花宴　Hana･no･utage．
Act1-4
2001･2･11（Mon）
This story is written by Azuma Miyako.

＊

東京都、西新宿、アーカムビル。
アーカム財団東京支部の本拠である。

そのビルが御神苗優と大槻達樹の、
日本での日常の居住所であり、
現在は、達樹の最終研修の訓練所にもなっている。

もっとも施設は簡単なトレーニング室と
射撃場のみであったが。

そのビルの、医務室。

特殊任務に着く御神苗のために、
簡単な外科手術を行える常備もある。

その医務室で、染井芳乃が、
麻酔銃の狙撃で負った傷の
診察を終えたところだった。

白衣の医師の説明を受ける。

ソファの芳乃と、その横で付き合う御神苗。

「麻酔銃は狙撃時の外傷よりも、
　麻酔薬による後遺症を気をつけるものです。

　薬品量が多すぎると、
　それは神経麻痺の原因になります。

　今、手足にしびれはありますか？」

　芳乃は，両手の平を握ってみる。

「指先に、少し。それだけ」

「そうですか。
　では数日、安静に休んでください。

　その上でしびれがとれないようであれば、
　また治療法を考えます。」

「わかったわ」

　そして医師は、
　これから打ち合わせがあると、
　部屋を出て行った。

　のこされた御神苗と芳乃。

　横にいる御神苗は、芳乃を観察する。
　少し、顔色が悪い。

「あのさ、芳乃」

「なに？」

「山本さんが、必要なだけ
　このビルに滞在して、いいってさ。

　ここは"鷹峯"も手が出せない
　安全地帯だしな。」

　（ま、俺もいるから安全･･･）
　
　などと、思ってみる。

　長い付き合いのくされ縁だ。

　この際、この件に最後まで
　付き合ってみるのも悪くない。

「ありがと。
　実はわたし、考える時間がほしかった、
　･･･鷹峯と戦う前に」

　自分の過去と、向き合う前に。

「了解。そういうことは、
　気が済むまで考えた方がいいからな」

芳乃の数日間のビル滞在が決定した、その時。
医務室の扉が開いた。

「先輩、彼女の具合、どうですか？」

大槻達樹である。
ユニクロのオレンジのブルゾン。

制服から、もう着替えたらしい。

「大丈夫らしいぜ。」

「よかったですよね、無事で。
　先輩の彼女、あの男にさらわれる
　ところだったんだから」

　御神苗、複雑な顔。

「あのな、達樹。
　あの礼拝堂の事は礼を言う、サンキューな。

　だけど、芳乃は"俺の彼女"でない」

　大槻達樹、やれやれと思う。

（なにも本人の前で訂正をいれなくても）
（なんつーか、本当に野暮だよな）
（先輩、気づいてないからさらにシンコク）

　しかし、これが御神苗優の常なのだろう。
　その隣の芳乃は、涼しい顔である。

「じゃ、ということで。
　俺は外出してきますから」

　ひらひらと手をふる。

「おい、待て。
　これから予定では射撃訓練だろーがっ」

　出て行こうとする達樹と，
　呼び止める御神苗。

「ええっ？　少しくらい遊ばなきゃ。

　午前中は学校、午後は夜まで訓練だけの
　毎日なんて、人生暗いですよ」

「あのなー、訓練は常に必要なんだぜ。」

「大丈夫です、
　俺は才能で訓練不足を補えますから」
　
　それに、と達樹は言い加える。

「だから高校なんて行かない、言いました。
　俺にはそんなもん、必要ないです。
　スプリガンになるんだから。

　それを先輩が行け、と命令したんでしょ」

　「いつになっても口の減らない奴だな。
　　行きたくなるかもしれないだろ？

　　後から後悔しても、遅いぜ？」

　　達樹の目が、一瞬、かげる。
　　それを芳乃は見逃さなかった。

　「後悔なんか、ないです。
　　俺はこのままでいいです。

　　じゃ、先輩。
　　俺、邪魔しちゃわるいから」

　「おい」

　達樹は、ジーンズのポケットから
　キーを取り出してみせた、からかうように。

　御神苗のバイクのキーだ。

　「先輩、またバイクを借ります。」

　「あ、おい、
　無免で他人の単車に乗るなーっ！」

「俺が事故るわけ、ないでしょ。

　ヘリの操縦より、
　よほど簡単ですよ、じゃ！」

　ばん、と扉を閉めて逃げる達樹。

　はあ、とため息をつく御神苗優がのこされた。
　
　それを見ていた芳乃が、口を開く。
　
「教官役も、大変ね。
　でも、彼の言う事も外れてないと思う。

　あの子、才能あるでしょ。」

鷹峯側に油断があったにせよ、
ただ１人であの人数を
撃退してみせたのだから。

　「まーね。
　スプリガンのコード取得キャンプを
　同期の最高成績で突破した逸材。

　スプリガンは常に必要だから、
　上層部も早く、達樹を現場に
　送りたがっている。」
　
　「いけないの？
　　彼も早く任務に就きたがっているんでしょ」

　「それはそうなんだが。

　　俺はまだ、達樹が選んで
　　いないと感じるんだ」
　
　　芳乃が首をかしげた。

　「選んでいない？」

　「そう、スプリガンを決意した、ではなくて、
　　何かから逃げようと走っていたら、
　　偶然、スプリガンになっていた、という印象･･･」
　
　「原因は？」

「それがわからないから、
　俺も考えるんだが。
　
　とにかく、今、達樹が任務に就いても駄目。
　あいつがつらいだけだから。

　達樹が、最終訓練中に、
　スプリガンになる事を
　自分で"選んだ"ら、
　その時は俺もあいつの意志を尊重する。」
　
　半ば無理に、達樹に通学させているのは、
　"選ばなかった"時のためだった。

　普通の高校生になるといい。

　スプリガン・御神苗優は、
　その最終決定権を委ねられていたのだ。

　御神苗優は、芳乃に対しては、
　それほど心配はしていない。

　自分のこれからは自分で決めるだろうし、
　力が必要なら、借りにくるだろう。

　しかし大槻達樹については、危うさを感じる。

　窮地の時の、助けてという、
　その一言を知っているだろうか。

　「達樹が年下だからかな、
　　あれこれ心配するのは」
　
　つぶやいてみる。

　もしかしたら、自分が17歳の時も、
　周囲の大人達は、同じ心配したかもしれないけれど。

▽TO BE CONTINUE

-パラサイトの感想-

東みやこさんの芳乃小説『花の宴』第五話です

次回がまたしても気になる～～～（＾～＾）

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