炎蛇の章G




『逃げて、御神苗君!!』


「り…理恵…」

溶岩によって燃え盛る<火の社>を見つめながら少年 御神苗 優は力無くつぶやく

御神苗の脳裏には理恵の自分を案じてくれた最後の言葉が蘇る

「『炎蛇』はすでに私の支配下にある・・・彼女にはもう用はない・・・・・・噴火の制御法を他人に伝えられては困るんだよ」

そんな御神苗の心情などお構いなしに諸刃は淡々と語る

心はすでに新たな力、『炎蛇』を手に入れたことど心踊っていた

だが御神苗の様子がおかしいことに諸刃も次第に気付く

そしてその自分を見つめる視線、それを表すものが憎しみであるということもわかった

「オ……オレにはよ…別に世界を救おうなんて御大層な目的はねーけどよ…けどよ…自分にかかわってる人間ぐれえ守ってやりてえじゃんかよ!!」

御神苗は一歩一歩諸刃の元へと歩み寄りながら呟く

その言葉には理恵を失った哀しみ、そしてその張本人諸刃への憎しみが交じり合う

「理恵は…理恵はただ人より頭がいいだけの普通の娘だろ!?」

「…それを…」

その言葉を発した時に御神苗はその歩みを止め、身体に力を込め始める

「それをてんめぇ!!許さねえ!!」

御神苗の怒りの咆哮と共に精神感応金属(オリハルコン)製のボディーアーマー、AM(アーマード・マッスル)スーツが発動し、そのまま一気に諸刃の元へと駆け出す

御神苗はAMスーツ発動と同時に一気に諸刃を倒すつもりで、その自信もあった

「無駄だ!!」

だが諸刃はそんな御神苗の突進にも慌てる様子はなく、冷静に対処すべく手にした鎮玉を目前に差し出す

すると諸刃の背後から噴火の攻撃兵器とでもいうべき『炎蛇』が御神苗の元へと襲いかかる

「くっ!!」

その炎蛇の攻撃に御神苗はとっさに片腕を差し出して防御のために足を地面に踏ん張らせる

だがその一瞬が御神苗の命取りになった

御神苗はなんとか炎蛇の攻撃をしのいだが、その炎蛇の背後から、御神苗にとっては死角から突如諸刃が現われその手にした一振りの剣を振りかざす

御神苗が気付いた時にはすでにその剣は振り下ろされ、自慢のAMスーツも切り裂かれその攻撃が肉体にまで達っし血飛沫が舞いあがる

「な…なにぃ!?AMスーツが!!」

御神苗はあらゆる銃弾をはじきかえすこともできるこの自慢のオリハルコン製のスーツがいともたやすく一本の剣で切り裂かれたことに驚愕の表情を浮かべる

「な、なんだその剣は!?」

「これは我が家に伝わるオリハルコンと同系金属である…ヒヒイロカネ製の剣だ!!」

AMスーツを切り裂けたことに諸刃は余裕の笑みを浮かべながら己の自慢の剣を御神苗によく見えるようにに披露する

その剣には今しがた切り裂いた御神苗の血が付着している

「なにっ!?」

「これなら無敵の強度を誇る君のAMスーツはおろかどんな物質でも断つことができる!!」

御神苗は今までに経験しなかったこの現状に冷静さを失っていた

そしてその焦りは攻撃にもありありと表れる

「ちっくしょーっ!!」

御神苗の焦りからの攻撃は諸刃にかすりもせず、余裕で後方へと跳んで間合いを外された

「しかし私はそれ以上にすばらしいものを手に入れた!!」

そう言い放つと諸刃は再びもう一方の手にしていた鎮玉を己の眼前に突きだすと背後から炎蛇の群れが御神苗へと次々に襲いかかる

「くっ……」

御神苗はその攻撃をなんとか防御して耐える

さすがの炎蛇の攻撃でも耐熱仕様のAMスーツのおかげで大事にはいたらず、あとは御神苗自身の気力でカバーできた

しかし何度も耐えられるものでもないと察する

そう思って目を開いて前方を見つめると、すでにそこに諸刃の姿は無く御神苗は慌てて周囲に気を配る

すると御神苗の死角となっていた空中からヒヒイロカネの剣を振りかざして襲いかかってくる諸刃の姿があった

諸刃は御神苗が炎蛇の攻撃に耐えることも予測済みであった

「死ね、スプリガン!!」

諸刃はそのまま剣を振り下ろすが、御神苗はバックステップでそれをかわす

だが諸刃の第ニ撃、着地と同時の横薙ぎの攻撃が御神苗を襲う

間一髪、御神苗は間合いを外したおかげで剣がAMスーツを切り裂くが身体までには達さずにすんだ

「えーい、こざかしい!!」

今の攻撃で決着をつけるつもりだったのか、諸刃は怒りの声をあげて鎮玉を差し出し炎蛇の群れを御神苗に向ける

「うわあ!!」

御神苗はそれらを紙一重でかわしながら後退するが、眼前に次々と着弾していく炎蛇のエネルギーの余波が予想よりも激しく焦る

そして次の瞬間には御神苗の眼前に炎蛇がその牙をむき出して襲いかかる

「くそったれ!!」

『避けきれない!』そう思った御神苗は守勢ではなく攻勢に出るべく拳を炎蛇へ繰り出す

御神苗の攻撃で炎蛇は四散し、窮地をしのぐ

「!!」

だが窮地をしのいだ御神苗の眼前に、再び炎蛇の死角からこうなることを予想していた諸刃がすでに剣を構えて現われた

御神苗にとってはまるで空間転位でもして現われたかのような現われで、しかも炎蛇に攻撃してすぐの姿勢だったために諸刃への対応ができていない

「終わりだ小僧」

すでにそこは諸刃の間合いであり、諸刃はそのまま渾身の力を込めて御神苗に斬りつける

「がぁっ!!」

斬り付けられた傷口から血が飛び散り、優は己の敗北、そして“死”を覚悟した

スプリガンになりこうゆう仕事をするからには当然このような覚悟もしてはいたがそれがこんなに早くとは自身薄れゆく意識の中で思ってはいなかった

そして薄れゆく目の前に何かがボヤケて見えた

崩れゆく時間がゆっくりと感じられるためか、優にはそれが理恵にも示した超古代人のなにものかが現代人に綴ったメッセージプレートであるとわかった

そして優の頭の中でメッセージの内容が繰り返される


遺産を…

遺産を悪しき目的に使うものから守って欲しい…

守って欲しい…



「おまえの負けだ、小僧」

まだ死んではおらず、意識のある御神苗の眼前に立ちはだかり勝利を確信する諸刃

「私に勝てる奴はもう誰もいないんだよ!!」

AMスーツすらも切り裂くヒヒイロカネの剣、そしてそれ以上の攻撃力を持つ炎蛇を手中にしたことで諸刃はすでにその力に魅入られていた

「おまえの死体はこの遺跡とともに溶岩に埋もれるのだ。名誉なことだろう…」

「そしてこのオレが世界の覇者となるのだ」

その言葉に呼応するかのように諸刃の背後の日本の象徴、富士山がさきほどよりも一層激しい噴火の奔流を起こす

だが諸刃はふと切り裂かれ肌が露出している御神苗の左腕の付け根の部分に目を留める

そこには刺青(タトゥー)でもなく、『43』と刻まれた数字が書かれていた

「貴様、その数字は!?」

「!!」

御神苗は諸刃が自身に刻まれた忌まわしき数字に気づいたことに反応する

「そうか……貴様がその若さでスプリガンとなったのもこれで納得がいく」

「まさか貴様があの米軍の極秘プロジェクト、『COSMOS』(コスモス)の生き残りであったとはな」

「……俺を、数字で呼ぶんじゃ…ねぇー……」

御神苗はその諸刃の言葉に明らかに反感の意を表す言葉を告げる

身体に刻まれた『43』、これは御神苗にとってまさに忌むべき過去を表すものであった



極秘プロジェクト<COSMOS>―

かつて米軍が機械化小隊と同時に進行していた特殊実験

正式名称は Children Of Soldier Machine Organic System (チルドレン・オブ・ソルジャー・マシン・オーガニック・システム)、略してCOSMOSと名付けられた

その実験部隊では兵士を子供のうちから「殺人機械」として育て、戦闘における<キラーエリート>を作り出すことを目的にされていた

まだ第一段階として薬や催眠術によって精神操作を施す

それによって人間が持っている「個性」、「理性」、「禁忌(タブー)」を消し去り、上官からの命令には絶対服従の殺人機械へと変える事であった

そうして毎日の殺人機械として子供たちを扱い、日々その性能を磨くことを強制する

その結果米軍は命令に絶対服従の屈強な殺人機械兵士を造り出す

これが設立当初の目標であった



「だが貴様があのプロジェクトの生き残りだったとはな……噂では壊滅されてプロジェクトも消えたと聞いていたが」

諸刃の言葉に優は静かに過去を回想する

そう、そんな経験をしながらも自分が今こうしてスプリガンとなったあの出来事を



南米のペルーにあるアーカムの発掘現場

そこで当時の御神苗をはじめとする他COSMOSの隊員が実戦テストとして行なわれた戦闘

密林地帯でもあることから、迷彩服の上から木々の葉をカモフラージュしたものなどで接近

あるものは背後から口をふさがれそのままナイフで静脈を切り裂かれ

そしてまたあるものもナイフで一突きに一発の銃弾も使うことなく外部を警備していたものを倒す

警備指令室ではそんな外の状況などは掴めなかったために急襲され銃弾の嵐をその身に受ける

そしてそれは司令室から離れた遺跡発掘現場にも及ぶ

遺跡現場で警備しているものだけでなく、非戦闘員の発掘隊にまでその銃弾は容赦なく襲いかかる

その行為をまだ“子供”が表情ひとつ変えずに行なう様は背筋を凍りつかせるものがあった

そして御神苗は、その発掘現場から逃げようとしていた一組の夫婦の眼前に茂みから姿を表して立ちはだかる

そして手にしていた機関銃の銃口をその夫婦に向けて引き金を躊躇いもなく引き金を引く

銃声が密林に鳴り響くと同時に銃弾は容赦なく夫婦に襲いかかり夫は瞬間その妻をかばおうとするが間に合わずに夫婦ともども御神苗が放った銃弾によって血の海に横たわった

その時、血の海に横たわる夫婦を見たとき、殺人機械として育てられ感情が消失しているはずの御神苗の頬を汗が伝わる

疲労からの汗ではなく、困惑の汗であった

その証拠に先ほどまで、夫婦に向って銃弾を放つまで無表情であった御神苗の顔が苦悶の表情になっていた

御神苗はその横たわっている夫婦の光景をどこかで経験したことがあることを意思ではなく身体が、いや心が覚えていた


アーカムの発掘調査隊であった両親

世界各地の発掘の仕事を息子の御神苗共々一緒にまわっていた日々

そしてその発掘現場近くの村から帰った時、御神苗が目にした光景

帰って両親にその日に起こった出来事を話し、両親にもその喜び、感動を知ってもらおうと発掘現場へと御神苗は駆け込んで行った

だがそこで御神苗が目にしたものは、発掘現場作業員の死体の山とむせかえる血臭だった

そして御神苗はその光景の一つに自分の両親の姿を見つけた

父が母をかばうように倒れこんでいるその光景を……


その両親の光景と目の前の夫婦の光景が重なったとき、御神苗は密林に響き渡らん限りの絶叫を喉の奥から迸らせた

そして御神苗は自分の苦悩からか、それともこのような境遇に自身を置きえた米軍への恨みからか

精密な殺人機械にウィルスでも侵入したかのごとく暴走をはじめ、そして他のCOSMOS隊員並びに、絶対服従だったはずの上官にまでその牙を向ける

そしてその時御神苗は「No.43」と呼ばれることを拒否し、自分の名前を叫んで手にした機関銃を今度は上官達にに向けて放ったのであった

こうして御神苗一人の手によって米軍の極秘プロジェクト<COSMOS>は壊滅へと追いやられたのである


そのことを御神苗は一人思い出していた

そしてCOSMOS壊滅の原因が目の前にいる御神苗によるものだということを諸刃は知らなかった

「まぁそんなことは今となってはどうでもいい…私は世界の覇者となるのだからな」

諸刃は不敵な笑みを浮かべ手にした剣で御神苗に止めを刺すべく振り上げる

「貴様にその私の姿を見せられないのは残念だ、せめて私の手で止めをさしてやろう!」

「!!」

剣を振り降ろす瞬間、御神苗はこれまでかと目を閉じる

だがいつまでたっても剣の衝撃はこない

それとももう自分は死んでしまったのか?とさえ考えてしまう

「ぐっ!!」

だが前方から耳に入ってきた声は諸刃の苦悶のうめき声であった

その声で御神苗は目を見開き、自分の目に写る光景を見定める

なんと、諸刃の首を片手で絞めている大男がいた

そう、その男はここに来るまで御神苗が戦い、苦戦の末に倒したソ連スペツナズ特別独立小隊の隊長ヴィクトルであった

固まった溶岩に頭を直撃した時の傷がいまだ癒えていないのか、頭からは血が滴り落ち、とても満足に動けるようには見えなかった

「遺跡は貴様などに渡さん!!」

だがヴィクトルは自分らを裏切り、私利私欲に走った目前の男諸刃への怒りからか、その腕に更に力を込めて諸刃を殺そうとする

「ヴィ…ヴィクトル…」

「世界の独裁などさせん!!」

「くっ!!…風よ!!」

このままでは自分の身が危ないと判断した諸刃はかまいたち現象を起こせる『風獣』をヴィクトルに向かって放つ

至近距離からの風獣の直撃で、ヴィクトルの上半身と下半身は寸断され、その衝撃で諸刃は後方へと突き飛ばされる形となった

「う…うう」

だが起きあがった諸刃が目にしたのは上半身だけとなりながらも未だ自分の首を掴んで放そうとしないヴィクトルの姿であった

「ぎ…ぎざま…」

もう力はないながらもヴィクトルは諸刃への憎悪を捨ててはいないことは目が語っていた

「はなせ化け物め!!」

その視線とヴィクトルの常人離れした生命力に恐怖した諸刃はヴィクトルの身体を力任せに振り払う

「ハッ、バカな野郎だ、ハハハハハ」

「……てめえ…いい加減にしろよこの野郎!!」

諸刃の傲慢な物言いにかろうじてだが立ちあがった御神苗は諸刃に言い放つ

「なんだあ、まだ動けたのかこの死にぞこない」

諸刃は御神苗に一瞥すると、今度こそ止めを刺そうとヒヒイロカネの剣を持つ手に力がこもる

「おまえも奴等の後を追ってさっさと地獄へいけ!!」

言い放つと、そのまま渾身の力を込めて剣を御神苗に振り下ろす

「な…なにい!!」

だがその驚愕の叫びをあげたのは止めを刺すために剣を振り下ろした諸刃のほうであった

諸刃のオリハルコン製のAMスーツさえも切り裂いたヒヒイロカネ製の剣が真っ二つに折れたのである

それを折ったものの正体は……御神苗が理恵に超古代文明の存在を知らしめるために見せたあのメッセージプレートであった

そのメッセージプレートでヒヒイロカネの剣を盾代わりにして砕く、これは御神苗自身も想像しなかった予想以上の結果であった

「ヒ……バ…バカな、ヒヒイロカネの剣が……」

どんなものでも切り裂けると思いこんでいたヒヒイロカネの剣が真っ二つに折られたことですでに諸刃は狼狽していた

「へっ、たとえどんなもんでも切れよーがな、所詮は人間の作ったもの…」

そう言い放つ御神苗の姿に諸刃は恐怖して後退さる

鎮玉を振りかざして『炎蛇』を使うことも、かまいたち現象を起こす『風獣』を使うこともすでに諸刃の頭の中にはなかった

「神様の作ったものまでは切れねーんだよ!!」

この好機を逃さずに御神苗は最後の力を振り絞ってその拳を諸刃の顔面へと叩きこむ

AMスーツの力も手伝って諸刃は遥か後方の自身が炎蛇を用いて燃やした<火の社>へと吹き飛ばされる

その燃え盛る炎の中へ飛び込んだ諸刃は最後に断末魔を残して自身が起こした炎蛇の炎によって一瞬で燃えカスと成り果ててしまった

「…お前があの世で理恵に詫びるんだな…」

諸刃の最後を確認してからそう言い捨てると、目の前の諸刃が落とした鎮玉を拾い上げる

その鎮玉の先にあるすでに亡骸となってしまったヴィクトルに視線を向け

「ありがとよ、軍人さん…」

と素直に礼を述べる。

ヴィクトルの出現がなければおそらく御神苗自身もすでにこの世にはいなく、諸刃があの炎蛇を用いてどんな悪行を犯すかは想像できたからだ

「…………り……理恵…」

そして御神苗の口から出た言葉は、自分が守ると言いながら果たせなかった相手の名前だった

「理恵ーーーっ!!」

その哀しい轟きが富士の樹海に響き渡るのであった

............... to be continued


後書

炎蛇の章Gをお届け致しました!今回はちょっと原作にアレンジを加え、御神苗のCOSMOS時代にことにも簡潔に触れてみたのですが……いかがだったでしょうか?まぁよしとしましょう!(笑)
まぁこれで次回が最終回へとなります!なんとか、なんとか今月中には終わらせたいものです!(切実)
それでは次回最終回で!

2001年5月12日


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