EVE -少年(少女?)探偵団-
(前編)
「う〜〜〜〜ん………」
そのうめきは所長室と書かれた扉の中から聞こえてきた
その部屋の主の名は桂木弥生
今は亡き父から受け継いだ桂木探偵事務所の所長である
その弥生は最近富みに悩まされていた
「また……アノ連中が来るんだろうか……?」
弥生は最近自身が述べた“アノ連中”なるものに悩まされていた
その弥生も恐れる連中とは果たして?
弥生がそうこうして悩みつつある決断を下す
「よし! ここは逃げよう!!」
弥生は逃げるなど自分らしくないとは感じながらも、そうせざるを得ないと判断する
幸い今日は所員のほとんどが出払っており、自分が出掛けるのなら鍵をかければ当然誰も入って来れないはずだ
弥生はそう算段し、そう思い立つや急いで立ちあがり所長室のドアを開ける
そして懐から事務所の鍵を取りだし事務所の扉へと早足で向う
頭の中ではとりあえず用もないのに外出するわけだが、どこへいけばいいのかと迷う
小次郎の事務所という選択肢が一瞬浮かんだが、すぐにその事務所の従業員の顔も浮かんでしまい、必死に頭を振ってその選択肢を消去する
ならば次の選択肢は…………
この時弥生が選んだのはとりあえず自宅のマンションに引き上げることぐらいしか思い浮かばなかった
それでもそうと決断するや扉に向いノブに手をかけようとする
だがその直前で弥生はたった今思い浮かんだ選択肢を消去させられることになった
「弥生さーーーん!!」
「弥生お姉さまーーーー!!」
「探偵のお姉さーーーん!!」
口々にそう言いながら勢いよく事務所に入ってきた甲高い声が事務所に響く
「(お……遅かったか……)」
弥生の眼前に現れたのは女の子2人に男の子が1人
それもまだ小学校低学年という容姿と背格好である
「や、やぁー君達……よ、よく来たね」
弥生は額に汗を浮かべながらもなんとか笑顔で応対する
その弥生の応対を素直に子供たちは笑顔で喜ぶ
「それは僕達少年探偵団としては師匠である弥生さんのお手伝いをしに来てるわけですからね」
「い、いや……師匠と言われてもな子供たちよ……」
「ちょっと憲ちゃん! いつから少年探偵団になったのよ!!」
「そうよ!それなら少女探偵団でしょ」
弥生の言葉など耳にも入っていないと言わんばかりに突如女2人対男1人での口喧嘩が始まる様相を示す
「なんだよ。言いだしっぺは俺なんだから、当然リーダーは俺。つまりは少年探偵団じゃんかよ」
「それを言うんだったら最初に優子ちゃん家のタマヨを探してってお願いに来たのは私たちなのよ!憲ちゃんは付いてきただけじゃない!!」
「う”っ」
このような低次元の……いや、大人からみれば低次元なのだろうがそういった諍いが弥生をますます苦悩させる
とにかくこの場をおさめるのが先決だと感じた弥生はこの低次元な諍いに意を決して参入する
「あ、あのな君達。確かに君達は私の依頼主ではあったがもうその依頼も解決したことだし……」
「でも僕達はその……依頼料を払っていません」
「ええ、それでは私の気持ちが収まりませんわ。私の身体で払えというのなら……どうぞ」
「そ、そういうことを言ってるんじゃない!!」
「ええ〜!! ……私では不満だと!?」
「………」
弥生は最近の小学生はなんていう言葉を知っているんだと内心恐ろしくも感じながら身震いする
それとともに論点のずれている会話に頭痛までも同時に襲ってきた
毎度のことであるがここ数日このようなことが繰り返されている
そもそもの始まりは先週事務所にこの子達が友達の迷子の猫探しを頼みに来たのだ
最初受付に出た所員はその子達を追い返そうとしていたが、帰ろうとしていたその子達の哀しそうな顔に思わず後ろ髪を引かれる思いになってしまったのがいけなかった
いや、正直なところそれだけではない。最近その手の依頼も絶えて久しかったし何より……ライバルである小次郎の事務所にはその手の依頼が殺到すると依然愚痴をこぼされたことがある
だから小次郎の気持ちを知るためにも引き受けようという気持ちになってしまった
もちろん通常業務の片手間にである
そして……捜索から3日後、無事に近所の公園で他の猫とじゃれ付いている所をやっとの思いで探し当てて無事に依頼を果たしたのである
終わってみれば簡単だが、猫探しは狭いところや暗いところなど探しにくい場所を捜索せねばならず、なにより猫の行動パターンを調べなければ難しいということもわかった
それだけでも小次郎の苦労がわかり、子供達の笑顔も見れたこともあって弥生は十分に満たされていた
だが……悪夢はその翌日から襲ってきたのである
こともあろうにこの子供たちは翌日から自分たちにも弥生の仕事を手伝わせて欲しいと頼みに来たのである
当然弥生はこの子達が本気だったとは思えないし、なによりもきつい言葉で追い返すわけにもいかず今日までなぁなぁで来てしまった
そのため子供たちが押しかけてくるようになってから弥生の事務所の被害は…………
コンピュータのデータ破損、捜査の段階での領収書の束がシュレッダーに、窓際の鉢植えを倒されて窓ガラス破損、FAXの誤送信等など数え上げたらきりがない
所員たちはそのたびに残業を強いられ、弥生は正直済まないという思いで一杯だった
だが子供たちもその時は反省しているようだったのできつく言うこともできなかったのでやはり今日まで来てしまったのである
おまけに少年探偵団(少女探偵団?)なるものまで作って……いや、別段作るのは構わないが自分を勝手に師匠と呼んで押しかけ弟子のように振舞われもう散々だった
所員たちも子供達がこりもせずにまた来訪するのと、所長の弥生がきつく言わないのを見越していたのでこうして弥生1人に任せて外回りと称してこの時間帯は出ているのである
「それで師匠!今日はどんな事件が!!」
「そうですわ!! 連続猟奇殺人事件!?」
「それとも共産圏から来た特殊工作員の監視ですか!?」
「いやいや、やっぱし悪の秘密結社への潜入捜査だろ!!」
「………」
弥生はますます頭が痛くなり、俯き気味に目を瞑りながらこみかめの辺りを指で抑える
「さぁ、さぁ!どんな事件でも僕達がお手伝いして無事に解決させてみせますわ」
「ドロ舟に乗ったつもりで任せてください!」
「憲ちゃん、それを言うなら大船でしょ?」
「ドロ舟じゃカチカチ山じゃない」
「あ……そうだったっけ?」
「………あ、あのなぁー君達。君達は探偵という仕事をTVの世界と一緒にしてないか?」
「もちろん!毎週欠かさずに『踊る探偵道』を観てますわ!!」
「あら、私なんか映画の『探偵キッズ』を観たわよ!」
「僕なんてその両方ともだ!!」
再び今度は探偵に関するTVや映画での論争が弥生の耳が痛くなるぐらい大きな声で展開される
弥生は再び俯き気味な格好でこみかめを指で抑える
「師匠!」
「弥生お姉様!!」
「さぁーさぁー」
弥生の苦悩などまるでわかっていないかのごとくに言い放つ子供達
そのため弥生の怒りゲージは徐々にではあるが高まりつつある
だがなんとか理性でそれを抑え、ぎこちない笑顔ながら、とにもかくにも子供たちに笑顔を向け
「わ、悪いが今日は君達少年探偵団にお願いするようなことは……」
「ええ〜、せっかく張り切ってきたのに」
「しょうがないですわね……こうなったら事件を求めて街へ行きましょう!!」
「事件がなければ事件を起こすまでですわ!!」
「(え?)」
最後の一言が弥生を驚かせた
子供たちは冗談で言ったのだと思いたかったが、弥生には本気にも聞き取れてしまった
もちろん後者の念のほうがこの子供たちの行動から強く感じられてしまう
「そうと決まればゴー!」
「じゃあねあ姉様!」
「アデューーー!」
「ちょ、まっ……―」
弥生が呼びとめる前に子供たちは外に飛び出していってしまった
そして残された弥生はただ呆然とその開きっぱなしの扉を眺めるしかできずにいた
―15分後
弥生は子供たちが来るようになってから溜りに溜まっている仕事に取りかかろうと机に向う
だが子供たちの最後の台詞が気にかかり書類に目を通しては最初の2、3行を読んだところでその手が止まってしまう
「ふぅ〜……」
いてもいなくても苦労させられてしまう子供たちの存在に弥生は思わず溜息をもらす
「よ〜、どうしたんだため息なんかついて!」
突然扉のほうから知った声が聞こえて来た
「こ…小次郎!!」
「よっ、近くまできたから寄ってみたぜ……」
来訪者の相手は弥生が未だに想いを寄せる相手であった
弥生は最初小次郎の来訪に嬉しさのあまりそれが顔に出てしまったが、すぐにその背後に小次郎の事務所の所員の陰を見てしまったような気になりきつい表情に変化する
「なにしに来たんだ、小次郎?言っておくが私は暇じゃないぞ」
「ほぉー、忙しいってことは商売繁盛でいいことだな。うちは相変わらず迷子のペット探しと浮気調査さ」
「でも所員といつも一緒で結構楽しそうじゃないか……」
「氷室のことか? アイツはただの従業員だぜ」
「ほ〜う、ただの従業員……ね〜〜〜」
弥生はトゲのある言葉と、きつい視線を小次郎に投げつける
そのため小次郎はおもわず気圧される
「な、なんだか今日は虫の居所が悪いみたいだな……」
「ああ……誰かさんのおかげでな」
「誰かさん? そんな問題児な所員がいるのか?」
「お・ま・え・だ、小次郎! お前が私の視界に現れたから機嫌が悪くなった」
「ほほぉ〜、俺様が来てくれて本当は嬉しいくせに…か?」
何気なくいった一言に弥生は思わず「う”っ」と漏らす。だがその反動か、先ほどまで溜まりに溜まっていた怒りゲージが恥ずかしさとない交ぜになって再燃する
「う…うるさーーーい! 出てけぇーーーーっ!!」
「おわっ! わ、わかった!! ……だ、だからその持ち上げている椅子を床に下ろせ、なっ?」
弥生はいつのまにか座っていた椅子を頭上高く持ち上げて今にも小次郎に投げつけんばかりの勢いだった
「さっさと行かないと本当に投げるぞ」
「や、弥生ちゃ〜〜ん」
「でやぁーーっ!!」
小次郎の“ちゃん付け”の一言にとうとう怒りゲージはMAXに達し、弥生は小次郎目掛けて椅子を投げつける
だが小次郎は間一髪でそれをかわした。そのため目標物を失った椅子はそのまま背後の窓ガラスへと焦点を定め……
ガッチャーーーンというけたたましい音とともにそのまま外へと飛び出してしまった
しまったという表情になり注意がそっちに向っている一瞬の間に小次郎はすでにその場にはいなかった
所在のない弥生はポリポリと頬を掻くしかできなかった
弥生の放り投げた椅子がガラスを突き破って外に出たとき、外の植え込みの中に不穏な動きを示す物体が3つあった
「聞いたな……澄(すみ)、ありさ?」
「うん、聞いたよ憲ちゃん」
「ええ、そして出てきたわよ!」
「なに!? やっぱしアイツ……師匠の所に行ったんだな。セントラル・アベニューのあたりで怪しい男だと思って追い掛けてきたら……まさか師匠の所に………」
「しかもお姉様の叫び声も聞こえてきたわよ」
「やっぱしアイツは師匠を狙ってきた殺し屋だ!!」
「……そうなの?」
「あたりまえだろ? この暑いのにあんな長袖のジャケットにあの長髪。」
「うん……あのお兄さん目がないもんね」
「TVでもああいうのは必ず悪者なんだぜ!!」
「どうするの憲ちゃん?」
「決まってる!俺達少年―」
「少女探偵団で解決するのね!」
「うぐっ……」
「そっかー!さすがはありさちゃん。」
「そうと決まればあの男を追うわよ!」
「あっ!澄、ありさ待ってよぉーーー」
子供たちの勝手な思いこみから、師匠(弥生)を狙う殺し屋だと勘違いされてしまった小次郎
そんなことは欠片も知らない小次郎はフラフラとセントラル。アベニューのほうへ戻って行くのであった
そしてその背後からは少女探偵団の尾行が!!
危うし小次郎!!
刻は……トリスタン号事件から1年と半年後の出来事であった
( to be continued ......... someday )
はい、久々のEVEコメディーです!しかも前編・後編の2話構成!!
今回の主人公は弥生でも小次郎でもなく少年(少女)探偵団!!
登場人物の名前は……知ってる人にはわかる大いなるネタバレ(笑)
しかも夕方にストーリーを思いつき、夜にチャットの片手間で約3時間で作成!!
コメディーにはあんまり長々と時間かけないほうなのでw 逆にシリアスというか、連載ものにやはり時間がかかってしまうあたり……出来映えの如何に関わらずワタシャコメディーのほうが性格的にも向いているのでしょうか? それとも連載にもっとコメディーを込めるとか!?
そんなこんなの作者の迷いを他所に後編へ!
作成 2002年9月12日