その出会いは突然に…
(カチッ ………カチカチカチッ)
無機質な音が室内に響き渡る
(カチカチッ ……ツーーーーーッ)
そしてその音に気付くものは誰もいなかった
「よし、これで準備万端!」
(バガンッ)
「よっしゃ、侵入成功!」
エアダクトを開け放ち、勢いよく室内へと前方宙返りも加えて降り立つ
だがその着地の瞬間、けたたましいまでの警報音が鳴り響いた
室内に赤い点滅灯の光があたかも血の色のように辺りを不気味に照らす
「ゲッ、まじ!?」
室内への侵入者は言いながら自分の不注意さに舌打する
確かにエアダクトに入るまでに警報機の類は黙らせていたが、
侵入してからはそれらへの警戒は怠ってしまっていた
外からは多数の足音が響いて来る
「ちっ、やるしかねーのかよ!」
侵入者は腰から今回の任務に支給された自動小銃、MP5A5を構える
デルタフォース、SAS、SWATなどのテロ対策機関や特殊警察が使用しているサブ・マシンガンだ
そして素早くドアに近寄り、そっとノブに触れて外の状況を確認する
「あらっ!?」
だが次の瞬間侵入者の口からはその場の緊張感には似合わない間の抜けた声が漏れた
辺りにいた警備をしている兵達は侵入者が侵入した部屋に向うのでなく、別の所に向っている
誰一人として侵入者の部屋に向ってくる者はいなかった
いや、その表現は次の瞬間に過去形のものとなった
「どうやら、俺だけじゃないみたいだな、侵入者ってのは……」
侵入者はポリポリと頬を掻きながら呟く
侵入という緊張感が、この出来事によってまるで傍観者のような気分になってしまっていたが、
次の瞬間の出来事が再び侵入者に緊張感を与えた
侵入者がドアの隙間から眺めていた廊下の突き当たりに銃弾が次々に着弾し壁を破壊する
そしてその着弾のあとに素早く現れた人影はすぐさま壁際に身を隠し、
持っている銃を来た方向に向かって連射する
その銃はどうみても市販で入手できるようなものではなく、特殊部隊に装備されるような物々しいものだ
そしてその人影は全身を特殊部隊が着用するスーツを着ているために顔がわからない
侵入者はその一瞬だけでそれだけの判断を得た
「アイツか……もう一人の侵入者は…」
侵入者は呟きながらもそのままその人物の観察を続ける
「……あの動き、どこか素人っぽいけど無駄な動きはないな」
「訓練を受けたってわけじゃないんだろうけど、あの人達みたいにそうとうの
修羅場はくぐり抜けてきているみたいだな……」
その人影はしばらくその壁を盾にして応戦を続け、その場を持ちこたえているが、
その状況も相手の物量の多さによってしだいに圧され始めていった
侵入者はこの人影が次に取る行動は予測できた
そしてその予測通りその人影は大攻勢にでんとばかりに銃弾を撃ちつづけ、相手がひるんだ瞬間にクルリと向きを変えて走り出した
「お、おい……おいおいおいおいっ!」
その人影は真っ直ぐに達樹が潜んでいる部屋に走ってくる
そして達樹が何か対応をする前にその部屋の扉を勢いよく開けて駆け込んできた
「うわぁぁーーーっ」
「エッ!? きゃぁぁぁーーーーーっ!!」
ものの見事に二人は正面衝突し二人とも床に倒れこんだ
「アイテテテテッ……」
侵入者は後頭部を抑えながら言う
一方の人影は突然のこの不測の事態に驚きはしたが、
すぐさま状況を理解し腰から銃を抜いて侵入者に向けた
「動かないでね!」
「んぁ!? そ、その声……アンタ女か?」
先ほどまでの動きから、姿がわからないために男だと思っていた
だがその人物から発せられた声は紛れもなく、しかも若い女の声だった
「って、アンタ……見てわからないの!!」
「わからな………なるほど」
最初その人物は顔を覆面で覆っていたので見てはわからなかったが、
胸元に視線を落としたとき、相手が女だと言うことは一目瞭然だった
「どこ見てんのよ、この増せガキ!」
その人物は、相手の視線が自分の胸元に落とされているのに気付き
、別に隠そうとはしないが不快感をそのまま言葉に表す
「ま、増せガキって……俺はこう見えても17歳でっ!!」
「17ぃ〜〜〜〜!? ……立派な増せガキじゃない」
言いながら覆面を取る、するとそこには肩までかかるくせっ毛の女性が現れ
確かに鼻立ちも整い、なんというかそのくせっ毛も一種の魅力に思える
年齢は二十歳をちょっと越えた、というところだろうか
間違いなく美人の部類に入るだろうと思いながらも、
その妖しい目つきがこの女性は敵ではないが近寄りすぎると危ないという警戒心を与える
"増せガキ"と言われたことに腹をたてながらも冷静に洞察する
「……で、あんたはみたいのが何でこんな所にいるのよ?」
「あ〜、しまった!こうしている間にも任務が!!」
「任務!?」
「ああ、あんたに言ってもわからないだろうけど、
この施設に保管されてるっていう資料を探してるんだよ!」
「ちょっと、まさかそれって"ダイアリー・オブ・ザ・ウィザード"(魔女の日誌)、
いわゆる魔術に関する資料じゃないでしょうね?」
「そう、最近うちの研究所で発見しながらここの連中に奪われちまったものを
取り返すのが俺の任務………ってなんであんたがそんなこと知ってんだよ?」
「だって私が今持ってるもん」
「へっ!?」
「だから、それは今私が持ってるの……これでしょ?」
その女は懐から1枚のプレートを取り出した
そしてそれこその侵入者の少年が今回の奪還の任務のターゲットである
「よ、寄越せ!」
少年は腕を伸ばしてそれを取ろうとするが、女のほうもしたたかにその手をひょいっとかわす
「嫌よ、せっかくこのか弱い乙女が銃撃戦までして獲得したものなんだから」
彼女は舌を出しながら言い放つ
「もっとも、こちらの言い値で買うっていうのなら話は別だけどね」
「言い値って……一体いくらなんだよ……」
「そりゃ〜もちろん一億!あ、円じゃなくてもちろんドルでね♪」
「ド、ドルで1億だと!?」
「そっ、妥当でしょ♪」
「じょ、冗談いってんじゃねぇーよ!そんな金逆立ちしたって出せるわけっ!」
「しっ!!」
突然少年の口は塞がれ彼女は耳を澄ます
すると廊下からドヤドヤと足音とどなり声が響いてきた
それも一人や二人と言う数ではない
「あらっ、もう来ちゃったのね……そうだっ!あんたその年でこんな所に単独潜入してくるってことはアーカム財団お抱えのスプリガンなんでしょ?」
「えっ!?」
スプリガン―
第二のロック・フェラー財団と称されるアーカム財団
そしてアーカムが抱える考古学研究所のスペシャルエージェント(特殊工作員)の
コードネームはスプリガンといわれている
つまりこの侵入者の少年がそのスプリガンなのである
「あ、ああ……でもなんでお前みたいなのがそんなことを知ってん……」
「ああ、そんなことはどうでもいいでしょ!」
「ん?そういやあんたの顔どっかでみたことあるような……」
「そ、そう!?」
少年のその一言に彼女は引きつった笑いを浮かべ頬に汗が滴る
その様子に少年は怪訝な表情を浮かべるが、外の物音に対して再び集中しだしたので
この時は特に気に留めなかった
「で、俺がスプリガンだってわかったんならどうするってゆうんだ?」
少年はドアの隙間から廊下を眺めると、向こうから数人こちらに近付いてくるのがわかる
「で、あんたの名前は?」
「え?」
「だから、名前よ! あなたの名前!!」
突如名前を問い詰められたことに対して少年は呆気に取られ
「達樹 ……大槻達樹………で、そんなこと聞いてどうするんだよ?」
達樹と名乗った少年は再び廊下の方に視線を向けてあたりの警戒する
こういった状況では侵入よりも脱出の方が難しくなるからだ
「フフン、そんなの決まってるでしょ♪」
「一緒に協力してここから逃げ出そうってわけか?」
「そう、ここは互いの協力が必要よ …….ってわけで後はよろしく♪」
彼女は達樹の意見に否定はしないが、
意味ありげな笑みを浮かべて言い放ち達樹の背中に向ってその両手を伸ばす
「へっ!?」
少年は間の抜けた声をして振り返ろうとしたとき少年の
身体は突き飛ばされて廊下へと飛び出していた
「……ヘっ!?」
少年は自分の身にその瞬間なにが起こっているのかわかっていなかった
わかっているのは「よろしく」という言葉を残して少年を突き飛ばした女が、
その侵入路に用いたエアダクトから首だけ出してニッコリと笑顔が少年に向けられ、
「もしまた会うことがあれば、その時私の名前も教えてあげるわ、達樹クン♪」
この瞬間になり初めて少年は自分がはめられたことに気付き、
まわりにはすでに手に手に銃器を持った兵士達が取り囲んでいる
少年は指先をこめかみに当てて目を瞑り苦悩の表情を浮かべる
「あんの……」
そして目を閉じたまま静かに口を開く
その口調は最初は穏やかに、そして手を小刻みに……
「…あんの、女(アマ)ぁぁーーーーーっっっ!!」
少年のその叫び声をかわきりに、研究所内にて激しい銃激戦が繰り広げられ始めた
2日後―
「ウフフフ」
その女は不気味な笑い声を浮かべながら両掌で口元を隠す
彼女が立っているのは都内の某私立大学の校門前
もちろん彼女が通っている大学ではなく、校門を行き過ぎる学生達がチラチラとこの女性に視線を向ける
彼女もその視線に多少の不快感を感じるが満更でもない
だがやがてそれまでの学生のように彼女を見るでなく、
鞄で顔を隠しながら彼女の横を通り抜けようとする学生がいた
もちろん彼女はその生徒の存在に気付いており、嘲笑の笑みを浮かべる
「優ちゃんみーっつけ!」
その声に隠れて通りすぎようとしていた学生の背中はギクッと声をあげ、恐る恐る彼女の方向に振り返る
「おはよう、優ちゃん」
「よ、よぉ …….何してんだよこんなところで?」
彼女のニッコリとした笑みに、優と呼ばれた少年は引き攣り笑いを浮かべながら返答する
「もちろん優ちゃんに会いに来たに決まってるぢゃない」
「嘘付け!だいたいお前がここまでわざわざくるなんてことはロクなことがないに決まってるんだよ!!」
「あぁ〜、今日はちょっと聞きたいことがあるのよ?」
「……聞きたいこと?」
「そう。優ちゃんとこに新米の可愛い坊やが入ったでしょ?」
「新米の? ………達樹のことか?」
「そう!それそれ!! その達樹クン!」
「はっ!?」
「だっかっら……優ちゃんにお願いしてるんじゃない♪」
「な、なにを……って、胸をツンツン突つくな!」
「よろしくね♪」
-放課後-
大学に放課後などという存在があるのか果たして疑問であるが、
達樹の通う高校には勿論放課後と言うものはある
達樹は先輩である御神苗からなにやら奥歯にものが挟まったような言い方で呼び出されたのだ
まだ二日前の戦闘時に負傷した箇所が痛むために放課後は自宅で寝ていようと思っていたが呼び出されたために渋々指示された場所へ出向き愛用の原付を駐車する
この日達樹はえらく不機嫌であった
そもそも2日前の任務に失敗し、上層部から露骨な皮肉を言われたこと
しかも言うにことかいて「もっとベテランのエージェントに任せればよかった」とまで言われたのだ
それに対して達樹は言い返す言葉もなかったので黙ってはいたが不満は鬱積している
おまけに学校では職員室に呼び出されてケガと
出席日数のこと、おまけにスクーターでの通学についてとやかく言われたからだ
そしてそれだけに終わらず、教室では委員長である生徒からの小言までまでももらってしまい、
「これというのもあの女のせいだ!」
達樹はそう叫びながら店の中へ入る
店内をグルリと見渡すと奥のテーブルで御神苗が手を振る
そして顔は見えないが御神苗の前に誰か座っているのがわかり、髪型からして女だろうと達樹は思った
そして自分の彼女でも紹介するために呼び出されたのだろう、そんなことで呼び出されたのかと
おもってますます不機嫌になる
「よっ、呼び出して悪かったな」
「なんの用ですか? 俺は帰って寝ようと……」
達樹はふと御神苗の前に座っている女性に視線を落とすと、その場で固まった
「あ、あがががが………」
「ん、どうした達樹?そういやお前芳乃と知り合いだったのか?」
御神苗の声を他所に固まっている達樹に芳乃と紹介された女性はニッコリと微笑み、
「あら、この間はどうも達樹クン♪」
とクン付で声をかけ、かけられた達樹の表情は途端に怒りのものへと代わる
「こ、この女(アマ)!お前のせいで俺があの時どれだけ苦労したか!!」
「ああ〜、おかげで私の脱出はなんの苦労もなくすんなりと成功わ。
これも達樹クンが私の身を案じて進んで囮をかってでてくれたおかげよ♪」
「だ、誰が進んでかってでたんだ、誰が!!」
これ以上芳乃に文句を言っても始まらないと悟った達樹は
その矛先を先輩である御神苗へと向ける
「御神苗先輩!!」
「ん?」
「だいたいこの女は誰なんですか!! まさか先輩の彼女じゃないでしょうね!!」
御神苗は達樹の"彼女"という誤解の言葉を聞いた途端に
口に含んでいたコーヒーを思わず吐き出しそうになった
「あたり♪」
「芳乃、お前は黙ってろ!! って達樹、お前も何を勘違いしてるんだよ!!
だいたいこの間この業界のブラックリストのプロフィール見せただろうが」
「あっ!!」
御神苗のその言葉でやっと芳乃の存在に思い立った
「た、確か……"遺跡荒らし"って異名の……」
「ちょっとちょっと。こんな乙女を捕まえてその名前はないでしょ!」
「だ、だって破壊した遺跡40、使用不能にした遺跡が60以上って……」
「ちょ、ちょっとちょっと!まだそんなにやってないわよ」
「あ、それ俺が付け加えといたデータだ」
「ひっどーい、優ちゃん!」
「まぁ、こいつが絡むと下手な軍隊やマフィアが絡むよりも性質が悪いんだよ…
今度の一件でよくわかっただろ?」
「はい、よ〜〜っく」
この時になって達樹は、目の前の女性芳乃がまだまだ自分にあしらえきれるような
相手ではない、そして何よりも自分の器の小ささを実感した
「ってことでこれからもよろしくね、達樹クン」
「は… はははは」
達樹はただ渇き笑いを浮かべるしかできなかった
その光景を見ながら御神苗は、「昨日の我が身だな」と密かに内心思うのであった
そしてこれが"遺跡荒らし"染井芳乃と"新米スプリガン"大槻達樹との出会いであった
...fin
はい、無事に10,000HITキリ番小説『その出会いは突然に…』完了です。前回のキリ番小説同様、リクエスト者はPan-Ziさんでありました。そしてそのリクエストは達樹の任務を芳乃が邪魔するみたいな……
いつかは書いてみたいとは思っていましたが、リクエストで書かされるとは夢にも思わず、されたときは書く気あったんですけど、いざ書き始めると……気付いてみれば一年近くかかってしまいました(笑)
いっや〜、それにしても達樹ってゲームでのイメージしかないからいまいち掴めていないキャラです。ARMSで言えばカツミかな?(『take……』(前編)参照)
まぁここに無事キリ番小説が全て完了し、安堵した次第です(笑)
もうこれを最後に当分はキリ番小説はないですからね。いや、嫌なのじゃなくてやっぱり自分で構想して書くのと、他者が構想したのを私が書くのではやはり時間もかかるし、構想が練りにくいのです。まぁ残念に思う方は……チャット等で私を捕まえて、遠まわしでもいいから"私に書く気を起こさせる"ですね!現に『The Scream』は某チャットでの会話が元で書いた一品ですし。
それではまた次回作で!
2002年1月31日