第三話「Entrance」




「…嘘だろ………なんでよりによってアイツがこんな所にいるんだよ……よりによってスティンガーミサイルなんて装備しやがって…」

優は頭を抱えながらつぶやく。その視線の先にはスティンガーミサイルを構えていた通称”遺跡荒らし”の染井 芳乃がいたからである

芳乃のほうも優を見つけるとにっこりと笑いながら手を振っている




「はぁーい、優ちゃん☆」

優と顔を合わせた芳乃の第一声はそれであった

その言葉に優はこれから起こりうる様々なトラブルに頭を抱え苦悩する。李梨はまだ目の前のその状況が理解できていないのか呆然と二人を見つめているしかできない

やがて優がその重い口を開き始める

「『はぁーい』じゃねぇ! だいたいなんでこんな所にお前がいるんだよ!」

「もうそんなに怒んないでよ。私はただ愛しの優ちゃんを追いかけてきただけじゃない♪」

優の質問に芳乃はシレッと応える。このあたりの芳乃の性格が優に芳乃に対する苦手意識の発端であり、あまり関わり合いになりたくはない要因なのである

「嘘をつけ」

優はジトッとした目で芳乃を見つめながら突っ込む

もう芳乃とは何度も化かし合いをやってきただけに芳乃の扱いはこの業界ではNo.1はこの優だといっても過言ではない

「ッテヘ、やっぱし分かる?」

芳乃は優の前で舌を出してかわいこぶって見せるが優の芳乃に対する目つきは変わらない

「はいはい、わかったわよ。正直に言えばいいんでしょ正直に言えば」

「やっと観念しやがったか。…でなんでお前がここにいるんだよ」

「そりゃ〜アーカムが何かを見つけたって裏の世界で噂になればそれは古代文明の遺跡。そしてその調査に向かうのは当然あなた達“スプリガン”!
そしてこの場所からいってくるのは当然優ちゃんだと踏んだからこうして先回りして待ってたんじゃない☆」

「……」

淡々と説明する芳乃に優は腕を組んだまま平静を装うが額には一筋の汗が流れていた

李梨はやっと現在の状況が分かったのか、なんとか口を開く

「ゆ、優…彼女は一体?」

『優』と呼び捨てたことに芳乃の顔は多少不快感を表すが李梨は気付いていない

「コイツは染井 芳乃。この業界じゃ”遺跡荒らし”で通ってる、。いわば俺達の商売敵って所だ…聞いたことぐらいあるだろ?」

「彼女が!?」

「おまけに数年前の南極での大量の炎蛇発生もこいつが引き金だったんだぜ」

「!?」

優の炎蛇という言葉に利梨は驚嘆の表情を浮かべる

「なによぉー…あれはあんたらアーカムの依頼だったんじゃない」

そっぽを向きながら口を尖らせて芳乃は言う



数年前の炎蛇発生事件

それはアーカム財団前会長ヘンリー・ガーナムが古代文明の遺跡の力を持って世界の軍事バランスを保ち、この地球という大樹を守るという理想から行動を起こしたことだった

今まで保護・封印を名目に収集していた南極に眠る遺跡を使用し、ガイア(地球)に触れ龍脈・龍穴から自由に炎蛇を発生させ世界を直接攻撃できるという核兵器以上の兵器になることを目論んでいた

そしてそのガイアに触れるには芳乃の霊媒体質を利用し、そのデータを元にガイアと交信できる装置を開発しようと試みたのである

芳乃は渋りながらも50億(円かjかは不明)という莫大な報酬に目が眩んでガイアに触れることになり、結果として南極に眠る遺跡はまだ現代科学などでは到底制御できるものではなく、炎蛇の世界中の大量発生という暴走を招いた



…その出来事はまだ李梨の記憶にも新しかった

「あ、あの出来事を彼女が!?」

「だからあれは私じゃなくてあなた方アーカムが私にやらせたことよ」

李梨のまるで犯罪者でも見るかのような視線に不快感を覚えた芳乃は再び口を尖らせてつぶやく

「とにかくお前が出てくるとロクなことになりゃしねーからな」

言いながら優は依然として炎を巻き上げて残骸となっているヘリを見やる

「…ベル203S ヒュイコブラ…やっぱしアメリカが動いてきたか…ったくこんなアジアの砂漠のど真ん中にまで軍を動かしてきやがって」

優は米軍とは因縁が深く世界中でやりあっているだけに憎しげに言う

「ええ、まさかアメリカが出てくるなんて…私達のところにはそんな情報は少しももたらされなかったわ」

「ま、行ってみりゃ分かるさ…遺跡のことを含めてな」

優は目指す場所の方向を見据えながら力強くつぶやく




優達一向を乗せた車はさらに遺跡のある方向へと向けて走っていた

そして後部座席には新たに一名の搭乗者芳乃が笑顔で座っている

後方を見やった優は、言っても決して引き返さない相手を考えこれから起こるだろうことに渋い表情を浮かべる

米軍だけでなく、芳乃の動向にも気を配らなければならないのでその苦労もひとしおだ

「うわっ」

考えこんでいる最中、途中車が大きく揺れた。道は舗装されていないのだから仕方のないことだがこれでは落ちついて考える暇もなかった

「アイタッ…ちょっとアナタ!もっと丁寧に走ってよ」

頭をぶつけた芳乃が李梨の運転に抗議の声をあげる

「ご、ごめんなさい。こんな悪路だとは思わなかったので」

李梨は素直に自分の運転の非を詫びる。だが本来勝手に乗りこんできた芳乃に謝る必要はないのだが相手が相手だけに李梨も素直に詫びておく

だが優はそうではない

「やかましい!米軍が出てきたとありゃこんなところでのんびり景色を見ながらドライブなんてしてられっか!!…だいたいなんでお前まで乗ってくるんだよ…」

「そりゃ〜ね…アーカムだけでなくアメリカまで出てきたんならさぞかしそのお宝はすごいんでしょうね」

芳乃は目も口も笑いながら応える

「っち…まったくこんな砂漠でもお前に会うなんて俺の運命を呪いたいぜ」

「あら?こんなかわいい娘(こ)を捕まえといてそれはないじゃない。だいたいそのおかげであのヘリだって撃ち落とすことができたんだから」

「っへ、言ってろ」

その言葉に優はこいつの性格は死んでも直らんなと考えながらる

李梨は二人のやりとりをただ聞いているだけで視線だけは前方に向けてしっかりとハンドルを握る

「ねーね、ところでさこれまでにその遺跡についてどんなことがわかってんの?」

芳乃はさっそく情報収集とばかりに黙っている李梨に話かける

「え?」

不意に自分に向けられた言葉に一瞬言葉を失うがすぐに立ち直り、

「それが…遺跡の入り口らしきものを見つけたと連絡が入ってからは…」

「嘘?…それだけなの…」

芳乃の驚きのつぶやきに李梨はうなずくしかできない

「調査隊もそれを警備するもの…そしてその調査隊を捜索するためにすでに現地に行っているはずの部隊からも連絡が途絶えたままなんです」

優はその言葉も黙って耳に入れている。だがその頭の中ではすでに最悪のパターンも予想している

「『遺跡の入り口らしきものを発見した、これから内部を調査する』……それを最後に音信が途絶えました」

それは優も山本から聞いていたので既に知っている。だからこそスプリガンである優が向かうことになったのであり、捜索隊とも連絡が取れないというのには、おそらくなんらかのアクシデントが起こったと予想される

通信機の故障、移動車両の故障、遺跡のトラップに巻き込まれたなど。…そしてすでに米軍の襲撃にあった

この最後の可能性が優達自身も襲撃を受けたことから可能性としては大きいと判断している

「…今回も結構危ないかもね」

芳乃も優の表情からそれをうかがいが、どこか楽しげに言い放つ。こんな状況は優以上にフリーで世界を駆け巡る芳乃にとってはすでに当たり前の日常だ

芳乃の行動には常に危険が付きまとい、いつも命を張って仕事をこなしている。そしてそれゆえに得る物も大きいために常にその危険へと飛びこむのだ

『ハイリスク、ハイリターン』、これが芳乃を動かす要因の一つである。もっとも楽して最大の利益を得るという手段があるのなら芳乃は迷わずにそちらを選ぶ

芳乃は常に死線を求める狂人でもないし自殺志願者でもない。あくまでも財宝を求めるトレジャー・ハンターなのだ

「お前はお呼びじゃないんだからここから帰ってもいいんだぜ」

「冗談でしょ。お宝を目の前に私が帰れると思う」

「……思えないな…それに……!?」

いいかけた優は突然の衝撃に前のめりになり、そしてそれは後部座席に座っていた芳乃も同様で前部座席シートに思いっきり頭をぶつける

「ちょ、ちょっと!こんなところで急ブレーキなんかしないでよ!」

「………」

頭を押さえながら運転していた李梨に抗議するが李梨はなにも言い返さない。いや李梨は言い返すことができなかった

「ちょっと、いったいなにを見て!?」

李梨が自分を無視しているかのような態度にムッとしながら芳乃も前方に視線を移す。すると李梨だけでなく芳乃もそして優の動きも止まりただそれを見ていることしかできない


優達の前方、そこには確かにこの砂漠上にはそぐわないものが確認できた

それはまだ優達の位置からでは遠いのだがはっきりと形も一望できるものがそびえていたのである


それを見た芳乃は顔をヒクヒクと引きつらせながら、同じように引きつらせている優に語り掛ける

「ゆ、優ちゃん ……聞いても…いいかしら」

「…なんだよ…」

「あれは蜃気楼じゃ…ないわよ…ね?」

「ああ、あれは幻でもなんでもないぜ」

「なんであんなものがこんな砂漠上にあるわけ?」

「俺が……俺が知るかよ…」

依然顔を引きつらせながら優はその言葉に応える

優達の眼前には小型ながら優達も良く知っているエジプトの歴史的建造物、いや大きさはエジプトのそれとは違ってかなり小さいく、形状もどこか違和感を感じるがまさにそのものが立っているのだ

「…李梨…一応お前に聞いて……いいか?」

「いいえ、優。私も…あなたに尋ねたいわ…これって…」

突如自分に語り掛けられたことに狼狽しながらも李梨は声を絞り出す

「ああ、これは小さいけど立派なピラミッド…だ…」

優達の眼前にそびえているもの、それはピラミッドであった

「発見した遺跡の入り口って…これか?」

優は自分の予想とは違ったものの発見に李梨の返事を待つ

「いいえ……調査隊の報告では…大人一人が入れるぐらいのものとしか…」

「じゃあ私達の目の前にあるあれはなんなのよ!!」

「行ってみるしかなさそうだな」

優はまだ驚きこそしていたが、目前の神秘に心を躍らせていた

中国の、しかもこのような砂漠地帯にピラミッドがあるなどという話は自身まだ聞いたことが無く未知なるものへの好奇心が優にはあった

神秘、それは優の冒険心をかきたてるものである

それは遺伝から来るものなのか。優の本当の両親は元アーカム財団の考古学者だった。そして後に優の養父となった叔父も自称”冒険家”を名乗って世界中を旅している

遺伝か環境か、優自身も考古学に興味を持ち、こうして任務の傍らとしてではあるがこうして世界中をまわっては世の中の神秘を観たいと常に願っている

かつてある人物に『世界中の神秘を全部見るつもりか!?』と尋ねられたとき、優は"yes"と即答している

その神秘の建造物がこの砂漠上で優達の前に聳えている

「な…なんなのこれ…」

芳乃は顔を引くつかせ、額に汗を浮かべながら尋ねる

「こいつはすげぇー発見だぞ! エジプト文明以外にこんな建造物があったなんて!!」

優は目の前の光景に心踊り言い放つ

「ゆ、優ーーーっ!!」

だがその心踊る優に李梨の悲痛な叫びが届いた

優はとりあえずこの目前のピラミッドの神秘を心の奥にしまい、任務を優先しようと思考を切り返る。そして李梨の前に駆け寄った瞬間優もその場に立ち尽くしてしまった

「あららら……」

芳乃はその光景を見つめながらただそうつぶやく。だが優は握り締めていた拳をワナワナと震わせる

「………くっそぉー!」

しばらく立ち尽した後、優は叫びながら地面に拳を打ち付けて悔しがる

優達の眼前には無数の調査隊とそれを護衛するための警備隊、彼等を捜索にきた者の中国支部の面々の死体が横たわっていた

李梨と、そして後から駆けつけた芳乃はただそれを呆然と眺めているしかなかった



「…優…ちゃん?…」

芳乃は優のそばへと近づくと、恐る恐る優の表情をうかがいながら声をかける

しかし優はなにも語らない

この惨状を引きおこした者への怒りがそこにはあった

しかし優も今自分がやらなくてはならないことは分かっている。まだ中にいるかもしれない調査隊の救助と保護。そしてこの遺跡の保護または封印、それがスプリガンとしての自分の責務だということを優は重々承知している

今度のことのようなことは今までになかったことではない。スプリガンという職務に就いたときからこのようなことが起こることはすでに覚悟を決めていた

感情に流され冷静さを失えば自分もいつかここに横たわっている仲間に加わるのだということも

もしこの場にジャンがいたならば『甘ちゃん』と呼ばれていたことだろう

「芳乃、李梨 …俺は中に入るぜ」

優は芳乃に向けて告げる

「そうこなくっちゃ!それでこそ優ちゃんよ☆」

「ああ、だが…」

優はピラミッドのを見上げそのまま凝視する

「その前にやらなけりゃならないことができちまったようだな」

優のその言葉がこの時点でなにを意味しているのか分かった芳乃はほくそ笑む

「あら、優ちゃん気付いてたの?」

「バーロォ、当たり前だろ…お前が分かってるのに俺がわからねーわけねえじゃねえか」

「言うわね」

李梨にはこの二人の会話がなにを意味しているのか分からなかった

「優、一体なにを言って?今は遺跡の中にいる調査隊の捜索が…」

「いいからいいから。あなたはちょっと黙っててね」

李梨が全てを言う前に芳乃は手で制す。表情は笑っているが目は笑っていないその光景は武装ヘリに襲われたときの優と同じような表情で、李梨は背筋に寒いものを感じただコクコクと頷く

一方の優は静かにピラミッドのほうを見定め、まるで今にもピラミッドに襲い掛からんばかりの気迫が伝わる

「…さて。そこに隠れている奴 ………いいかげんに出てきやがれ!!」

優は言うや足元に落ちている石を拾って素早く投げつける

李梨には優の行動がまったく理解できていなかった。石は誰もいない遺跡の壁面を叩きつける。が、本来なら石は重力のままにそのまま地面に落ちるはずがそのまま宙に浮かんでいる

「なっ!?」

その光景に李梨は驚きの表情を浮かべる

「ククク、よくここに俺がいるとわかったな」

「あたりめーだ…そこからテメーの血臭や禍々しい殺気がプンプン臭って来るからな」

「クククク、そいつは誉め言葉として受け取って置こう…… そして待っていたぞスプリガン…ここが貴様の墓場となる」

声はその壁面から聞こえてくる。李梨にはまるで壁が喋っているように聞こえる。だがそうではないことが次の瞬間には分かった

壁が歪んで見えたと思った瞬間手が、いやそこからさらに腕が現われてきた

「げげー、気色悪ぅー!」

芳乃はその光景をまるでおぞましいものを見るように不快感を表す

優は動ぜずに相手をジッと凝視している

そして優の前に表れたのは赤い髪に細身の男だった。だが最も印象的だったのは、男はガスマスクかなんらかを顔に覆いその表情を優達には晒していない

「…テメェーか、この惨状を造りやがったのは!」

だが優にはそんな敵のことなどお構いなしに、現われた瞬間それまで抑えていた憎悪を吐き出して言い放つ

「クッククク ……気に入って頂けたかな?これは我々からの宣戦布告だ!!」

男は両腕を広げ語尾を強調する。そしてその姿には明らかに挑発も含んでいた

「…なにしろ今回のこの遺跡には我々(米国)はかなり入れ込んでいるのでな」

相手もそんな優の怒りの様を楽しむかのごとく広げた両腕の先をクッと内側に曲げておどけてみせる

表情が見えず、そのマスクの下ではどのような表情を浮かべているか分からないが、決して愉快な表情であるわけがない。そして見えない分、そう考えさせられるだけに優の怒りは一層増す

「クッククク……俺様の名前はグリス。今回の遺跡を貴様等のような民間企業に ……アーカムなどに黙ってくれてやるわけにはいかん……この”エデン”をな!」

優の前に立ちふさがる敵グリスはこの遺跡の名を”エデン”と呼んだ瞬間優の表情に驚きの表情が浮かぶ

そしてその瞬間にわずかだが優に隙が生じた

「ヒャハハハ、もらった!」

その隙を見逃さずにグリスはナイフを片手に優に向かって飛び掛かった



to be continued


ふぃ〜1/14以来です(汗)ご無沙汰しておりました(アハハハ)
まさか2ヶ月以上も書かなかったなんて自分でもヤバイかったなと認識しております(笑)

これでやっと3話目となり、遺跡、敵がやっと登場したわけですが、この次の展開まだあまり考えておりません(オイオイ)こんな作品ですが今後ともお付き合い頂くことを切に希望していますのでよろしく!
では第四話で!

P.S. 次回はもっと早くUPしたいと考えているのですが、何分にもネタ不足と他にも書くべき物がたまっている(汗)


改訂 2002年7月9日


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