で撫でながら
「あらあら、綺麗な顔が台無しね。痛むのかしら?」
優しいまでに微笑みながら語るが、天文寺にはその言葉の奥底に潜む意味がわかっていたのでソッとその手をどけながら
「そりゃ、ケガしたときは血がダラダラ流れていたからね」
天文寺のその言葉に目の前の女性はそれまで見せていた優しい顔を豹変させる
「ちょっと!まさか一生残るような傷じゃないんでしょうね!!」
その表情にはさっきまでとは違い、危機迫るものが感じられた
「全治3週間。傷が残るかどうかはわかりませんよ、真純(マスミ)さん」
「あら、そうなの?」
天文寺の返答に納得した真純と呼ばれた女社長は再び先ほどまでの優しい笑顔に戻る
この表情の変化に天文寺は心底「ヤレヤレ」とおもう
何しろこの真純こそが天文寺がバイトしている事務所の社長であるからだ
しかもその真純本人は、元々その笑顔のほうで多くの男達の羨望の的だったというのだから驚きに値する
更に驚くべきことは、
「だいたい実の弟を商売の道具に使うかよ?」
彼女の名前は天文寺 真純、天文寺の実姉である
「あら、弟だからこそ使うんじゃないの。だからこそここでは区別をつけて呼んでいるでしょ、リュウちゃん」
「はいはい」
天文寺はこの姉にはかなわないと諦めて、窓の外を眺めながら言い放つ
窓の外はネオンの光に彩られ、暗闇など見当たらない
だがその光の中で現在ある出来事、いやドラマが起こっている
そのドラマの登場者である青山の首尾について静かに脳裏で思索するにつれ「……アイツ、ちゃんとやってんのかな〜」と、思わず口に出さないが、普段の青山の様子を知っているだけに心配の種は尽きない。
「大丈夫よ、アナタが選んだ子なんでしょう?」
まるで天文寺の、弟の考えていることを見透かしているかのごとく真純は言い放つ
あいての考えていること、とくに弟のことだけにかいつも
見透かしてるかのように真純は語る
「だと良いけどな」
そのことに天文寺はさして平然と言いのけ、そして再び口元に煙草を運んだ
その時の煙草の味は少しにがく感じられた
(つづく)
※高校生の喫煙は法律により禁じられています
2002年2月4日
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