Take.16
約束の時刻
俺、青山佑作は豪華とも言えないロビーの壁に寄りかかり待ち合わせの目印である丸めた新聞紙を肩に乗せて相手を待つ
もちろん俺も待っている最中にまわりの女性に視線を走らせる
天文寺からの話では20代後半だというから
視界に入る女性もそれなりに判別する
(……アレは違う)
(……あっちのはどう見ても30を越えてるな)
(……ガキ(高校生)までいやがる。でもちょっと可愛いかも)
(アレは男だしな)
(もしアレだったら断りたいなこのアルバイト)
などと考えながら待つ
そして暫くすると入口の自動ドアから入ってくる女性に視線が移る
どうみても急いできたという風が見て取れ、格好からOLだろうとわかる
その女性は暫く辺りをキョロキョロと見渡しながら、
やがて俺の方を、おそらく目印を見るとハッとなる
そして俺のほうに向けゆっくり歩き始め、本人は落ちついた女性を演じているつもりなのだろうが、俺から見れば緊張で肩がこわばっているようにしか見えない
そして俺の前まで来ると、ゆっくり俺の顔を見上げそのままジッと見る
その一瞬が俺にも、そしておそらく彼女にも長く感じられたような気がする
だが俺はそんなことよりちょっとドキマギしてる鼓動を表情に
出すまいと必死で冷静さを装うことに意識を集中する
髪は肩までかからないショートヘアで、
鼻筋も通っていてそんなに悪い顔立ちじゃない
往来で男の目を引くほど、といえば誇張になるが美人の部類には入るであろう
そんな彼女の報からこの沈黙を破り始める
「……あ、あのっ ……あなたが?」
ちょっとおどおどした口調からかなり内向的、消極的といった性格が伺える
だけどこの際ではそんなことは関係ない
っていうか天文寺からも『怪訝な表情はご法度だ』とも釘をさされている
もっともこういった手合いの女子なら学校でも
何人か知っているのでそんな違和感は感じない
「はじめまして。私があなたのお相手の………」
俺はニコリと笑いながらここまで言いひとつの疑問が浮かんだ
はたして本名を名乗ってもいいのだろうかと
(やっぱ……本名はやばいよな)
そこまで思案した結果俺は咄嗟に、
「お相手の片山俊介です。 見えないって言われるけどこれでも大学生です」
俺は笑顔を絶やさずにいい放つ
片山俊介とは俺の1年の時のクラスメートで、咄嗟に浮かんだ偽名が何故かこの友人の名前だったのでとりあえずこの場は友人の名前を使わせてもらった
心の中で「片山悪い」とだけ呟く
そして大学生にしといたのも、そうしろとの天文寺からのアドバイスだ
そして俺自身こう言ってて、嘘をついているのだが、
何故かこの嘘に悪い気はしない
前世が詐欺師だったか、俺の性癖が嘘でも好むのだろうか…
もちろん相手の女性にそんなことがわかるわけもない
「あ、私の名前は片桐 ……片桐興子(キョウコ)です」
彼女の方も俺の笑顔に騙されたのか、少し頬を紅潮させながら自己紹介する
もちろん偽名なのだろうがそんなことは承知しているし、自分も使っているのだからなんとも思わない
そして、俺の最初のアルバイトは始まりを告げる
(つづく)
2002年2月28日
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