炎蛇の章C
「し・・しまったぁ」
迫り来るミサイルに少年は絶叫するなりヘリの扉を蹴破る
剥がれたドアは重力に引かれるままにまっさかさまに落ちてゆく
そしてその後を一本のロープが垂らされた
そしてすかさず隣に座っていた理恵に手を伸ばし、抱える
「え?きゃっ」
資料を眺めていた理恵は突然のことに自分の身に何が起こっているのか理解できなかった
せいぜいヘリコプターが揺れたぐらいしか想像も出来なかった
だが下を見るとヘリの床ではなく、一面の緑の木々しか見えなかったのである
その光景を見て初めて自分が隣の少年によってヘリから連れ出され、空に投げ出されたことを知ったのであった
そしてそれを知り、理解した途端に理恵に恐怖が襲いかかってきた
「キャァァァァァァァァァァァ!!」
理恵はただ真っ逆さまに落ちていきながら悲鳴を上げるが、少年はそんな理恵をしっかりと抱えながら垂らしたロープに沿って滑り落ちる
「ぐう!!」
ロープとの摩擦で少年の皮膚が裂け、少年はうめき声をあげるがロープも理恵をしっかりと抱きしめ放しはしなかった
そして飛来していたミサイルが少年達が乗っていたヘリに直撃し爆発する
そして地上まで後数メートルそ迫った時、優はロープから手を放し、抱えている理恵を持ち上げ自分のからだを理恵の下にする
そしてそのまま自分の身体をクッションにして地上へと落下した
「グゥッ」
ロープを伝ったことで落下速度を落としていたとはいえ、少年と理恵の二人分の重さで落下し、そのまま地面に叩き付けられた時の衝撃によって普通の人間なら死んでいるだろう
だが木々がクッションになったことと、少年が身に纏っているAMスーツの衝撃吸収力と少年の驚異的な運動能力によって最悪の結果にはならなかった
だがそれでも落下時の衝撃によって多少は痛んだのか少年はうめき声をあげ、苦痛の表情を浮かべるが
すぐに立ち上がりしゃがみこんでいる理恵の手を引っ張り走り出す
「急げ!!やつら近くにいる!!」
少年はそう叫ぶと、その場から離れるために足早に駆け出し樹海の奥へと進む
ただ引かれるままに走っている理恵には現在置かれている自分の状況が掴めていなかった
単なる遺跡の文字解読のための来日がどうしてこのようなことになっているのか
そして理恵の視線が少年の左手へと移る
ロープを伝っていた手だ
そしてその手の平には血が滲んでおり、理恵の目には痛々しげに見えた
「その手……大丈夫なの…!?」
「ちくしょーどじっちまった!!」
理恵は今の状況の恐怖から逃れようと少年の身を案じるが、少年は聞こえていないのかそれに答えることなくただ理恵の手を引いて奥へ進んでいくのだった
「狙いどおりですな」
ヘリの残骸を見ながら男がつぶやく
「<火の社>の情報を渡せば動くとふんだ君の手柄だ!!」
そしてその隣には身の丈2mはあろう軍服の大男が脇にロケットランチャーを抱えながら言う
隣にいる男は少年が先日アーカムビル側で戦った『風獣』を操るKGBエージェント諸刃
功一であった
「あとは<火の社>まで案内願うだけです……」
その時の諸刃の目は妖しいまでの目つきで、口元を歪ませながらつぶやいた
「ねえ・・・」
少年の右手に包帯を巻きながら理恵は語りかける
ヘリの墜落現場からはかなり離れたところへ移動していた
「あん!?」
巻かれ終わった包帯を見つめ何回かその包帯の巻き具合を確認しながら少年も返事する
「ヘリコプター操縦してた人、死んじゃったかな…」
「ああ・・・あれじゃ助からんだろうな……」
理恵の質問に少年は即答で簡潔答えた
その簡潔に答えるという行為に理恵は自分とは同い年でありながらこうも人の死を冷静に受け止められるものなのかと感じる
そしてそれゆえにこそ理恵にはもう我慢ができなかった
「ひどいよ…私さっぱりわからない…」
だがその簡潔な答えが今まで溜りに溜まっていた理恵のあらゆる感情をさらけ出させた
目には涙さえ浮かべている
「たかが古代遺跡をなんで人殺ししてまで奪い合うの!?そんなもの欲しければあげちゃえばいいじゃないの!!」
怒り、哀しみ、どれも自分でも嫌になるような感情である
「こんなのもう耐えられないわよ!!」
今まで自分が感じていた不満を少年に全て吐き出すように喋り続けたために少し肩で息をしている
少年もその理恵の言葉をただ黙って聞いていた
すると少し身を起こしてズボンのポケットから何かを取り出した
理恵の目にはそれが何かのプレートに見えた
「それが世界を滅ぼすほどの力を持っていてもかい!?」
少年はそう言うと取り出した物を理恵の方へと放る
そして理恵は慌ててそれを受け止めそのプレートに視線を移す
そこにはなにか文字のようなものが書かれていた
「あの遺跡を手にした者が、世界を自由にできとしたらどうする!?」
「なにこれ、古代ヘブライ語じゃない・・・!?」
理恵はその文字を良く見るとそれは自分がこの言語学を学ぶ過程で何度も目にした古代ヘブライ語であることがわかった
そしてそれを静かに口に出して読む
「”未来の人類へ…この伝言を発見する者が心ある者なのを願って”・……なんなの、これは!?」
だが理恵にはその突拍子もないようなプレートの内容がすぐには理解できなかった
未来の人類、心ある者、一体何のことを言っているのかがわからなかった
「そう、超古代文明からの伝言板だ…オレ達人類に向けてのね・・・・・・」
だが少年は静かに口を開きそのプレートが現代人へのメッセージであるということを告げる
その伝言板にはこう書かれていた
「“だがもしも君達に遺産を受ける資格がなければ……”」
「“それらを全て封印してほしい……悪しき目的に使う者達から守ってほしい・・・われらと同じ道は決して歩んではならぬ…”」
少年は理恵が読んでいたプレートの内容を続けて言う
その言葉に理恵はハッとして視線を少年に向ける
「・・・じゃ、じゃあ・・・あなた・・・」
理恵はプレートと少年を交互に見やる
そして理恵の頭の中で一つの答えが導き出された
そしてその己の今の考えが正しいのかを尋ねる
「そう、それがオレ達スプリガンの仕事!!裏の世界のあらゆる権力から超古代文明を守り封印するのさ……」
少年は理恵の推測に静かに頷き肯定する
そして少年は笑いながら静かに手を理恵へと差し出す
「んじゃ・・・ま、いきますか!やつらより先に<社>に着かなけりゃならん!!これ以上犠牲者をふやさんためにもね…」
理恵にはその差し出された手を受け取る
「うん!!」
その時理恵はその少年の手が今まで以上にも大きく、そして暖かいものを感じた
この時の理恵にはすでに後悔はない、といえば嘘にはなるが前に向かって進んでいく勇気が芽生えていた
「ねぇ、大丈夫なの!?富士の樹海って迷ったら出られないんでしょ」
理恵と少年はもうかれこれ2時間近く移動をしていた
すでに陽は落ち始め、あたりは闇が支配し始める
理恵は確かに疲れてはいるが、前に進まなければという使命感にも似た感情で行動を起こしている
だが一抹の不安はあるのか
なにか話でもしなければ落ち着かないといった感じで少年に語り掛ける
「安心しなさい!!俺の方向感覚は渡り鳥並なんだぜ」
少年はニカッとした表情を理恵に向ける
「それより転ぶなよ。固まった溶岩で皮膚きるぞ!!」
そして再び視線を前に戻した時少年の表情は先ほどまでの人懐っこいものから険しいものへと一変していた
少年には現在迫っているものが樹海の危険性や溶岩などではなく、均等に詰めてきている者達の存在であった
遺跡、そして理恵を狙う者達
少年は勝負は夜であると睨んでいた
すでに陽は落ち辺りは闇が支配する
そして静寂という音のない世界ともなっていた
だがその静寂を破るかのように耳を澄ませると声が聞こえてくる
「そのプレート(金属板)は深海の底で発見されたんだ…偶然ね…」
少年は樹海に茂る木々の枝を折りながら語る
「年代はいつごろのものなの?」
理恵は岩場に腰掛けジッとプレートを見つめながら尋ねる
理恵には先ほど超古代文明の存在を少年の口から、そしてその証拠とも言うべきプレートを手にはしているがやはりまだ俄かには信じられなかった
「わからん!!なんせどんな年代測定法にも反応しないし、熱しよーと冷そうとどんなにぶっ叩いても傷一つつかねーんだ!!」
「………まさか…」
「比重や色からするとプラチナに似てるけどね…」
「もうそんなもん造り出す技術が残っててみな!?世界はどえれえことになるぜ!!」
やっと理恵にも更なる現実が見えてきたのか、手にしたプレートを見つめながら頬を一筋の汗が伝わる
「………」
「専門家の話じゃ三次元空間に時間軸が存在しないんじゃないかって…」
「なによそれ…」
突然の少年の言葉に理恵は目を細めて少年を見上げる
「いやースマン!」
少年も自分の発言がまずかったのかと左手で頭に巻いているバンダナの位置をずらしたりなどして照れ隠しする
だがすぐに理恵のそばに置いておいたリュックを背負うと理恵に背中を向ける
「んじゃ、ちょっくらでかけてくらあ!」
そういうと少年は理恵から離れようとする、そのために理恵は少年のその行動が突然すぎたために慌てて呼びとめる
「ちょ…ちょっ!!」
だが少年は静かに理恵の後方を指差す
そこには一本の木と、その根元には人が隠れられるほどの穴が開いていた
そばには先ほどまで少年が折っていた木々の枝が置かれている
「君はあの穴の中に隠れてなさい!!入ったらちゃんとアレでカモフラージュするんだぜ」
「いいな、絶対そこから動くなよ!!オレが必ず守ってやる。それまでふんばるんだぜ」
少年は静かにそう言う
理恵にはその少年の表情に安心を覚え、そしてどこか懐かしいような感覚がこみ上げてきた
そう、自分が以前にこれと同じ体験をどこかでしたような……
そして理恵は頷き返した後笑顔で言った
「うん、わかった…待ってる」
そして少年はその笑顔を確認すると鼻を一掻きするとクルリと背を向けて歩みだして行った
この時理恵には見えなかったが少年の顔は照れのためか赤く紅潮していた
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to be continued
後書き
……前回Bが終了してから1ヶ月近くかかってしまった…
本当はもっと早くUPさせるつもりだったのだが…
ああ〜もっとうまく早く書ける文才が欲しい!!
それでなくてもいろいろと忙しいのに……さて次回からがもっと文章化が難しくなる戦闘シーン…ハッキリ言って気がめいりますな〜。『少年の会心の一撃、装甲歩兵は倒された』ってだけで済ませたら楽なんだけど
まぁそんなもの書いた日にはお師匠様のお叱りが…う〜あなおどろおどろし!
さ〜、次回のDにはなるべく早く取りかかってパッパと終わらせるか!
ってわけで次回もお楽しみに♪
2000年09月27日