炎蛇の章F




少年は理恵の隠れていた元へと戻ってきた

だがそこへ至るまでの間、少年の目に入ってきたのは肢体をバラバラにされたソ連の兵士と血の海

まるで鋭利な刃物で斬られたかのような斬り口であった

少年はこれをなした人物をよく知っていた

「ヤツ(諸刃)か…!?しかし、なんでKGBの人間が仲間を…」

先日相対したソ連KGBの諸刃

だが腑に落ちないのは何故味方のはずの連中をこうまでにして殺したのか

仲間割れ?

いや、そんなことよりも今重要なのは

「理恵…」

少年はそう呟き、諸刃に連れ去られたであろう理恵を取り返すべくその足を進めた





古墳、<火の社>の中は真っ暗であった

いや、奥のほうにはなにか光る球体が見える

それを見つめた瞬間、男…諸刃の目は狂喜の色に満ちていた

「ククク……噴火を操れば世界中のいたるところを火山にできる…裏から世界を自由にできる…」

目の前にある超古代文明の遺産

アメリカ、アーカム、そして味方のソ連さえも出し抜いて一人早くここにたどり着くことができた

「さあ読め!!」

「キャッ!!」

諸刃は理恵を内部へと突き飛ばして、制御法を記してある石板を指差す

「嫌よ!!誰があんたなんかに!」

理恵は涙目ながら、諸刃のような男にはこの遺跡は渡せないという意志からはっきりと拒絶の言葉を放つ

だがそんな理恵の態度を冷ややかな視線で見つめながら諸刃はゆっくろりと理恵の横を通って先ほどの光っている球体の側まで近付く

そしておもむろにその球体に触れ、

「噴火の制御法が知りたい……もっとも、噴火にたとえられてはいるが正体は<炎蛇>という話だ……」

「『炎蛇』!?」

諸刃の言った「炎蛇」という言葉に理恵は反応する

今まで聞いたこともない言葉が不意に出てきたからだ

その様子を見て諸刃はフッと笑うとたんたんと語り始める

「そう……もともとこの遺跡は諸刃家に伝わるものだった!!すなわち私に使われるべきものなのだよ!!」

「……」

その最後の言葉を言い放った時の諸刃の言葉はあまりにも禍禍しく、理恵はゾクッと背筋に悪寒が走った

そのためなにも言い返すことができない

「ここに噴火の制御法が書いてある!!……”御神苗”が来る前に早く読むんだ!!」

「………”御神苗”!?」

理恵は驚愕した

なぜ目の前のこの男の口から自分の幼馴染の名前を聞くのか

しかもあの”妖精”を名乗った少年を指しているようにも聞こえてくる

「…なんだ、パートナーの名前も知らないのか!?」

飽きれた顔で諸刃は理恵を見つめる

諸刃は当然理恵は相手のことを知っていると思っていたのだ

「スプリガンの御神苗 優・・・・・・どの組織のブラックリストにも載ってる大物だ・・・」

「ゆ、優ちゃんが!?・・・」

理恵の頭の中で記憶に残っている幼少時の優と、現在名前も名乗らずただ”妖精”とだけ名乗った少年の姿がダブる

幼い頃寂しさと不安でただ泣いていた自分を励ましてくれた優

そしてやはり今度の仕事のことで自分を励ましてくれた少年…

「この鎮玉を動かすと噴火するんだ。無制御で動かせばみんな死ぬ・・・・・・」

「おまえも・・・・・・あの小僧、御神苗 優もな・・・・・・」

その言葉に理恵はただ黙るしかなかった

男の言われるがままに制御法を解読するか

それとも拒否しつづけるか…

だが後者を選択した場合………





諸刃が通りやすいように「風獣」で切り開かれた道を通る人物がいた

「へっ!!かまいたちの兄ちゃんが道を作ってくれたおかげで走りやすいぜ!!」

「あれか!!」

少年、いやもはや本名御神苗 優の前に<火の社>が遠くに視界に入った

もうすぐで理恵の元にたどり着く

そうすれば後は諸刃を倒して遺跡を封印するなりすれば今回の任務は終了する

御神苗はそのように考えていた

だが…

「!!」

御神苗はふとまわりの空気に異変が生じたことを感じ取る

そして立ち止まって注意深くまわりを見渡す

空を見つめると、そこには月が映えている

だがその月に黒い小さな点がいくつも浮かび上がる

いや、その数はどんどん増えてゆく

御神苗は目を凝らしてよくみるとそれは野鳥の群れで、なにやら慌てた様子で飛び立っている

野生動物はその本能で危険を察知するとその場から逃げようとする習性がある

御神苗もそのことは重々承知していた

だがなにが起こっているのかわからない


次の瞬間、御神苗の足元を地響きが襲った

その地響きは断続的に響き渡り、徐々に大きくなってゆく

そしてその地響きはある一定の方向からやって来る

その方向は今しがた御神苗が向っていた方向

来る途中にいやでも目にするものだからはっきりとわかっている

「おいおい…ま、まさか…」

御神苗は自分の予感が大外れであることを願い振り返る

そんなことあってはほしくないことだからである

だがその願いも虚しくその光景が目に飛び込んできた

「ふ、富士山が!?」

御神苗の前方に位置する日本のシンボル、富士山が天にまで届きそうな勢いの炎を突き上げたのであった

「バカヤロー、本当に噴火させやがった!!」

御神苗がそう叫んだ途端、噴火によって舞いあがった岩石が次々と御神苗の元へと着弾してくる

まるでミサイルの嵐のように降り注ぐ

だがよく見ると降り注いで来るのは岩石だけではなかった

噴の炎形が注視してみるとなにやら幾重にも別たれている

その一つ一つの形はまるで蛇、そしてそれがいくつも寄り添うように発生している

「な、なんだこりゃ?八岐大蛇(やまたのおろち)!?」


―八岐大蛇

頭は八つ、尾も八つあり、日本の神話に登場し、出雲国肥河(ひのかわ)の上流に棲んでいたとされる空想上の大蛇のことである

現在でも島根県に伝わる神話に登場し、大蛇(八岐大蛇)に食われそうになる姫を須佐之男命(すさのおのみこと)が退治するという話に出てくる


その八岐大蛇が御神苗の眼前に現われ、まるで生きているかのごとくに蠢いている

「どうですか!?地球内部で生まれた超生命体の感想は……」

御神苗が八岐大蛇に気を取られているといいつのまにか社から姿を表したのか、KGBの諸刃が姿を現していた

「秘宝のあるところに必ず現れて…発掘の邪魔をする妖精スプリガン…あなたがたの別名でしたね……」

たんたんと語る諸刃

だが御神苗の耳には諸刃の言葉は入らない

何故なら御神苗の関心は幼馴染理恵の安否のみだったからだ

「て……てめえ理恵をどうしやがった!!」

御神苗は今すぐにでも諸刃飛びかかりたい衝動を抑えながら尋ねる

もしもうすでに生きてはいないなどという言葉が発せられでもしたら御神苗は自分が自分でいられるかの保証はできなかった

自分が自分でなくなる、それは御神苗自信も恐れていることである

「彼女は無事だよ」

そんな御神苗の考えなど毛ほどにも感じないそぶりを見せ、嘲笑しながら返事をしスッと身体を横にずらす

するとそこには社の入口、そしてその奥には…

「り、理恵!」

御神苗は理恵が存在を認めその声をあげる

だが御神苗には諸刃が鎮玉を持った手を真っ直ぐ社のほうに向けられたことに気付かなかった

理恵の生存の確認、これだけに注意が払われていた結果である

そしてそのことに気付いている理恵は妖精を名乗る少年にして、もはや自分の幼馴染であるとわかった御神苗に向って叫んだ

「罠よ!逃げて御神苗君!!」

「り…理恵!!」

御神苗は驚愕した

どうして理恵が自分の名前を、と

その一瞬にさらに隙が生じる

「感動の対面は果たせたかね?だが…」

諸刃が意識を鎮玉にしゅうちゅうさせると、ボンヤリと鎮玉が輝き出す

そしてその光りに呼応するかのように再び炎の八岐大蛇が天高く舞い上がる

「!?」

そしてある程度の高さまで上がると、空から地面の獲物を狙う鷹のごとくまっすぐに降下する

「や、やめろぉぉぉーーーーーー!!」

御神苗には諸刃が何をするつもりなのかわかったので手を差し出して諸刃を止めようと駆け出す

だが御神苗が諸刃に届くよりも全然はやく炎の八岐大蛇は理恵のいる社へと直撃、炎上した

そして炎は一瞬で社だけでなく、まわりの樹海の木々に飛び移り炎上する

そして御神苗の目にはただ理恵がいた社だけが映るのであった

その御神苗の絶望の表情に満足したのか、嬉々とした表情で諸刃は語り出す

「これで灰になったよ…制御の方法がわかった以上彼女にはもう用はないのでね…」

「………て……てめえ…許さねえ…」

その諸刃の言葉に絶望の表情から、ただ怒りと殺気だけを込め御神苗は言い放った




                    .............. to be continued


後書

長いこと書いてなかったのですが久々に書きました!もう最後に書いたの何時かな?
………うわっ、去年の11月後半!!結構書いてなかったんだね〜〜〜
でも後2話で終わるから……な、夏までにはなんとか終わらせたい(切実)


2001年3月8日


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