優の自由行動(?)
午前9時を回りホテル5階の通路を二人の少女が歩いている
一人は堂々と、そしてもう一人はその少女の後ろに隠れるようにしてオズオズと
そして二人は『537』と表示された部屋の前に立つ
トントン
少女は軽くノックをしてこの部屋にいるだろう人物に合図して返事を待つ
………
しかしなんの反応もない
トントン
少女は再びノックをして返事を待つがやはり何の反応もない
少女はノブに手をやると、そこには鍵はかけられておらず、何の抵抗もなくまわりギギギィーーと鈍い音を開けながら少女達を招き入れるかのごとく扉は開かれていった
「おーい!」
少女は首から先だけを部屋の中に入れて中にいるはずの人物に声をかける、が先ほど同様なんの反応もなかった
「ったくしょうがないな〜」
そういうと少女は部屋の中に入っていく
それを見たもう一人の少女が驚いて、
「は、入っちゃうの?」
「だって、中にいるのは確かなんだから・・・心配ならあんたも入ってきたら?」
「・・・で、でも・・・・・・」
そう言いながら少女は促されるままに少女の後に続き部屋の中へと入っていく
部屋の中はカーテンが閉められており、外の明かりが入ってこないために暗くよく見えない
少女はとりあえず部屋の明かりをつけこのその人物を確認する
するとそこの床には一人の少年が横たわっていた
別に床に横たわっているからといって死んでいるわけではなく、ただ寝ていたのだ
その証拠に耳を澄ますと静かな寝息が聞こえ、腹筋も上下して動いている。そしてそれ依然にその少年の寝顔はこれ以上ないと言った幸福そうな寝顔であった
「ったく、男どもが言ってたとおりまだコイツってば寝てたのね・・・」
呆れ顔でやれやれといった表情で言い放つ
「でも、とっても幸せそうな寝顔だね」
もう一人の少女はクスッと笑いながら言う
「まったくなんの夢を見ているんだか・・・」
少女もその意見には同意して少し顔をほころばせるが、その笑顔もすぐに止みスゥーーッと息を吸い込む
そしてピタッと息を吸い込むのをやめ次の動作に備える
もう一人の少女には何をやるかわかっていたので両手で耳を塞ぎ耳栓をする
「こら〜〜〜〜っ!!起きろ御神苗 優ぅぅぅぅーーーーーーーーー!!」
少女の叫び、もとい元気の言い声が部屋中に響き渡り、御神苗と呼ばれた少年は何事が起こったのかと飛び起きたのであった
「な、な、な、・・・・・・なんだぁ〜!?」
優の寝起きの第一声はそれであった
「まったく何時まで寝てるのよ・・・もう9時過ぎよ」
「まだ9時過ぎだろ初穂・・・あ、香穂ちゃんもいたんだ、オハヨー」
初穂の後方にたたずんでいる香穂に向かってニコヤカに笑いながら挨拶をする
「お、おはよー・・・御神苗君」
香穂は少し照れながらも挨拶を返す
「ったく、あんたねぇ〜、今日は修学旅行の最終日だっていうのにいつまで寝てるのよ・・・さっさと着替えなさいよ」
「あ〜ん?・・・最終日っていったってたかが自由行動だろ。あのな〜、オレは先日のあの忍者どもの相手で疲れてるんだよ」
「おまけに帰ってからはあの制服の焦げたのなんかを川原先生をはじめ、会う先生一人一人に説明してたんだぜ。まったくあの人達も心配性なんだよな〜」
頬をポリポリ掻きながら嫌なことを思い出したと呟く
「それと9時まで寝てるのとなんの関係があるのよ」
ジトッと見下ろす初穂、それに優はニカッと笑って
「いや〜それがさ!昨夜は他の野郎共とくだらねェー話しで盛り上がっちゃってな、これが延々夜中の5時近くまで喋ってたんだわ」
「夜中の5時って、・・・・あんたね〜・・・でもクラスの男子達はもうとっくに起きて出かけちゃったわよ」
呆れ顔で呟く初穂、そして慌てて周りを見渡す優
「ハハハハッ、どうやら俺だけ取り残されたみたいだな」
「笑ってないでさっさと起きてあんたも出かける準備しなさいよ」
「・・・なんで初穂、お前にそこまで言われるんだよ」
「あんたね〜、せっかく綺麗どころの二人がこうして自由行動にあんたを誘いに来てあげてるのよ」
「う〜む、綺麗どころねー・・・確かに綺麗なことは綺麗だがこの柄は・・・」
「柄ってあんたなんのことを・………」
優がしていることに一瞬凍りつく初穂
優はいつのまにか初穂のスカートを捲り上げて中身をまじまじと鑑賞している
その光景に香穂は両手を口元にかざして硬直し、初穂はというと怒りの表情を浮かべながら右拳を握りフルフルと震わせている
「あ、あんたなにやってんの・・・」
最後の理性を保ちながらも、語尾には怒りを込めて初穂は優に語りかける
しかし優はスカートの中を依然見つめつづけているために初穂の表情は見れない
「う〜ん、芸術鑑賞中だ・・・しかし初穂、お前でもこんなパンツを・・・」
「死ねーーーい!!」
優が全てを言い終える前に初穂の振り降ろしの右ストレートが優に炸裂していた
「ほら御神苗!さっさと来なさいよ!」
「は、初ちゃん・・・御神苗君ちょっとかわいそうなんじゃ・・・」
「いいのよ、昨日は私だけじゃなくて香穂、あんたまで危ない目に会いそうになったのもこいつが原因だったのよ」
昨日、優と初穂、そしてもう一人のクラスメートは超古代文明の遺跡の象徴、賢者の石を巡るトラブルに巻き込まれ、そのトラブルの相手に優達のクラスのバスに時限爆弾をしかけられるなどなにも知らないまま香穂達は危うく命を落とすところであった
「そ、そうはいっても・・・」
その出来事をその日のうちに香穂は初穂から聞かされたためその時は身震いさえしたが、以前にも同じような、いやそれ以上の体験をしたこともあったために一晩寝たらそんなことはもうどこ吹く風であった
それは初穂も同様である
香穂はチラリと後ろに視線を移すとそこには額に汗を浮かべ両手に重い荷物を持たされた優がいた
優は恨めしげな視線を初穂に送るが、初穂は意に返さずにショッピングを楽しんでいる
往来を道行く人も奇異と失笑の眼差しで優達を見返す
それもそのはず、焦げた学生服を着た少年が、前を歩く少女2人(特にそのうちの1人)にいいようにあしらわれているのだから自然とクスクスと笑い声が囁かれる
そして優達と同じどう見ても修学旅行生の団体にまで笑われていた
しかしそんな視線をものともせずに初穂は自分のやりたいように優をこき使い、香穂はハラハラとしながらもなにもいわずにこの2人と行動をともにしている
「・・・おい初穂・・・何故俺がこんなことをしなければならんのだ・・・それもせっかくの修学旅行の自由行動で・・・」
「あんたね〜・・・昨日私達をあれだけのトラブルに巻き込んでおいてそういうこと言うの」
「バ、バカ!ありゃー俺だって巻き込まれたんだよ!巻き込まれたんであって巻き込んだんじゃねー!」
「・・・巻き込まれたって・・・昨日の彼女に?」
彼女とはもちろん通称”遺跡荒らし”こと染井 芳乃のことを指す
そしてもちろん優の言い分は正しく、毎度のごとく芳乃に巻き込まれたことは言うまでもない
だが初穂に芳乃のことなどがわかろうはずもない
「そう、俺はあいつに巻き込まれたのだ」
「・・・なに胸張っていってんのよ・・・それに自分の責任を女に押し付けるなんてあんたも男らしくないねぇー」
「ば、お前はあいつのことを知らないからそんな風に言えるんだよ!」
「ふんっ、嘘つくんならもっとマシな言い訳考えなさいよね」
一蹴に付される優
「もう今日は徹底的に荷物を持たせるからね!お父さんへの土産とかいろいろあるんだから!」
「お、おい・・・勘弁してくれぇ〜。俺昨日のこととかあって全然観光なんてできてないんだぜ」
「問答無用!」
「ぐぞぉ〜、これもみんなあいつのせいだぁーーー!!」
天に向かって咆哮する優
その光景に香穂もクスッと笑っている
そして・・・
「・・・優ちゃんてば・・・なんだか楽しそうね」
ソフトクリームを口に運びながらその優達を見つめる少女、染井 芳乃その人がいた
修学旅行、自由行動とはいえそのコースはどこも似たようなものである
そして優の修学旅行は己の楽しみ以外のことに振りまわされ、終わるのであった
そのため優は後日修学旅行の感想文でこう書くことしかできなかった
『・・・・・・・疲れた・・・・』と
-アーカム東京支社-
山本「優、どうだったんだ今回の初めての国内旅行、しかもそれが修学旅行だってはりきってたじゃないか?」
優「・・・ああ、楽しかったぜ、賢者の石は見つけるは、忍者達と戦うは、おまけに自由行動まで潰されちまったからな・・・」
山本「おいおい、護衛のエージェントはちゃんと翌日には送っていただろ?」
優「ああ、全て片付いた後でな」
山本「フゥー、当分機嫌は直りそうにないな・・・」
優「これというのもアイツのせいだ・・・」
山本「アイツ?なんだ知り合いにでも会ったのか?」
優「ああ、この世でもっとも会いたくなかった奴にな」
山本「そうか・・・さて早速で悪いんだが優、これが次にお前にやってもらいたい仕事の資料だ」
優「おいおい山本さん・・・俺修学旅行中でも仕事してたんだぜ」
山本「なに言ってる!あれは休暇ということで扱われてるからもうお前にやってもらいたい仕事は山積みだぞ」
優「・・・俺っていったいいつ休めるんだーーーーーーー!!」
優の苦悩ととは対照的に外の天気は晴れ渡り、道行く人達には笑顔が満ちていた
後書き
はい、お気づきの方も多いと思いますが、これはredさんの「awake」にて開催されていた”御神苗優祭り”に私が出品させていただいたお話です。
原作補完的小説になってますが、私としてはあの優の修学旅行編にもうちょっと補足したかったためにこのようなものとして書かせていただきました。このような機会を与えてくださったredさんには感謝ですね
ただ…まじで締めきりがやばかったような記憶が残っております(苦笑)