Take.5





目を開く

そこには薄いピンク、または赤色で照らし出された天井が映し出される


ここはラブホテルの一室

俺、天文寺はその一室のベッドの中に隣で俺に背を向けてスースー寝息をたてている女がいる

女の名は菊地 久美子(キクチ クミコ)

だが本名かどうかは分からない

何故かって?

これは俺の仕事、そしてこの女は俺のビジネスのお客さんだから


「ネェー、何考えてるの?」


いつのまにか起きたのだろう、隣から声が聞こえてくる


「…ここに入る前に声かけてきたカップルいただろ?」

「あ〜、あの子達?」

「ちょっと“久しぶり”に会ったもんだからさ」

「ふ〜ん……でも“教え子”と街で、しかもホテル街で再会なんてちょっと洒落てるじゃない」

「で、どっちが教え子だったの?」

「野郎のほうだよ」

「嘘!女のほうじゃないの?」

「何でだよ…俺が男教えてちゃおかしいか?」

「そっか〜、私はてっきりあのカワイイ子のほうだと思ってたんだけどね〜」

「で、彼のほうには一体なにを教えてたのよ」

「イテッ、変なとこ抓るなよ…」

「フフッ」

「その笑い…なにか誤解してない?」

「そうかしら?」

「俺が教えていたのはちゃんとした受験勉強だよ」


俺はそう言いながら彼女の首筋に唇を触れる


「フフッ、あなたが受験勉強を教えるの?」

「……俺こうみえてもK大の“大学生”だぜ」



さっきから話している“教え子”だの“大学生”だのこれらはもちろん嘘である

“教え子”というのはここに入る前に偶然出会ったクラスメートの青山 佑作を指す

なぜクラスメートが教え子かというと…

俺は彼女には俺が高校生だという事実は伝えず、K大法学部の学生だと言っている

もちろん相手の方だって疑っているが、彼女だって偽っているのだからか、そんな些細なことには追求してこない


「フフ、でもあなたなら結構危ないことも教えてたんじゃないの?」


彼女は微笑を浮かべながら語る

確かに顔は笑ってるけど目は笑ってない

そのことから彼女が意味するところは察しがつく


「よしてくれよ、俺はノーマルだ」

「あの子は違ったかもね」

「ちゃんと隣に彼女がいたろ?」

「見せ掛けかもよ…自分がノーマルだって周りに知らしめるための」


青山が?


(…………)


「プッ」


俺は想像したら思わず吹き出してしまった


「あなたでもそんな表情見せるのね」

「一応人間だからね、これでも」

「そのクールなたたずまいで何人の女の子を騙したの?」

「…お互い様でしょ、騙すのは」

「そうね」


たあいもない会話…

こうしてただ時間だけが過ぎて行く

だが別段虚しさは襲ってこない

この仕事を始めて色々な人間に出会えることができた

それがまた一つの楽しみでもあるからだ


(……だが青山に見られたときはちょっと焦ったな… アイツもこの辺のホテル街に来るのか…)


俺は青山と、そしてその彼女に出くわしたときのことを思い出す






その時俺は、今ここにいる彼女とホテル街を目指して歩いていた

後ろのほうで聞いたことのある声が聞こえたため俺は振りかえった

振り返るとそこにはクラスメートの青山佑作、そしてその彼女

何故こいつらがここに?という思考が頭に浮かんだ

不思議には思ったが、見られて「しまった!」とかそうゆう焦燥感のようなものは感じなかった

どちらかというと青山のほうが焦燥感にとらわれた顔つきになっている

まぁ無理もないけど…


(けど……)


おれはチラッと青山の隣にいる彼女のほうに目を向ける

そっちの彼女はもう好奇心で目を輝かせている

こういう女が次にする行動は大抵一つだ

それがわかっているだけに頭が痛い


「ねぇー、ねぇー、天文寺君、天文寺君!!」


まるでその猫のような顔つきで聞いてくる


「彼女、彼女!?」


視線で俺の隣の女性を指しながら聞いてくる

正直俺の予想通りの質問なのでヤレヤレという気分だった


「どうだと思う?」


ニッコリ笑いながら聞いてみる


「う〜ん……」


マジメに唸って考えているその仕草はどこか微笑ましい


「友達?」


今まで俺達の間に入るタイミングでも失っていたのだろう、彼女は俺に質問をするという行為で割って入る

この時まるで電球に電気が通ったかのようにふとこの場を切り抜ける妙案が浮かぶ


「正解を教えてあげる」

「えっ!?」


そう言って俺は彼女の首筋にこの大通りで口付ける

青山は呆気に取られ、青山の彼女は「おおぉー」と感嘆の声をあげた


「悪いけど青山君…これから彼女と用事があるんでいいかな?」

「え?……え、ええ……」

「じゃ!今度電話するよ!隣の彼女もまたね!」


俺は手を上げてサヨナラをかわすとそのままあげていた手を彼女の肩に落として青山達の前から歩き去った






(つづく)

2001年3月3日


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