EVE -少年(少女?)探偵団-

(後編)



(前回までのあらすじ)

桂木探偵事務所を襲う少年(少女)探偵団
ある日彼等はそこを訪れる男(小次郎)を発見
しかもいつもの弥生と小次郎の喧嘩から……
何故か小次郎が弥生を狙う殺し屋だと勘違い
師匠(弥生)を救うべく、悪役にされてしまった小次郎を
倒すべく、少年(少女?)探偵団は立ちあがった



「むむむ……アイツ(小次郎)、なかなか尻尾を出さないわね」

「尻尾?ありさ、あいつに尻尾なんかないぞ……」

「憲ちゃん、今ありさちゃんが言ったのはねそういう意味じゃないの」

「?」

「つまりなかなかアイツが悪いことをしないってわけよ」

「ああ、なるほど!!」

「……憲ちゃんもっと勉強しようね」


そんなことを言いながらも子供たちは小次郎の後を尾ける

だが、その後を尾けている子供達の姿はまわりの目には異様に映っていたのは言うまでもない

一方そんなことには気付いていない小次郎は呑気に欠伸などしながらセントラル・アベニューへと足を向ける

日がな一日、なにも仕事がないときはここで時間をつぶすのが当たり前になっていた

何故なら事務所にいても唯一の従業員の愚痴を聞かされるばかりなので、外回りという理由をつけてこうして外出しているのである

弥生の元へ出向いたのも久々に弥生の顔を見たかったからなのだが、そんな本音を言えるはずもなくついいつもの口調になってしまった

………結果はああなってしまったわけだが

そんなこともあってかさすがに弥生の事務所で時間を潰すわけにもいかなかった

といってもバーで一杯という持ち合わせもないためベンチに腰掛けてふんぞり返るしかなかった

ドカッと座りこみボーッと辺りの景色を眺める

その時小次郎はふと誰かが自分を凝視している視線に気がついた

その目線の元を追うと、その先には………なにやら奇妙なことをしている3人組がいた


「な、なんだぁーあのガキども。この暑いのに前進黒ずくめのコートなんか着てやがる………」


そう、子供たちの格好はどこから出したのか、全員黒のコートを羽織っている

サイズもピッタリと合っているところを見ると親のを持ち出したわけではなく自前で用意したのだろう


「(……まるで子供版殺し屋みたいな格好だな)」


そんなことをふと小次郎は思ってしまった。だがまさかその子供たちに自分が殺し屋だと思われているなどとは夢にも思わない

そしてもちろんその時小次郎はそんなガキ共が何故自分を凝視しているのかも想像がつかなかった


「(なんだあのガキ共は……まさか……オレのほうを見てるのか………?)」


そんなことを考える小次郎

一方の子供たちは―


「ありさちゃん……アイツ私達のほう見てるわよ。まさか私達気付かれたんじゃ?」

「ええー、俺達"ちゃんと"変装してるのにか?」

「うーーん。気付かれてる可能性もあるわね」

「変だなー。TVの探偵はみんなこんな格好してるのに」


どうやら子供たちにはTVと現実の世界の区別からしてあまりついていないようだった

だがそれでも子供たちは相変わらず小次郎を凝視する

そのため小次郎も頬に汗を浮かべ、横目でチラチラと子供たちを見やる

だがそのたびに視線を感じるため、どうやら自分を眺めているのは間違いないと確信できた


「(やれやれ……今日は仕事がないだけじゃなく弥生に追い出され……おまけにあんなガキ共の遊び相手にされるとは……)」


小次郎はそう思うと何故か情けなくなった。それと同時にもし今日の運勢を雑誌や新聞で見たら間違いなく「大凶」であろうことは予想できた

考えれば考えるほどに虚しくなり、こんなことなら事務所で従業員の愚痴でも聞いてるほうがマシだと小次郎には思えた

そう考えるともはやここにいる意味もないだろうと小次郎はベンチから立ちあがり思い足取りで事務所のある倉庫街へと足を向ける

当然その後には3人の奇妙な出で立ちをした少年(少女?)探偵団が後を尾けることとなる







小次郎はとりあえず近くの公園にまでやってきた

そしてソッと後ろを覗くとやはり例のガキ共が一人後を尾けてくる


「(………一人!?)」


小次郎はセントラル・アベニューで見た時はあのガキ共は3人いたことを思い出す

そこには怪しい格好をした女の子が一人いるだけで、他に同じ格好をしていた2人が見当たらない


「(他の2人は………)」


小次郎は辺りを見渡すがそれらしき人物は見当たらない

疑問にも思ったがその途端に馬鹿らしくもなった。何故こんな子供の遊びに自分が振りまわされねばならないのかと

小次郎はやれやれと思い至り、事務所に帰ろうとそこに見える子供に背を向ける

だが振り返ると同時に小次郎のすぐ目の前に見掛けなかった1人、怪しい格好をした男の子が1人立っている

小次郎が手を伸ばせば届く距離にまでいつのまにかたどり着いていたのか、小次郎は驚きながらもいい機会だから尾けるのを止めるよう注意しようと口を開く


「あのな……―」

「ライ○ー……キィーーック!!」


小次郎が言いかけたその瞬間、その男の子は突然小次郎の脛に思い切り蹴りを放ってきた


「島凵※買ミχδーーーーっ!!」


例え子供とはいえ蹴られた場所はまさに弁慶の泣き所。小次郎の絶叫が公園内に響き渡り、園内を歩いているまわりの人間が一斉に小次郎の方に視線を送る

蹴られた小次郎は脛をかばい、涙目になりながら蹴った男の子を睨みつける


「このガキ!」


小次郎は手を伸ばして男の子を捕まえようと試みるが、男の子のほうはそれを軽快にかわして距離を取る。そしてそこでまさに子供らしく小次郎に向ってアカンベーをしてみせる

それまでは冷静に大人として対処しようとしてたが、ここまで馬鹿にされては例え子供とはいえ放置することもできないと小次郎は判断する

だが小次郎の本心はアカンベーされたことに激昂していた


「へっへーん! 鬼さんこちらっ!!」


男の子のほうも小次郎のその怒りを知ってか、さらに挑発してみせる

そして悲しいことに小次郎はこの挑発に乗ってしまい男の子を追いかけ始める

相手は子供、小回りは効くかもしれないが直線距離でのスピードなら自分が勝っていると小次郎は判断する

そのとおり小次郎はスピードでは勝っているためたちまち男の子に後一歩で届くという距離にまで追いすがった


「このガキ、捕まえ………―」


だが捕まえたと思ったその瞬間、踏みこんだ足に違和感が走り小次郎の上体が突然沈みバランスを崩す

咄嗟のことでなにごとかわからなかったが、踏みこんだ足が沈んだと思った瞬間なにか柔らかいものを踏んだ感触があった

小次郎は足元を恐る恐る見ると、いつのまに作ったのかそこは片足がすっぽり入る程度の大きさでしかないが落とし穴が掘られていた

小次郎は子供の挑発に乗ってここまで誘いこまれこの典型的な罠にかかってしまったわけである

しかも踏んでしまった柔らかいものの正体とは………ここで述べるのもおぞましきものであったことは言うまでもない


「や〜い、えんがちょ えんがちょ」


男の子はこの罠に見事なまでに引っかかった小次郎を踊りを交えてからかう

その光景にとうとう小次郎の怒りゲージもMAXに達し素早く落とし穴から這い上がる


「この餓鬼どもが〜〜…… この俺様にこんなことをしてただで済むと思ってるんだろうな〜〜〜」


小次郎の内心では現在良心と怒気が戦っていた


『落ち着けよ小次郎。たかだが子供のしたこと、笑って済ませようぜ、大人なんだし』

『い〜や、こういう餓鬼には今から痛い目を見せて社会のルールってヤツをしっかりと学ばせるべきだ!』


などといった言い合いが繰り広げられている

子供、という状況が怒るに怒れない状況を作り出しているため小次郎も怒りのやり場を正直もてあましている

だが子供たちはそんな小次郎の様子を、"自分たちに恐れをなして手が出せない"と思い込んでしまった

そう、自分たちは"強い"と!

子供たちの弱肉強食の世界では、強いものが優位に立ち、弱いものがひれ伏すという暗黙の了解ごとがある

特にこの子供たちの中ではせれが根強く存在していた

そのため……


「よし、澄、ありさ! ジェット・ストリーム・アタックをかけるぞ!」

『了解!』


その掛け声に現実に戻された小次郎は「はっ」とする

ガキどもが縦一列になって小次郎に向かって突進してきたのである

だが小次郎の目から見ればその動きはスローで、余裕で対処できる………はずであった


「こいつ!」


小次郎が先頭の憲二を掴まえようと手を伸ばした時、憲二の姿が視界から消えたのである

どこへ行ったかと思ったら、憲二は小次郎の手をかいくぐるようにスライディングで小次郎の股の間をスルリと抜けてゆく

小次郎は背後に回られた憲二を視認しようと、後に続くありさと澄の存在を忘れていた

そのため………


「ありさ、ジャンピングヘーッドバァーーッド!」


ありさのジャンピングヘッドバッド(頭突き)が小次郎のみぞおちに炸裂した

まったく予期していなかった攻撃のため、小次郎はまともに食らい、足がよろける

だが子供達の攻撃はそれだけでは終わらない


「澄、ジャンピングフライパンアターーック!!」


続く澄はいつのまにか取り出していたのか、持っているフライパンを飛び上がり一番に小次郎の頭に振り下ろす

これまた予想もしていなかった攻撃に、小次郎の脳天に小気味のよい金属音とともに直撃する

最初の憲二が囮となり、後続の2人が連続攻撃するというジェット・ストリーム・アタックが見事なまでに小次郎に炸裂したのである


『いやったぁー!』


歓声をあげる憲二たち

意識も朦朧とふらつく小次郎


「さぁ、とどめよ!もう一度ジェット・ストリーム・アタックで!!」

『おう!』


止めを刺すべく小次郎に牙をむく憲二たち

だが………


「ばぁーろ、種がわかればそんなもん2度も喰らうか!」


痛みに耐えながら小次郎は再びスライディングで股の間を抜けようとした憲二の襟をむんずと掴み、目の前にかざしてありさと澄の突撃を食い止めるべく盾にする


「そ、そんな!」

「ぼ…僕を盾にしたぁーーー!?」

「ふっふふふ、この天城小次郎様にそんな子供だましが通用するか! さぁ〜、どうしてくれようか……」


小次郎はもはやこの子供たちを許す気など毛頭なく、きっちりとお灸を据えてやるつもりだった

だが………


「小次郎!!」


背後から怒気とともに聞き慣れた声が耳に飛び込んできた


『師匠!!』

「や…弥生…」


小次郎と子供達の声がその突然現れた相手に投げかけられる

小次郎がゆっくりと振り向いた先には、例のごとく怒りの形相を掲げた弥生の姿があった

それもそのはず……この状況を見るもの誰もが(いい大人の)小次郎がいたいけな子供をいじめているという風にしか見えないだろう


「小次郎……見損なったぞ。 とうとうそこまで落ちたのか」

「ち、違うぞ弥生! こ、これはこのガキ……―」

「うわぁ〜〜ん、このオジちゃんが"何にもしていない"僕達をいきなり〜〜〜」

『憲ちゃ〜〜〜ん』

「あ、お前ら汚ぇっ―」

「なにを言ってるんだ小次郎!気になって後を追いかけてみればまさかこんなことになっていたとわな。 さっ、君達、大丈夫だったか?」

「うぐっ、ひぐっ……」


弥生にあやされてる間の子供達は、先ほどまで小次郎を襲っていたのと同一人物だったのだろうかと思えるほどにおとなしかった

そして下手に何か口出ししても、弥生の剣幕に圧し負かされるだけだろうと重い小次郎は何も喋らない

その間子供達は依然弥生の元で延々と泣き続けている。だが小次郎はその子供達が口元に密かに笑みを浮かべているようでどうにも腹立たしかった

現に何のいわれもなく襲撃を受け、落とし穴に落とされるわ、頭突きやフライパンでの一発を受けるわ、こうして弥生にまで怒られるわ散々である

そしてようやく子供達が泣きやんだ後、弥生は子供達に向けていた優しい笑みから突如きつい視線を小次郎に投げつける


「さ、小次郎。 こんなことをした理由とやらをゆっくりと聞かせてもらおうか?」

「え? 弥生〜……なにか、勘違いしてないか? 俺は被害者なんだぜ」

「嘘をつくな! どこの世界に大人を襲うこんないたいけな子供達がいるんだ」

「が、外国なんかじゃーあるとおもうが……」

「ここは日本だ! さぁ、いくぞ小次郎!」

「イテテテテ……み、耳を引っ張るな弥生! 俺はガキじゃない」

「子供を泣かすようなヤツは子供以下だ!」

「ちがぁ〜〜〜う! 俺は、俺はーーーーっ!!」


弥生に連行されていく小次郎

憲二達はその光景を憧憬のまなざしで見送る


「やっぱし、師匠はすげーな!」

「うんうん。 私達のジェット・ストリーム・アタックを破った敵をああもあしらっているなんてね」

「素敵☆」


子供達の心の中に一つの言葉が浮かび上がる


『正義は勝つ』と








……数日後−


(がしゃーーーん)


けたたましい音とともに窓ガラスが割れた


「憲ちゃん、これ面白いよ!」

「え、どれだよ澄!」

「ちょ、ちょっとアナタ達! ここは遊び場じゃないのよ! ちょっと小次郎!あなたも何とかしなさいよこの状況を」


この惨状に小次郎はソファに腰掛けてもう3年前にもなる週刊誌に目を向けていた。もちろん内容などには目を通さず、この惨状への現実逃避に他ならない


「あ〜、ほっとけほっとけ」

「ほっとけないでしょ! もうここ毎日じゃない!一体なんなのよこの子達は!! あ、こら!パソコンには触っちゃダメ!」

「ほーっほほほ、ここをこうして、こうして………あっ―」

「あーー、3日間かけて打ち込んだデータが!!」


小次郎は氷室の叫び声にチラッとそちらを見やると、見事なまでに灰となっている氷室がいた

小次郎は気の毒だとは思ったが同情する気にはなれない。なにしろ一番の迷惑を被っているのはここ連日押しかけてガキどもに秘密基地代わりにされている小次郎の方だからだ

最初に来たときは追い返そうともしたが、「師匠にまた言いつけるぞ」というガキどもの脅しに小次郎は屈服してしまったのである

なにしろあの後小次郎は延々5時間も弥生に説教をされており、それ以来は"触らぬ悪魔になんとやら"なのである


「少年探偵団参上! さぁー、澄、ありさ、悪の秘密基地で今日もひと暴れだ!」

「うん、憲ちゃん」

「少年探偵団っていうのが気に入らないけどね」


小次郎と氷室にとってこの悪夢はまだまだ続きそうであった




弥生「ちゃんちゃん♪」



(完)




どうも長きに渡ってお待たせいたしました! ようやくこのコメディーのほうも完結へと……正直前編から1年と2ヶ月が経過しているわけで……すでに前編の内容なんか覚えてる奇特な読者はいないかと(苦笑) でもこうしてようやく書き終えたことで責任は果たしたかな? 
元々これはガキに振り回される小次郎と、子供達に「師匠」と呼ばれる弥生を書いてみたかったのが本音で、まさか2話攻勢になるとは…… この小悪魔的な子供達に振り回されるわ、弥生に説教されるわで小次郎はつくづくついてないキャラがコメディーでは似合ってるな。氷室は当然パートナーとしてそれに付き合うわけで(爆)

そんじゃま、久々の読切のほうを読んでいただきありがとうございました! 連載のほうも応援ヨロシク!

2003年11月7日



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