Take3.
「ねぇー佑作!あの映画、やっぱ銃撃のシーンがすごくなかった?」
「ん、ああ…」
「でもあの主人公が最後はあんな終わり方になっちゃうなんて
…私ちょっと気に入ってただけに残念だな〜」
「…まぁ、そうだね」
「でもさあのヒロインの女優なんて
結構佑作好みだったんじゃないの?」
「ん〜、そうでもないけどそうなのかも」
休日の一時、この日俺は映画を彼女と一緒に観に行っていた
別に観たかったわけじゃあないけど
さっきから隣で一人で騒いでいるコイツから誘ってきたのだ
俺の彼女、名前は佐々木 磨有美(ささき まゆみ)
彼女曰く有りし美を磨くという意味でつけられたと
言っているが本当のところは俺にはわからない
でも無気力な俺とは違って常に活発で元気、
まさに俺とは正反対の性格だった
そのためにまわりはいつも俺達のことを“異色”と呼んでいる
そんな彼女との出会いは一年のときクラスが同じで、
図書委員を一緒にやっていたのがきっかけだった
別に運命的な出会いがあったわけでもない
そして告白も向こうから…
いや、今思い出してもアレは告白という部類に入ったのだろうかは定かでない
それまで女、それも同年代の女をあまり意識したことのない
俺にはまさにそれは新鮮な出来事だった
彼女と付き合いはじめたのもどこか彼女の勢いの
ようなところがあったのは否めない
だからといって嫌いなわけじゃあないし、
無理して付き合ってるわけでもない
実際俺は彼女といることに苦痛は感じない
むしろ今までの俺の人生にはなかった新鮮さを感じさえする
俺はこれが恋なのだと思い、大抵は彼女と過ごすことが多い
でも正直彼女のパワーには圧されがちなのが実情だろう
そして映画も観終わったし空も薄暗くなり始めてきて
街灯に灯りが灯される
そして俺達の足は自然とある方向へ向っていた
そう男と女の情事の場へと向っていたのである
別にこれが初めてなわけじゃない
ただお互いに初めての時もこんなもんかという感じがしただけであった
それからは俺から、というよりも彼女の方から
誘ってくることのほうが多くなった
俺も正常な男子、それが嫌いなわけじゃない
ただなんというか気が進まないだけである
「ね〜佑作ってさ〜……」
「ん?」
「いっつも同じことしか言わないよね」
「え?」
「だって私の聞いた事にはいっつも
『そうだな』とか『そうかも』ばっかじゃん」
「……う〜ん……そうかな?」
「ほら!『食事しよ』、『そうだな』
『映画観よ』、『そうだな』
『Hしよ』、『そうだな』。佑作ってばこればっかじゃん」
彼女に言われて俺は苦笑する
そしてちょっと気まずい表情を浮かべてみる
「……怒ってる?」
「ううん、全然……っていうか私密かな楽しみがあるのよね」
「楽しみ?」
「うん、その無関心な佑作の関心を私だけに集中させるの♪」
「…なにそれ?」
「つまり佑作を私の虜にさせちゃうってわけ」
ちょ、ちょっと怖いかもと俺はこの時正直思った
彼女は唇に右手の人差し指を当てて
俺を見つめながらニヤニヤ笑っている
「そうすれば佑作も無関心人間じゃなくなっちゃうでしょ!」
この時の磨有美の一言はかなり好意が持てた
「それに私達ってまだまだ高校2年生なんだから
これからなんにだって関心が持てるはずじゃん」
「そうかな?」
「またその口調」
「だって…この場合は他に言うことないじゃん」
「そう? でもそうだとしても私はそのあとの言葉が聞きたいんだけど」
「その後の…って?」
「う〜ん、例えば私に関心を持つためにも
『早くホテルに行こう』とかさ!」
その一言を彼女が結構大きな声で言ったので
俺は背筋が凍りついた
まわりの通行人もギョッとした顔つきでこちらに視線を送っている
「ま、磨有美……は、早く行こう!」
俺は彼女の手を取って早くその場を歩き去ろうとした
ニコリと笑ってついてくる彼女
背後では「がんばれよ兄ちゃん!」などという野次の声も聞こえてくる
俺はその野次の声を無視して顔を上げて前だけを見て足早に歩く
「もう、そんなに積極的にならないでよ」
俺をからかっているのか、彼女はかわいらしい声で俺に語りかけてくる
俺は今どんな表情で歩いているんだろう
顔を真っ赤に紅潮させているのだろうか?
それともいつものごとく無関心な表情をしているのだろうか?
できることなら俺は後者のほうを望んでいた
「ちょっと待って!」
不意にそれまで俺に引っ張られるままに
歩いていた彼女が急に立ち止まって俺の手を引く
その突然の動作に俺は上半身だけが反り返ってしまった
「ど、どうしたの?」
俺は振り返って見つめると、
彼女は前ではなく横を一点に見つめていた
返事のない俺は彼女の視線を追う
だがそこは人だかりでなにを見ているのかわからない
「あ、あそこ」
ちょうどなにを見ているのか気になったので
聞こうとした矢先に彼女は指差して俺に教えてくれる
「ね? あれって天文寺君じゃない?」
「え!?」
その言葉に俺は慌ててそこに視線を向けると
確かにそこに天文寺らしき人物がいた
そしてその隣には女が…