The Scream







あなたは普段テレビを観ていたり本を読んでいる時に
それが突如現われたりしたらどういう反応を示しますか?

“それ”……と言われただけではわからないでしょうが…

これはそれが現われたことによる、ある女性の恐怖を描いた物語です











「はぁー、はぁー、はぁー………」

(い、いないみたいね)

私は部屋の隅に身体を小さくして辺りを見回す

だが油断はできない、いつヤツが姿を表すかわからないのだ

そう、決して油断はできないのだ

油断すればヤツの接近を許してしまうことになる

以前にも眠っていた時に接近を許した時の記憶が蘇り、
その恐怖が背筋を凍らせる

私はゴクリと喉で唾を飲みこんで身体中を力を込める

片時も油断は許されないからである

だがそうだと頭ではわかっていても身体は正直である

彼女の身体はすでに恐怖のために震えているのだ

(ちょ、ちょっと〜〜……)

彼女は自身のその反応を見て、再び焦り出す

掌には汗が滲んでいるのが自分でもわかる


彼女の名は桐野、いや今は江国杏子

今更説明は不要であるがLostOne事件で世界を救い、一躍英雄になった女性である

その杏子も事件から1年後には同事件の捜査過程で知り合った
江国雄二と後に婚約、内調を寿退社している

そう今は新婚生活真っ盛りで幸せいっぱいなはずなのだが、
こうして部屋の片隅で震えているのである

……手にしている物に力を込めながら…


「え〜ん、雄二君早く帰ってきてよ〜〜」


杏子の声は恐怖からすでに涙声であった

杏子は何に震えているのか?

最初杏子がそれを目にしたときは台所であった



「ルンルン♪ カボチャを刻んで 海老を炒めて
白菜を添えて 塩胡椒♪」



と一体何を料理しているのかわからない歌を口ずさんでいる時であった

杏子が気分よく調理していると目の前をなにか黒い物がよぎったのである


「あら?」


杏子は一瞬なにかと思ってそのほうを見たが、なにもなかったので
錯覚だと思って特に気にしなかった

だが!!

ふと足元を見下ろした瞬間足先をかすめるようにカソコソと通過する物体があった


「!!」


杏子はそれを見た瞬間に手にしていた菜ばしをその場に落とし


「ひっ」


と短い悲鳴をあげ硬直する

そして再び黒い物を目で追うと、それは杏子から少し離れた場所で微動だにしていなかった

その瞬間に杏子の身体中の毛穴が開き、全身に汗が噴き出す

杏子の頭の中では“緊急事態”告げるサイレンが鳴り響き始める

そしてその警報を受けて杏子の身体が動き出す

いや、先に口の方が動き出した


「…ひ、ひ、ひ …ひぃぃぃぃぃぃ〜〜〜〜っ!!」


杏子は恐怖でその場に腰を落とした瞬間、その黒い物体が
羽を広げ杏子のすぐ眼前を通り過ぎてゆく


「きゃあぁぁぁぁぁぁーーーーっ!!」

「きゃーーーーっ」

「きゃーっ、きゃーーーっ!!」



杏子は腰が抜けたままであるが叫びながら無我夢中で、
しかも器用に手と足を使って部屋の隅へと逃げていったのである



こうして今の杏子の現状がある

ここで言わずもがなであるが、黒い物体とはまさしく“ゴキブリ”そのものである

杏子は手近にあった新聞を急いで拾って丸め、いつでも応戦できる武器を得た

だが武器はあってもすでに腰は引けていて立ちあがることができない

なんといってもさっきのゴキブリが台所から今はどこにいるのかもわからないのである

相手が見えない、それが余計に杏子の恐怖心を煽った

次にその姿がそこから現われてくるのか

カサカサとなにか物音がすると即座にその方向を見るがなにもいない

また別な場所で物音がするとその方向にビクッ身体がその方に向いてしまう

(どこ?どこにいるの?)

杏子の緊張感はすでにMAX状態だった

そのために次の瞬間その場に現われた者の存在に気付かなかった


「お〜い、杏……子…?」

「ぎゃあぁぁぁぁぁぁーーーーーっ」


突然予想もしなかった方向からの声に杏子は手近にあった
物を思いっきりその方向に投げてしまった

杏子が投げつけた物はものの見事にその声の相手にぶつけた


「っな……」


杏子が投げつけたのは厚さ7センチはあろうかという本で、
しかもその角をぶつけてしまったのである

故にその主は突然のことに成す術も無くその場に
そのまま驚きの声をあげたまま倒れてしまった

その声の主は江国雄二、杏子の夫である

「ただいま」を言ったのになんの返事もなかったために杏子に声をかけようとした瞬間に本を
ぶつけられたのだからひとたまりもない

雄二はその場に白目をむいたまま倒れこんでしまった

そしてその時になってやっと自分が本を投げつけた相手が
来援を待ち望んでいたその人であると杏子は知る

しかもその来援の雄二を自ら気絶させてしまい再び孤立無援となってしまう

その状況をやっと理解した杏子は……


「きゃぁぁぁぁぁ〜〜〜、雄二君、雄二君!しっかりして」


慌てて杏子は声をかけながら腰が抜けた状態で四つんばい状態で
そばに寄ろうと床に手をついたその瞬間!!

ゴキブリがその床についた手の上を通って行ったのはお約束である

カサカサカサと音を立てながら


そしてそれによるお約束は……


「…ぎっ、ぎ、ぎ………」

「……ぎえぇぇぇぇぇぇぇぇぇ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!!!」


杏子の絶叫が夜空にこだまするのであった




そして同夜………



「こ、小次郎ーーーっ!!もうだめ、早くなんとかしてぇーーっ!!」

「ちょ、ちょっと待て氷室!! やつもなかなか素早くて」

「きゃーきゃー、こ、小次郎!!」

「も、もう私のそばまで来てる!!」

「わ、わかったから氷室!!」

「今行くから、物を俺のほうに投げつけながら俺を呼ぶのはやめろ!」

「きゃーっ、きゃーっ」

「だから物を投げ ……どわわわ、そんなもんまで投げるな!!」


「もうこんなオンボロ事務所いやぁーーーーーっ!!」

「ばっ、 …それをいっちゃーお終いだぜ氷室!!」



ゴキブリという名の黒い彗星が今日も各所に出没するのであった

そう、そしてこれを読んでいるあなたの足元にも………






作成 2001年10月10日

後書

久々、っていうかEVEシンデレラ以来のEVEコメディー!!
この構想事態は先月某チャットにてお遊びで『杏子vs黒い彗星』とかいう話が出てきて、こうしてコメディーとして誕生した次第です。もちろんあまぎ探偵事務所での出来事はおまけです(笑)
っていうかあそこならゴキブリどころか溝鼠とかも多そうだよな〜〜〜



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