-SPRIGGAN-

あの大槻達樹の極めて平凡(?)な一日…

writtten by parasite




バンッ

「御神苗さん、冗談じゃないっすよ!」

「ど、どうしたんだ達樹?」


ものすごい剣幕で所長室のドアを開け入ってきた
新米スプリガンの大槻達樹の様子に山本は面食らう

だが達樹は山本には一瞥もくれずすぐさまキョロキョロと所長室の中を眺めまわす


「あれ?御神苗さんは?」


御神苗がそこにいないことやっと山本の存在に気がつくと
達樹は先ほどまでとはある程度落ちついた口ぶりに戻る

そして今自分がなにをしたかに気付いた
達樹はただ山本の前でアハハと笑うしかなかった

その様子を見た山本はやれやれとため息をつくと読んでいた書類をたたむと


「何事だ達樹!」

「あ、いや…御神苗さんがいるのはここぐらいだろうなと思って…」

「そうそういつも優はここ(所長室)にいるわけじゃないだろ」

「アハハ、考えてみればそうっすね…」

「一体優がどうしたというんだ達樹?」

「聞いてくださいよ山本さん!御神苗さんってば……!!」

「御神苗さんってば昨夜俺がスプリガンになったお祝いだとか言っておきながら
あろうことかジャンさんまで呼んで……
酒代の全部払い俺にまわしてきたんですよ!」

「!?」

「聞いてんですか山本さん!」

「ん、ああ…でもそれだけなのか?」

「それだけって……見てくださいよこの請求書!」


達樹は山本の前にその請求書を叩きつける


「何々?…2万?」

「よーく見てくださいよ、桁が一つ足りないでしょう桁が!」


言われて確認してみると確かに桁を一つ読み違えていた


「……20万か!?」

「そーです!だいたい俺なんかその飲み
無理矢理付き合わされたんですよ!」

「ま、まぁ大変だったな達樹…」

「『大変だったな』の一言で片付けないでくださいよ山本さん!」

「だが私にはどうしようもないぞ」

「スプリガンとはいえまだ高校生の俺に
20万なんて大金あるわけないじゃないですか!
今だって少ない給料のほとんどは
(バイクの)新車代にあててんですから」

「そ、そうだったな」

「それなのに御神苗さんとジャンさんてば俺に請求書押し付けたんですよ!」

「だいたい飲んでたのだって
御神苗さんとジャンさんがほとんどで、
俺なんか高校生ってだけで烏龍茶しか飲ましてくれなかったのに!」

「それは優達が正しいぞ達樹。
酒はちゃんと二十歳を越えてから
…こら、私の目の前で堂々と煙草を吸い始めるんじゃない!」

「えっ?あっ!」


山本はサッと達樹から煙草を奪い去る


「何するんですか、別に先公じゃあるましし!」

「達樹、まさか学校でも吸ってるんじゃないだろうな?」

「え!?…ま、まさかー学校じゃあ吸ってませんよ」


引き攣った笑いで答える達樹

その様子から誰がどう見ても嘘だと分かる仕草であった


「じゃ、じゃあ御神苗さんもいないみたいなんで俺はこれで!」

「ちゃんと学校にも行けよ、任務はないんだからな」

「気が向いたらちゃんと行きますよ」

「おい!たつ…」


山本が呼びとめる前にドアをバタンッと閉めて達樹は出て行った


「ふ〜やれやれ…」



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昼休み、達樹は堂々と遅刻で教室に入ってきた

結局御神苗は見つからなかったので山本の言う通りに学校へと遅刻ではあるがやってきた


「う〜〜〜っす」


かったるいそうに一応はクラスメートに挨拶する

そして自分の席にドカッと座るとそのまま何をするでもなく窓の外を眺める

達樹が入ってきたときは一瞬ピタッと教室が静かになったが、すぐにまたガヤガヤと皆騒ぎ出す

もう達樹の遅刻には全員慣れたという感があった

だがその中でも一人だけ達樹に近付いて行く者がいた


「おはよう達樹君。今日も遅刻?」


クラス委員の阿川衛である

毎度毎度達樹の遅刻癖を治すべく口やかましく注意しにやって来る


「あ、おはよう委員長どの」


達樹も衛の姿を認めるとニヤリと笑って答える


「おはようじゃないわよ!あんた今何時だとおもってんの!」

「えっと〜…今は8時半、まだ始業時間前だと思うぜ」


時計も見ずに片手を顎に乗せ衛を見つめながら言い放つ

明らかに衛をからかっている口ぶりであり、
そのことを衛自身も分かっているために怒りが込み上げる


「もう1時よ1時!あんた頭だけじゃなくて時計まで壊れてるの?
だいたい今日の遅刻の理由はなによ!」

「いや〜、俺ってば身体弱いから」


達樹はふざけて言う。

もちろんこう言った後の相手の反応を見るのも楽しいのだ


「達樹ーーーー!!」


その達樹の思惑通りに怒りの声をあげる衛


「……」

「…なによその目は!」

「べっつに…ただ……」

「ただ?」

「ただ疲れねーのかなってな」

「なぁっ!?大きなお世話よ!って来た早々どこ行くのよ!」

「便所。それともついてくるか?」

「さっさと行きなさいよ!」

「へぇーへぇー」

「まったく、何考えてるのよ…!」


ポケットに両手を突っ込んだまま達樹は軽足で教室を飛び出して行く

その後教室からは今まで達樹と衛のこのやり取りを眺めていた
クラスメートの大爆笑が達樹の耳に入ってきた



達樹はトイレの前を通り越して屋上へと続く階段を
一段飛ばしで登って行くのであった

屋上には危険防止のために『立入禁止』の
張り紙が掲げられ、扉には鍵がかかっている

だが達樹にはそんな鍵はあってないようなものだ

胸ポケットから一本の針金を取りだし鼻歌交じりにガチャガチャやると、
しばらくしてガチャリッという音が聞こえる

様々な研究機関への潜入という任務から
このような錠前破りなど達樹には手軽にこなせる


「へっへ、一丁上がりと!」


そう言って達樹は屋上の扉を開けて、
そのまま給水ポンプそばまで上がっていく

目的は…


「さ〜て、うるさいのがいなくなったところで一服一服と♪」


制服の内ポケットから今日自販機で買ってきたばかりの煙草を取り出すと、
包装フィルターを剥がして中から1本取り出す

そしてゴソゴソとズボンのポケットからライターを
取り出すそのまま咥えている煙草に火をつける


「ふ〜〜〜」


そして咥えたまま煙を吐き出し人心地着く


「やっぱ誰もいないところでの一服は格別だー!
なにしろ小うるさい衛もいないし、任務の連絡も来ない」

「それにこう天気がいいとね〜」


達樹は両腕を空に向って突き出す


「ふぁ〜〜〜」


おもむろに欠伸をすると、達樹は目をゴシゴシとこすり
ボケェーッと空を見上げる


スプリガンとして命のやり取りのない一時

戦いの場にはない緊張感


そんなもののない平和な学校

達樹はその平和な一時を噛み締めるのであった









「………」

「………ハックション…」

「…ん?」


うっすらと目を開けると目の前は星空広がる夜空であった


「やべっ、寝ちまった!」


昼に屋上にあがり、そのまま眠ってしまったのであった

そして今は当然夜20時を回ったいる


「やべー、やべー…うっかり眠っちまった」


達樹はそう言いながら腕を伸ばして伸びをする

そして首をコキッ、コキッと左右に傾げ眠気を覚ます


「さってと、学業も済ませたし帰るとしますか」


学校にいること、それが達樹にとっての学業の認識なのである

そして屋上からフェンスを乗り越えて給水管に捕まると
そのまま一気に一階までショートッカットよろしく飛び降りる

こんなことも訓練を経ているので達樹には楽勝なことだ

そしてポケットに両手をつっこんだまま小走りで校門をくぐり家路につく

ふと夜なのに明るいことに気付いた達樹は空を見上げると今日は満月であった

あの自分にとっては忘れられない月での出来事


「ヘヘッ、今日は満月だったか…じゃあ今日は月見酒と洒落こむか」


そう心に決めた達樹は近くの酒屋の自販機で誰かに見つからないように酒を数本購入する


「今日はあの人達もいないからな♪」


達樹は目と鼻の先の自分のマンションまで小走りするのであった



だが!!



「〜♪」

マンションに入った達樹は鼻歌交じりに自分の部屋の鍵を指先でクルクルと回し、
自分の部屋の前まで来ると素早く鍵穴に差しこむ


「あれっ?」


だがこの時達樹は自分の部屋の鍵が開いている事に気付いた

出掛けに締め忘れたかとも思ったが、ちゃんと鍵をかけたのは覚えている


「…まさか…」


この時達樹の思考には自分の考えが間違っていることを願った

そしておもむろに扉を開く


「おぉ、遅ぇーぞ達樹!」

「………」


だが虚しくも結果は達樹の思ったとおりであった

テーブルにはいつのまにか昨夜と同じくジャンと、御神苗がいるのであった

しかもジャン達の目の前には大量の酒の空瓶が置かれている

そしてジャンは目ざとく達樹が自販機で買ってきた酒に目を止めるとサッと奪い取る


「おっ、気が利くじゃねぇーか!さすがはよくできた後輩だ」

「な…なんで今日もお二人がいるんですか!」

「バーロ、今日はお前のスプリガン祝いの二次会じゃねぇーか!」


この一言で連日の達樹にとっては酒の飲めない宴が始まり、達樹の一日は終了するのであった



…余談ではあるが翌日には三次会が催されたのはいうまでもなきことである




…fin


後書

これはみかん嬢の『メシダイ国家』にて開催された達樹祭りに出展していた作品である。
達樹関係書くのでこれで……3本目か。しかも全部投稿関係!(爆)
だってみんながいうほど俺ってば達樹ファンじゃないし。ってわけであんま出さない、っていうか書けないのが現状!どうしても御神苗とキャラが被ってしまうのも否めず、自分の中で一番達樹を書けたと思っているのはエンジェルぴゅうにぃに投稿していたルナヴァースのエンディングを小説化していたやつかな?(笑)
まぁそのうち機会と構想があれば達樹書いてみたいね。

執筆日   2001年2月末
後書作成 2001年8月18日


Novel