炎蛇の章E
……富士の樹海
そして上空には雲一つない空に月がこうこうと明かりを灯す
闇が支配する夜に光を灯す月
静寂な夜にはまさにふさわしい状況であった
だが……
その樹海内で先ほどから何かがぶつかるような音や、砕け散る音が響き渡る
その音の元をたどるとそこには一人の巨漢の男が立っていた
男の名はヴィクトル・シュトローフ
ソ連スペツナズ特別独立小隊の隊長で、しかもその男の身体はDNA操作や脳手術によってその肉体の潜在能力を限界以上に引き出されている
いや、もはやこれは人間とは呼べないのかもしれない
「はあ、はあ、はあ・・・」
だがそんなヴィクトルも肩で息をしている
いかに脳手術やDNA操作で強化してるといってもすでにその限界ぎりぎりまで戦っているのである
頭からのは血が滴り落ちるが、その傷口もたちまちに癒え、乾いた血の跡だけが残る
そして目だけは未だに死んではおらず、野獣の如く獲物の行く先を見つめている
「どりゃあぁぁ!!」
やられてもやられても少年は掛け声と共にヴィクトルへと向かって行く
少年の繰り出す拳をその二の腕で防御し続ける
少年はその隙にバックステップである程度の間合いを取る
その一瞬にヴィクトルのガードにも隙が生じ、少年は一気に再び間合いを詰め渾身の一撃を放つ
バキッという衝撃音が森に響き渡る
そして暫くの沈黙が流れる………
少年の放ったその一撃はヴィクトルへは届かず、掌で受けとめられていた
すかさずヴィクトルは空いたもう片方の手で少年の首をつかむとそのまま少年の背後の大木へと押しつけそのまま片手で少年の身体を宙吊りにする
「ぐっ」
少年は首を掴まれている手をほどこうとあがくが逆にヴィクトルの締め付けが強まる
「無駄だよ、この私にはどうあがいても勝てはせん!!」
己の優勢を悟ったヴィクトルはそのまま少年を絞め殺そうとさらに力を込める
ギリギリという鈍い音が少年の耳のも入ってきた
「あ、ああ・・・」
「ゆっくり首をへし折ってやる!!」
「ぐぞぉ・・・」
あがこうとする意志はあるのだがそれに身体が応えない
そして少年の意識は徐々に遠のいてゆく
『**ちゃん』
頭の中に浮かび上がってくる少女
その彼女は目に涙を浮かべ必死になにか叫んでいる
だが何を言っているのかは良く聞き取れなかった
だが、口の動きから彼女は誰かの名を告げているようだ
だが誰のことを呼んでいるのかハッキリと聞き取れない
だがその少女の目から流れている涙が印象に残る
そう思うとだんだんと少女の声が聞こえてくる
『さよなら優ちゃん!』
そして少女の姿が理恵へと変わる
『同じ日本人のたった一人の友達に・・・』
理恵の寂しげな表情
理恵の哀しみの表情
理恵の怒った表情
理恵の笑っている表情
他にも様々な理恵の表情が少年の頭の中に浮かんでくる
少年は閉じかけていた目を薄っすらと開く
そこには変わらず少年の首を締めているヴィクトルの姿が映る
だが少年の意識はヴィクトルへは移らなかった
少年は自分が理恵へと言った一言を思い出す…
『俺が必ず守ってやる!!』
その瞬間少年は目を見開き、その視線をヴィクトルへと向ける
自分はまだ理恵を守りきっていない
こんなところで意識朦朧としている場合でないことを自ら自覚する
そう思った後、少年は目を見開きその視線の先をヴィクトルへと向ける
その目には生きようとする意志、まだ死ねないという気持ちが表れているかのようだった
そして少年は最後の抵抗へと及ぶ
「ちっくしょー!!」
少年はそう言うや左腕でヴィクトルの首をおさまれている左腕を掴み、さらに右腕で渾身の力を込めて左肘のあたりに肘打ちを打ち込んだ
「ぐわっ!!」
ヴィクトルは抑えつけていた腕に打撃をくらい腕の骨が折れる
だがその抑えつけている腕は決して離さなかった
「ぐわぁああああぁぁぁぁーーーー!!」
渾身の力を込めた一撃も虚しく、少年の絶叫が森に響き渡った
「まだそんな力があったとは驚きだが、無駄だ!どうあがいても逃げられん!」
ヴィクトルは抑えつけている手は離さないという覚悟、そしてそれを成す自信があった
が、次の瞬間その自信は消え去る
確かにヴィクトルはその手を離しはしなかった
が、その時にはヴィクトルの巨体は宙を舞っていた
「な・・・!」
少年は絶叫したのではなく、その一瞬にさらに力をだすべく声に出していたのだった
それを絶叫だと勘違いしたヴィクトルには油断が生じたことも重なる
ヴィクトルには瀕死のはずの少年にそのような力があることが到底信じられなかった
そのためその次の瞬間に自身に起こることに対する反応が遅れた
「固まった溶岩に、顔をうずめやがれ!!」
少年はそう叫ぶとそのままヴィクトルを頭から叩き付けにかかる
そして次の瞬間森にものすごい衝撃音と共にヴィクトルは顔から固まった溶岩へと叩きつけられ当たりに血飛沫がほとばしる
少年の顔にもその返り血が浴びせ返ってきた
しばらく少年はヴィクトルが再び動き出さないかと見つめていた
がヨロヨロッと後ろに下がるとそのままドスンッと腰を落とし肩で息をする
「はあ、はあ、はあ、はあ、…」
さすがのヴィクトルも今の攻撃によるダメージは治癒能力の限界を越えてしまっていたのか、それとも頭部へのダメージのためか、もはや指一本さえ動かせない状態にあった
そして頭からは依然と流れ続ける血で、倒れている溶岩の足場は赤く染まってゆく
「こ…これだけやればもう立てめえ」
最終的にヴィクトルが動かなくなったことを確認すると少年は腰を持ち上げる
だがそれでもやはりふらつき背後の樹木に背中をつけ寄りかかる
そして額に着いた血を拭い、その拭い去った血をしばらく見つめる
だがそれもしばらくするとゆっくりと身を起こし、歩き始める
「理恵…理恵の所へ行かなくちゃ…」
少年はそううわごとのようにつぶやくと己の任務、理恵の護衛のために歩き出して行った
その戦場を後にして…
そのころ樹海のさらに奥では木々が次々となぎ払われながら倒れていた
そしてそれによって出来た道をゆっくりと進んでいく男がいた
そして男は何かを担いでいる
何か、それは
「見つけたぞ・・・<火の社>・・・」
男の目の前にはスライドで映されていた古墳があった
そして男はそれを<火の社>と呼んだ
.......................
to be continued
後書き
うう、何故これを書いている?今は学業の方が忙しいというのにちょっと息抜きと書いてたものが、こっちの方に熱中してしまった(汗)まぁ今回は短い設定になってるためもあるけれどいいのだろうかこれで?
とりあえずこれで第6話が終了!完結まであと3話!……いつ終わるかな?(^^;
2000年11月26日