after 2 years






彼女はディスプレイを見つめながら手元のキーボードを操作している

そのタイピングを打つ手は流れるように、まるでピアノでも弾いているかのように軽やかに動いている

そしてモニター上に次々と打ち込まれた文字が表示されていく


「So if you have an question about this program , please send me .」

「……えっと、Take care of yourself , see you .っと」

「これでメールは終了ね」


いまやサイドビジネスとなっているコンピュータ関連の仕事


「後は〜…」


そして目の端に写る1枚の写真

彼女はそれを手にとってしばらく眺める

そこに写っているのは自身である彼女と、そして…


「…もう2年になるのね」


彼女はクスッと笑いながらつぶやいた


彼女の名は氷室恭子

元国家機関教育監視機構という組織に属していた諜報員でもある

コンピュータ、特にハッキングなどの腕は超一級といってもいいぐらいの腕をもっている

だが何故か現在ではあまぎ探偵事務所唯一の所員

某内調捜査員曰く「彼女は進む道を間違えた」だそうである

その原因となっているのが本人の隣に写っている人物

所長の天城小次郎である

腕は1級だが、彼の事務所はいつも火の車

そんなところに勤める氷室の真意は一体?

氷室自身は笑って語ろうとしないのが現状だ

そんな日々がすでに2年も経っていた


「時が経つのは早いものね、ついこの間入ったばかりのようだけど」


氷室は写真を元あった場所に戻し、そして机の上に両肘をのせ、顎を掌に乗せて苦笑する


「さってと、今日は久々の休みだしどうしよっかな」


氷室は腕を伸ばして伸びをしながら時計のほうに視線を送る

すると時計の針はすでに12時前を指していた


「あら?もうこんな時間なの?」


時間を意識しだしたせいか、朝からほとんど何も口にしていないことを思い出す

口にしたものといえばせいぜい目の前に置かれているコーヒーぐらいだろうか

しかしそのコーヒーもすでに冷め切っていて温かみはない


「……せっかくだから出かけがてらにお昼もいいわね」


氷室はそう言うと机の上に置いてあるハンドバッグに手を伸ばして颯爽と出かけていった



外は雲一つない青空で道行く人々の表情にも笑みが見られる

氷室もそんな一人であった


「んん〜いい天気…やっぱこうゆう天気の日は外の空気を吸うのが一番ね」


軽快な足取りで氷室は歩いてゆく

そして目の前のインテリジェントビル、インポートタワーへと足を踏み入れる


「えっと〜なにがいいかしら?」


入口の案内図を確認しながら思案する


「そういえばお蕎麦なんかも久しぶりにはいいかもね」


そう決めるとそのままエレベーターへと乗り込み、目的階のボタンを押す

そして昇りはじめるとすぐにビルの外が見渡せた


このビルインポートタワーは地元の多くの人に人気があった

まずは店舗の多さも挙げられる

しかしこのガラス張りで外が見渡せるエレベーターも人気の一つなのであった

かくいう氷室もその一人である


エレベーターから外を見渡していると、暫くして海が見渡せるようになった


「ふふっ、小次郎ってば今ごろまだ寝てるのかしらね?」


同僚にして上司の小次郎のことを思うと自然と笑みがこぼれるようになった


「やだっ、私ったらまた」


氷室はその自分の行為に一人また苦笑するのであった

その姿を同乗していた他の客はビクッとし、それをみた氷室も慌てて姿勢を正してコホンッと咳払いして視線を上に向けて現在のエレベーターの階数を確認する



自然に笑みがこぼれる、国家機関に属していたときはほとんどしなかったこと

だが小次郎の事務所に勤めてからは自然と笑うことが多くなっていた

小次郎のおかげなのだろうか?

以前街で偶然出会った友人と会ったときにもそのようなことを言われたことを思い出した

以前の氷室はいつも険しく、張り詰めたような硬さがあった

だが今ではそんな硬さはほとんど見られない

そしてその時友人に「恭子、あなた恋してるでしょう?」などと聞かれたとき赤面してしまった自分を思い出す

自分でもこうも変われたのかということに驚きをかくせず、またその要因となった小次郎に感謝さえ感じていた

そしてまたそのように変わった自分を自分でも好きになっている

そんな風に変われたことが自分でも好ましかった


そんなことを考えていると「ポーン」という音がエレベーター内に響き渡り目的の階に到達したことを告げる

笑っていた顔を引き締めるとそのままエレベーターを降り目的の店を探す

すると目の前に多少混んでいるのか店の外にまで客が並んでいる

近くまで寄ってソッと中を覗いてみるとやはり中は客でいっぱいだった


「あちゃ〜……これは他の店に行ったほうがいいのかしら?」


氷室は少し立ち止まって考え込む

すると中から元気のいい声が聞こえてくる


「ちょっと待ってよ雄二君!」


中から女の子の声が聞こえてくる


「ほら急げよ玲奈。俺これからバイトだってあるんだぜ」


そして続いて男の子の声も


「もぉ…あ、オバさんどうもご馳走様でした」

「はいよ、いつもすまないね玲奈ちゃん」

「いえ、こちらこそお昼ご馳走していただいちゃって」

「ほら、雄二もちゃんと玲奈ちゃん送っていってあげるんだよ」

「わかってるよいちいち言わなくたって」

「んもぉ、バイトばっかりしてないでちゃんと勉強もするんだよ」

「わかったってば!」


氷室がその会話に聞き入っていると中から高校生ぐらいの男の子と女の子が出てくる

おそらくこの二人がいまの会話をしていた子達だ

そして氷室の目と男の子と目が合う


「…お客さん?」


と、男の子の方から語りかけてくる


「え?…ええ、まぁ」

「この時間帯ならあと5分も待てば入れるよ」

「え、ええありがとう。お言葉に従って待たせてもらうわ」

「じゃあ玲奈行くぞ」

「あ、待ってよ雄二君」


玲奈と呼ばれた女の子は氷室の方をチラッと見ながら黙って雄二と呼んだ男の子のあとについていった

氷室は何気なくその二人が廊下の陰に隠れるまで見つめていた


「さってと!」


そして見えなくなるとおとなしく雄二という男の子に言われたとおりに待つ

そして待つこと10分、言われた時間よりはかかったが無事に氷室は店内に足を踏み入れることができた





午後5時50分、すでに陽は沈みかけ、まだほのかに明るいといった空模様であった


「すっかり遅くなっちゃったわね・・・」


昼食を済ませ、その後はいろいろとインポートタワー内の店舗を見て回っていたらいつのまにかそんな時間になってしまっていた

主にブティックや書籍店、そしてコンピュータ関連の店舗を見て回っていた

氷室にとってはそのように見て回るのは実に久しぶりのことだったので、じっくりと眺めていたためにこのような時間となってしまっていたのである


「ふぅー、久々にいろいろ見て回ったわね。でも買ったのがこれじゃあねー」


氷室は視線を手元の買い物袋に落とす

そしてクスッと笑う

そこには小さな一匹の馬ののぬいぐるみが入っていた

しかもそのぬいぐるみには目はない。といってもあからさまにないのではなく、毛が顔のほうにまでかかり、人間で言えばちょうど前髪で隠れているような格好になるのだ

氷室も店頭でこれを見つけたときには思わず誰かを想像してしまい、買うまでに時間はかからなかった


「まったくこれってば本当に小次郎にそっくりなんだから…小次郎が見たらどんな顔をするのかしら?」


一人小次郎の反応を想像するだけでおかしくなってしまう


「さってと、どうせアイツも今日はろくなものを食べてないだろうし行って驚かせちゃいましょう」


そういうと氷室の足は自然と前へと進み出していくのであった






後書き

はい、氷室を主人公とした読みきりでした
実は構想等は夏の時期、EVE-Endless Rhapsody-の休載のお詫びというかEVEを再開前に書いて勘を取り戻そうとしたのだが結局書かずじまい…
で先日大学で授業ない日にわざわざ大学行って、まぁ用事済ませた後、次の用事まで2時間以上余っているちょこっと書いてみたら一気に書きあがってしまいました(笑)

しかしこれの制作秘話にはまだ続きがあるのです
現在受付中のEVE投票!アレの就職部門1位が江国蕎麦店、そして小次郎の恋人にふさわしいキャラ1位の氷室が3回連続で1位をゲットしたことを記念して主人公は氷室、そして無理矢理江国蕎麦店(本当はこのような名前じゃないらしいが便宜上)を絡ませてみました。いかがなものだったのでしょうか?

しっかし、MIYAさんとこのFD計画以来の久々のEVE読みきりでありました!!

2000年11月18日


Novel