Take.19
うっすらと目を開ける………
その時自分がそれまで寝ていたこと、そして朝が来たことを実感する
だけど………
なんだかいつもと違う感じがしてならない
まだ頭がはっきりしないせいか、それとも夢をみているのか……
「!!」
その瞬間俺はその違和感の正体がわかった
俺が見つめたその先の天井は一面鏡に覆われ驚いている俺の姿を映している
俺は上半身を起こして回りを見渡す
どれも自分の部屋とは違っており、ここが見知らぬ場所だとわかる
(なんだ、ここ……..)
「……おはよう」
戸惑ってる俺に突如隣から女の声が聞こえて来た
俺は恐る恐る声のした方を向くと、彼女は布団から頭だけを出して微笑んでいる
俺はまだ半分寝惚けているのかと目をこすってもう一度隣を見る
だがそこには相変わらず微笑みながら俺を見つめている彼女がいた
「クスッ ……まだ寝惚けてるみたいね」
俺の様子から彼女はクスクス笑いながら語り掛ける
そして俺は改めて自分が服を着ていないことに気付く
(えっと〜〜〜……)
俺は昨晩からこうゆう事態に至った経緯を思い出す
そう、彼女の名前は片桐興子。天文寺から頼まれたバイト、彼女との一晩の恋人を演じるという仕事を興味本位でやり昨夜は2人一緒に仲良く噴水に落ちたっけ………
それでその後………
互いの服を乾かすことも含めて2人が向った先は………
だけどそれは彼女も俺も暗黙の了解であった
「明るいと思ったけど外に出るとまだ暗いんだぁ……」
「不思議…… こんな朝早くでも人っていっぱいいるのね…」
ホテルを出ると俺達と同じようなカップルが通りを歩いている
一応朝帰りになるのだろうが……こんな朝早くに外に出たことなど記憶にない
もちろん磨有美とホテルに行った時だって大抵は夕方が多いし、だいいち2〜3時間の休憩が主で宿泊はしたことがない
それが恋人でもない女性、それも自分よりも年上の女性(ひと)と……
俺はいけないことをしているようでなんだかドキドキ、ワクワクとしている
「なんかいけないことしたって罪悪感とか……ある?」
俺は何気なく彼女に尋ねる
「う〜〜〜ん………最初はあったかもしれないけど今はないわ。むしろ吹っ切れた気分」
彼女は屈託のない笑みで返事する
「さて、これから家に戻って着替えて化粧して……それから出勤よ」
「え、本当に!?!」
「OLは大変なのよ〜…… こんなことぐらいでいちいち休んでなんていられないの」
「ふわ〜 …….俺ならかったるいとかいって休んじゃいそうだけどな」
「何言ってるの、片山君だって大学ちゃんといかなきゃだめでしょ」
一瞬"片山"と呼ばれたこと、そして"大学"という言葉になんのことかとキョトンとしかけたが、俺は彼女に偽名を名乗り大学生だと偽っていたことを思い出す。
俺は慌ててそしてそれを表情に出すことなくただニコリと微笑む
「………その笑顔を了承と受け取っとくわ」
そんな話をしているといつのまにか駅の改札口に差し掛かる
「じゃあ、ここで……」
俺はその笑顔のまま改札を通り抜ける彼女を見送る体勢に移る
「あっ………」
彼女はなにか言いかけようとしたが言おうとしていた言葉を飲み込み笑顔に笑顔で応える
そして俺に背を向けるとそのまま真っ直ぐに改札を抜ける
俺は彼女のその後姿を見つめながら、明日には消えてしまう想いかもしれないけど……
(俺はきっと大学生の片山俊介を演じ彼女と……)
「興子さん!!」
「!?」
俺の呼び掛ける声に彼女はピタッとその歩みを止める
だが振り返りはせずその場に立ち止まる
「がんばって!!」
俺は彼女にそう声をかけると、彼女は振り返り
「ありがと」
笑顔で、目元には涙を浮かべながらそう返事し再び背を向けるとそのまま奥へと消えて行った
その歩みには迷いの吹っ切れた力強さが感じられた
そしてこの瞬間にこの奇妙なバイトは終わった
俺は奇妙な達成感、爽快感につつまれていたことに気付く
「結構おもしろかったよな、この仕事……」
俺は指先をペロッと舐めながらつぶやき、改札口に背を向け家路への歩みを踏み出した
(つづく)
2002年6月18日
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