Take4.
俺は目を見張った
磨有美が指差した方向にはクラスメートの天文寺がいた
しかもホテル街へと続く道を女と肩を並べて一緒に歩いていたのだ
「アレってマジで佑作のクラスの子だよね?」
磨有美は目を興味から目を輝かせ、俺の腕を引っ張りながら聞いてくる
俺もただ目に映る光景に言葉を失っているためただウンウンと頷くしかできなかった
クラスの連中がこの光景を見たらどう思うだろう?
…やっぱ驚く?
それとも俺みたいに言葉を失う?
または隣の磨有美みたいに興味で目を輝かせる?
どちらにしろなにかしらの反応を起こすだろう、と俺は思う
しかもその隣にいる女性
どう見たって俺達と同年代の高校生には見えなかった
大学生?
いや、もっと年は上、30前といったところだろうか
ひょっとして天文寺のお姉さんか従姉妹とか?
(……まさかな、そんなのと一緒だったらこんなホテル街なんて歩かないか)
俺は一瞬閃いた思考を即座に打ち消す
でも、じゃあ…やっぱしそういうことなのか?
そう思いながら俺は隣の磨有美にフト視線を落とす
するとさっきまで俺の隣で目を輝かせていた磨有美は忽然と消えていた
「…あれっ?」
俺は慌ててあたりを見渡す
だが、見渡しても近くにはいない
(…まさか)
俺は天文寺のほうに視線を…
「か、勘弁してくれよ…」
俺はそう呟きながら手で頭を押さえ天を仰ぐ
そう、磨有美はあろうことか天文寺のすぐ背後まで迫っていたのだ
ただでさえさっき回りにいた通行人達に冷やかされたばかりだってのに…
こんなところにいるのを天文寺なんかに見られたってなんとも思わないけど
(別にやましい事をしているわけじゃないから)
でも、今は状況が状況だ
「って、んなこと考えてる場合じゃない!」
俺は慌てて磨有美の後を追い掛ける
やっと磨有美の側まで近付く
もう天文寺と、その女性との距離は目と鼻の先だった
「磨有美、なにやってんの!」
俺は天文寺たちに気づかれないよう小声で磨有美の腕を捕まえる
「ちょっと、これからいいところなんだから邪魔しないでよ佑作!」
(げっ!)
あろうことか磨有美は天文寺達にも聞こえるだろう声量で言い放つ
しかもご丁寧に俺の名前まで出してくれた
故に当然それまで平然と歩いていた天文寺たちの歩みは止まる
(振り向くな…振り向くな、振り向くな、振り向くな!!)
俺は半ば念にも似た気持ちを天文寺へと送る
だが、そんなものは通用しないのか、天文寺は無性にも振り返るのであった
そして俺と天文寺の視線は交錯する
俺は今額に汗を浮かべているのだろうか?
見てはいけないものを見てしまった気分で、なんとなく罰が悪いような気持ちだった
当の天文寺は教室にいるときと変わらずのポーカーフェースである
そのポーカーフェースからは何の感情も読み取れない
そして天文寺の口がゆっくりと開き始める
俺にはその動きはまるでスローモーションのように見えた
アドレナリンがこの時の心理状態に反応して異常分泌でもしたのだろうか?
などという考えが浮かんでくる余裕さえある
だが天文寺の言葉は確実に俺の耳へと飛びこんでくる
「よぉ、青山君…奇遇だな」
…と
(へ?)
その気さくな一言は俺の予想とは違っていて、
あまりにも当たり前の挨拶であった