Take.20




「ふ……ふぁあぁぁぁぁ〜〜〜………」

「……青山、今日はなんかずっと眠そうだな?」

「………」

「おい、ホントに大丈夫かよ。 現国の鬼山なんかにみつかったらタダじゃ済まないぜ」

「ああ、わ〜ってるよ………」


俺は級友の語り掛けに欠伸交じりに適当に返事する

だが今は無性に眠い。いくら彼女を見習ってと言ったって今日は無理をせずに休めばよかったと正直思った


「だけどなんでそんなに眠いんだよ……お前徹ゲーするようなやつでもないだろ?」

「当たり前だろ? 俺ゲームなんかやらねーもん」

「だよな………」

「馬鹿だな"片山"。 この状況で青山が寝不足になるような状況なんて一つっきゃねーだろ」


俺達の話に混ざりこんできた級友の赤坂が割り込んでくる

そう先程から話している相手が俺が偽名で使わせてもらった片山俊介である

そしてその赤坂の言葉に俺は関心を向ける

片山もわからないと言った表情であるが、赤坂は表情がどこか緩んでいる


「……なんだよ、それ?」


片山は赤坂に問いただす。
その問いに赤坂は待ってましたとばかりに口を開き、


「青山は彼女持ちなんだぜ。 ってことは……だろ?」


赤坂のその言葉に最初はキョトンとしていた俺と片山だったが、すぐにその応えに行き着くと片山も赤坂と同じ表情になる

その俺を見る目は笑っており、俺が何を言っても信じないという目だ


『あ〜〜お〜〜や〜〜ま〜〜』


そこで赤坂と片山の出した言葉が完璧なまでにシンクロし俺に向かう


「ち、違う違う!!」

「い〜って、い〜って。 お前もそんな寝不足になるほど彼女とがんばったんだろ?」

「いや〜、若いのにお盛んですこと」

「若いから…だろ?」

「違ェーねぇーな」


俺の否定の言葉を他所に2人は勝手に盛りあがる

俺には傍迷惑なことだが、これぞまともな(?)男子高校生の模範ともいえるのかもしれない


「いや〜、彼女のいる相手は大変だな、青山」

「だから俺は磨有美とはなにも――」

「あたしがどうしたの?」

『!!!』


噂をすればなんとやら、そこにはいつのまにか磨有美が現れている


「ま、磨有美!! い……いつからそこに………?」

「えっと〜、『いや〜、若いのにお盛んですこと』って片山君が言ってたあたりから」


(ゲゲッ!)


俺は内心焦っている。俺達の会話を聞かれていることもそうだが磨有美を眼にしてから今突然ある考えが浮かんできたのだ

俺は仕事(バイト)とはいえ昨日会ったばかりの女と……寝た


(……これも一種の浮気だよな)


俺はそう考えると焦る

いつもはニコニコと誰にでも、特に俺といるときはしている磨有美がもし俺が浮気をしている……いや、別の女と寝たなんてことがばれたら……

“触らぬ神に祟りなし”

俺の脳裏にそんな言葉が浮かんでくる


「ねぇーねぇ。 それでなんの話してたの?」

「そりゃー君達2人の話だよ磨有美ちゃん」


俺の心配を他所に赤坂はその軽い口でペラペラと喋り始める


「青山ってば今日ず〜〜〜っと眠そうな顔してるんだぜ」

「へぇ〜、佑作が? それって珍しいね」

「で、なんでこんなに眠そうなのかなって話になってさ」


赤坂だけでなく片山までがペラペラとその口を開き始める。

もし口にチャックがあったなら俺は2人の口を閉じて鍵でもかけたいぐらいの衝動に駆られた

だがその2人の次の言葉を待って磨有美は案の定好奇心にかきたてられて目を輝かせ始めた


「なんでなんで?」

『そりゃ〜〜〜〜〜』


2人は再び見事なまでのシンクロで同じ言葉を出し、次に出すべき言葉をなかなか出さずに磨有美を焦(じ)らせる


「青山!」


その時救いの声が俺達の背後から聞こえて来た

振り返らなくとも俺は声の主が瞬時に分かった


「よー、天文寺」

「おっす、天文寺!!」


俺の呼びかけに応じて磨有美も手を挙げて元気よく挨拶する

その磨有美のパワフルさに多少気圧されながらも天文寺は俺の方を一瞥する

片山や赤坂は視界に入っていないのか目もくれない


「ちょっといいか?」

「ん、なに?」

「……お前が出してくれたこの学園祭の企画書。よく考えてあるんだけどちょっと細部がしっかりしてなくてさ」

「学園祭の……企画書?」


俺はなんのことかと「?」の表情を浮かべる

当然他の3人も同様の表情だ


「おい、天文寺……なにを――」


俺が言いかけたその時、天文寺は口元を俺に見せるように歪める


「!!」


俺はそれで天文寺の意図するところがわかった


「……佑作、そんなもん考えてたの?」

「あ…えっと……」

「昨夜遅くまで考えてたって言ってたじゃん。別に隠すようなことじゃないと思うぜ俺は」


俺のなにも言い出せないことに助け舟を出してくれる天文寺

しかしよくもこうなにもないような顔で言えるなと俺は感心する


「ねぇーねぇ。 どんな企画なのそれ?」

「だーめ。 これはまだ企画段階だから企業秘密」


磨有美の追求も天文寺はあっさりとかわしてみせる

磨有美は聞きたいという好奇心ありありの表情を見せるが天文寺の言葉におとなしく引き下がる

まぁーあとで俺が詰め寄られるんだろうが……


「だからちょっと聞きたいこともあるからいいか?」

「あ……OK!」


もちろん俺はこの状況から逃れるために断る理由はない

俺自身昨日別れてから今日はまだ天文寺と話をしていなかったのでちょうどよい機会でもあった

俺は席を立って磨有美他2人をその場に残し天文寺の後を追う

磨有美をその場に残すことに嘘をついているという罪悪感、そしてこの場を切り抜けられたという安堵感が同時に俺の胸に込み上げてきた





(つづく)

2002年6月19日


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