砂漠に照り付ける太陽
昼間は灼熱の地獄となり夜は極寒の地獄と、人間には適応しにくい過酷な環境を造り出す
その砂漠地帯は地球の環境変化によっ年々広がりの一途を辿っており、それに警鐘を鳴らす者は後を絶たない
しかし今その砂漠では数十人の人間達が手に手に最新の測量機器を携えてなにかをしきりに調べていた
このような砂漠地帯で彼らはなにを調べているのか?
「……おーい、そっちはどうだ?」
測量をしている一人がたまらず近くで測量をしている男に声をかける
声をかけられた男は静かに首を横に振って、なにも見つかっていないことを告げる
この暑さとだだっ広い砂漠の中での作業、それが作業している者達の意気を削ぐ
「ったく、衛星からここら一帯で奇妙な磁場を捉えたからっ ……、こんなだだっぴろい砂漠でなにが見つかるっていうんだよ……」
男は熱さのためにたまらず嘆きながら測量機器に視線を落とす
が、測量機器は依然として何の反応も示さずウンともスンとも言わない
男は舌打ちするとまだ調べていないところまで測量機を運んで先ほどまでと同じ作業をする
ピピピピピピ
男が毎度同じことの作業に飽き、諦めかけたまさにそのとき、男が手にしていた測量機器から電子音が鳴り響く
「!?」
男は慌てて測量機器に視線を移し、すばやく内容を判定する
男が手にしている測量機器は地下に埋まっているものを探し当てる機器で、地下4,500mまで測量できる優れものであった
そしてその計器は地下370,380mあたりを繰り返して指し示していた
「こ、こりゃ〜………」
男は慌ててさっきの近くにいた男に大声で叫び、他の仲間も集まるように呼びかける
仲間達が集まって各々の測量機器で確かめると確かにその地下にはなにかがあるという反応を示していた
「確かにこの地下にはなにかあるな?」
「おい、誰かテントにいってこのことを知らせて………」
言いかけたその瞬間、足元になにか妙な違和感を感じる
咄嗟に足元を見るが目に映るのは先ほどから見慣れすぎている砂漠の砂しか映っていない
気のせいかと再び近くで作業している仲間を呼ぼうとした瞬間、ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴっと彼らの足元から振動が伝わり始め足元の砂が微妙に震え始める
それでも気のせいかとまわりの人間に視線を移すが、やはり他の人間も足元からのその振動に気付いたのか、しきりに辺りと足下に視線を移しながら首を動かす
「な、何だ!? なにが起こってるんだ!?」
離れで作業していた一人がその疑問を口にするももちろん応えられるものなどいない
その振動は徐々に大きくなり、しかも下から何かが近づいてくるようにも感じられた
本能的に「ヤバイ!」と感じた瞬間、誰かが「退避ぃーっ!!」と叫ぶ声が聞こえた
その言葉を端に、その場にいた人間は皆とにかくその場を離れるように走り始める
だが逃げている最中にもその振動は弱まるどころか強まる一方で、離れても離れても感じられ、ついにはさっきまでいたところの砂漠の砂が地下に向かって吸い込まれ始めた
逃げていた作業員達もその振動についには立っていることもできず皆その場にしゃがみこみ、ある者は叫び声をあげ、またあるものは残してきた家族の名前を叫ぶ
下、地面からなにかが浮かび上がってくるという恐怖はその場にいた者達にとって見えないものに対する恐怖だけが先行し、ほんの数分の出来事がまるで何十年にも感ぜられる
そしてようやくその長く感ぜられた瞬間は、ゴヴンッという音がまわりに響いた瞬間に止む。恐る恐る顔をあげると、砂漠上になにやら突起物のようなものが生えていた
それを目にした者は一人、また一人と立ちあがり各々視線を合わせて目で自身が感じている疑問を投げ合う
そのうち意を決した一人が恐る恐るそこに近づいて行く。まわりのものはなにもできずただその状況、これからなにが起こるのかを見届けるしかできない。
ようやく突起物にまで辿りつき、恐る恐るその砂漠上に生えている高さ5mほどの突起物を眺めまわす
すると、遠くからでは気付かないが人が悠々と入れる空洞を発見した
覗きこむとその空洞はまだ奥のほうに繋がっており、この砂漠下にまだまだ空洞の続き、つまりなにかが埋っていると予測できた。そう、まるで海中に浮かぶ氷山のように
「お〜〜〜〜い …… なにかあったか〜〜〜〜?」
沈黙に耐えられなかった一人が遠くからその男に向かって声をかけると男は静かにうなずいき、その突起物になにかがあると身振りで示す
「おい、誰か早くテントにいって教授達をお連れしろ!」
やがて教授達がやってくると、教授達はまずその突起物を丹念に調べ始め、そのうち何かしらの金属であろうという見解に至る
「………なんだこの金属は!?」
「教授、どうやらオリハルコンかなにかではないでしょうか?」
教授と呼ばれた男は助手のその言葉に再び丹念に調べ始め、
「この入り口の金属全てがか!? だとしたらすごい発見だぞ……いったいこの中にはなにが……」
教授はこの金属が本当にオリハルコンなのならという期待に胸を弾ませ、一気に内部の調査をしたいという衝動に駆られる
それを見越していた助手の何人かはすでに観測機器が示す値に集中する
「教授、中には空気も通っていて今のところ汚染物質等の反応はありません」
数値の値を確認していた助手は振り返りながら中の安全を告げる
「よし、中にはいるぞ!一応外には10人ほど残っていてくれ、それと本部への連絡を忘れるな」
教授はそう指示すると内部の調査を促して、10人ほどを残してその入り口から内部へと入って行った
「……で、あるからして中国文明においては“殷”という王朝の前に未確認ながら“夏”という王朝があったとされている。もっとも中国の考古学においてはその存在はその証拠がなくとも認められているのが現状であり……」
それを説明していた講師はカッカと音を響かせながら要点を黒板に書いて行く
「……残念ながら未だに“夏”の存在を証明されるものは発見されてはいないが………」
夏真っ盛りの教室の中では考古学の授業が行われており、エアコンがあまり効いていないために講義を受けていた学生達は下敷きや手で扇いで自身に涼風を送ることに熱中していた
どうみても熱心に考古学を勉強したいという風ではなく、みな出席日数を稼ぐためという打算が見え隠れする
しかも中には講義の開始と共にこの暑さのためか、机にうつぶしピクリともしていない学生もいる
教壇に立つとそういった学生はやる気のない学生以上に目に入り、不快な表情で「聴く気がないなら出てけ」とでもいう視線でしばらく眺めている
「ちょっと ……ちょっと、優ってば!! いいかげんに起きなよ………」
優と呼ばれた学生は隣りの女生徒に体を揺り動かされてはいたが全然目を覚ます気配は見られない
キーン コーン カーン コーン ……
そのうちに講義終了のチャイムが鳴り響き、講師もやれやれといった表情で延長してまで教鞭を振るう気もなく教壇の上の資料をたたみ学生達を見渡す
「やれやれ、彼はいつもああなんだね……」
講師はそう嘆息して扉のほうに歩み出し、そして扉の前で立ち止まると再びその学生を見つめる。だがその学生はそんな講師の視線には気付かずに眠りつづけ、それを見た講師は再び嘆息しながら教室を出て行った
「フッ、ア〜〜〜〜ア……」
だが、それと同時にまるで見計らったかのごとくにやっと優は起き軽い伸びをする
それを隣で見つめていた女性徒はヤレヤレという表情で、
「まったく。よくもそんなに寝てばかりいられるわね」
「ん? あれ、もう講義終ったのか?」
優はまわりを見渡すと、すでに大半の学生は出口のほうに歩を進めており残っているのはまわりの友人と話している学生や、真面目にノートを整理している学生、そして自分達ぐらいなのに気付いた
「ったく、昨夜も仕事だったの?」
「いや、昨夜はこれだ」
優は言いながら麻雀牌を扱う身振りをする
「……はぁー、これが世界をまたにかける男とはね……」
「なんだよ……言っておくがオレはスプリガンである前に一学生でもあるんだぜ。学生なら学生らしい楽しみが必要じゃねーか。 だからお前はお硬いって言われるんだよ」
優は目の前にいる女性にそう言い張る
彼の名前は御神苗 優。第二のロックフェラー財団と呼ばれるアーカム財団。そしてその考古学研究所のS級工作員、通称“スプリガン”と呼ばれている
その活動内容は、現文明をはるかに凌いでいた超古代文明の遺跡を、アーカム財団の創設者の理想に基づいてを悪しき目的に利用しようとする輩から保護、または封印することを目的としている
優はそのスプリガンの中でも現段階では、僚友のジャン・ジャックモンドと並んで実力はトップクラスであり、各国の諜報機関からも真っ先に危険視されている存在であった
しかしそんな裏の世界では殺伐していても、表のプライベートな普通の世界ではこうして一学生として、大学に出向き、単位に苦心する普通の学生生活を楽しんでいた
そして優と話している女生徒の名は笹原 初穂。
優とは高校時代からの腐れ縁であり、初穂も優のスプリガンとしての仕事、そして超古代文明に係わったものの一人であった
もっとも彼女はアーカム財団との関係はなく、普通の一学生なのである
二人の関係は友人以上恋人未満といったところであろうか?そしてそれは初穂の双子の妹 香穂とて同様である
その妹の香穂は現在、姉の初穂や優などよりはワンランクもツーランクも上の大学に通っており、たまに三人で食事をすることもある
香穂にとっては優と同じ大学に通っている初穂が口にこそ出さないが羨ましくも感じていた
「さてと、今日はそろそろ帰るかな」
優はそう言うと鞄を肩に引っさげ午後の授業には出席しない旨を初穂に告げる
「あれ、この後の講義は?」
「当然お前に任せた」
「なに ……また仕事?」
この出来事は2人の間ではもはや日常茶飯事の出来事で、まわりからの優に対する意見は"尻に敷かれるタイプ"であり、初穂に対する意見は"世話やき女房"であった
当然この日も初穂はこの後優は任務でまたどこかへ行かなければならないのだろうと予測したが、その口から飛び出したその言葉は予測とは全く違うものであった
「いや、今日は浜崎 あやみちゃんのコンサートだ」
「………」
シレッと言う優に初穂は指でこめかみを抱え、フツフツと怒りを沸きあげる
そしてその怒りが一瞬で頂点に達した瞬間
「そんな理由が許されるかぁーっ!」
初穂は得意の正拳突きを繰り出す。 が、それを予想していた優はヒラリと腕一本で目の前の机に手をつきそのまま一回転して初穂とは机一つ離れたところに着地する
それを唖然と見送り、暫くして気付いた初穂は「待て!」と追いかけようとしたがすでに優は教室を飛び出し、ドアのところから頭だけ出して
「甘い甘い、俺に当てようなんてまだまだお前じゃ未熟だぜ」
それだけ言い残すとそのまま優は駆け出して行った
「もう、あいつったら高校のときから全然変わらないんだから……」
再び指をこめかみに当てながら初穂はつぶやいた。そしてその呟きにはこの後不服ながらも頼まれた代返を実行してしまうだろう自分にたいする不満もこめられていた
「♪〜♪♪ ♪♪ ♪〜 ♪〜♪〜」
優は鼻歌交じりに大学の駐車場へと向かい止めてあったバイクを探す
優のこの後の予定は別段仕事もないためいったん帰宅して、それから前々からチケットの予約を取っておいたコンサートに出かける予定だった
無論優もコンサートなど仕事のために滅多に行けるものではなかったために楽しみにしており、チケットも普段使いなれない携帯でのiモードサービスによる予約に苦心の末ようやく手にしたもので、上司の山本にもなるべく仕事は入れないように頼んでいた
「へへっ、久々のコンサート。 しかも今話題の浜崎 あやみのコンサートとあっては講義になんか出てる場合じゃねーぜ」
一人笑いながらバイクにまたがりそのままキィーを差し込み口に挿し、エンジンをかけようと回した瞬間、優の視界に飛び込んできたのはオレンジ色光景であった
ズズンッという爆音の元、突如優のバイクは爆発、炎上する
跡にはその爆発に巻き込まれたバイクやスクーターも一緒に炎に包まれる
「……任務は完了した……ああ、スプリガンの御神苗 優は木っ端微塵だ。これで我々の障害となる人物は消すことができた」
それを遠くで見つめている黒服の男二人が電話で何やら話している
「ああ、これであと邪魔になりそうなスプリガンはジャン・ジャックモンドだけだが………だが安心しろ、奴の方にだってちゃんと刺客を向かわせてある。なに、我が軍が生み出したやつに任せれば獣人とはいえ取るに足らないさ」
その言葉には余裕さえ感じさせる含みがある
「ああ、それじゃあそっちでも遺跡の調査を進めておけよ」
電話を切ると男二人はそのまま駐車場に止めてある車に向かい、ドアにキィーを差し込みまわそうとすると、
「『ドカーーーン』………ってか」
突如背後から声がしたことに慌てて振りかえると、そこにはさきほど爆発で吹き飛んだとおもわれていた優が服こそ多少焦げついてはいたが無傷で車のボンネットに座って笑っていた
「あーあ、俺のバイクだけじゃなくて他の奴のバイクまで巻き込みやがって。お前等の給料なんかじゃ弁償できないんじゃないのか?」
淡々と喋る優に、男達はすばやく銃を抜き、
「バカめ、スプリガンとはいえそうやって油断していると!」
照準を定めて引き金を引こうとする
が、その時優の姿はもうそこにはなかった
男達は慌てて周囲を見渡すが、どこにも優の姿は見当たらない
「あのな〜お前等の殺気なんかさっきからばればれなんだぜ」
いつのまにかいたのか優はすでに男達の背後に回りこんでおり、こめかみをポリポリと書きながらつぶやく
「Shit!!」
男はすかさず声のした背後に銃を向けようとするがそれより早く優は男に向かって拳腹部に繰り出し、もう一人の男には首筋に手刀を浴びせる
まさに一瞬の出来事で、傍から見ているものがあれば映画のワンシーンのような光景であっただろう
「ったく、俺のバイクをおしゃかにしやがって………」
倒れている男達を見つめながら優はつぶやく
するとなにやら遠くの方から誰か人がやってくる声が聞こえてきた
「やべぇこの状況を見たら俺が犯人にされてしまう」
真実は違うのだが第一発見者がこの場に現れればこの場に立っている自分が間違いなく被害者ではなく加害者にされてしまうだろうことは今までの経験からも予測ができた
そこまでの考えに至ると、まだ納車したばかりの新車のバイクをそこに残すことに名残惜しさを感じながらも優はその場を離れるために駆け出した
大学から少し離れた公園にいったん優は避難し、水分を少し補給する。やがて大学の方からは消防車のサイレンが聞こえてきた
「ったく、なんなんだよ……今日はコンサートだっていうのに……」
この現状ながらも、優は襲われたりバイクを破壊されたことよりも、コンサート日和を台無しにされたことに憤慨する
その時優の携帯の浜崎 あやみのヒット曲の着信音が鳴り響く
この着信設定は初穂に頼みこみ、夕食を奢るという条件で設定してもらったものだ
後から大学の友人にそのことを話して真相を知ったとき、「高くついた夕食だ」とぼやいたのを思い出す
だが今はそんな過去の出来事よりも電話にでることが先決で、通話ボタンを押しながら素早く耳に当てる
「はい、御神苗 ……って、なんだ山本さんか?」
かかってきた電話の相手は優の直属の上司、山本からであった
「なんだはないだろ。それより優、悪いんだが仕事が入った!至急こっちに来てくれ!!」
「あぁ〜!? 今日は仕事は入れないでくれっていっただろ」
「悪いがそうもいってられないんだ、遺跡を調査していた調査団が行方不明になった!!」
「なんだって、調査団が!?」
山本のその口調が、優にただならぬ事態であることを察知させた
to be continued
ついにスプリガンの連載第一回を書いてしまった・・・・・・・・・・
はたしてこの試みは無謀であったのか!?そもそもこのHPを作成し、スプリガンのコーナー作ったときはスプリガンの連載などは考えてもいませんでした。それが他のHPでやっているのを読んで、じゃあなんかとりあえず読み切りでも書いてみるかな?とか考えてできたのが「御神苗
優の日常奮闘記」で、それを書いたら連載ものを書いてみたくなってしまったのです(苦笑)。しかも現在連載中であった「EVE〜Endless
狂想曲〜」を休載にしてまで(楽しみにしていた方々ゴメンナサイ。でも終了じゃないからね)。
まぁ、なにはともあれスプリガン・Trace Edenの第一話「発端」はいかがでしたでしょうか?砂漠上で見つかった遺跡への入り口、爆破された優のバイク、そして謎の男達・・・・・・・・・・・次回は優が遺跡のある場所へと向かうお話です。
作成 2000年1月3日
改訂 2002年7月9日