第7話「Intermission」




-イタリア-


空はどんよりとした曇り空が広がる

つけっぱなしのテレビでは天気予報が流れており、その予報では午後から天気が崩れると告げている

そしてその部屋の主の心もまさにその曇り空と同じ心境だった

「ったく、最近のはどうなってんだよ!」

その男、スプリガン、ジャン・ジャックモンドは読んでいた新聞に向かって怒鳴る

ジャンが怒っているその新聞記事、そこにはサッカーフランスリーグ、ディヴィジオン1のことが書かれている

そしてジャンの応援するチーム、パリSGの不調がそこには取り上げられていた

フランスリーグの中では毎年タレントは揃っているのだが決定力不足のせいかゴールを割れずにカウンターをくらって負ける試合が続いている

紙面にも『パリSG カウンターに泣く』という見出しが大きく描かれている

「あー、面白くねー!」

ジャンは怒りのままに新聞を放り出す。その時に見開かれた紙面には日本の政治家による汚職事件、アメリカのタンカー沈没事故に関する記事が見える

だがジャンはそんなことには感心を抱かず静かに窓の外に目を向ける

だが外の天気は決してジャンの心の鬱憤を晴らせてくれるものではなく、それ故にますますジャンの不満は募る一方だった

そんな時、病室内に外の廊下からノックが響く

つまらなそうに窓の外を見ていたジャンはドアの方に目だけを動かし

「開いてるぜ」

と一言だけ言い放つ

ドアがゆっくりと開き部屋の中に一人の女性が入ってきた

ジャンはその女性の姿を認めると体を起こして向きをその女性のほうに向ける

「…なんだアンタか。 しかしあんたが見舞いに来てくれるとわな、会長様よ」

入ってきた女性、それは優やジャン同様スプリガン、そしてアーカム財団の会長をも勤めるティア・フラットであった

「あら、どうやら傷の具合はもうほとんど大丈夫みたいね」

「ああ、本当ならすぐにでも出れるけどな」

「嘘言っても駄目よ。今回あなたが負ったダメージは結構響いてるんだから …見ればわかるわ」

「………それでか、ここの医者達がなかなか俺を出そうとしなかったのは。俺はまたてっきり俺の体のことを調べようなんて馬鹿なことを考えてるとも疑っちまったがな」

「あらあら、それでここの医者達の顔に生傷が絶えないのね。でも私はあなたとの約束を破るつもりはないわよ」

約束、それは決してアーカムがジャンの身体を調べないということだった

そしてそれがジャンのスプリガンになるためにティアにつきつけた条件だった

無論ティアはその約束を現在までかたくなに守り続けている

「ああ、わかってるさ……けどそれを言うためだけに来たのか?」

「……今回あなたが守ろうとしたプレートの内容……写しからだけど解読ができたわ。見る?」

ティアの一言に笑い顔を見せていたジャンの表情は一変する

「ああ、貸してくれ。」

その一言にティアは懐から1枚の紙片を差し出すと、ジャンはそれに目を走らせる

「何々……”このプレートを読む者に告げよう………”」




このプレートを読む者に告げよう

我等は過ちを犯した…

人は何故に争いを犯すのか

数多の心の感情から湧くものだと我等は考えていた

我等はその争いを止めたかった

我々のこの力をもってすれば人の愚かさを止められると信じていた

だがそれは我等の驕りであったと気付いた時はすでに遅かった…

間もなく我が国は人知れず滅びるだろう

だが我等が生きた証としてこのメッセージを残したい…

そしてこのプレートを読む者よ……

決して“それ”には触れてはならぬ

それは滅びを招くものである

そして我々の国と同じ道を歩んではならぬ…



「………」

全てを読み終えるジャン

「これが?」

「ええ、解読されたプレートの内容よ」

「だったらなんで………!! くそっ、なおさら米軍なんかに奪われるべきじゃなかったぜ!」

ジャンはこの時己の犯したミスに気付き自らに腹をたてる

ジャンは理解した。何故このメッセージが書かれたプレートがイタリアにあったのかは分からない

だが米軍はそれを知っていたからこそプレートを奪いに来たのだと

そしてそれをみすみす許してしまったのは明らかにこれは自分の失策であったとジャンは悔やむ

「もうひとつ悪い報せがあるわ」

「!?」

「さっき日本の山本所長から連絡があったわ」

「山本さんから?」

「ええ、バダインジャラン砂漠上の調査団が連絡を絶った。そこで北京支部と協力してもらって優に向かってもらったの」

「御神苗に?」

「ええそうよ」

「……御神苗がなんかヘマやったのか?」

「…いいえ、優から2時間ほど前に連絡が入ったのよ…敵と遭遇、そして遺跡内に向かうとね」

「敵!?」

「ええ、優の話ではその敵は…」

「……まさか!?」

「ええ、あなたが報告していた男だそうよ」

「チィッ、こんなところで寝てる場合じゃねー!」

ジャンは布団を跳ね除け立ち上がろうとする

「ぐっ…」

「駄目よジャン!あなたはまだ怪我人なのよ!」

「離せティア!あんな中途半端な甘ちゃんに今回の任務を任せておけるか!」

「いいえ、これは命令よジャン。 おとなしくそこで寝てなさい」

こうでも言わないとジャンは本気でベッドを抜け出して出て行きかねない。だからティアはきつい口調で言い放つ

ジャンもそのティアの剣幕に一瞬驚いたのかその動きを止めてしまう

そのジャンの様子を見据えティアは言う

「優に任せましょう …優だって立派なスプリガンよ」

「ああ、それは知ってる…だが今度の米軍の野郎は今までと違ったんだ!」

「違う?」

「ああ、油断してると御神苗だってやられちまう」

「……でも今からでは遅いわ…」

「………」

「信じましょう優を……」

「くそっ!」

ジャンはそう言い壁に拳を叩きこむ

そしてその壁はあっさりと穴をあけて崩れ去り向こう側の景色が写し出されるのであった




to be continued


後書き

………8月以来約4ヶ月ぶりの更新です(アハハハハハ)
いや〜書こう書こうとは思っていたのですがなかなか執筆が進まなくて
しっかしやっと今回のでこのお話、「TraceEden」の核心に少し触れることができました
今回話の場所をちょっとずらしてジャンとティアにご登場を願いました♪
話の中で中国古代王朝「夏」の登場!そして気になる”エデン”という言葉
次回はどうなるのか……
そしてうれしいことに1月3日でなんとこの作品、連載1周年となります(はい拍手!)
なんとか1周年に次回が間に合えばいいのですが…


作成 2000年12月24日
改訂 2002年7月9日


Trace Eden