杏子編Y
14:27 -あまぎ探偵事務所-
モニカ「―………専門的なことはわからないが、これはどうやらクローンに関するデータのようだな」
杏子「クローン? 記憶の伝達のじゃなくて?」
モニカ「ああ……他のも参照してくれるか?」
雄二「あ、はい……」
(カタカタカタ)
雄二「……あれ?」
杏子「(どうしたのかしら? なんか雄二君、キーボードと画面を交互に見返してるわ)」
雄二「変だな……」
モニカ「どうした?」
雄二「いえ……それがなんだかアクセスしようとしてもこっちの指示を受けつけてくれなくて」
モニカ「なんだと!」
(ビモッ)
杏子「なんのお………―!!」
雄二「な……なんだよ……これ……」
モニカ「これは!!」
私も雄二君もそれを観た瞬間思わず身を引いてしまった
そう、音ともにモニターには………
杏子「『Hello』……って書いてあるわ……ね」
モニカ「どうやら……遅かったようだな」
杏子「え? それって―」
私が問い返まもなく再びモニターに文字が表示された
…『やぁ、天城さん。思ったよりも早くここにたどり着いたみたいだね』
杏子「天城さん?」
モニカ「どうやらこちらのアクセス元から相手はこちらをここの所長である天城小次郎だと思っているらしいな」
杏子「あっ」
…『でもアンタに教えられるのはここまでだよ……』
杏子「…ここまで?」
雄二「駄目だ! どうやってもこれ以上のアクセスができない!」
モニカ「どうやらこちらからの接触を拒否されたようだな………」
雄二「クソッ!」
…『どうしたの? 黙ってるなんてひどいなー……』
杏子「どういうこと?」
雄二「ああ、アクセスとかはできないんだけどこのメッセージに対して会話することはできるんだ…つまりチャットみたいなものなんだ」
杏子「な…なるほど」
杏子「(チャット……またわからない言葉が出てきたわね……)」
モニカ「だが相手がこう言ってきてるという事は、こうしてチャットはできるというわけね」
雄二「そうなりますね」
モニカ「それなら…こいつからできる限り情報を引き出しにかかる」
杏子「え?」
雄二「そうか……こいつがアクセスを止めてるなら、こいつから……」
モニカ「そういうことだ」
杏子「???」
モニカ「と、なると……ここの所長である天城小次郎の振りをするのが得策なんだが……」
雄二「モニカさんは天城さんとは面識がないんですよね?」
モニカ「ああ……話には聞いているがな」
雄二「話に……?」
モニカ「フッ……今となっては昔の話さ……」
雄二「う〜〜ん……じゃあ俺がやってみるしかないかな?」
モニカ「ああ、それが無難だな」
杏子「(い…一体何をしようとしてるのかしら? ……話の流れからすると天城さんの振りをしてなんかやるみたいだけど)」
雄二「それじゃあ、まずこの相手のことを聞いてみますね」
モニカ「ああ、頼む」
『……返事がなくて悪かったな……そもそもお前は誰だ……』
雄二「天城さんだと、こんな感じかな? さて、返事待ちか」
杏子「………」
…『そういえば自己紹介がまだだったっけ?』
杏子「(ゴクリッ)」
セカンド『はじめまして……僕の名前はセカンド……』
杏子「セ…セカンド……?」
杏子「(これって本名なのかしら?)」
モニカ「!!」
杏子「(あら? 今一瞬モニカの表情が変わったけど…)」
雄二「セカンド ……それって本名なのか………?」
モニカ「代わってくれ!」
雄二「え?」
モニカはすぐさま雄二君を押しのけると雄二君にも劣らない速さでキーボードを叩き始めた
その表情には驚きと……焦りの色がうかがえる。 多分モニカはこのセカンドと名乗る人物いのことを知っているのだろう
モニカ『なぜお前がそこにいる!』
セカンド『……どうしたんだい急にそんなことを言い出して……』
モニカ『なぜ……なぜテラーの離反者であるお前がそこにいる!』
雄二「!!」
杏子「モニカ、これは!」
セカンド『どうやらそこにいるのは天城小次郎さんじゃなかったみたいだね。氷室というアシスタントでもなさそうだ………あなたは一体誰なのかな?』
モニカ『ラッシーンを知らないとは言わせないぞ!』
杏子「(ラッシーン? 誰かしら………)」
セカンド『ああ…あの人か。 あの人とあなたが知り合いってことは……あなたはプリシア派の人間ということだね。で、彼はあの後どうなったのかな?』
モニカ『死んださ………お前を出した後な………』
杏子「(死んだ? そのラッシーンて人が?)」
杏子「(……そういえば会ったときに"命を賭して"情報をもたらした諜報員がいるとか言ってたけど……)」
セカンド『そうか…彼は死んだのか……』
モニカ『質問に答えてもらおう! そのラッシーンが命をかけてまでエルディアから出したお前がなぜそこにいる!』
セカンド『あなたの推察どおり…だと思うよ』
モニカ「!!」
セカンド『もうわかっていると思うけど、ここには僕たちテラー…いや、僕はもうその一人じゃなかったね……』
セカンド『だが僕らのプロジェクトを完遂するためのあるものがここにはある。 僕はそれを取りに来たのさ』
モニカ『なぜお前がそれを求める! ネオ・ナチか旧エルディア情報部にでもそれを渡すつもりか!!』
セカンド『まさか……僕はもう彼等のところには戻れない。いや、そもそも戻るつもりもないよ。 僕に"レジェクト"なんて称号を与えた連中の元になどね』
杏子「(レジェクト……reject……確か欠陥品……いえ、不合格者って意味があったわよね……)」
杏子「(…………不合格者!?)」
モニカ『では……ではお前はそれをどうするつもりだ!』
セカンド『そうだね……まだ考えていなかったよ』
モニカ「ふざけるな!」
杏子「!!」
モニカはセカンドの対応にいらつきを覚えたのか、キーボードを打ち込む手を止めて、次の瞬間にはその手を机にたたきつけている
こんなモニカを観たのは初めて………
モニカ『セカンド…お前は一体何を考えている!』
セカンド『そうだね……一番僕が考えているのは……"人はどうして生まれてくるのか"ということかな? あなたはどう思う?』
モニカ『悪いがここでお前とそのような哲学を語るつもりはない! 私の質問に答えてもらおう』
セカンド『哲学だって? とんでもないよ、僕には…いや、僕たちにはとても重要な問題さ』
杏子「(僕たち? つまりプロジェクト・ネクストっていう計画に関わったもの……いいえ、その計画によって誕生したもの…………誕生………テラー…!?)」
モニカ『!?』
セカンド『教えてあげられるのはここまで……そうそう、一つだけヒントとなるデータを送ってあげるよ』
モニカ『ヒントだと?』
セカンド『Aut Wiedersehenn! Bis spater!』(訳:さようなら。また後ほど)
セカンド『……………』
モニカ「くそ! 回線を切断された!」
杏子「モニカ! セカンドが送るといったヒントって何?」
モニカ「今確認する………これはなんだ?」
雄二「画像データ……みたいですね」
杏子「なんの?」
雄二「さぁ? さっきハッキングで覗いたデータと似てるけど……」
杏子「………」
モニカ「鏑木研究所のデータの一部……と考えるのが妥当だろう。他にも何枚か同じようなデータが送られている。 それらを見るとやはり遺伝子のようだ」
雄二「……わかります?」
モニカ「残念ながら私には専門外だ。 このデータの内容を知るには専門家の意見が必要になる」
杏子「専門家……か」
モニカ「あいにく私は日本でこの分野に関する専門家には心当たりがない」
杏子「(日本にはって………そっか、モニカって元々CIAのエージェントだったからそういう情報には詳しかったんだっけ?)」
雄二「ちょっと待てよ……専門家なら俺……心当たりが一人いますけど」
モニカ「本当か?」
杏子「雄二君に遺伝子に関する専門家がいたの?」
雄二「なに言ってんだよ。 杏子だって知ってる人物だぜ」
杏子「!?」
杏子「(私も………?)」
雄二君は自身ありげな顔で言い放つが正直私には思い浮かばない
でも何か忘れているような気が心の奥でするのは確かのようだ
杏子「ねぇ、雄二君。それて一体誰のことを―」
(ピリリリリリリリ ピリリリリリリリ)
杏子「!!」
私が訪ねようとした瞬間、雄二君の持っていた携帯がタイミングを見計らったかのように鳴り出した
雄二「ごめん、電話……って、水見さんからだ」
杏子「葵? 貸して!」
雄二「あ、おい!」
私は雄二君からひったくるようにして携帯を取り、着信ボタンを押す
だが……だがなぜかその瞬間に背筋に言いようのない悪寒を感じてしまった
杏子「もしもし、葵! 今―」
…『はろはろ〜♪』
杏子「へ? 『はろはろ〜♪』って葵! なに"思い出したくない人物No1"の人の真似なんかこんなときにしないでよ! こっちは今―」
まりな『ほほぉ〜、思い出したくない人物No1ね……言ってくれるじゃないの杏子〜』
杏子「え? 葵……あなた何を言って……」
まりな『まだわからないの? この若くて美しい先輩の声を忘れるなんてずいぶんじゃないのよ』
杏子「ま…まさか……」
まりな『そう、そのまさかよ♪』
杏子「本当の本当にまりな先輩……なんですか?」
まりな『そうよ〜』
杏子「ア…アメリカにいるはずの先輩が……な、なんで日本に…… って、なんで葵の携帯から!?」
まりな『答えその1。 私は昨夜日本に到着した。 答えその2。私は今葵と一緒にいるの。 以上よ』
杏子「う”っ………」
まりな『って、こんなことやっている場合じゃないわ! ねぇ、そっちに小次郎から連絡あった?』
杏子「小次郎って……天城さんですか?」
まりな『他にどの小次郎がいるのよ!』
杏子「いえ。私たちは今天城さんの事務所にいるんですけど、天城さんはここにいませんけど」
まりな『小次郎の事務所に? ちょっと氷室さんに替わってくれる?』
杏子「氷室さんに?」
私はそれを要求されたときチラリと横目でソファで寝ている氷室さんを観る
氷室さんは相変わらず何かにうなされているように眠ったまま。少なくとも今電話に出れるとも思えない
まりな『どうしたの? いるんなら早く替わって欲しいんだけど』
杏子「いや……氷室さんは今ソファで寝ていて〜〜〜〜」
まりな『はぁ? 寝てるってこんな昼間に?? 氷室さんったら小次郎の怠け癖でも伝染っちゃたんじゃないの?』
あまりの言われように向こうで氷室さんのくしゃみが聞こえてきた
杏子「その〜……昼寝というよりは気絶に近いかと〜………」
まりな『はぁ? 一体そっちで何が起こってるのよ』
杏子「そ…それはちょっと説明すると長くなるかと………」
まりな『ああ、そんなのは聞いてる暇ないからこっちの用件だけ済ませたいの。つまりそこに小次郎はいないし、今どこにいるかもあなたは知らないのね?』
杏子「え、えぇ………そうなります」
まりな『んで、あなたはそこで何やってるのよ。葵の話じゃあなたは捜査から外された…って聞いてるけど』
杏子「(う”っ………ま、まさか命令無視して捜査を独自に続行しているなんて………って、そういや先輩って……)」
杏子「先輩こそなんで葵と一緒なんです? まさか葵から捜査情報とかもらってるんじゃ………?」
まりな『う”っ………』
杏子「…………」
私とまりな先輩の間に奇妙な沈黙の間が流れ出す…
杏子・まりな『あははははははははははは………』
杏子「………」
まりな『…………』
まりな『と、とにかく……小次郎のやつ、あいつなんだかおかしかったのよ』
杏子「こ…小次郎さんがおかしいのは元々じゃ」
まりな『そ、それはそうなんだけど……って、そっちじゃないのよ! あいつ……なにか無茶しようとしてなけりゃいいけど』
杏子「!?」
まりな『とにかく、あなたにも会う必要があるわね……ちょっとこれから会えないかしら?』
杏子「これから……ですか?」
私は言いながら雄二君とその隣で私の様子を見守っているモニカを見る
私の視線に気付いたモニカは何も言わずにただコクリと頷く。私はそれを了承とみなし指定場所に…………ど、どこにしたらいいかしら…………
雄二「杏子……その人と会うの?」
杏子「う…うん。 会う必要はあると思うわ」
雄二「じゃあ貸して」
杏子「え?」
雄二君は私から携帯を受け取ると、まりな先輩と何事か話し始める
私はまりな先輩の出現にも驚いたが、それより気になるのが小次郎さんの様子がおかしいということだ
確かに私はまだ付き合いは長くないし、正直何を考えているのかわからない人だとわかる
けど…………
雄二「…………ええ、じゃあそこで。 ……はい、じゃあ」
杏子「雄二君……どこでまりな先輩と会うの?」
雄二「杏子も知っているところさ。 ついでに俺たちの用事も済ませられるし」
杏子「用事って……例の遺伝子の専門家?」
雄二「ああ。待ち合わせにもちょうどいいしな」
杏子「(遺伝子の専門家がいるような場所が待ち合わせにちょうどいい……?)」
雄二「とにかく、これから会いに行こうぜみんなでさ」
モニカ「そうだな…時間がない」
杏子「ちょ……ちょっと! 氷室さんはどうするのさ!!」
モニカ「時間がない……介抱している時間も惜しい」
杏子「………」
雄二「玲奈も連れてくりゃよかったな。そうすりゃあいつに任せられたのに」
杏子「………」
モニカ「と、いうわけだ。行くぞ」
杏子「ああ、ちょ…ちょっと! 氷室さん……ごめんなさい」
私たちはソファで眠る氷室さんを残してあまぎ探偵事務所を後にした
そして向かうは…………
どこなのかしら?
(to be continued)
ぱら「眠い…疲れた;;」
まりな「ちょっと、作者! 起きなさいよ」
ぱら「Zzz Zzz Zzz Zzz………」
まりな「おい!」
動き出すセカンド
焦るモニカ
セカンドから送られたデータ、その内容を確かめるべく3人が向かった場所とは?
そして弥生救出のため動き出す小次郎
次回 小次郎編Y!
次も読まないと1919ぶっ放しちゃうわよ♪
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