Take.24






「佑作ってば……なにか私に隠してること………ない?」


唐突のその一言は俺、青山佑作の肝を冷やしながら目前の彼女、佐々木磨有美を見つめる

俺と磨有美は現在昼休みの屋上にいる

幸いにもここには俺と磨有美の二人しかおらず、この発言を聞いたものはいない

だがそんな思考も磨有美のその唐突の一言によって打ち消されてしまうほどの衝撃があった


「か……隠してること?」


俺は平静を装っている振りはする……いや、できていると思い込みたいだけなのかもしれない

その証拠に磨有美の俺を見る目がどこが猜疑に満ちている


「な…なんで急にそんなことを……?」

「だ〜って佑作ってば……最近欲情してる気配ないしさ〜」

「よ…欲情って………」

「だってさ〜、佑作ってな最近全然じゃん」

「そ……そうか?」


俺は言いながら目が泳いでると自分でも自覚できる

欲情していない……そんなわけは決してない。だけど…俺は


「……なんかってーと天文寺君とべったりじゃん」

「て…天文寺と?」

「うん」


俺はそう言われてみて初めてそのことに気付いた

すでに最初のバイトを始めてから2ヶ月が経過し、その間に俺は何件かのバイトをこなした

自分で言うのもなんだが自分じゃない別人を演じているようなこのバイトが楽しくて仕方がない

もちろん金が入る上に美人な相手との関係ももてるのだから不満などあろうはずもない

だが……こうしてバイトがうまくいってて気付かなかったが磨有美との関係にズレが生じてきてしまった

俺は……最初のころには「これって一種の浮気?」という思いが罪悪感にもなっていたが1ヶ月も経つと「これはバイト、お仕事」と割り切ってしまっている

そのせいだろうか………言われてみればここ2ヶ月の磨有美とのデートの回数自体が減っている

天文寺にもこのバイトを磨有美に隠し通すなら今までと接し方を変えるなよと釘をさされたにもかかわらず……だ


「ねぇ……佑作……」

「な……なに?」

「正直に……答えて…よね」

「あ…あ”あ………」


俺は声が裏返りながらも磨有美の次に出てくるであろう言葉を待つ間に喉の奥で「ゴクリ」という音が耳に響く

俺は必死に頭の中でどう弁解するかを考えている

そしてその弁解の言葉が浮かび上がる前に磨有美は胸を張って俺に向かってビシッと指差しながら言い放つ


「佑作……実は、天文寺クンと付き合ってるんでしょ!」


と。


「………………はっ?」


俺はあまりの突拍子もない言葉に思わず頭の中が真っ白になってしまい先ほどまで考えていたことも頭の中から消えてしまった

(俺が……天文寺と付き合ってる? え? 磨有美ってば一体何を………)


「………ぷっ」


ここまで考えた瞬間、俺は思わず噴き出してしまう。そして隠していた俺のバイトがばれたというのは杞憂に終わったという安心感から声をあげて笑う


「ア……アーッハハハハハハハ。 ま…磨有美ってばそんなこと考えてたの? 俺が……ククッ…天文寺と付き合ってるって?」

「な…なんでよ。 だって佑作ってば最近なにかと天文寺君と一緒じゃん!」

「ああ〜、あれね」


俺はどう誤魔化そうと考えると、パッといい"嘘"が閃く。 さっきは焦っていたせいで思い浮かばなかったが、今度は安心したせいか容易に思い浮かんだ


「あれはな……前にほら、天文寺が俺が出した文化祭の企画を聞いてみたいってことがあったんだ。磨有美だって知ってるだろ?」

「ん〜………そういえばそんなことがあったようななかったような〜……」

「あったの! んで、天文寺に説明がてらいろいろとアドバイスも受けてたんだよ」

「ふ〜ん………どんな企画なの?」

「そ…それはだな、うん」

「うん?」

「あ、あれだよアレ! 蓋を開けてのお楽しみってわけでさ」

「ひどっ! 佑作ってばあたしにも内緒なの!?」

「磨有美だからこそなの! どうせ磨有美………」


俺はここまで言いかけてハッとなる。そうだ、磨有美なら………


「ま…磨有美。 い、一応聞いておきたいんだけど……さっき俺と天文寺が付き合ってるかもなんて話……… だ、誰かに話してたりした?」


そう、何を隠そう磨有美は根っからの話し好き!好奇心が芽生えればそれを口に出さずにはいられない性格だというのはすでに熟知している

しかもその話には稀に多少の"磨有美の主観"からのアレンジが加えられていることはいうまでもない

将来団地にでも住もうものなら井戸端会議における噂話の発信源にさえもなりかねない人物

その磨有美が『俺と天文寺が付き合っている』かもなんてことを果たして黙ったままでいられるだろうか?

答えは………


「ごめん……… 何人かにはもう話しちゃった♪」


磨有美は頬をポリポリと掻きながらすまなそうな視線を俺に送りながらポツリと言う



後日、その話が膨らんで学年中に知れ渡っただろうことは言うまでもない




(つづく)

2004年4月9日


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