第一話「ハーフ・バンパイア」



……………

陽は沈み、空は漆黒の闇が支配しているが、街はネオンの灯りで支配されている

人は闇を恐れて光を創る…

……しかしその男にはその闇こそが己の糧となる



♪〜♪♪♪  ♪♪♪〜〜♪♪  ♪〜♪〜♪

車の中ではもっともお気に入りの音楽が流れている

その音楽を奏でる者が誰なのかはもはやその音楽を聴いているものにもわかっていない

しかし運転中の音楽にノレる曲ならなんでもいいというのが信条だ

運転する、つまりドライヴは趣味みたいなものだからノレる音楽があってこそ楽しめ、不快な音楽を聴きながらの運転などは邪道だというのも一つの考えである


ドライバーの名前は永倉 水無月

どちらが名字だかわからない名前だが、親にそう名付けられてしまったからには仕方がない。もっとも未だに自分自身納得はしていない

そんな水無月の職業は探偵で、歳は20代後半ながらそれなりの経験は積んでいる

業界ではそんなに名が知れ渡っているわけではないため依頼も少なく生活もゆとりがある方ではない。だが依頼達成率は100%という若さの割に驚異的な数字を誇ってもいる(依頼数自体が少ないという噂も…)

そんな水無月にはちょっとした特異体質(?)があった


その夜も水無月は夜、海沿いの国道134号線を小田原から江ノ島方面へ向けて疾走し、その走る走ることがストレス解消の楽しみで、愛車のスカイラインで時速120`で飛ばしている

そのスピードは有に制限速度をオーバーしており、水無月は快適なドライブを楽しみ目の前で道をふさいでいるバイクの集団を車線変更とともにあっというまに追い越していった

やっぱり夜は道が空いていて軽快に運転できると水無月は鼻歌交じりに運転する

夜のためにせっかくの海は見れなかったが、好きな音楽を楽しみながらのドライヴなので別段気にも留めていない


「ふぅ〜……最近は依頼が減ってきたから車を運転してる日の方が多くなってきたな……。早く依頼の数が増えて、儲けてポルシェかフェラーリにでも買い換えたいぐらいだ………」


などと運転を楽しみつつもついつい最近の仕事の具合についての心配ごとが水無月の脳裏をかすめる

今のスカイラインにも不満はないが、やはりポルシェやフェラーリといった車にも憧れはある。ボディーラインもさることながら、その加速性など昔一度運転させてもらった時に感じた興奮は今でも忘れてはいない

だが宣伝不足か、またはその若さのためか、まだそんなに儲けのいい仕事は入ってこないのが現実。探偵という職業がら依頼者あってこそ成立するのだが最近では客足もとんと減っている

しかもたまに来ても家出娘の捜索とか迷子のペット捜し、おまけに浮気などの素行調査までやるはめに陥っている。そしてそれらをこなさなければお飯にも影響しかねないというのだから渋々やる羽目にも

そのとき、考え事をしながらの運転のためにスピードを落としていたのが悪かったためについ先ほど追い越したバイクの集団がいつのまにか水無月の車の周りを囲んでいた


「な……なんだぁ〜!?」


良く見るとそいつらはノーヘルに二人乗りなど、さらには背中に『砂異徒』と書かれた服をみなが着込んでいた

しかも手には木刀やゴルフクラブ、鉄パイプなど手頃な得物を携えている


「はぁ〜………こいつらが『砂異徒』か………」


―『砂異徒』

それはこのあたりでは顔のでかい暴走族集団。リーダーの父親が県会議員の息子だとかで、警察沙汰を起こしても少年法と、優秀な弁護士を雇ってせいぜい事情聴取程度で済まされている


そのためかここら一帯ではもうやりたい放題であった

今その砂異徒が水無月の車を取り囲んでいた


「………さて、どうするか……」


水無月はしばし考え込んだ

しかし考える間を与えるまもなく砂異徒のメンバーがいきなり車のボンネットを鉄パイプで殴り付けた


「うわっ、なにしやがるこのガキ!!」


愛車のボンネットをいきなり凹まされ水無月は焦る。なにしろ最近じゃあ車の修理代だってばかにならない

だが俺のそんな焦りなど意にも介さないかのごとく第2撃を入れるべく再び鉄パイプを振り上げる姿が水無月の視界に入った

水無月は愛車のボンネットをこれ以上凹まされてはかなわないと右足で思いっきりブレーキペダルを踏みこみ、車はタイヤと地面との摩擦による悲鳴をあげながら急停止する。もちろん水無月の愛車に鉄パイプを食らわそうとしていた砂異徒のメンバーは振り下ろした先に車がなかったために空振りし、そのままバランスを崩してバイクごと横転する

幸い後続車はいなかったために追突は免れた。だが水無月もそのことはとっさにバックミラーで確認していたために急ブレーキを踏んでいた

そして残りの砂異徒の連中も数十メートル先で停まって、メンバーがこちらに引き返してくる

だが水無月はそんなことには気にも留めず慌ててボンネットの状態を確認する。が、ボンネットは見事なまでに凹まされていた


「あ〜!! せっかくの愛車がぁ〜………まだローンも後36回も残ってるのに!! これじゃあ女も誘えねぇ〜…」


水無月は暴走族のことなど気にも留めていないと言わんばかりにひたすら凹まされた車の事だけに集中していた

水無月のその態度が気に障ったのか、まわりを取り囲んでいた砂異徒のメンバーの一人が水無月に近づいて来る


「なにスカして車の心配なんかしてやがんだ!テメェーの心配でもして…・!?」


水無月は相手の言葉が終える前に後ろ向きのまま蹴りを入れて突き飛ばす

蹴られた相手は不意をつかれた事もあってかもろに吹っ飛び地面と熱烈なキスをかわす


「やれやれ、人の車に傷なんかつけやがって……修理代でも払ってもらおうかな。 もちろん慰謝料も含めてな」


水無月は鉄パイプや木刀を持った連中が20人はいる連中を前にしても口元を歪めるだけで別に恐怖した感じもない

かといって恐怖のために混乱しているわけでもない。その証拠に水無月の方から連中に近づいていっている

いや、それどころか大切な(まだローンも残っている)愛車を傷つけられたことで表情とは裏腹に怒りが湧き起こっている

砂異徒のメンバーはてっきり恐怖して許しでも請う姿を想像していたのだろう。だが予想とは違った水無月の行動に最初呆気に取られていたが、それが強がりかなんかだとおもいでもしたのか、メンバーの中で一番体格のいい男が水無月に歩み寄る


「へっへへへ。強がるのはやめて金でもだしな!そうすれば見逃してやらないこともないぜ。なぁー?」


その男は背後の仲間に向かって意見の同意を求めると、砂異徒のメンバーは口々に笑い出す

しかし水無月は怯むどころか口元に笑みを浮かべ出す


「やれやれ……あいもかわらずのボキャブラリーの少ない連中だな。徒党を組むことで相手を威嚇するだけのくだらない連中だ」


水無月は冷静に相手を判断して言い放つ。正直こんなヤツラを真面目に相手などしたくはなかった

だが相手はそうは思ってなどおらず、水無月の言葉にムッとした砂異徒のメンバー全員の目つきがさっきまでのとは一変して急に殺気だった


「おい、テメェー。俺らが誰だかわかってるのか!?」

「知ってるさ、『砂異徒』だろ?リーダーが親父の権力を背景にやりたい放題のまだオムツも取れていない坊ちゃん野郎。そしておまえらはそのお坊ちゃんにまとわりついてるハイエナ連中で、世間さまに迷惑ばかりをかける甘ったれ集団だ」


今度は水無月の方がニヤつきながら言い放つ


「テメェー!!」


水無月の言葉に男は木刀を振りかざして水無月めがけて振り放つが、水無月はそれを人差し指と中指の間に挟んで見事に受け止める


「なっ!?」


男は驚愕の叫びをあげる


「"必殺真剣白刃取" ってな☆」


水無月は言うと空いたもう片方の拳を男の腹に軽くおみまいすると男は口から胃液を吐き出し、フラフラと2,3歩後退りするとそのままガクッと倒れこみそのまま伸びてしまった


「おやおや、一発でダウンとは。案外見かけ倒しだったかな?」


水無月はその様子に愉快そうに言い放つ。だがそれを契機に砂異徒の連中は一気に水無月に襲い掛かった!


「お!? 今度は団体さんか!!」


水無月はここぞとばかりに襲い掛かってくる連中の1人目の攻撃をかわすとそのままカウンターの一撃を入れて殴り倒す

だが倒された相手の背後からもすぐに新手は押し寄せ、しかも前方だけでなく左右後方から同時に襲いかかってくる。

だが水無月はそれらの連中の攻撃を余裕でかわし続け、指一本触れさすことなく次々とKOしていく

パワーもさる事ながらスピードが段違いなのがその要因だ

水無月には連中の振り下ろす木刀や鉄パイプなどが全てスローモーションに感じられ、振り下ろす前にはすでに相手の視界に留まっていない、またはその相手を吹き飛ばしている

最初は数に物を言わせて襲いかかった砂異徒の連中もこれには焦ったのか、連中の一人がバイクに駆けよりエンジンを始動させる。そして真っ直ぐに向きを水無月に向けて突っ込んできた

エンジンの音でそれに気付いた水無月は逃げようと思えば余裕でそれをかわすことはできる。だがそうぜずに正面からそれを待ち構えはじめた

バイクはそのまま一直線に水無月に向って突っ込み「ドンッ!」という衝撃音があたりに響く。それを見ていた砂異徒の連中はバイクで水無月を跳ね飛ばしたのだと思うも、目に映る光景に皆は驚愕した

なんと水無月は右腕一本でその突進を受け止め、さらには前輪を持ち上げ始めている

バイクで跳ねようとした男は慌ててアクセルを吹かすが、前輪は虚しいカラ回りを続けるだけでびくともしない。男はそれでも焦りと驚きから懸命にアクセルを吹かしこの状況を打開しようと試みる

水無月はニヤリと笑うとバイクを掴んでいた手を放した。すると地面と接した前輪はそれまでのから回りを補うかのように急発進し、猛スピードでガードレールに衝突しバイクに乗っていた男は投げ出されてしまった


その後も水無月はあらかたの奴を手加減したとはいえ延し倒し、連中は地べたを嘗めている


「やれやれ、もう終わりか……」


あらかたの連中をのばして地面に転がっているのを確認すると、服についた埃を手で払い始める

その時、パァンッという渇いた音とともに水無月の背中に鈍い衝撃が走り、その場にドッと倒れこんでしまった


「…へっ、へへ……… 馬鹿が、いくらテメーが強くてもこいつにはかなわなかったようだな」


水無月の背後でうずくまっていた男がゆっくりと立ち上がる。そしてその男の手には1丁のトカレフが握られていた


「へっへへへ。 所詮は俺たち砂異徒の敵じゃなかったってことさ………そして俺達に刃向かうヤツはみんなこうなるんだ!!」


男は震えながらも一人で強がってつぶやいていた。単なる脅しの道具、もっているだけでカッコイイとまるでアクセサリーのように感じていた拳銃

だが引き金を絞るだけで簡単に人一人の命を奪うことができる。男はその現実を受け入れることができずただ虚勢を張ることしかできなかった


「オラァ、何とか言ってみろ!」


男は水無月に歩み寄って更にまくしたてる


「よっ!」

「!?」


水無月は軽快な掛け声と共にまるで何事もなかったように立ち上がって再び服についた埃を払う

そして背中にも手を伸ばすと、服に穴が開いている感触が水無月の手に伝わる


「あ〜あ、服に穴が空いちまった。服代だって馬鹿にならないっていうのに……」


水無月は己の体でなく服のことを、そして服代のことを心配し始める

その光景を見た男はキョトンと水無月を見つめる。だが慌ててトカレフを構え直して照準を水無月に定めようとする

が、一瞬早く水無月は銃身を掴んでそのままものすごい握力のもと飴細工のようにグニャっと握り潰してしまった


「まったくこんなオモチャまで振りかざしやがって……さて、覚悟はできてるんだろうな?」


水無月はにっこりと笑ってそのまま左ストレートを(もちろん手加減をして)男の顔面に叩き込んだ

男は悲鳴をあげながら5メートル以上吹っ飛びそのまま気絶する


「さてと………」


水無月は一通り終了したのを確認するとまわりを見渡し、まだ気絶しておらず意識のある奴を探す

そして気絶していない奴を見つけると真っ直ぐに歩み寄りそのまま相手の髪を引っ張って


「おい!」

「ひ、ひぃっ」

「お前等の親玉はどいつだ?」

「あ、あなたをさっき銃で撃った人です」


かなわないとわかると本当に素直になって喋りだした


「なに、あいつが? ………そいつは困ったな……車の修理代と服代をこれから請求しようと思ったのに……」


水無月はしばらく考え込み、


「しょうがない、あいつが起きたら言っとけ。明日また受け取りに来ると」

「は、はい」


水無月はそういうとそのまま車に乗りこんで走り去っていった











湘南の海沿いのマンションの地下駐車場に車を駐車すると、水無月はそのまま地下にある扉を開ける

そして電気のスイッチをつけるとなかにはソファにTV、ラジカセ、さらには台所と一通りのものがそろっていた

そこが永倉 水無月の事務所兼住まいであった

そしてそのままソファに腰掛け穴の空いてしまった服を見、穴の先に見える天井を眺めながら嘆息する


「ふぅー、結構気に入っていた服だったんだが………まさか銃で撃たれるとわな〜……」


この男 水無月は銃で撃たれて何故平気だったのか?

それはこの男、水無月という人物実は人間ではない。では何かと言えば、バンパイア。つまり吸血鬼なのだ

もちろん情け容赦なく他人から吸い上げたりするような金貸し・搾取者などをたとえていう性格的なものの吸血鬼ではなく、人の生き血を吸うという伝説の悪鬼だ

黒一色の装束を纏い、闇が覆う夜に人の生き血を求めてさすらうまさに闇の住人吸血鬼

だが水無月は吸血鬼だからといってニンニクや十字架は別に意に介すことはなく、昼間の太陽光を浴びると灰になる……などということはない

もっとも心臓に杭でも刺せばどのようになるかはわからないが、むろん本人は試す気など毛頭ない

そして何より水無月は完全なる吸血鬼かと問われれば答えな「No」。水無月は人間と吸血鬼の混血という珍しい亜種に属し、まったくの人間ではないというわけではない

人間と吸血鬼の混血。そのために日中は普通の人間となんら遜色はないのだが、夜になると吸血鬼の血が活性化し、人間以上のパワーやスピードを発揮し、おまけに治癒能力も活性化する

トカレフで撃たれたときも別段効果がなかったわけではなく、撃たれた傷口が驚異的な治癒能力と回復力によって瞬時に治ってしまったからだ

つまり夜の水無月は無敵の吸血鬼となり、その水無月に勝てるものがいるとすればそれは水無月の同等の力を持つ吸血鬼、現在では水無月の親か、または未知なる宇宙人とでもなるのだろう

しかしそんな水無月にも最近頭を悩ませる問題が発生していた

それは………


「おっかえり〜、水無月!」


奥の部屋から元気一杯に出てきた女、年は二十歳前後といったところである


「………あのな〜……お前本当にここに居座るつもりか?」

「当然!せっかく吸血鬼の知り会いもできちゃったんだからこれは利用するだけ利用させてもらわないとね」

「『利用させてもらわないとね』って…… 聞くだけ無駄だと思うがお前には良心の呵責(かしゃく)というものはないのか?」

「無い!」

「…………」


きっぱりと言い放ったこの女

この女と水無月が出会ったのは今から一週間前に溯るのであった






to be continued


後書き

パンパパカパーン♪
ついにEVE、スプリガン、ARMS以外に我パラサイトが描くオリジナル小説がUPされました
その名も『Midnight Bloody Symhphony』!いかがでしたでしょうか?
昼間は普通の人間だが、夜は無敵の吸血鬼になってしまう主人公 永倉 水無月
そして職業は探偵と、なんとなく安易ではありまするが、まぁ……そこはそこ、笑って許して下さい(笑)
まあ次回は2月で、予定としては月1ペースでUPしていきたいと考えております
暖かく見守ってやって下さい
次回は水無月と、水無月を悩ます女(少女)との出会いのお話です
う〜ん……二十歳前後の女性を文章で表すとしたらなんと表現すればよろしいんでしょうか?
少女とは違うし、熟女なんて全然違うしね(^^;)誰か知っている人がいたら教えて下さい(マジで)
では次回をご期待下さい

作成 2000年1月1日
改訂 2002年5月30日


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Half Vampire