Take.7


いつものとおりの登校

磨有美と一緒に校門をくぐって下駄箱で各々の教室に別れる

別に昼を一緒に食べようだの放課後どこかへ行こうだのの約束はしない

俺も磨有美もそうして約束するのが嫌いだというのが付き合ってみてわかった

まぁ俺にとっては縛られるのが嫌い!そういった理由もあるのだが……


教室に入ると昨日俺にホテル街で衝撃を与えてくれた人物、天文寺はすでに来ていて静かに読書をしている

何の本を読んでいるのかとちょっと興味を持って自分の席に鞄を置きながらもそのまま見続ける

すると俺の視線に気付きでもしたのかパタッと本を読む手を止めて俺のほうを振り返る

俺は一瞬ドキッとした

まぁ昨日の今日ってのもあるし、なによりどんな言葉をかければいいのかわからないってのが一番の理由である

そんな俺の考えでも読み取ったのか天文寺は「フッ」と口元に微笑を浮かべると


「おはよう、青山君」


と、特に“君”というところを強調するかのように語り掛ける

そして天文寺は再び読書へと集中する

俺は毒気を抜かれたような気分だった

さすがになんか子供扱いでもされたようだと気付いて俺は少しムッとして天文寺の元へと近寄り、天文寺の横に立つ


「なにか用かい……青山君?」


まるで俺が近付いてくるのがわかっていたかのようにニッコリと笑うと、再び“君”を強調するかのように語り掛ける

その眼鏡越しの目さえも笑っているように俺には感じられる

しかし俺はそんなことには気圧されずに、


「おはよう天文寺……昨日の猫はどうだった?」


お返しだとばかりに俺は皮肉を込めたつもりで言った

だが俺の反応とは違って、天文寺はキョトンとした顔つきで俺を見つめた後口元をフッと歪めると


「よくじゃれつく猫でね…困ったよ」


と、俺の皮肉もあっさりとかわされてしまった

俺の中で敗北の鐘が「ゴーーーッン」と鳴り響いているような感触であった

この時、俺は天文寺にはなぜか敵わないような気にさせらる

そんな俺の様子を見て、また天文寺は口元をニッと歪める

俺はその天文寺への敗北感、いや言葉では表せない感情にその後の授業も何故かうわの空であった





いつのまにか午前の授業終了のチャイムが鳴り響く


「起立、礼」


今日の日直のお決まりの言葉の後にはまわりからザワザワと賑やかな声が木霊する

いつも思うが、こんなことせずに教師が「終わります」って言えばそれでいいのではないか…

などと俺は考えながらもその号令に従う


「よ、青山!飯食いに行こうぜ」

「それとも今日は愛しの彼女とご一緒かな?」

「バァ〜カ」


友人が昼飯を軽いジョークを交えながら昼食の誘いに来る

もうこれはいつものやりとりで、俺はそれを一言でかわしてサイフを確認して席を立つ

視界の端で天文寺も席を立ったのがわかった

そして教室の後ろの方の扉を開けて出て行こうとした時、もう一個の教室の前の扉が勢いよく開かれる

そしてその後には聴きなれた明瞭な声が教室に響く


「コンチハー!天文寺君とお昼をご一緒に来ましたー!」


声の主は…そう、俺の彼女の磨有美だった



(つづく)

2001年4月29日


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