Take.30



(ガラッ)


教室の扉を開けるとそこにはすでに10名ほどおり、各々昨日の人気ドラマの話題に興じたり、今日の宿題を友人から借りて写してでもいるのだろ必死になっているもの、たんに寝ているものと様々だ

俺が入ってくると何人かは俺のほうに視線を向けるが、すぐに先ほどまでの行動に戻ってゆく

俺はそんな輪に入っていくでもなく、まっすぐに自分の机に向かいかばんの中身を机の中へと移す

そして始業開始までの時間が後20分あることを確認し、机の中から1冊の本を出してページを開く

始業時間までのこの一時が最近では自分にとって落ち着ける時間帯であった

元々本を読むことに嫌悪感はなかったし、なによりもどんな内容であれ本を読んでる時間は



「う”〜〜〜〜っす………」


なんとも気だるいまでの声が耳に入ってくる

だが俺は本から視線を外さずに「おはよう」とだけ返す


「…………」

「…………風邪か?」

「………そうみたい」

「…………」

「昨夜の客とちょっと色々あってさ。 裸でしばらく呆然としてて、今日になったら風邪引いてた」

「昨夜の客? 由佳さんのこと?」

「………知ってんの?」

「…社長(姉貴)から聞いてたからな」


俺はこう応え、ようやく本を閉じ目の前の青山に視線を移す

青山はいつも以上に気だるそうに俺を見下ろし、立っているのも辛そうだった


「………辛そうだな」

「づらい………」

「おとなしく保健室で寝てたらどうだ?」

「次の英語の小テスト・・・・・・受けないと今度の休み補習だろ」

「………そうなのか?」

「あー、そうだよ! どうせお前は補習なんか縁がないだろうよ!」

「……何を怒ってるのかな?」

「………そうやって分かっててニヤついた顔で応えるなよな。つくづくいやみなヤツ」

「よく言われるしよ」


俺は青山に言われるまでもなく「嫌味なヤツ」とはよく言われた。それがいい意味でも悪い意味でもだ

俺も言われて今の発言は客観的に嫌味にも思えるなと思う。だが別段悪気があって言っているわけではないし、俺も別段気にしていなかった


(…………)


「そんでさ、天文寺………小テストのヤマなんか……教えてくれない?」

「………俺が?」

「いいだろ。俺英語は苦手なんだよ」

「数学や物理は?」

「………聞くなよ…」


青山はそういうと憮然とするが、さっさといってしまうわけではなく俺の前から動こうとしていない

なにを言われようがよっぽど補習だけは受けたくないらしい。青山の頭の中では補習と俺の嫌味が天秤に架けられつつも俺の嫌味のほうがマシだというわけだ

………そこまで期待されているのなら断るわけにもいかないし、別段断る理由もない


「……とりあえずそこの席に座れよ。出そうなやつにライン引いといてやるから」

「サンキュ」

「いえいえ。俺の可愛い兄弟のためだからな」

「………兄弟?」


青山は「兄弟」といわれた意味が分からないのか、わけもわからずに俺を見つめている

俺は説明は後回しにしようと教科書に目を落としラインを引く作業を続ける

正直普段の授業を聞いていればこんな作業など必要ないはずだが……などという言葉が喉の奥まででかかるが言うのは止めておいた

そしてもくもくと作業すること数分、ようやく重要とおもう単語へのラインも引き終えかけたので再び口を開く


「…………昨夜…彼女と寝たんだろ?」


(ズルッ)


俺のその言葉に青山は座っていた椅子からずり落ちそうになる。青山は一瞬なんのことだか分からなかったようだが、俺の言ったことの意味はすぐ理解できたらしくひきつった笑みを浮かべる


「……冗談…だよな?」

「冗談? なんでそう思うんだ。俺とお前のやってること、そして彼女がその相手だとなれば行き着く答え……だろ?」


青山は俺の言った意味は理解できるが、どこかで認めたくないらしい


「いつも新規の相手ばかりなわけないだろ。 うちには常連の客だっているんだから。そりゃ、ベッドを共にしないですむ場合もあるけどな」

「………お前と兄弟だなんて、ますます頭が痛くなってきた」

「……保健室に行くか?」

「………ますます嫌味なヤツ」

(つづく)

2006年4月21日

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