Take.8






「コンチハー!天文寺君とお昼をご一緒に来ましたー!」


午前の授業を終え、購買でパンでも買いに行こうと席を立った瞬間耳に飛び込んできたその声に俺は驚いたなにしろ自分の名前を大声で呼ばれたのだから

しかもその俺を呼んだ相手は……

俺はチラッと青山の方に視線を向ける

青山の方もちょっとビックリしているようだ

クラスの連中のほとんども俺か、その声の主を交互に見ていた

今なにが起こっているのか理解できないといった視線であった

そしてその声の主、佐々木磨有美はそんな視線など意に介せずにツカツカと俺のほうへと歩み寄ってくる

そして呆然としている俺の目の前まで来るとニコリと笑う

俺はその笑いにどこか背中が寒々しくなるような悪寒を覚えた

そう、なにか企みがあるといった笑いだそれは…


「ねぇ〜、天文寺くん、お昼一緒にしない? ホラッ、私ってばお昼作ってきたからさ」


そういって佐々木磨有美は俺の前に弁当箱を見せびらかす

…それもかなりの大きさの弁当箱である

俺は突然のことに、おいおいといった表情で佐々木磨有美の恋人、彼氏である青山の方に視線を向ける

俺の視線に気付いたのか、青山も俺を見る

「どうするのこれ?」といったジェスチャーで佐々木磨有美を指差すと、青山は別に何事もないように笑いながら頷いた

俺の予想しなかった反応である

普通自分の彼女が別の男と食事をしようものなら嫉妬で敵意に満ちた視線を送るものだが…

だが青山はガンバレとでもいうような笑みを向けてくる


「青山!いいの、これって?」


俺は確かめたい気持ちにも駆られて教室を出て行こうとする青山を呼びとめながら尋ね、その返答を待つ

そして青山の返答は俺の予想とは反した応えだった


「磨有美がお前に乗り換えたら教えて!俺一晩中枕に顔を埋めて泣いちゃうから」


青山はそう言い残して友人たちと教室を出て行った

「おい、いいのかよ?」というその友人達を尻目に、青山のその表情は余裕が現われている

俺もその余裕の表情にやれやれと思いながら無意識に眼鏡の位置を変える


「彼氏様の許可も出たことだし、行きますか姫君?」


俺はふざけた感じで彼女を誘うと、彼女の方も


「ホーッホッホ、わらわについてまいるがよい!」


などとこちらの調子にも合わせるかのごとく俺の腕を引っ張りながら教室を後にするのだった

その教室にはこの光景を見守っていた他のクラスメートの男女だけが残されるのだった…

そこにはしばし沈黙が漂っていたが、一人が椅子と倒した音と共に全員が我に帰った

そうしてさっきまでの静寂が嘘だったかのようにみな、グループで各自のお弁当を広げたり、おしゃべりしたりいつもの光景に戻るのであった



こうして俺は青山の彼女、佐々木磨有美に連れられて昼飯を一緒に食べるために屋上へと続く階段を昇っていく



(つづく)

2001年5月28日


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