炎蛇の章A





-アーカム財団東京支社-


「帰国そうそうとんだ災難でしたね…まぁご無事でなによりです」

アーカムの支社へと無事に辿りついた少年と理恵はまっすぐに所長室へと通されていた

「私はここの所長の山本といいます。遺跡の文字解読、よろしくお願いします」

そしてその部屋の主でもあり、この支社の責任者でもある中年の男性が自信の名を告げる

その山本の笑みは理恵にはどこかホッとさせられるものもあり、そして禿げ上がった頭がユーモアささえ感じさせられていた

山本は理恵の長旅と帰国そうそうの災難の苦労をねぎらうながら、これからの仕事に対する期待を込めるともに右手を差し出し理恵もそれに応えるべく右手を差し出して両者ともに握手をする

理恵にはその大きな手が暖かく、どこか安心させられるものを感じられるのであった

少年もそんな光景を笑いながら見つめている

「わかりましたわ。がんばります・・・ところで頼んでおいた件なんですけど・・・」

仕事に対する己の意気込みを告げ、そして今回の来日の最大の目的でもあるといえることに話を振る

だがその言葉で先ほどまで温和な顔つきだった山本も、ちょっとバツが悪いような顔つきになって額に汗を浮かべる

「……ああ、例の・・・御神苗 優君の調査ですね」

山本は部屋の片隅にたたずんでいる少年を一瞥し、理恵に結果を告げる


「えっ?行方不明!?………」

山本が発した言葉。それは理恵が頼んでおいた人物の捜索依頼が達成されていないということであった

「まっこと申し訳ありません!我々もあらゆる手を尽くしたのですが、なにぶん時間がなくて調べきれませんでした。」

「これ、今までの調査報告書です……」

山本はここの責任者ともおもえないぐらいに頭を下げ、手元にある資料の束を理恵に差し出す

「そうですね・・・・・・たしかに・・・あまりに急でしたものね・・・」

納得したという言葉を発しながらも対照的に表情は残念さを表していた

落胆、それが理恵の心を表すのにふさわしい言葉である

「いろいろ無理を言ってしまってすみませんでした」

「私・・・早速仕事の用意をしてきます」

理恵は仕事の資料などを抱え込むとそのまま少年の方にチラリと視線を向けるが、そのままその部屋を後にしていった

そしてそこには山本と少年のみが残されていた

「・・・・・・・・・・・・・・・・・おい・・・いいんだろ、これで・・・」

山本は額に汗を浮かべながら少年の方を向いて尋ねる

「・・・ああ・・・」

少年はただ一言そう返事をする

「しかし本当に良かったのか?だって彼女は・・・」

「しよーがないよ・・・彼が今している殺伐とした仕事なんて理恵に知られたくはないからね」

少年は窓の外に移る夜の東京の景色を眺めながら山本に言う

山本にはその台詞がどこか強がりといったものを感じたがあえてなにもいわずに自分も何回も見ている窓の外の景色に視線を向けるのであった










理恵は自分に当てられたビル内の部屋にいた

造りはVIP向けにしてあるのだろう、高級ホテル並みの落ちついた内装が施されていた

その待遇からも今回の仕事に対する自分への期待というものが暗に感じられた

・・・だが、理恵には今回の来日で幼馴染の少年に会うということが仕事以上に重要であり、少年の捜索もしてくれるということから今回の仕事を引き受けたところが大きかったためにその落胆ぶりは計り知れなかった

そしてこれも仕事であると割り切るにはまだ二十歳前の理恵にはできていなかった

それが旅の疲れを癒すためとシャワーを浴びてさっぱりとしたところで、晴れるものではなかった

幼馴染の少年、御神苗 優・・・彼との再会を楽しみにしていただけにその反動は大きかったのである

濡れた身体を拭いてバスローブをまとい、落胆した気持ちのまま浴室の扉を開ける

「やあ」

その呑気な掛け声に理恵は一瞬体が凍りつき、時間が止まったように感じられた

目の前のソファにはどこから入ったのか、いつのまにか少年が腰掛けており、この場には不釣合いなさわやかな笑顔を理恵に向けながら手を振っているのである



部屋にはドライヤーの駆動音が鳴り響き、理恵は先ほどまで少年が座っていたソファに腰掛けながら髪を乾かしている

「どこから入ってきたのよ!鍵かけといたのに!!」

怒りの声と共に床に寝転がっている少年に向かって非難の声を浴びせる

少年は鼻から血を流しながら床に寝転び、近くには電気スタンドやらなにやらが転がっていた

「全くなに考えてんのかしら!?」

その理恵の言葉には明らかに苛立ちの声も混じっており、少年の行動もあってか不機嫌そのものであった

少年は理恵のそんな苛立ちを察するがごとく床からスクッと立ちあがると理恵に視線を向ける

「な、なによ・・・」

「教授はどうしてそんなに御神苗優にこだわるんだい」

何気ない少年の一言、だが理恵のドライヤーを扱う手が一瞬止まる

「余計なお世話かもしんねーけど、なにかしら仕事に影響がないかと心配でね」

そして理恵はドライヤーのスイッチを切り、部屋には静寂がもたらされた

沈黙、それはほんの10秒ほどのものであったが理恵にも少年にも何十分にも感じられるものであった


・・・そして、理恵が口を開く

「・・・私・・・日本に身寄りがないの。幼い頃に両親をなくしてアメリカの親戚に引き取られるまで私・・・施設にいてね・・・」

理恵の視線が天井に向けられ、昔を思い出しているのが見て取れる

「日本人なのに、日本で孤立した不安と寂しさで、私毎日ただやみくもに泣いていた――。」

理恵の脳裏に当時の出来事が思い出される

両親がなくなり、頼れる相手もいないことから施設では友人もできないまま毎日施設の隅で泣いていた日々を

「そんなどうしようもない私を、同じ施設にいた御神苗君だけはずっと面倒をみてくれた。」

「だからどうしても会いたかったの。立派にたちなおった私の今の姿を見て欲しかったの・・・同じ日本人のたった一人の友達にね・・・」


少年はその理恵の台詞をただ黙って聞いていた

「でもしょーがないよ。私、日本に仕事に来たんだもんね。」

「日本の滞在期間はたしか1週間だったよな?よっしゃ、この仕事、4日間で済ませてくれ。」

「そして残りの3日間、東京見物も兼ねて御神苗優でもさがそうぜ。久々に日本に帰ってきたんだ、息抜きも必要だろ!?」

「俺も二人目の日本人の友人になれるよう努力するぜ」

その少年の言葉に先ほどまで落ちこんでいた気持ちがどこかに吹き払われた事に気付いた

「・・・・・・ありがとう・・・そういやあなたの名前って、まだ聞いてなかったけど?」

その理恵の言葉に一瞬少年の動きが止まる

「・・・別に教授に知ってもらうような名前じゃないぜ」

「でもこれからアナタとかじゃ私だっていいずらいじゃない」

「・・・そうだな・・・どうしても呼びたければ”妖精”・・・とでも呼んでくれ」

「妖・・・精・・・!?」

「まぁ仲間からはこう呼ばれることのほうが多いんでね。んじゃお休み教授!」

少年はそう告げると扉を閉め理恵の部屋を後にした

部屋に残された理恵は不思議な気持ちにとらわれていた

あの少年は今まで自分があったこともない人物で・・・いや、どこかで会ったことのあるような懐かしさを感じる

理恵は少年の心配りに感謝し、同時に出会ったときとは対照的で、不思議な少年だなとおもい、笑みが自然とこぼれ出していた








翌日、さっそくビル内の会議室へと理恵は招かれていた

室内には理恵と所長の山本、そして少年がいた

そこで一枚のスライドがだされ、そこには古墳のようなものが映し出されているのが理恵の目に入る

「アーカム考古学研究所が秘密裏に富士の樹海内に発見したものです」

「太古の富士山麓文明と思われます・・・」

「富士文明・・・・・・・・・!?」

聞いたこともない文明の名称に思わず眉をひそめる

「一般には信じられてはいませんが、宮下文献という本がありまして………」

所長の山本自らがそのスライドに映された物の解説をはじめる


  宮下文献 ― 別名・富士文献

紀元前、中国にて栄えた秦朝の学者・徐福が日本に渡来し、神代文字で書かれた記録書を収集・編纂し、残したものとされている―


「これには太古、富士山麓にあったとされる大帝都のことがつづられています。この文献を独自に調査した我々は樹海内でこの遺跡を発見したのです!!」

山本は一枚の図面を机の上に広げる

「これが遺跡を図化したものです・・・壁の表面に新種の神代文字が刻まれているでしょう」

山本が示したところにはたしかになにかしら文字のようなものが刻まれていた

「あなたにはこれを解読してもらいたい」

その文字を見つめた時理恵一瞬眉をひそめる

「・・・・・・・・・」

理恵は少しその文字を見つめブツブツと口の中でなにか小さな声で呟く

そして意を決すると、席を立ちあがり、

「わかりました。私の持ってきた資料との共通性を見てパターンを掴んで見ますわ。さっそくフロッピーをコンピュータにかけたいのですが」

「ああ・・・それなら5Fの部屋を使えばいい」

「あれ!?」

「どうかしましたか!?」

理恵の呟きに山本がなにかと尋ねる

「へんねえ、さっきまでいたのに・・・」

そう、先ほどまで一緒にいたはずの少年がいつのまにかこの部屋からいなくなっていたのである

「・・・・・・妖精・・・か・・・」

昨日去り際に少年が言った言葉を誰にともなく理恵は口に出すのであった





理恵は上へと昇るエレベーターの中で図面に描かれた神代文字の複写を眺めながら悩んでいた

どんなに今回発見されたという富士樹海の遺跡がすごいものかとおもって内心好奇心をかきたてられたのに、理恵にはたたの古墳にしか見えなかった

そしてそのような文化遺産を何故各国が欲しがるのか

そのような疑問が次から次へと図面を眺めるほどに頭に浮かんできた

しかしやはり言語学の専門化からか、理恵の関心はその神代文字の一点に集中していた

なにしろ今まで数々の文字を解読してきたが、今回の文字は今までの経験上でも見たことのない不可思議な文字であったからだ

理恵にはこのような文字を本当に訳せるのかと、内心不安にはおもったがそれはいつものことであるとも割り切っていた

結局はどんなに複雑で不可思議でも同じ人間が考え出したもの。解析パターンさえわかってしまえばあとはそのパターンに当てはめてしまえばいいのである

理恵はそうやって数々の文字解読をこなしてきたという自信からそのような結論に達していた

そう、あとはやるだけなのである


エレベーターがチャイムを鳴らし、目的の階への到着の合図を告げ扉がゆっくりと開かれる

後は理恵はエレベーターを出て目的の部屋へ行くだけ・・・なのだが・・・

そこには身の丈2mはあろうかという一体の人形?いや、一人の人間が立っていた

理恵にはそれを人間だと判断するのは、それが動いた後であった

なにしろ身体中をなにやら甲冑のような装甲服で包み込み右手には銃を、顔さえもいろいろと身につけているために人と判断するには材料が足りなかったのである

「な、何よこれ!?」

理恵は驚きで後ずさりし少しでもそれから離れようとするが、それはエレベーターの中へと入りこみ、扉に手をかけて閉まらないようにする

つまり理恵をそこから逃がさないようにしてるのだ

心なしか、目の前に立っている者の表情が笑っているように理恵には感じられ、その時その者の後ろを更に見つめると暗闇に何か倒れていた

なんだろうとそちらに注視していると目が慣れてきたのか、そこに倒れているものがなにかわかった

そして次の瞬間には理恵は叫び声を発していた

そこには首をかき切られた警備員の死体が横たわっていたのである

そしてその横には目の前の者と同じような格好をした者がもう一人立っていた

そして理恵の目の前に立っている者は捕まえようとゆっくりと手を伸ばす

後ろのものもその光景を見つめマスクの下でほくそ笑んでいる

だがその時その者の頭上の天井に亀裂が走った、いや次の瞬間には天井が崩れそこから黒い物体が落ちてきた

眼前に急に落ちてきた物をなにかと判断する前に天井の瓦礫に押し潰される

そして天井から落ちてきたそれはムクリと起き上がってきた

「やれやれ、やっぱり入りこんでたか・・・まったくゴキブリみてーな野郎どもだぜ」

そう、天井から舞い降りて(落ちて)きたのは会議室でいつのまにかいなくなっていた少年であった

その言葉と姿を理恵を捕まえようとしていた者も一瞬注意がそれる

「教授!!早く上に行きなさい!!」

その一瞬を見逃さずに少年は理恵に逃げるよう伝える

捕獲しようとしていた者も慌てて理恵の方を振り返るが、エレーベーターは閉まったあとであった

そして少年はその隙さえも逃さずに空港でCIAの諜報員を倒した時のように一瞬で間合いを詰め、そのままの勢いで強烈な一撃をお見舞いすると、装甲服を着ているにもかかわらずに吹き飛ばされ、そのままの勢いで壁に激突し、しかも壁にその巨体をめり込ませた

だが少年が息をつく暇もなく、天井の瓦礫に埋もれていた者が瓦礫を押しのけて立ちあがってきた

だがまだダメージが残っているのか、身体はふらついている

「まったくしつけーなもお!!」

少年は目標に向かって再びダッシュする

「ケンカなら外でやろーぜ!!おい!!」

そしてダッシュの勢いのままにタックルを浴びせそのまま壁に激突させ、自身もろともビルの外へと飛び出して行った

そして下に駐車してある車のボンネットへと少年は装甲服をまとったものを叩きつける

さすがにこの二段攻撃の上、落下の速度が重なった攻撃によりその者はもうピクリとも動くことができなかっ

「ヘッ」

少年は不適な笑みを浮かべるとそのままボンネット上で立ちあがり勝利の余韻に浸る

だがそんな余韻に浸る暇さえないのか、少年の背後で紅い光が2つ、いや4つ6つと次々浮かび上がってくる

少年が振り帰るとそこには先ほど倒したのと同じような装甲服をまとったものが4人、それぞれ手に銃器を携えて立っていた

「なんだよ、こんなにいっぱいいたのかよ・・・米軍装甲歩兵の皆さんよ!!」

その光景を見つめ少年は恐怖するどころか不適な笑みを浮かべて、どこか喜んでさえいるような表情を浮かべる

この少年には恐怖といった感情が存在しないかのごとくに・・

「でもこんな大人数で俺を迎えてくれるんだ。いっちょこっちもサービスしねえとな・・・」

「さーて、アーカム研究所開発部ご自慢、A・M(アーマード・マッスル)スーツを披露してやるぜ」

少年はわずかに身体を緊張させた後、身体に力を込め始めた

「こいつは特殊合金オリハルコン(精神感応金属)と人工筋肉の組み合わせでできた、最新テクノロジーの結晶……」

そしてそう言い放つと、少年が着ているジャケットがわずかにふくらみ始める

いや、次の瞬間にはジジャケットがその下に着こんでいる少年の言う特殊装甲服の膨張によって破れた

「あらゆる銃弾を跳ね返し普段の30倍以上の力を引き出すことができる史上最強の戦闘服だ」

「てめーらのスーツとのできの違いを見せてやらあ!!」

少年は言い放つと同時に戦闘態勢を取った


まさに遺跡を巡る国家間、そして民間組織アーカムをも巻きこんだ戦いが始まらんとしているのであった




                 .............................to be continued


後書き

いやはや第二話目のUP完了!今回のは多少自分なりにアレンジした台詞等もあってそこらへんはまぁ苦労しましたね(笑) でも今回苦労したのが米軍装甲歩兵の皆様が理恵の前に立ちふさがった時、その装甲歩兵の皆様を”何”と呼んだらいいのかわからないといったところです・・・だってだって、あんな格好じゃ男か女かもわからないジャン!え?あんなでかけりゃ男に決まってる?NonNon,世界は広いから巨体の女だっているはず!現にバレーボールの中国の選手のアタッカーやブロッカーは2m近いのばっかじゃないですか!ええ?作品に出てるのは米軍だって?・・・・・・・・・・・・・・・目から怪光線(ピカッ)!           !フッ、文句ばかり言う輩は排除しました!
いいんです!だってこれ漫画だもん!フィクションだもん!!このあともっと人間離れしたやつらだって出てくるんだからさ。それがスプリガンの世界と認識してるぞ俺は!さぁ、次回は炎蛇の章Bじゃ!多分集中して書けばすぐできるおもうんだけど・・・でも昼間は暑いし夜は眠いんだよね〜・・・他にも書くのいっぱいあるしさ・・・まぁ楽しみにしてる人は楽しみに待っててください!

2000年8月7日



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