炎蛇の章B





深夜の都内…

本来なら誰もが眠っている時間、だがこの東京にそんなことは関係ないのか

『眠らない街』、そんな言葉がここにはふさわしいのかもしれない

世界的大企業アーカム東京支社ビルの隣に位置する駐車場では少年と米軍装甲歩兵がにらみ合っていた

それもなにやらお話し合いをするような雰囲気ではない…





「さーて、こっちは準備OKだぜ」

「どっからでもかかってきな!!装甲歩兵の皆さんよ!」

AMスーツを発動させ戦闘準備万端が整った少年は静かに米軍装甲歩兵達に静かに歩み寄る

その歩みにはAMスーツに対する絶対の自信と、己の戦闘能力を考慮に入れての絶対の自信の現れであった

その歩みに数、装備の上では絶対的に有利ななずの米軍兵達でさえ気圧され後ずさった

だがその気圧されも少しの間で、すぐに一人が戦闘態勢の構えを取ると他の仲間も一斉に銃口を少年へと向け始める

そして銃の駆動音と共に銃弾の雨が少年に向かって降り注がれる

それが戦闘開始の合図であった


「んなもん聴くかあぁー!!」

だが少年は蜂の巣になるどころか、頭だけをガードした状態で身を守っている

銃弾は全て少年の着込んでいるオリハルコン製のボディーアーマー、AMスーツによって防がれていた

「うおおぉぉりゃあ!」

少年は掛け声と共に装甲歩兵の一人に照準を定めると右足で強烈な蹴りを側頭部に叩き込み、地面に叩きつける

叩きこまれた装甲歩兵も持っていた銃を盾にして防ごうとしたが、まるでその銃がはりボテであるかのように少年の蹴りによって粉砕されていた

「一人!」

少年は装甲歩兵の一人を戦闘不能に陥らせたのを確認するかのように言い放ち、すぐさま次の敵に向かう

そして一気に接近戦へと持ちこむと装甲歩兵の隊員も持っていた銃で少年に叩きつけようと応戦するが少年は左腕一本でなんなくそれを受けとめると腹にフックを叩きこみそのまま正面にいるもう一人の装甲歩兵の隊員に叩きつけ、叩きつけられた方は勢いで後ろに停められていたトラックのフロントガラスに突っ込まれ一人目同様,一挙に2人同時に戦闘不能にさせられた

「……3人…」

少年は静かにそうつぶやくとユックリと残った二人の隊員に向かう

残った隊員達はすでに銃口を降ろしており少年の圧倒的なまでの戦闘能力に唖然とさせられていた

その光景を見て少年は静かにつぶやく

「まだやんのかよ!!」

その言葉で装甲歩兵の隊員達は我にかえる

「前にも言ったはずだぜ。在日米軍ごとぶっ飛ばされたくなければ、この件から手を引けってな・・・」

少年のその言葉は単なるハッタリでなく本気であると感じ、なによりも今この場での不利を悟った隊員達はゆっくりと銃を地面に落し降服を示した

「それでいいんだよ」

少年は戦意をなくした米軍装甲歩兵の隊員達にゆっくりと近づていき武装を解こうとする

が、その時背筋にゾクリとする悪寒が少年を襲った

「な・・・・・・」

その悪寒の正体に気付く前に目の前の米兵が突然鮮血を宙に舞わせ、膝からガックリと崩れ落ちて行った

そしてその返り血が少年の顔にも附着する

少年はキッと崩れ落ちた米兵の背後の闇に目を凝らす

「若いのになかなかの凄腕ですね……スプリガン」

声はその闇の中から聞こえてきた

「へ・・・へへへ・・・ずいぶんと趣味の悪い登場のしかたしてくれるじゃねーか!!成田空港でも血なまぐせーやつがこっちを見張ってたが、あれはてめえだな!!」

少年は新たに現れた闇の中にいる敵に対して笑い言い放つ

するとその闇の中から男がスッと姿を表す

その男は確かに少年が倒したCAIの諜報員を始末した男であった

スーツを着込んだ優男、その見たままが少年の感じた第一印象であった

「私はKGB極東支部の諸刃功一と申します・・・」

諸刃と名乗った男は不適にフッと笑うと、指をパチンッとスナップさせる

その時少年には諸刃のまわりの空気が歪んだと思った瞬間、衝撃が少年を襲う

「うわあ!!」

頬を一塵の風が襲い、少年の頬を切り裂く

「か、かまいたちか!!」

「諸刃家に伝わる『風獣』です・・・切れ味は今見た通り・・・・・・・・・」

諸刃は先ほどの少年と米兵との戦いの観察から接近戦は不利と判断したのか、間合いを取りながら語り掛ける

「そんなことより富士の<火の社>から手を引いていただきたい・・・」

「<火の社>!?」

聞き慣れない言葉が諸刃から発せられ、少年は思わずその<火の社>という部分だけを繰り返す

少年には初めて聞く言葉であった

「君達が今調べている遺跡のことですよ!!」

「なぜそれを知っている!!ック!!」

少年はなんとかAMスーツの能力を活かせたスピードで諸刃に接近しようとするが、諸刃も少年の意図を読み取ってか断続的にかまいたち現象を起こす『風獣』で風の壁を作り少年を足止めする

「我が家に古代たび重なる富士の噴火で溶岩下に沈んだ文明の口伝が残っていてね・・・」

「噴火を社の鎮玉で治めていたということです・・・・・・コレを手に入れればICBM(大陸間弾道)以上の兵器になるはずですからね…」

間合いを制している余裕からか、そして少年を倒せるという自信からなのか、諸刃は次々に少年の問に答える

少年の顔はAMスーツに覆われていないため諸刃の『風獣』によって切り裂かれ血が滴り落ちる

だがその眼光は獲物を狙う野生生物のごとくジッと諸刃の動向を観察している

そして錯覚か、少年の右手にはボンヤリと青白く光っている

だが次の瞬間には少年の顔はニヤリと笑うやいなや、その青白く光った右手をその場で一閃させると、少年を覆っていたかまいたち現象の風の壁は四散する

「もらったあ!!」

次の瞬間にはすでに少年は諸刃へと接近し、それは諸刃ではなく少年の間合いへと変わっている

そしてそのまま少年は諸刃に向かって拳を繰りだし、諸刃を吹き飛ばす…はずであった、がその場にすでに諸刃はいなく少年の拳は空を切っていた

諸刃はどこへ?

少年はその疑問で隙を作る前にすでに次の行動に移った

一方の諸刃は間一髪で身軽にも上空高く跳躍し、大型トラックの荷台へと着地する

跡には引き裂かれたスーツの一部がパラパラと地面へと落ちる

「『風獣』を破るとはやりますね…!!」

諸刃は引き裂かれたスーツを見ながらつぶやき、視線を先ほどまで自身と、そして少年がいたところに移した

だが少年はすでにその場にはいない


そしてハッと上空を見上げた時、そこには追い討ちにかかり、先ほどの自分よりも高く跳躍している少年の姿が諸刃の瞳に映し出された

「風獣だかなんだか知んねえが、AMスーツはその類の攻撃は全然効かねえんだよ!!おまけに体内に溜め込んだ精神波も放出できる」

「てめえの手品じゃビクともしねえんだよ!!」

上空から獲物を狙い済ました野鳥のように少年は襲いかかりながら叫ぶ

そして次の瞬間には少年の一撃がトラックの荷台を直撃し、そのトラックの荷台は思いっきりひしゃげてしまった

諸刃の方はなんとか再び間一髪でかわして再び間合いを取る

少年は間合いを取った諸刃に対して今度は逆に少年が余裕の笑みをしながら自身のAMスーツの効能を説く

「フフフ・・・まいりましたよ・・・」

だが諸刃はそうはいいながらも表情は別段焦ってはいない

「しかし次はそうはいきませんよ。教授は必ずいただきます」

そういうと再び指をスナップさせ『風獣』を起こす

すると先ほどまでとは全く比べ物にならない衝撃が少年の足元を襲う

「うわっ!!」

少年は足元を見ると、足元のトラックの荷台は更に大破していた

そのことからさきほどまで少年に加えていた攻撃は手加減をしていたということになる

「ナロォ!!」

それを知った少年は憤りからか、それとも別の感情か、再び諸刃を見据えよう視線を向ける

が、先ほどまでそこにいた諸刃の姿はいつのまにか、いや、少年に攻撃を加えたその瞬間にすでにいなくなっていたのである

「……へ、へへ・・・さすがは大都会……変なやつがうじゃうじゃでてくらあ…」

少年は新たに現れた敵の登場にたいして不適に微笑む

「しかしヤツラ(KGB)が遺跡のことを知っているとわな………これは急がなきゃなんねーぜ!!」

少年はその場に腰を降ろし、とりあえずの危機が去ったことにホッとしながらつぶやく

だが新たな敵の登場に今度の任務の困難さも予感させるのであった

新たな敵、KGB…つまりソ連が新たにこの遺跡を巡る争いに参戦してきたのである





-翌日 富士-


「だあーーーーっ、やっぱり納得いかん!!なんでついてきたんだよッ!!」

少年と理恵は東京から離れたヘリの中にいた

窓の外は雲も少ない晴天で、日本の象徴富士山も間近のためハッキリと見ることができる

ヘリはそんな光景の中を悠然と進んでゆく

だが外とヘリのそんな雰囲気とは裏腹に、少年と理恵の間の空気はピリピリしていた

その原因は…

「だいたい今日は昨日よりもっとヤバイんだぜ!?責任もてんぞ、まったくもーっ!!」

少年は今日遺跡調査に行くと言い出した理恵の護衛として同行していた

しかし少年は今日のこの調査には反対であった

昨日の襲撃で理恵を攫おうというアメリカとソ連を退け、それによって両国はさらに作戦を練って理恵を攫おうという事は目に見えている

少年にはそのことがわかっているからこそ理恵を守るべくアーカムのビルに留まってくれていたのなら少年としても守りやすい

だが、理恵自らが外に出てしまえば敵はどこから襲ってくるかわからないために少年としても油断ができない

故に今日理恵が調査に行くというのが少年には納得できなかった

「・……………そりゃあ私だって怖いわよ…でもしよーがないでしょ、この仕事終わらないんだもん」

資料を眺めながら少年の小言を聞いていた理恵はヤレヤレといった表情で説明する

だが、理恵も少年の言う通りにアーカムのビル内に留まっていたいというのが本音だった

理恵にだってこの行為が危険だという事は重々承知しているのだ

「ちぇー、教授の身を守らなきゃいけない俺の身にもなってみろよ」

少年はブツブツと理恵の行動に不満を漏らす

「・・・もう少しなのよ」

「あ!?」

突然の理恵のその言葉の意味がわからず少年は間の抜けた返事を返す

「もう少しなのよ富士山麓文字の解読…あとは<閃き>だけの問題なの……」

「へ!?」

「文字解読って知識も重要な要素だけどそれ以上に勘が要求されるのよ…知識だけでできるのならコンピュータにかなうわけないわ!」

「だから現地に行ってそれを残した人のイメージで勘を刺激したいの・・・」

「危険なことは十分わかっている。でも・・・・」

「理由はよくわからないけど私がこの仕事を終わらせないと、いろんな人に迷惑をかけることだけはわかったわ・・・あんな想いはもうたくさんよ!!」

この仕事の早期達成、理恵にとっては今はそのことが第一優先事項であった

その理由が理恵の頭の中に昨晩の惨劇が思い出される

それを思い出すたびに理恵は恐怖で目をギュッと瞑り身体をこわばらせる

理恵は自分が早くこの仕事を済ませれば無用な死傷者は出ない、そう考えるしかこの悪夢を抜け出せないと自身で納得していた

故に彼女の来日目的であった”御神苗 優”との再会はこの時心の奥にしまいこんでいた

少年は理恵の表情をジッと見続け、そして、

「……………ま、しゃーねーか。でもなにか危険を察知したら、すぐに退き返すぞ」

少年も理恵のそんな心情を察したのかもうなにも言わずにドカッとヘリの座席に座りこむ

「それにしても16歳でそんなに一生懸命働くかねぇ・・・とても俺と同い年にはみえねーや」

少年は理恵の仕事の熱心さに心底感服し、自分と同じ16歳に見えないという気持ちを正直に口に出す

「ごめんね・・・」

その言葉に理恵は精一杯の微笑で返す

その微笑が少年にはどこか照れくさかったのか慌てて視線をそらして窓の外へと向ける

「まっ、はやく仕事を終わらせないと、御神苗優をさがす時間もなくなっちゃうしな」

話しをはぐらかすように何気なくつぶやく

「まぁ、空にいるうちは安全だ……」

そう言いながら少年は地上を見つめる

ヘリで上空にいる限りは敵もそう簡単には襲って来れない、いわゆる安全地帯なのである

危ないのは着陸する時と、地上に降りて調査を開始する時ぐらいだと少年は考えた

が、その考えが甘かったことを次の瞬間に少年は痛感する

少年が見つめていた地上の地点で異変が起こった

何かと目を凝らすと、なにかが爆発したような煙が巻き起こり、次の瞬間にはその煙の中から何かが少年達の乗るヘリへと向かってきた

少年の思考はその突然の出来事でストップするが、すぐにその飛来しているものの正体を察知する

「し・・しまったぁ」

少年の目には迫り来るミサイルが映るのであった



               .............. to be continued


後書き

『炎蛇の章B』をお届けいたしました!いかがなものであったでしょうか?
今回は少年の台詞をとくにいじるところもなかったのでとくに苦労はなかったが…それでもこれの小説化はかなりむづかしいですね(笑)まぁまだ半分も終わってはいないのでコツコツと書いてはいきたいと思っています。もうしばらくのお付き合いよろしゅうお願い申し上げます(ペコリ)
次回はプレートを少年が理恵に示す回です、お楽しみに!感想お待ちしてます!!

2000年8月27日


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