かつてこの地球(ほし)には優れた文明があった−
現代では到底及びもつかない知識・科学力を
持っていたという、超古代人の遺産が、
今もなおこの地球上の各所に眠っているという−
だが・・・・・・

20世紀末、不思議な”力”を持つ、遺跡の発掘・研究に、
大国の軍部が介入し、その争奪を開始した。



炎蛇の章@



−新東京国際空港−


「・・・・JELシンガポール行きご搭乗のお客様は搭乗手続きを開始してください」

「・・・・attention please ,・・・・・・・」

陽が沈み外は暗くなり始めたが、そこは夜でもまだ活気ずいている

アナウンスの声、そしてこの空港から海外へ出発しようとしている者や、帰国してきた者などでそこは溢れていた


「10年ぶりの日本ね・・・・・・」


彼女、山菱 理恵もその一人であった

空港の待合所で腰掛けながら鞄から一枚の写真出してそれを眺める

そこにはたくさんの子供たち、そしてその中央には小さい少女と少年が笑っていた

そこに写っている少女が10年前の自分、そしてその隣りの少年が・・・

「ふふ・・・優ちゃん相変わらず元気なのかな!?」

彼女はその写真を眺めながら嬉しそうに呟く





「・・・・・・遅い・・・・」

空港の時計は午後6時をまわっている

理恵はそれを自分の目で確認しながら言い放つ

「なによ・・・なんだか知らないけどアーカム研究所から私に護衛をつけるなんて言っといて・・・そんな人誰も来ないじゃない」

理恵はアーカム研究所からの迎えが未だに来ないことに苛立ち始めていた

「・・・・・場所は分かってるんだし一人で行っちゃおうかしら・・・・・」

「Excuse me , are you profecer Rie Yamahishi ? (山菱 理恵教授ですか)」

突然理恵の横から聞こえてきた言葉に理恵はそちらに目線を写すとそこには大柄でサングラスをかけた2人組みの男達が立っていた

「We come to see you . (迎えに来ました)」

男達は無表情で理恵に語り掛ける

理恵はその雰囲気にちょっと押され少し後ずさりしながら

「あ・・・・・あなた方ですか・・・・アーカム研究所の護衛人って・・・・!?」

理恵は思わず英語でなく日本語が口から出てしまう

「Nice to meet you . I`m...................」

理恵が全てを喋る前に男のコートの隙間から銃身が現われ、それが真っ直ぐに理恵に向けられる

突然のことに理恵は顔が真っ青になりながらもその銃身を直視する

「騒ぎを大きくしたくないなら一緒に来てください」

さっきまで無表情だった男の片方が笑いながら、英語でなく日本語で脅した

そして更に手にした拳銃を理恵の腹部へと押し当てる

理恵にはもはや顔を引きつらせてこれが現実ではなく夢であることを願うしかなかった






「さあ、乗れ!!」

「キャッ」

空港外の駐車場まで連れてこられ理恵は車に早く乗るようにと突き飛ばされる

「あなた達一体何者なの?なんでわたしなんか?」

久々に帰ってきた日本、だがその余韻を楽しむ間もなくこんな状況に追いこまれ理恵には何がなんだかわからなかった

「いいから乗れ!!なに、安心しろ。今あなたにアーカム研究所と接触されては困るんでね」

「殺しはしない、ほんの数日間我々に付き合ってくれるだけでいいのだ」

理恵の抗議に黒服の男は無表情にそして静かに言い放つ

その迫力に押されたのか、理恵には相手の言いなりになるしかないと思い唇を噛み締めながら車のドアに手をかける

その表情には己の死を覚悟した、悔しさの表情でさえあった


「おいおい、女の子一人捕まえて大の大人二人が何やってんだよ!!」

突如3人の背後から声をかけられる

「知ってるか?そーいうのって日本じゃ誘拐っていう犯罪なんだぜ!!」

3人が振り向くと、そこにはいつのまにか見るからにこの場にはふさわしくない一人の少年がいた

「俺が本当のアーカムから来た護衛人だ!!ケガしたくなかったら教授を離しな、CAIのおっちゃん」

少年は不適な笑みを浮かべながら言うその声には自信に満ちていた。そう、彼女、理恵を救えるという自信に

だが黒服の一人は舌打ちすると別段動じることもなく懐から拳銃を引き抜くと、そのまま少年に向かって迷うことなく2回引き金を引く

2回引き金を引く、これは相手を確実にしとめるための心得、基本でもある

そして銃弾は至近距離ということもあって2発ともが少年に命中し、少年は叫び声と共に地面に倒れた


その光景が理恵には信じられず、ほんの一瞬ではあったが己の目さえ疑ったが、現実を認識した途端目の前の光景に耐えられず金切り声をあげる

「お・・・おい、いくらなんでも殺すことはないだろ!!」

「かまわん、在日米軍のキャンプに逃げ込めばこっちのもんだ!!それより急げ、他国の諜報部員が来る前に逃げるぞ」

もう一人の黒服の男は、銃を撃ち、しかも殺したことを咎めるが、男は銃をしまいながら問題ないと言い放ちドアに手をかける

その時ふと視線を横にずらすと男の視界には拳が映っていた、それもまっすぐ自分に向かってくる

そして次の瞬間にはそれは男の右頬にヒットし男はそのまま空港に駐車している白のベンツのフロントガラスまで吹き飛び、ベンツのフロントガラスは粉々に砕けた

「痛えじゃねーか、バカヤロー!!」

男を殴り飛ばしたのはさきほど拳銃で撃たれて死んだと思われた少年であった

理恵と残った黒服の男もそれはハッキリと見ていたので覚えている

が、その少年は撃たれたダメージも見られず、それどころか血さえ流れてはいなかった

そして少年はすかさずに残った黒服の男の懐へと一気に詰め寄る

「な……この小僧!」

男も慌てて拳を繰り出すが、少年はそれを余裕でかわすと右フックを男に叩きこむと、その男も駐車中の国産車まで吹き飛ばされてしまった

だが男は額から血は流しながらもすばやく懐へと手を忍び込ませそこにあるものを取り出そうとする

が、そこにあるべきものは見つからなかった

「これかい!?」

少年が呟くと、いつのまにか少年の左手には無造作に拳銃が握られていた

それこそが男の懐にしまってあった拳銃であり、少年は男に拳を叩きこむと同時に男の懐から拳銃を奪っていたのである

「銃返すわ」

男の驚愕した顔に少年は笑顔で返し、そのまま拳銃を遠くへと放り投げる

そして理恵を車の中へと促し自身も運転席へ身を滑り込ませるとそのままエンジンをかける

「おい、お前達。この件からは手を引いたほうがいいって上層部に言っとけよ!!」

「殺人未遂の代償に、車貰ってくぜ、あばよ!!」

運転席の窓から手を出して言い残して少年と理恵は空港を後にしていった


そこに残されたのはCIAの男2人だが、彼らにはもはや少年を追うどころかなにもすることはできなかった


「まったくなさけないですね、CIAの皆さん」

「せっかく”スプリガン”の実力が見たかったのに…これじゃあ参考になりませんよ」

少年と理恵が去った後、呆然としている2人にいつのまにかその場にいたのか1人のスーツを身にまとった男が不適な笑みとともに語り掛ける

「き、きさま!!…KGBの諸刃 功一!!」

KGB、それは諜報戦においてCIAとは互いに争っているソ連の組織

そのKGBの諜報員が自分達のの前に現れたことに驚きを隠し得なかった

「あなた方の役目は終わりました。ここから逃がすわけにはいきません」

「ふふふ、役立たずは死になさい…」

諸刃と呼ばれた男はそう言い放つと、あたりには不穏な空気が立ち込める

それを肌で感じ取ったのか男達は身震いさえするが立ち尽くすことしかできない

そして諸刃の周囲の空気が歪んだように見えた瞬間、男達が感じたのは自身に襲ってきた衝撃と、そして最後に見たものは己の身体から発せられた血飛沫であった



「派手にやったな……あいかわらず見事だ……」

己の前に広がる惨状を見つめている諸刃の背後から声をかける者がいた

振り返るとそこには諸刃よりも一回りも二回りも大きな、身長2mはあろうかという大男が近寄ってきた

そして諸刃が作り出した惨状にこの男も不適な笑みを浮かべながら諸刃を賞賛する

「山菱理恵…シャンポリオン以来の言語学の大天才があんな子供だとは思いませんでしたよ…しかもアメリカまで出てくるとわね」

大男の来訪を別段気にも止めず先ほどまで見ていた少年とCAIの立ちまわり、そして理恵という少女を見た時の感想を素直に述べる

「ああ、遺跡の”力”をソ連が取るかアメリカが取るか、世界の命運はこれで決まるといえるからな…そのためにも山菱理恵を手に入れ<火の社>の秘密を解くことが必要だ!!」

この会話からこの大男も諸刃同様KGB、又はソ連の人間だということが分かる




少年と理恵を乗せた車は空港を出てすでに近くの高速道路上を走行していた

理恵は未だに緊張状態が解けないままで、少年としても先ほどから運転に気を配りながらも横目でチラチラtと様子をうかがっている

そしてカーブもない直線道路に入ったところで口を開く

「いやー、ご無事でなによりです教授…」

「大丈夫!?」

その何気ない言葉、それに反応したのか理恵は少年の方をまるで怪物かなにかを見るような目でみながら

「なに言ってんのよ、あなたこそ大丈夫なの!?」

「えっ、何が!?」

平然と答える少年

その言葉に更に唖然とさせられる理恵

「だ…だって銃で撃たれたのよ!!」

「ああ、そのことね。大丈夫俺…不死身だから」

理恵の方を向いて笑顔で言い放つ

しかしそんなことでは納得できないといった表情で理恵はしばらく少年の方を見つめつづける

「まあともかく16歳でカーネル大学の教授に抜擢された言語学の大天才をお迎えできて光栄です。日本へようこそ山菱理恵教授」

「遅れちゃってゴメンネー。時間間違えちゃったよー!」

まじめな顔から急に笑顔になる少年、最後のその笑顔に理恵はなにも言うことができなかった

「・……そ、それよりあの人達一体何なの!?なんで私なんか狙う必要があるの!?」

この少年はとりあえず信用できると判断したのか、急にさっきまでの出来事を理解したいがために己の疑問を口に出す

理恵は自分がシャンポリオンの再来といわれていることは自身知っているし、教授という肩書きがあることも知っている

だが、だからといって何故誘拐されそうになったのかは理解できなかった

この少年が自分の疑問に応えてくれるかは分からなかったが、自身を落ち着かせるためにも聞かずにはいられなかった

その理恵の叫びにさっきまで笑っていた少年の顔がスッと消え、そこにはまるで別人の表情が浮かんでいた

「今、あるものを巡って各国が動いてる。シャンポリオンの再来といわれている教授が日本に着たことで各国の動きは急激に活発化している」

その理恵の心情を察してか少年も簡単な解答を理恵に与えた

が、やはり理恵には分からないといった表情で優の顔をただ唖然と見つめるしかできなかった

いきなり突拍子もないことを言われても理恵には実感がわかないといったのが正直な気持ちである

例えそれが若干16歳でシャンポリオンの再来といわれる理恵であってもだ


シャンポリオン、それはフランスのエジプト学者で、1822年にロゼッタ碑文に描かれていたエジプトの古代文字神聖文字をから解読した人物であった


そして理恵は言語学の分野では天才としてその名が通っており、教授という肩書きも備えていた

そのことからシャンポリオンの再来と謳われているのである


「でももう大丈夫、俺がいる限り誰にも教授の仕事を邪魔させやしないさ。それに俺も教授と同じ16歳だから気兼ねしなくていーぜ!!」

「ええ、ありが・・……あ…あなた16歳なの!?」

「そーだよ、こんな仕事してるけど、俺まだ学生なんだぜ。そのかわり教授と違って俺は劣等生だけどな、ハハハハハ!」

「な、なんであなた運転してるのよ!!16歳でしょ!」

少年が自分と同じ16歳、しかも車を無免許で運転してると知ったとき、理恵は驚きながらも、急に生きた心地がしなかった

それゆえに胸の前で手を組んでただ無事に到着を願うしかできず、今はこの現実に起こっていることが夢で、起きたらまだ日本に来ることを楽しみにしている飛行機の中だったらどんなに良いだろうかなどと考えていた



しかし現実はまだこれから理恵に襲いかかるだろうということを理恵だけでなく少年にもまだ分かっていなかった



……2時間後、少年と理恵は目的地アーカム財団東京支部へと到着した




                 .............................to be continued


後書き

これはスプリガンファンなら誰もが知っているあの栄光ある第一話炎蛇の章の小説化です!
何故これを書いたか?それは最近オリジナルSPRIGGAN小説がうまく書けなくなってきたためこうして別の物を書いてみようと思い立ちました。しかし思ったからといって簡単に書けるようなものではなく、どんな話にしようかなと考えながらベッドの上で1巻を読んでいて、「あ!これを小説化しよう!!」と思い立ちました(安直)

でも書き始めるとなかなかこれが俺的に難しかった!人物描写とか戦闘シーンを文章であらわすというのがこれほど難しいのかと思うほどで、よっぽどオリジナル版は手を抜いているなとうかがえる点も(^^;

そしてこれを書こうと決断した後、なんとサンデーGXなる雑誌でスプリガンが帰ってくるというじゃありませんか!ストーリーは御神苗がスプリガンになりたてのころのお話だとか・・・しかもコンセプトが笑えて「御神苗優初めてのお使い!」これはもう爆笑ものでしたね俺は!

早く出ないかと待ちわびる今日この頃でした!

2000年7月15日


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