第十話「相対」



「はぁー、はぁー…い、生きてるわよね…私達?」

「ああ、みたいだな…李梨はどうだ?」

「わ、私もなんとか大丈夫よ……ちょっと転んだ時に足を切ったぐらいだから」

手榴弾の爆発の余波による落盤から逃れた3人

すでに優と芳乃は呼吸を整えているが李梨はいまだに息を切らしたままである

そのため3人ともしばしの休息をとっていた

「しっかしよくあの落盤から無事だったな」

「ええ…誰かさんのおかげでね……」

話をずらそうとする優にすかさず突っ込みをいれる芳乃

さすがに優も李梨や芳乃の顔を見ることはできずあさっての方向に視線を向ける

「………」

「わ、悪かったよ…」

だがなにも言わない2人にさすがに場が悪いとでも感じたのか、焦りながらも謝る。額に汗を浮かべながらのその言葉にはどこか同情を誘うような光景でもある

「どうやら遺跡を壊してまわるのはスプリガンもお手のようね」

「……」

そんな優を見越してか、芳乃はシレッと言い放つ

その芳乃の言葉に優は正直返す言葉がなかった

「はぁ〜…お前に言われるとなんだか無性に自分が情けなくなる」

「………」

「…それよりもここは…どこなの?」

その李梨一言で改めて周りを見ると、確かに今までの場所とは違っていた

周りの壁は金属でできており、薄っすらと輝きを放っているようにも見える。ふと優はその金属に疑問を抱いて凝視する

それが優にはよく知っている金属のようにも見え、そのため一筋の汗が頬を伝う

「う、嘘だろ…」

その疑問を確かめるために優はゴンゴンと軽く壁をたたいてみて確認する

「……こ、これ…オリハルコン(精神感応金属)じゃねーか…」

「嘘!」

優のその一言に芳乃も慌てて壁にかけよって自分の目、肌で確かめる

そして腰からアーミーナイフを取り出してその柄の部分でコンコンッ、と叩き簡単な強度なども確かめてみる

そして芳乃も優同様に頬を一滴の汗が滴り落ちた

「ほ、ホント…これってばオリハルコン……」

そして芳乃はぐるりと周りを見渡し、自分たちが来た方向、そして前方を見やる。芳乃の見渡す限りの壁は全て薄っすらと光を放つような壁が広がっている

「オリハルコン!?」

一人疲労からも事態をいまいち掴んでいない李梨であるが、2人の様子からただ事でないことを察知する

そしてオリハルコンという言葉を記憶の中から検索し始め、思い当たる言葉にぶつかった時李梨はおもむろに立ちあがった

「オ、オリハルコンって……“賢者の石”から精製されるっていう ……あ、あの!?」

李梨の問いに優はただ静かにうなずく

その返答を見た李梨も見渡す限りのオリハルコンで埋め尽くされた内部に視線を奪われた

「信じられない……」

李梨のそのつぶやきは優や芳乃の言葉をも代弁するものだった

李梨自身、話では希少なもので滅多に、いや見る機会など皆無であろうそれが目の前に大量に使われているのだからなんと言葉に出せばいいのか言い表せない

「ま、まさか!!ねぇー優ちゃん ……私の考え間違えてる?」

「いや、俺もその言葉をそっくり返して尋ねたい」

「じゃ、じゃあこれって…ここ全部オリハルコンでできてるの?」

「あ、ああ…信じられないけどそーみてぇだな…」

優も芳乃もただ驚きの表情を浮かべるのみ

優も芳乃も多少オリハルコンというものに触れてきたため李梨ほどではなかったが、それでもやはり驚きは隠せない

ただでさえ希少なオリハルコンがこうもこの遺跡内部にふんだんに使われているのである

「おいおい…こんなにオリハルコンがあるなんて聞いたことねーぜ……」

「ホント…これだけあったら一体いくらぐらいになるのかしら?」

だが優と芳乃の違うところは、芳乃の頭の中ではすでにここのオリハルコン全てを金に換算する思考へと移行していた

「まぁ経済バランスが一気に崩れるのは間違いねぇーな」

「ああ〜、今だけでも結構持って帰れそうねこれって♪」

「あのなぁ〜…」

だが優はそう言いながらもこれだけふんだんに使われているオリハルコンにすでに注意を奪われていた

いったいどうやってただでさえ希少金属と言われたオリハルコンをこんなに集めたのか

今までに優が知っている文明には思い当たるものはなく、未知の文明への好奇心が膨らんでいく

未知への探求、これも優が考古学に関心を抱く最大の動機である。このへんは実の父の血筋か、それとも養父の教育による影響か、優にもわからない



そんな遺跡の内部に気を取られながら内部を歩いているうちに、芳乃の様子がさっきまでと違うことに優は気づく

先ほどまで視界に映るふんだんのオリハルコンに喜々としていたのに、今は両腕で自分の体を抱きしめるように震えている

「どうしたの芳乃、傷が痛むの?」

優よりも先に芳乃の様子に気付いていた李梨が尋ねる

だがその質問に芳乃は静かに首を横に振り「違う」と告げる

「おい、まさかなにか感じたのか?」

「感じる?」

優の意味不明な言葉に李梨は優の言葉を繰り返す

「ああ、芳乃はトレジャーハンターとしてだけでなく、霊媒師……まぁイタコみたいな口寄せなんかの能力を代々受け継いでる一族なんだ。だから霊感なんかにも結構鋭いのさ」

優は芳乃の霊媒体質について簡単に李梨に説明する。もちろん李梨が理解できるのはその時点では話半分である

「で、どうなんだよ芳乃?」

優の問いに、やっと落ち着きを取り戻し始めた芳乃は額に汗を浮かべながらも応え始める

「ええ、さっきまでの骸の群れとは異質な……そう、あの『帰らずの森』で感じた時とかなり似てるわ」

その一言で優は芳乃の言いたいことがわかったのか、矢継ぎ早に次の質問へと移る

「その場所、わかるか?」

「ええ、この道を……まっすぐ」

芳乃は指で前方を示しながら告げる

「よしっ」

芳乃が告げた方向に向って優は真っ先に歩き出し、それに続いて李梨、そして芳乃も続くの









「ここ……この奥から人間の御霊を感じるわ」

芳乃が告げた先は、オリハルコン製の壁であった

「でも、ここには壁しかないわよ…」

李梨もその壁に触れながら2人に告げる

「ああ、……となると……」

優は少し考える素振りを見せると

まわりの壁を探り始める、所々たたいてみたりなどして他と反響の違う壁がないかと探る

暫くすると一箇所だけ他とは音の異なった音の場所を発見する

「…ここだな」

優がその場所をさらに丹念に調べると、その壁の部分が突如飛び出してくる

「うおっ!!……へ、やっぱりな」

優がそう呟くと、その飛び出た壁には押しボタンのような凸の部分がある

優は迷わずにそれを押すと、芳乃が示した壁の一部が鈍い音を立てながら開き出し優達3人の前に新たな空間が現われる

そこは狭い空間だが、中の壁もオリハルコンで覆われている

いや、それよりも何か今までの場所とは言葉では表せない異質な空間だと3人には感じられた

「ヒッ!!」

そして優は目の前にミイラ化した肢体が禅をする格好でたたずんでおり、それを見た李梨は恐怖から後退さる

「……芳乃、お前が行ってた御霊は……これか?」

「ええ、そのようね。さっきと同じ御霊がこの人から感じられるわ」

「“帰らずの森”で見た即身仏とは違うようだな…」

「ええ………これからは高貴なというか神々しさのようなものは感じられないわ」

「……じゃ、とにかくこれはお前の専門分野なんだから頼むぜ」

「わかってるわよ………」

芳乃はそう言うゆっくりとそのミイラ化した肢体へと近付き、目を閉じ手をかざす

その芳乃の集中してる様子が、口寄せという行為をはじめてみる李梨にも伝わり、その緊張感からゴクリと喉の奥で飲みこむ音が大きく感じられる

どのくらいの時間が経ったのだろうか、李梨にはこの瞬間だけでも20分にも30分にも感じられ逃げ出したい衝動に駆られる

だがそんなことを考えているうちに芳乃の目がゆっくりと開き始める

李梨はその芳乃の目を見たとき、先ほどまでとは違った眼光、まるで別人のような出で立ちに背筋が凍るような思いを感じる

李梨のその思いを他所にその出で立ちの芳乃はゆっくりと口を開く

「私の永久(とこしえ)の眠りを妨げるのは誰だ……」

「なっ!?」

眼光だけでなく、その声まで芳乃とはまるで違うことに李梨は驚愕する

「……俺達はこの遺跡に入ってきたものです。こんな空間に入っていたあなたは何者です?」

優は帰らずの森同様に丁寧な言葉で芳乃のそれに語り掛ける

「……………なるほど、これが再び世に現れてしまったということか…」

「あなたはこの遺跡のことを知っているのですね?」

「……これを創ったのは私。 いや、正確には私達だからな…」

「なっ!?」

「しかし私は確かにこの遺跡を地中深くに埋めたはず………しかしお前達が入ってきたということは再び浮上してしまったということか」

「……あなたが造り、そして封印しようとしたこの遺跡はなんなのです? しかもこの遺跡中のオリハルコンはどうやって!?」

「その前に我が問いに応えてもらおう……人は今の時でも争いを続けているのかを」

「!?」

「……その問いの応えによって我もお前達に応えてやろう」

「争いをって…優、この人はなにを?」

「さぁな…ただその応えとこの遺跡がどっかで繋がっているだろうことは予測がつくけどな」

芳乃に取り憑いた"それ"の問に対して李梨と芳乃はヒソヒソと語り出す

「さぁ、応えよ!人は争いを止めたのか。それとも未だに続けているのか!!」

「応えは……Yes、続けている………だ」

「優!!」

「………」

「応えたぜ、あなたの知りたかったことは。次はこっちの質問にも応えてもらおうか」

「……そうか、人はやはり争いを続けておるか……やはり人とはいつまでも変わらぬものなのか…」

「ああ、哀しいけどこれが現実さ。理想は掲げても、その理想のために人は争う……まったく因果なものさ。 ……だけどな、そんな現実を憂いてるヤツだっている。決してあんたの言う人間だけが全てじゃないぜ」

「……そうか。 確かにお前の言う通り人とは憂いながらも争いを止められぬ生き物なのだ。そしてそれは今も変わってはおらなんだか…………」

"ソレ"は優の言葉に納得するものを感じたのかそのまま暫く黙りこむ

だがその沈黙は再び"ソレ"が口を開くことによって破られる

「………よかろう…お主達はかつて桀(けつ)と呼ばれた王がいたことを知っておるか?」

「桀?」

その言葉に優、そして李梨も反応する

「その様子だと名前ぐらいは知っておるようじゃな……そうその桀と呼ばれる王がかつておった。それまでその国は平和のもとに繁栄を築いておった…信じられぬかもしれぬが争いなどとは遠い時でもあったのだ。
だがお主達もわかるとおり平和なfどというものは一時の平和にしか過ぎぬ……いや、今にして思えば平和であったがために起こった出来事なのであろう…
王である桀は沫己(ばっき)という女人に溺れ、官の意見を聞かず、あまつさえ殺傷までも行なった。そしてやがて国は乱れ…王が事態に気付いた時にはすでに民衆の反乱が起こっておった
その事態を省みていた当時の忠臣の一人が私に命じていたのだ……争いを鎮めるべく方法をな」


「鎮める方法?」

「……そうだ…その方法とは……」

だが言いかけた瞬間、突如遺跡内に振動が響き渡る

「な、なんだ!?」

「………」

優も李梨もとっさに壁に捕まってなんとか体勢を整える

だが口寄せ中であった芳乃はまともには立っていることはできずにその場に倒れこんでしまった

「な、なに!?」

「さっきの崩れによる振動じゃない…おい、なんだよこの振動はぁー!!」

優は口寄せによって別人格になっている芳乃に向って叫ぶ

だがその乗り移られている芳乃は黙ったままである

「おいっ!!」

それでも優は詰問を止めずに続ける

「………どうやらお主達のほかにもこの遺跡に入っているものはいるようだな…」

「なんだと!?まさか!!」

「ここの制御室にその者はおる……しかも発動までさせおった…」

「ちぃっ、米軍のヤツラか!! おい、このままだとどうなるんだよ?」

「………」

「おい!!」

「…決まっておろう」

「なに?」

「生きとし生ける人間の ………生命活動の停止だ……」

「なんだと!?」

「本来の私の目的とは違ってしまい、呪われた物へとこれは変わってしまったのだ。だからこそこれは地中で私と共に地中で永久(とこしえ)の眠りに就くべきだったのだ」

その言葉に優は煮え切らないものを感じる。今は考えるより行動する時だと感じるからだ

「ならどうすれば止められるんだ!!」

「制御室にて遺跡の発動を止めさえすればよい」

「その制御室は!?」

「一本道だ……ここまで来たのなら迷うこともあるまい」

「よし、李梨!俺は先に行く、芳乃を頼んだ!!」

「え、優!!」

李梨が呼び止める間もなくすでに優はそこを飛び出し、駆け出していた

「頼むって……」

言いながら芳乃は後ろ目に芳乃を見つめるが、倒れたままでピクリとも動いていない

「ど、どうすればいいのよ〜〜〜」

その様子に李梨は頭を抱えながらただ途方にくれるだけであった

だが李梨には芳乃を放って優の後を追うわけにもいかず、ただここでジッとしているしか選択肢はなかったのであった














「フハハハハ、動いた!やはり伝承のとおりだった……これでこのエデンは私の思いのままだ!!そしてこれで私の夢も実現する……」

制御室にて遺跡の発動に一人狂喜するグリス

そして再び胸ポケットから銀色のロケットを取り出す。そのロケットは所々錆付いており、古いものだとわかる

グリスはそれをしっかりと握り締め、マスクの下で静かに目を閉じる天を仰ぐ

だが背後でジャリッという足音が耳に届く

「……来たか」

グリスはゆっくりと振り返るとそこにはたどり着いたスプリガン、御神苗優がいる

「待っていたぞ……思っていたよりも早い到着だ」

「へっ、なんか歓迎でもしてくれるのかよ」

優は返事など期待せずにただグリスに向って述べる

だが当のグリスは相変わらずマスクを被ったままの応対で、優にその顔を晒さない

だがその声は明らかに興奮と嘲笑が入り混じっている

「歓迎か……もちろんだ! そう、このエデンの発動も歓迎の一つさ。エデンは既に動き出している」

「バァーロー!これを止めなきゃヤバイってのはお前だってわかってるだろうが!!」

「フッ、そんなことは私にはもはや関係のないこと。 ……そして止めたければ私を倒すことだな」

「………お前には何を言っても無駄らしいな。 そうなりゃ、言われなくたってやってやらぁーーー!!」

その言葉とともに優は猛然とグリスに向って駆け出した



to be continued


後書

えっと〜これもいつ以来の更新かな?5、4、3、2………よ、4ヶ月前………
いや〜時間の経つのは早い早い(ウンウン)
まぁ芳乃の口寄せ、それによる昔話などを草稿してたらこんなに時間が経ってしまいました(嘘)

さて、次回は相まみえた優vsグリスをお送りします!!そして何故グリスがこの遺跡をエデンと呼ぶのか!そして遺跡の機能は!?発動の行方は!?ボリューム度120%で伝えられることでしょう!!(多分)
ってわけであてにせずに、気長にお待ちくださいませ(笑)


あ、最後にもう一言……以前も後書で述べましたが………私はmale、男です!!決して女性ではないので!!前回も告知後に、「マジですか?ずぅぅぅぅぅぅっと女の方かと……」という声が感想と共に………何故?私は男!!女装は小学校の時の学芸会と、大学の新歓合宿でしただけです!!あ〜なに言ってるんだろうね俺ってば(錯乱)でもなんで間違われるんだろ?ちょっとそこんとこを教えてもらいたいね(謎興味)

じゃ、思考の切り替えヨロシク!!


作成 2001年6月12日
改訂 2002年7月12日


Trace Eden