−御神苗 優の日常奮闘記−
ガー・・・・・・・・・ガーー・・・・・・・・・・
ゆっくりと無線機の周波数を合わせながら耳を澄ませる
「・・・・こちら妖精。繰り返す、こちら妖精・・・・・Matt小隊応答せよ・・・・・・・・・」
ガー・・・・・・・・・・・
静かに返事を待つ
「・・・・・こちらMatt小隊、どうぞ」
ガーーー・・・・・・・
「こちらいまだアクトレス(女優)の所在をつかめず・・・・・引き続き捜索を実行する・・・・」
ガー・・・・・・・
「こちらMatt小隊、了解・・・・こちらも捜索を継続する」
ガーーー・・・・・・
一通りのやりとりを済ませた後、“妖精”を名乗った男は急に態度を軟化させ、
「ったく、こんなことさっさと済ませなきゃ、俺は今日の午後は単位のかかったテストがあるんだぜ・・・・さっさとこんなこと終らせてくれよ・・・・」
ガー・・・・・
「・・・・・ボヤクな・・・・・・こっちだって同じ気持ちだ・・・・・なんだってこんなことに俺たちまで駆り出されなきゃならんのだ」
相手にもわかっている事なのだろう、別段咎めるでもなく返事する
ガーーー・・・・・・・・・
「とっとと終らせるとするか・・・・・」
ガー・・・・・・
「了解だ。じゃあそっちもがんばれよ、頼りにしてるぜスプリガン!」
ガーーーーーーーー・・・・・・・
プチッ
「ったく、なんだって俺がこんな事を・・・・・・・」
“妖精”を名乗った男の名は御神苗 優
第二のロックフェラー財団といわれるアーカム財団の遺跡保護を表向きは目的とする考古学研究所のS級工作員、通称“スプリガン”と呼ばれている。
スプリガンの役割は、現代科学を凌駕している超古代文明の遺跡の保護、または封印を故アーカム氏の遺言に基づいて行っている。
御神苗 優はそのスプリガンの中でも1,2を争うほどの凄腕である
その彼がボヤク仕事とは数時間前にさかのぼる
「御神苗〜、あんた今日の6限目の授業出席するの?」
今は休み時間。机に突っ伏して体を休めている優に笹原 初穂が声をかける
「ん!?なんでそんなこと聞くんだ?当然来たからには出席するに決まってるだろ」
「・・・・でもあんたバイトだとかいってしょっちゅう欠席してるじゃん。出ても寝てばっかだし」
「しょうがねぇだろ。バイトの方はいつも突然入って、その疲れがたまったまま授業に出るんだから・・・・」
もちろんバイトとはスプリガンとしての仕事で、超古代の遺跡が発見されればそれを他の諜報機関から守り、遺跡発掘のための調査員が安心して調査できるように保護するのがスプリガンの役目である
この時も優は今朝ルーマニアで仕事を終えて日本に帰って、そのまま大学へと直行したのである
むろん初穂もそのことは知っている
彼女も古代文明のいざこざに双子の妹香穂と共に係わって、御神苗と共にメキシコまで行ったほどである
無論それまでは優がスプリガンだということはおろか、超古代文明のことはもちろん知らなかったのである
あのテスカポリトカの事件のときまでは・・・・・(詳細はSPRIGGAN1,2巻参照!))
いまでは優が世界中を駆け回ってその仕事をこなしながら、一方で大学生をしていることを知っている
「俺はいたって学力向上を目指した一学生だぜ」
「・・・・・・・・あんた言ってて恥ずかしくない?」
「う、うるせぇ!!」
やはりちょっとは恥ずかしかったのか、少し照れて顔が赤い
「・・・・・・・で、なんで突然そんなこと聞くんだよ・・・・・・・・」
「あぁー、今日のその授業な実はいきなりテストやるんだって」
「ふーん、テストか・・・・・・・・・・・・・・・・・・何ィーーー!!」
「お、俺聞いてねぇぞそんなの!?」
「だってあんたいつも欠席か寝てるかじゃねい」
「まぁ、今日はバイトも入らないだろうから大丈夫だとは・・・・・・・・!?」
その時優の携帯がタイミングよく鳴り出した
ピリリリリリリリリリ
「・・・・・・・・そうでもなかったみたい・・・・」
「うっせー!まだバイトだと決まったわけじゃねぇー!!」
「わかった、わかった、早く取りなよ御神苗」
「ったく、はい御神苗・・・・・あ、なんだ山本さんか」
山本とは、アーカム財団東京支部の所長で優の直属の上司である
「じゃあね御神苗、来年がんばれよ!」
初穂のその言葉に来年とは暗に留年を意味した言葉である事を優は瞬時に理解する
「うっせぇー、あ、いやこっちの話だよ」
歩み去っていく初穂に言い返しながらも、ちゃんと電話に応答する
「それよりいったいなんだよ!いっとくけど今日は仕事は受けないぜ」
「なにせこっちは単位のかかったテストがあるんだから」
「悪いがそうも言ってられないんだ優」
「なんだよ・・・・・・またどっか遠くの国で遺跡でも発掘されたのか?南アフリカとかチリかなんかで?」
「いや、そうじゃない。事件はこの日本、しかも東京で起こってるんだ!」
「なんだって!?」
「実は今日うちの支社から本部へ移送しようとしていたオーパーツ、賢者の石を積んだ車が事故にあってな・・・・・」
「なんだって!?まさかどっかの諜報機関の仕業か!?」
オーパーツとは現代の科学では精製不能の物質で、“賢者の石”というのはオリハルコンという金属を作りだすのに必要不可欠な鉱物である
それゆえ希少価値もあることから世界の諜報機関が血眼で探すほどの鉱物で、それがもとで戦争さえも起こりかねないのだ
「いや、そうじゃない。事故は純粋な交通事故でお前が心配しているような事じゃない」
「だったら俺になにをしろっていうんだ?単なる回収なら俺じゃなくても大丈夫だろ!?」
「まあ、そうなんだがな・・・・・・・」
「話が見えねぇーなー、山本さん、ハッキリ言わないと切るぜ」
「あー、わかったわかった。実はなうちの輸送中の車両と事故にあった車両というのが、こちらも輸送中の車両でな」
「・・・・・・その車両の積み荷がうちの車両の賢者の石を持っていってしまったんだ・・・・・」
「積み荷が積み荷を持っていった!?」
山本の謎の言葉に一瞬優は眉をしかめる
「・・・・・山本さんひょっとして錯乱してるの?」
「そうじゃない!その車両が移送していたものとは猿なんだ」
「猿!?猿ってあの山ん中でキィーキィー鳴いてるあの猿か?」」
「ああ、あちらも地方で捕まった猿を動物園に移送する途中の事故だったそうだ」
確かに地方では猿が農家の作物を狙って収奪を繰り返すため、農家ではそれを防ぐためにフェンスを張ったり、微弱な電流が流れる網を張ったりなど自衛手段を張る他、罠を仕掛けて捕獲も試みている
しかし猿は日本では保護動物に指定されているために殺してはならず、捕獲した場合は動物園などに引き取ってもらうのが通例である
「なんで猿なんかが賢者の石を持っていくんだよ?」
「そんなこと私が知るわけがないだろう。とにかく優には逃げた猿4匹を捕まえて、無事に賢者の石を取り戻してもらいたい」
「もしこのことが他の諜報機関にでも知れたら、アーカムはいい笑い者だ、なんとしても捕まえるんだ!」
「わーったよ、ったく」
「で、それは俺だけでやるのか?」
優は時計を見ながら駐車場へと走り出しながら携帯に向かって喋り出す
「いや、ちょうどMatt隊というA級エージェントがすでに捜索に加わってくれている・・・・・もちろんあんな戦闘服などは着用していないがな」
「・・・・・・・・やつらも可哀相だな」
優のこの言葉には、本来A級エージェントとは、スプリガンほどの戦闘力はないが、遺跡の保護のための私設軍隊で、各国の特殊部隊にも相応するといわれるほどである
それが、なにが哀しくて猿の捜索に駆り出されなくてはならないのかといった気持ちから、優は同情していた
「ま、まあこれもアーカムのためだと割り切ってやってくれ」
「わかったよ、そのかわりもし俺が留年したら一生山本さんを怨んでやるからな」
話終えると優は携帯を切って、目の前に在る校舎に向かって走る
駐車場はこの校舎の向こうで、ここを通っていけばショートカットになるため優は急いで4階建ての校舎を一階ずつ外側から飛び越え、校舎向こうの駐車場へと消えていった
・・・・・・・唖然と見送る生徒達を尻目にして
現在までに3匹の猿を捕まえはしたが、そのいづれも賢者の石を持ってはいなかった
そして残りの一匹は依然行方が掴めておらず、優達だけでなくA級エージェント達も手をこまねいていた
「こちら妖精、Matt小隊アクトレスは発見したか?」
「こちらMatt小隊、アクトレスは未だ発見できず」
ここでいうアクトレスとは猿を表す暗号で、優達が皮肉を込めてつけていた
発見されていないという報告に優はちらっと腕時計を見る
時計の針は14:57を指しており、テスト開始の時刻は16:30
ここから大学まではバイクを飛ばして30分の距離だったので、少なくとも後1時間で賢者の石を取り戻さなくてはならない
しかもテストには単位もかかっているために、優としては焦っていた
この時の優には世界平和と単位とどちらが大事だと聞かれれば、迷うことなく“単位”と答えたであろう、そんな状況なのである
それなのに猿が賢者の石を持ち去ったからそれを奪還せよ、なんて任務を押し付けられたものだからである
こうしている間にも時間は流れ、タイムリミットが迫ってくる
「ああー、ちくしょー!まったく3匹目までは快調に捕獲できたのに、なんで最後の一匹は捕まらねぇんだ!」
ちなみにここまでの優の動きはすさまじく、最初の1匹が水道橋で発見されたという情報が入ると、すかさず水道橋へと出向き、散々追い回した挙げ句、東京ドームの屋根で無事に捕獲した。だがそれまでは後楽園遊園地のヒーローショーにいきなり飛び込んだりなどと様々な余談がある。
2匹目が上野で発見されたという報告が入ってからも、すかさず上野へ行き、不忍池の観光客を驚かせたり、墓地では墓石を倒したりなどと、もはや優の目には猿以外は映らず、他のことは視界に入っても認識していないという状態だった
3匹目はここまでなにもしなかったかの汚名を返上すべく、Matt隊が御茶ノ水で捕獲している
Matt隊の小隊長Mattは後にこう語っている
『優が猿を追い回している姿は、どちらが猿なのか見分けがつかなかった・・・・』と・・・・
そして4匹目が新宿で発見されたいう情報が入り、優は上野から急行し、捜索に加わりはしたが、依然その姿は見当たらなかった
「ちくしょー!ここで見たっていう情報があっても影も形も見えねぇーじゃねーか!」
いよいよ時間が迫ってきているために焦る優
タイムリミットは後20分といつのまにか経過していた
焦る優・・・・・・
しかし猿は見つからない
「くっ、後20分かよ、ったく・・・・・・・・・・」
このとき優は時間が迫っているためか焦っていたことに今さらながら気付き、冷静さを取り戻そうと目をゆっくりと閉じる
目に頼らず肌で気配を感じ取るという方法をこのときの優は忘れていた
「っち、オレもまだまだだな・・・・」
小さくつぶやく
冷静さを取り戻し、肌で気配を読むという方法のおかげで優は様々な気配の情報を読み取ることができた
近くで警戒しながらあたりをうかがう気配
(・・・・・・違う・・・・・これはMatt隊の奴等のだ・・・・・)
喜び、怒り、悲しみ・・・・・・喜怒哀楽の様々な気配が読み取れる・・・・
が、目的の気配にはなかなか達しない
(ちくしょー・・・・・・・・いや、焦ったらだめだ・・・・・落ち着いて・・・・もっと・・・肌で・・・・)
さらに気配を察知しようとする優
(・・・・・・・・・・・・!?)
遠くで何か怯えたような気配・・・・・・それも・・・・
人間とは何か違った気配を優は感じ取った
この新宿でそんな気配を持ったやつは!!
(みつけた!!)
優は目を見開くと、真っ直ぐその気配のする方向へと駆け出す
「おい、どうしたスプリガン!!見つけたのか!?」
猛然と駆け出す優を見つけたMatt隊の小隊長Mattが呼び止めるが、優は返事もせず真っ直ぐ走り抜ける
それを唖然と見送る歩行者達
残り時間は後10分
しかし優には自身があった
その10分で無事に猿を捕獲し賢者の石を取り戻す余裕が
その余裕が示す通りに、すでに肉眼で猿を捉えている
猿は3階建てのビルの屋上にじっとうずくまっている
ザッ
不意に背後からの音に驚いて猿は後ずさる
「よぉ、やっとみつけたぜ、アクトレス」
優はわざわざ猿を暗号名で呼び、猿と視線が合うと余裕からか自然と口元が緩む
猿の手にはしっかりと賢者の石が抱えられていた
猿は虚勢からか、少し威嚇のポーズをとる・・・・
だが優はかまわずに猿に向かって一歩踏み出す
それを契機に、猿はくるりと優に背を向けて逃げだす
「逃がすかよ!!」
言うやいなや優もダッシュと共に駆け出し
ものすごいスピードで一気に猿との間を詰めるが、猿も必死なのかちょこまかと逃げる
だがそれも些細な抵抗で、優はすぐさま猿を両手で捕獲した
「よっしゃー!これでテストに間に合!?」
バリバリバリ
捕まって興奮した猿が抵抗を試みて優の顔や手を引っ掻きだし、優は両腕で捕まえているために、その最初の抵抗を阻止することはできなかった
「イデデデデデ、てめぇー!」
慌ててその猿が引っ掻くのを止めようと猿の手が届かないよう腕を真っ直ぐに伸ばす
「あ!?」
しかしその手を伸ばす勢いが強く、猿が抱えていた賢者の石はまっさかさまに3階のマンションの屋上から下の道路へと・・・・・・・
・・・・・・・・・
ガラッ
「え〜、申し伝えていた通り今日はテストを行います。今日受けていないものには単位は取得できません」
講師は淡々と決まり文句を言う
ザワザワ
少しざわつく教室
じっと教壇を見つめながらボンヤリしている初穂・・・・
「あのバカ、とうとう間に合わなかったか・・・・」
ポツリとつぶやく
講師はもくもくと問題用紙を配り、学生達は真剣にテストを受けようというもの、単位が取れるぐらいの点数でいいと思っているものなど様々であった
そして問題用紙も一通り配り終えると講師はちらっと時計を見やり
「それでは時間は1時間、はじ」
ガララッ、ガンッ!!!
講師が始めと宣言する直前、教室のドアが勢いよく開かれた
沈黙する教室
ポカンとドアの方向を見る講師
なにが起こったのか分からないといった顔の一部の学生
それほど開けたときの音がすさまじく教室の時は止まっていた
「・・・・・・・・あのバカ・・・・・・・それにしても間に合ったのか・・・・」
一人その出来事に動じない初穂がポツリとつぶやく
開けられたドアのところには御神苗が立っていた
「はぁー、はぁー・・・・・・お、遅れました・・・・・・お、オレもテスト・・・・う、受けます・・・・・・・」
優はそれだけ言うと問題用紙を勝手に受け取って、後ろの方の空いている席に座る
「・・・・・・・う、うむ、それでは試験始め!」
優が座ってから我に返った講師がテストの開始の宣言を告げた
そして優も初穂も他の学生も一斉に問題用紙に目を移し、問題へと取り掛かっていった
あがった〜
これが素直な我の感想です
SPRIGGANは読切とはいえ初めて書くジャンルなのでものすごく苦労しましたがいかがなものでしたでしょうか?本作品は当「寄生の御部屋!」1500HIT
OVER記念に執筆し、見事1500HITして下さったMattさんを“アーカム財団私設軍隊A級エージェントMatt隊”としてご登場頂いております。それでもやはり猿とかいろいろ読んでいて違和感というか・・・・・・ハッキリいってめちゃくちゃやん!とおもった方、どうぞご勘弁下さい!何分にもスプリガンを書くという時点で本人パニクッてます(笑)。そしてなぜか初穂を御神苗と同じ大学に通わせていた、これはもろに我の趣味です!なぜなら香穂ファンのかたには申し訳ありませんが、我としては初穂の方がよかったもので(^^;)
で、これは余談ですが、無事テストに間に合った優ですが、実は試験中に時差ボケと寝不足、それと疲労でテスト中眠ってしまい、テストは真っ白で、後に講師に追試を頼み込んでなんとか単位は取得いたしたそうです。
今構想では連載も考えているので、そっちではもっと面白いストーリーを作れるかと思います
その連載とは中国・モンゴルを舞台にしたものを考えています。
では、もし執筆したらその連載でお会いしましょう!
ってその前にARMSのほう終らせねば(汗)