炎蛇の章H




諸刃を倒してその野望を止め、一人その鎮玉を眺める御神苗

そしてその燃え盛る<火の社>の炎が鎮火するのを近くで腰掛けて静かに待っていた

スプリガンとしてこの遺跡を他の悪しき者に渡さないためにもこの遺跡を封印しなければならない

だがその代償として失ったものもあった

「……こいつを…もとにもどしておかなくちゃ…」

やがて社の炎が鎮火したのを確認してから静かに立ちあがる

社の元へ歩み寄る間に御神苗はその遺跡内で果てた幼馴染山菱理恵のことを思い出す

自分が守ると宣言しながらも結局は守りきれなかった…

そのことが御神苗の胸を痛めつけるのであった

だがここで立ち止まってはスプリガンとしての使命、なによりも理恵の死が無駄になってしまうと御神苗は考え遺跡内へと足を踏み入れる

「………」

遺跡内は真っ暗で御神苗の目が慣れるまでに多少の時間を要す

そして暗かった内部がだんだんと見渡せるようになる

その時御神苗の頬を一筋の汗が伝った

御神苗の視線が遺跡内部、文字脾そばに寄りかかっている人物を認めたのである

「遅いぞ……こら!!」

文字脾に寄りかかっている人物も御神苗を認めるやそう呟いた

その人物とは、炎蛇によって社ごと炎に包まれていたと思われていた理恵であった

御神苗は自分の目をパチクリ瞬きさせて、この光景が幻ではないこと

理恵に足がついていることから幽霊でないことも認める

「ばかねえ、いつまで止まってんのよ…」

「…………」

理恵は御神苗のその様子を見てそう言うが、御神苗はただ唖然としているばかりだった

「はやくロープを切ってよ」

「どうしておまえ生きてんだよ!!」

やっと我に返った御神苗は急いで文字碑の上にある鎮玉を納める場所に鎮玉を戻しながら理恵に自分の疑問を告げる

「失礼ね!!」

理恵は御神苗のその疑問に笑顔で対応するのであった

理恵のその笑顔には自分が助かったこと、そして自分を守ってくれると約束してくれた少年、御神苗も助かったこと

そしてなによりお互いに生きて再び会えたことを喜ぶ至福の笑顔であった




「この社は<火の結界>なのよ」

「つまり中には熱や火が入りこまないの…」

縛られたロープを御神苗が懐から出したナイフで切断している間、理恵は自分が炎蛇の炎から助かった理由を御神苗に告げる

「なるほどな。太古からの祭事に使われたんだ。そのぐらいの用意はあったってことか」

「ヤツには黙ってたんだな」

「うん、必ず守ってくれるって約束したもん」

「そして一緒に御神苗君をさがしてくれるんでしょ……ねっ、“御神苗”君」

理恵のその言葉で、2人は初めて幼馴染としての10数年ぶりの再会を達成できた

「………ヘヘヘヘ」

「フフフ…


「ヘヘヘヘヘヘ………」

そして2人とも満面の笑みでその再会を喜び合う

理恵は御神苗に今の自分を正面から認めてもらえたこと

御神苗も同じく理恵に正面から今の自分を認めてもらえたこと

そしてその本質は互いにあの頃、別れた10数年前のままだったことへの喜びであった

「!!」

だがその至福の時もそう長くは続かない

炎蛇発生と同時に噴火した富士山の溶岩がいつのまにか社にまで迫ってきていたのである

「うそ!?」

慌てて2人は社から逃げだし、今まで自分たちがいた社を振り返ると、溶岩はもうじき社を飲み込み、果ては御神苗達にまで迫ってくる感だった

そして溶岩は社をゆっくりと飲みこんでゆく

「これでまた溶岩に埋もれることになったな。金属板の願いどおり!!」

「後は脱出だけよ!」

御神苗の言葉に理恵もそのことを理解し、もうこのような場所はこりごりと言った笑顔で告げる

「まかせろ!!」

「こんな所で死んでたら『スプリガン』の名がすたらぁ!」

「そして私をちゃんと守ってね、妖精さん!」

「よっしゃ!!」

掛け声と共に御神苗は理恵の手を取って駆け出す

理恵はその握られた御神苗の手を放さぬように力強く握り返すのであった


そして背後ではこの2人を祝福するかのごとく日本の象徴、富士山がまるで花火のように燃え上がる噴煙をあげるのであった




ここに一枚のプレートがある

高度に発達しすぎたために滅びてしまった

超古代文明の何者かが、

現代の我々に綴った伝言板(メッセージプレート)である

彼らは語る”我々の遺産を悪しき者から守れ”
と。





-エピローグ-


『10日前突然噴火した日本のシンボル富士山!!』

『噴火はおさまりましたが静岡県一帯の復旧作業はかなり時間がかかるとみられております!!』

『なおあの奇妙な噴火現象については八岐大蛇だったとかいろんな証言が飛び交い、今までとは違った噴火形態に専門家も頭を抱えており…』

窓の外は快晴の天気

その高層マンションの窓の眼下には今日も変わらぬ東京の光景が見下ろせた

その一室、つけっぱなしになっているテレビからはあの富士山の噴火のニュースが流れていた

噴火の前兆などなかっただけに、多くの地質学の専門家達も何故噴火したのかがわからないといった仮説のコメントばかりを残していた

そして目撃された炎蛇のことも同様である



<火の社>を巡る各国の争いから既に10日が経っていた

優は傷こそは癒えないが、体力は回復しておりすでにいつもどおりの生活に戻っていた

そして今は届いたばかりの手紙に目を通している

差出はアメリカからで、差出人は山菱 理恵と書かれていた


『短い間だったけどいろいろお世話になったわね…』

『どうもありがとう…』

『私はこちらの大学で研究を続けています。日本へ行っていたぶんだけ仕事がたまってしまって今はそれで大忙しです』

『でも、昔と変わらぬやさしいあなたに会えたのは私にとって何よりの喜びでした』

『これからは体には気を付けて、あんまり無茶はしないでがんばってね』

『私もあなたにまけないくらいガンバリます』

『For 御神苗 優様へ    From 理恵より』


つけっぱなしのテレビの部屋で、ベッドに腰掛けながら御神苗は一人静かにその手紙を読んでいた

「……ったく、頑張るのはいいけどまだ16歳だぜ!!仕事なんかどーでもいいじゃんかよ!!」

全てを読み終えた時、御神苗はその手紙を天井に届けとばかりに放り投げる

そしてそのままベッドにゴロンと横たわった

「久々の再会なんだからデートぐらいしてけよな。理恵ちゃん」

そうつぶやいた時、まだ手紙に続きがあることに気付く

起きあがって読んでみると、こうあった…

『−追伸−』

『なぜ噴火を制御できるほどの文明が溶岩に沈んで滅亡したのかしら……』

『私は今もその事について考えています』


その手紙を読んだ時御神苗は暫く考えこむ

だが、窓の外をみた時に微笑する

その質問への応えを御神苗にはわかっているからだ

「決ってんじゃんか…」

「どんなに科学が進んでも自然の驚異に人間がかなうわけねーだろ!!」

「それが神々の文明であってもね……」

御神苗は窓の外に映るどこまでも高く、澄んだ青い空に向って言い放つのであった



そのメッセージを誠実にうけとめ、

超古代文明を封印することを目的に活動する組織があった。

そしてその組織の特殊工作員を・・・

スプリガンと呼ぶ

…彼らは世紀末の救世主なのか…



炎蛇の章・完



後書き

はい、昨年度7月半ばだったか末だったか忘れてしまったのですが(おい!)、1周年を迎えることもなくなんとか連載終了です!
もともとこれを書くに至ったのは、サンデーGXでSPRIGGANが読み切りで復活したことを記念して、SRIGGANを知らない人にも知ってもらおうと思い、第一話の『炎蛇の章』を小説化するというのが動機ですね。
で、所々内容を変えたりしてます。まず主人公の御神苗優、彼をその素性が分かるまでは“少年”、叉は“妖精”と名乗らせることで既存の読者にはわかるでしょうが、まだ未読の読者には謎にしておこうという設定でした。
そして八話ではCOSMOSのことにも多少触れる改編等を致しました。
いや〜、書いてる間は結構難しいな〜と思いましたが、終わってみるとなんかやり遂げた!っていう実感があって結構気持ちいいですね。この勢いでオリジナル・連載の『Trace Eden』のほうも書き進めて行きたいと思っています。
では、毎度拝読してくださってありがとうございました!

2001年5月19日


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