『…桜、咲き乱れ』
「こちらFポイント…どうだそっちはいたか?」
(ガー……)
『こちらBポイントダメだ、もう盗られ逃げられた後だ』
(ガー……)
「了解、引き続き侵入者の発見、捕捉に努めろ」
(ガーー……)
『ああ、Cポイントの方からも何人か向ってる!すぐに捕まえるさ』
(プツン)
「ちっ、一体どこの馬鹿だ…我々の組織、マウラーの
施設に潜り込んで、あまつさえ盗みまで働くなんて…」
「ああ、だがここは俺達の庭だ!すぐに発見できるさ!!」
「当たり前だ!このまま逃せば我々は他の組織のいい笑い者だ!」
男達の罵声を木の上から見下ろす人物がいた
特殊部隊が被るような顔を覆うマスクを被っており、目の位置には
赤外線暗視装置で森を見渡し、追っ手の人数、配置を探る
そして発見される恐れもないとわかると安心し、懐に手を伸ばす
その人物の手には小さいながらも精密な造り、そしてまわりにダイヤ散りばめられた
ネックレスが握られていた
そしてそのネックレスを見つめながら、覆面の下で一人静かに至福の笑みを浮かべる
「大量、大量♪」
そう言いながら、その人物は覆面を脱ぎ去り、その顔を表す
その人物こそ“遺跡荒らし”の異名を誇るトレジャーハンター、染井芳乃であった
「これが先日裏のオークションでマウラーが落札したっていうネックレスね♪」
「まさかこんな極東の組織でもこうも金目の物を持っていたなんて…」
「やっぱり優ちゃんとこのデータバンクに潜り込んで
情報を拾ったかいがあったわ。
今度優ちゃんには御礼をしないとネ」
感謝などというものは言葉だけで、心から思ってのことではない
それどころかアーカムのデータバンクにもぐることも出来る
芳乃の能力もその実力を表すものである
「……さって、明後日にはとうとう卒業式も控えていることだし」
「貰うものを貰ったんだからこんなところに長居は無用よね」
言うや、芳乃は懐に再び仕舞い込んで赤外線暗視装置を再び取り付け、まわりの状況を確認する
「………よしOK!」
芳乃は装備の確認もして勢いよく立ちあがる
(ピキッ)
「……ヘッ!?……ピキッ?」
ふとした音に芳乃は恐る恐る自分が座っていた枝を見るとそこには亀裂が走っていた
しかももう折れそうという様相も呈している
「……嘘…でしょ?」
芳乃の頬に汗が伝わると同時にその枝はポツリと折れ、
芳乃は己を支えるものがなくなったためにその重力のままに落下する
「みっきゃぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
あまりの展開にただ落ちることしかできない芳乃は奇声をあげながらそのまま落下する
(ドスンッ)
「ぎゃっ!!」
「アイタタタタ……でもなんか地面に落ちたのとは……」
そう言いながら芳乃は自分の下にあるものを確認すると、そこには迷彩服を着込んで武装している
一人の男がいる
だがその男は芳乃が落ちてきたショックで白目をむいて気絶している
「ッア ……アハハハハハ」
とりあえず笑って誤魔化すしかない芳乃
だがすぐにまわりの状況を察知する
芳乃のまわりには手に手に自動小銃を所持した兵士が取り囲んでいた
芳乃は獲物を得たことに有頂天になり、周囲には気を配っていたが、まさに灯台下暗し、
自身から見て下のほうには気を配っていなかったのである
そして男達も突然空から降ってきた芳乃に驚いたが、捜していた侵入者であることがわかると
とたんに殺気だって、その殺気が銃身を通して芳乃に伝わる
「あっちゃー……ピンチってやつね」
芳乃はそう言うとツッと腕を伸ばす
その動きに兵士の一人が手にした銃口を芳乃に向け
「おっと!無駄な抵抗はやめな!まぁー、もっともここでお前を殺してもこっちとしては断然構わ……」
その時男の視線が芳乃の袖口からこぼれおちた球体に目を奪われた
その球体は暫くコロコロと転がり、慣性の法則にしたがってその動きを止める
男達はその球体に一瞬注意を奪われてしまい、そしてそれがこの場面では命取りとなった
芳乃はとっさに視線をその球体とは反対方向に向けて目をつぶる
その瞬間、その球体は眩いまでの閃光を発した
「ぎゃーーーーっ!!」
「目、目がぁーー!!」
男達は眩いまでの光にその視界を奪われ悶え苦しむ
「じゃっあねぇ〜」
「こ、この女(あま)!!」
一人が怒りに駆られ手にした自動小銃の引き金を引いた時近くにいた仲間にその銃弾が当たり
「ぎゃっ」という悲鳴をあげてその場にうずくまる
「バ、バカ撃つな!同士撃ちになる!!」
敵が同士討ちをしている間に芳乃は素早くその場を離れるために駆け出していた
先ほどの閃光は他の兵士達にも気付かれ、すでにこっちに向っているだろうからである
「!?」
芳乃は何故か前方に嫌な気配を感じ、その場にとっさに伏せる
(パンッ)
(タタンッ)
「いっ!!」
先ほどまで芳乃がいた場所を銃弾の嵐が通り過ぎていった
「いたぞ、こっちだ!!」
(ガチャッ)
「危ない危ない……でもさすがは私の勘
……じゃあ私も反撃しなくちゃね」
芳乃は自分の感を信じたことに感謝すると共に、即座に自動小銃を撃ちこまれた地点に向けて掃射する
芳乃の正確な射撃が、相手に当たらないまでも反撃の機会を与えない
「気を付けろ、相手はかなりの手錬れだ!」
相手も芳乃をただの侵入者ではなかったことを悟って物量戦に出ようと仲間にサインを送る
だが芳乃はその相手の動きを冷静に見定め、
「……そうくるのね ……けど遅いわよ」
そして芳乃は頃合を見計らって歯で3個の手榴弾のピンを一気に抜き、そのまま放り投げる
「撃て撃て、反撃の機会を与えるな!」
(パンッ パンッ)
(タタタタッ)
自動小銃の掃射音があたりに鳴り響く
だがその掃射音は次に鳴り響いた爆音によってかき消された
「なんだ!?」
「気をつけろ!相手は手榴弾を持っているぞ!!」
残った兵士達は口々にそう叫んで再び先ほどまで芳乃がいたと思われる地点に銃口を向ける
だがその時突如頭上に気配を感じ、「何だ?」と思った瞬間芳乃が
今度はアクシデントではなく急襲という形で降りてきた
「なっ!? このっ!」
兵士はとっさに銃を構えるがそれより先に芳乃が差し出した手のほうが早く、
そして青白い閃光が瞬く
それをくらった兵士は「ぎゃっ」という悲鳴を残してその場に気絶してしまった
それは芳乃の護身用具としても用いている改造スタンガンであった
「いたぞー!」
だが休む間もなく次々と新手が現われる
どうやら各地にわかれていた敵が集結しだしたのだろう
「ゲゲッ ……もう現われて来たの!?」
物量戦は確かに芳乃としては遠慮したい所であったためにとりあえずは逃げるしかなかった
「ふぅ〜…さってと…」
「……確かここらへんに」
芳乃は逃げる途中、ある地点でなにかを探し始めた
背後からは次々と敵が迫ってきているのにである
「あったあった、これこれ!」
芳乃はそういってカモフラージュで隠していたものを取り出す
そして芳乃の顔に不敵なまでの笑みが浮かぶ
「さぁーて、これでもう逃げる必要なんかないわよ!徹底的にやってやるわ!!」
「かよわい乙女を男が集団で襲ってくるんだからこれは当然の行為よ!!」
そもそも自分が盗みを働いたためにこうして追われる羽目に
なっていることなどまったく考えになかった
そして芳乃はその不敵なまでの笑顔と共に引き金を引く
「うわっ」
兵士達には当たりはしないが、足止めにはなっている
「ひるむな!包囲しながら距離を縮めろ!!」
そう言い放って行動しようとした兵士達も次の瞬間にはその声を失われた
突然あたりに爆音が鳴り響いたのである
…それも断続的に
芳乃が手にした武器はM4A1ライフルにグレネードが撃てるようにしたカスタムライフルである
ライフルとしてだけでも破壊力があるのに、これにグレネードまで撃てるとなれば鬼に金棒!
「邪魔よ!」
芳乃は撃ってはグレネードの弾を込めてとにかく引き金を搾る
相手が反撃をしようにも火力が違いすぎるために反撃の機会すら与えなかった
時にはライフルの銃弾で牽制し、敵に壊滅的打撃を与える時にはグレネードを
そしてまた右腕でライフルを撃っている間に左手で手榴弾を握り、歯でそのピンを抜いて放り投げる
とにかくこれを繰り返して相手の戦意を次々に奪っていく
……そしてとうとう相手の反撃が途絶えた
「ふぅーーーー、これで片付いたわね」
「さって帰りましょっと♪」
芳乃はそう言い残すと、肩にライフルを抱えまだ残った敵にクルリと背を向けて歩き出す
「……バカが ……このままノコノコと帰すと……」
一人が拳銃の狙いを芳乃の背中に定めて引き金を引こうとする
だが次の瞬間には背を向けたままの芳乃からライフルの銃弾が放たれ、男の目前で着弾する
目前にあがった土煙を、そして芳乃の去って行く後姿を目にしながら男は
額に汗を浮かべたままその手にした銃を地面の上に落とし
「なっ ……なんなんだアイツは……」
残された兵士達は去ってゆく芳乃を見ながらそうつぶやくしかできなかった
芳乃が放ったグレネードと手榴弾の嵐はそこいら中を荒野と化し、
残されたのは追っ手であった兵士達のみであった
ガヤガヤ、ワイワイという歓声があたりにこだまする
ここは都内の飯床野女子高等学校校の体育館
表の校門には『第○回 飯床野女子高校卒業式』と書かれた立て看板が掲げられている
そしてその会場となっている体育館内の壇上ではお決まりのスピーチ……
『……諸君も我が飯床野女子高等学校の卒業生である自覚を持ち、社会に出てからも………』
当然名門校とはいえ、こういった決まり文句が退屈なのはそこに通うお嬢様方とて変わりはない
だが、これも通過儀礼だと割りきって、中断させるような行ないをするでもなく
ただ黙って聞いているのである
それは卒業生の一人である彼女、染井芳乃もその例に漏れなかった
ただ芳乃の場合は先日までの疲れも重なって、欠伸をかみ殺し、目をこすりながらただ黙って聞いている
「あ〜あ、卒業式っていってもやってることは小中と変わってないのよね〜」
「そうそ、学園長の話もありきたりだしさ」
「…ま、これでこの学校ともお別れなのよね」
卒業式の帰り道、グループで帰る女子高生
芳乃もその一人であった
皆、手には卒業証書を収めたケース以外は手に持っておらず
卒業生だということは誰の目にも明らかだ
口々に卒業式へ文句、そして高校生活への想い出のような言葉が口に出される
文句はあれども、楽しい思い出もあったこともまた事実で、これで終わりかという
その寂しさのようなものが一人一人の胸に込み上げてくる
「それにしてもー………」
そんな想いの最中、一人がそう言葉に出した途端に全員が、
いや、約一名を除いたその視線を一箇所に向ける
「な、何よ……みんなして!?」
その注目を浴びた人物とは芳乃本人である
(※ここからは会話の内容から情景を察してください)
「よかった、てっきり今日はこないんじゃないかって思ったわよ」
「そんなわけないでしょ!せっかくの卒業式なんだから」
「……それもそうね」
「でも芳乃……ここんとこ具合悪かったみたいだけど大丈夫なの?」
「え?……え、えぇもう大丈夫よ」
「心配してくれてありがとう」
「でも、芳乃って結構休んでると思ってたけど、ちゃんと出席日数足りてたのね」
「もちろん!」
「どっかの誰かさんじゃないんだしね」
「えっ?」
「あ、ううん!何でもないの、なんでも!!」
「あ、なによその慌てぶりは!!」
「いいじゃない別に!!」
「っもう〜、芳乃ってばいっつもそうなんだから………」
「あ、○×高の連中よ」
「手に証書持っているってことは……連中も今日卒業式だったのね」
「ねぇーねぇー、せっかくだから声かけよっか」
「え〜、ちょっとそういうのやめようよ!!」
「いいからいいから!芳乃も女子高の締めくくりぐらい華持ちたいでしょ?」
「わ、私は別に…」
「ってわけで決定、声かけるわよ!!」
「ちょ、ちょっとーーーっ!!」
「あ〜あ、これでやっと卒業か」
「お前なんか進学決まってるからいいじゃねーか……俺なんかもう1年受験勉強だよ」
「そんなのもう1年留年よりゃマシだろ?」
「留年っていや、アイツはどうした?」
「ああ、なんか忘れもんしたって言うから先行っててくれってさ」
「でもアイツよく卒業できたよな〜」
「あ、それ俺も思った」
「アイツが卒業できるか他所のクラスじゃ賭けてたって話も聞いたぜ、俺」
「ねぇーねぇー!あなた達○×高でしょ?」
「え?そ、そうだけど」
「お、おい……あの制服って」
「ああ、そうだよ……飯床野女子のだよ」
「あたし達もさ、今日卒業式だったんだけど……そっちもなんでしょ?」
「え?あ、ああ……俺達んところも今日が卒業式だったのさ」
「あたし達これから卒業パーティーとかいって遊びに行く予定なんだけど……どう?」
「も、もちろんい………!!」
「おーーーっす!待たせたな!!」
「あ、お前いいとこに来たな!!これからこの飯床野女子の人達と一緒に行くんだけどおまえもどうだ?」
「飯床野……女子……」
「!!」
「!!」
「お、お前……」
「な、なによ……」
「なによじゃねー!お前が俺のデータバンクに無理矢理に潜り込んだおかげで
アーカムの通信機能が一部損傷しちまったんだぞ!!」
「なによ、そんなの私みたいなフリーの人間に潜り込まれる
あんたんところのセキュリティが甘いからじゃない!!」
「バカ野郎、その復旧作業のせいで俺は今日の卒業式まで
出席しなくちゃならないのに毎晩徹夜だったんだぞ」
「あら、私はちゃんと卒業日数も計算して仕事しているから大丈夫だったのに!!」
「ちょ、ちょっと芳乃……なんの話よ!?」
「おい、御神苗……お前等知り合いなのか?」
「おい、だったら是非とも紹介しろよ」
「嘘付け!こっちは全てわかってんだぞ!!お前俺のデータベース経由して学校にもハッキングして出席日数の改竄してただろ!!」
「あ、あら……ばれてたの?」
「お前みたいな悪党はもう1年留年して世の中の厳しさをもっと知りやがれ!!」
「なによ、それとこれとは話が別でしょ!!」
御神苗と芳乃のこの言い争いはこの後まだまだ続くのであった
そして彼等の背後ではこの春には早い桜が咲き乱れるのであった…
...fin
作成 2001年10月8日
後書
「や、やっと終わった………」
これがこの芳乃小説「…桜、咲き乱れ」を終えての率直な感想です。これはPan-ziさんが7777HITを達成した折に
「御神苗があんなに苦労した出席日数は?…そもそも、彼女の戦闘シーンって少なかったような気がするけど、彼女の実力は?」
という疑問に応えるべく私が小説化したものです。でもこのリクエストを受けたのは昨年のクリスマス……
つまり約10ヶ月近くかかってしまったのである(≧∇≦ )l(
≧∇≦)ブハハハ!
もう笑うしかないでしょこれ(苦笑)まぁ閃光弾を使うシーンは芳乃の必殺技に近いほど私は用いてますね。まぁ芳乃の戦闘スタイルは後先のことは考えずに、ひとえに破壊、破壊という考えから破壊力のある手榴弾やグレネードランチャーを連発したことにしています。私は武器等にはあまり詳しくなくて、ネタバレを申し上げるのなら作中に出てきたM4A1ライフルをベースにしたカスタムライフルというのは、私が好きなゲーム、Parasite
eve U から引っ張って来ました(アハハハ)。まぁ私は銃器マニアではないのでそこんところをご了承くださいませ。
それでは7777HITを踏んでくださいましたPan-ziさん、これからも当HPをよろしく☆