花宴　Hana･no･utage．
Act1-3
2001･2･4（Mon）
This story is written by Azuma Miyako.

＊

日差しのない、暗い礼拝堂。
その静謐を侵そうとする、侵入者の気配がある。

（何者だ？）

自分には芳乃達、巫女姫のように特殊な力はない。
だが、同系の血を継ぐ者なので、勘は鋭い。

組織は一族で構成されているので、
すべて血縁でもあった。

宇都征紀は礼拝堂の外に右脳を集中する。
堅牢な黒い扉の、外。

（強いエネルギーをもつ、誰かがいる）

「人を、呼びましたか」

床の上で眠る芳乃に、問いかけてみる。

（一族内部の内政を、
外部の者に知られるのは避けたい）

それでなくとも、以前、鷹峯の屋敷庭にて、
沙乃姫を外部の者が諜報していた事実がある。

あの諜報員は、
確かアーカム財団の係累の者だった･･･。

一族の活動を知られず、悟られず、
なきもののように隠然と存在する。

それが一族の唯一無二の掟である。

派手派手しい権力や豪奢な屋敷など、要らない。

必要なものは、この国の内政を
掌握する権力の、一部。

千年以前から朝廷に仕え、一族はその権力で
他を牽制してきた･･･。

「仕方ない」

排除できない戦闘力をもつ、外部の者。
これ以上の敵対は、被害を広げるだけだ。

撤退を決める。

「またむかえに来ます」

床の芳乃に、スーツの上着をかけてから、
扉にむかった。

扉の外は、白い陽光。
眩しさに目を細める。

オオミヤサクラの花弁が降る。

その視界の中央で、
"侵入者"が最後の部下を排除するところだった。

「･･･少年？」

侵入者は、紺色の詰襟の少年。
まだ高校生に見えた。

少年が部下の右脇腹をミドルキックでとらえた。
蹴る瞬間、軸足のカカトを内側に返し、
スピードと破壊力をより増したフォーム。

頭ではなく、訓練の結果、
体が覚えたというような見事な蹴りだった。

敵を、地面に伏させ。

こちらをふりむく。

征紀が見ている事は、とうに承知であったらしい。

早春の風にゆれる、茶色の髪。

予備動作なく、ハンドガンを征紀にむけた。

けしてゆるがない、視線。
静かな闘志を内在させて。

その少年が、臆せず言った。

「あんたがあいつらの大ボスか？」

「そうです」

「あの人は？ソメイヨシノ」

「この聖堂の中にいます。」

「無事か？」

返答次第では、ためらわず撃つ。
無言の応答。

「無事です、眠っていますが」

「オーケー。
　俺も、あんたが抵抗せずこの場を
　離れれば、撃たない」

「了解しました。
　ところで、私の部下達は？」

「こちらも寝てるだけ。
　できるだけ殺傷は避けろって、
　俺のセンセイはうるさくてさ」

「先生？」

「ソメイヨシノの友達、と本人は自称してたけどね。
　貸しが山程あるって」

その人物が、この少年をさしむけたに違いなかった。

「あなたの先生に伝えてください。
　今回は私は去りますが、
　また彼女をむかえに来ると」

「オーケー。
　だけど、俺の先生、むちゃくちゃ強いぜ？」

「どれほど？」

「勝てるとしたら、世界で俺だけかな。
　まあ、今すぐは俺でも無理だけど」

もう行け、とばかりに少年は
視線を学園の外門にむけた。
征紀がそれに応じる。

ふりかえらず、桜の並木道に消えた。

それを確認してから、銃を下ろす。

そして聖堂に入った。

大理石のモザイクの床。
その床に横たわる、人。

床を駆けて、その人に近づいた。
見下ろす。

セピアの長い髪。

たぶん、目標の人物、"ソメイヨシノ"だ。

（ふーん、美人だ。）

その体の上に、（あの男のものだろう）
スーツのジャケットがかけられている。

近づいて、肩を揺らす。

「おーい、大丈夫か？」

呼ばれて、かすかに目を開けた。
髪と同じ、セピアの目。

「･･･優？」

紺色の詰襟を見て、誰かの高校時代と錯覚したらしい。
しかし、すぐに相手は間違いに気づく。

床に手をついて、上体を起こす。

そしてこちらを見つめた。

「あなた、誰？」

「大槻達樹、スプリガンやってます」

ジョークのように、でも鮮やかに、敬礼をかえしてみせた。

ちょうどその時。
聖堂の外にZXRのエンジン音が聞こえた。

御神苗優のバイクが到着したらしい。

▽TO BE CONTINUE

-パラサイトの感想-

東みやこさんの芳乃小説『花の宴』第三話です
芳乃の危機に訪れたのはルーキーの達樹！
でも達樹の格闘シーン…
うまいな～、私もスプリガン書いててこの戦闘シーンが苦手なんですよね～
次回がまたしても気になる～～～（＾～＾）

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