杏子編Z
15:20
(カランコローン)
マイナ「いらっしゃいませー」
雄二「や、マイナさん。お久しぶり」
マイナ「あら、雄二君に杏子さん。どうもお久しぶりです」
杏子「マイナー。 ひさしぶりー」
マイナ「久しぶりも久しぶりよー。 杏子さんってばここ3ヶ月ばかりずっと来てくれないんだもん」
杏子「ごめんごめん。こっちも仕事で何かと忙しくて」
マイナ「ああ。 世界を救った救世主だものね。 色々と仕事も大変なのね」
雄二「いや、こいつの場合有能じゃなく無能だから大変なんだよ」
杏子「………どういう意味よそれ」
雄二「言ったまんまの意味だけど?」
杏子「ひっどーい! こうみえてもちゃんとメールもインターネットもパパッとできるようになったんだから!」
雄二「いや、それ遅すぎるって。そんなんでよく内勤が勤まったよな」
杏子「ふふ!私は2本指打法を習得したのよ!」
雄二「2本指打法?」
杏子「そう、右手と左手の人差し指でキーボードを扱うのよ」
雄二「…………馬鹿?」
杏子「うぐっ……そんな冷たい目をしながら言わないでよ!」
マイナ「プッ。 相変わらずなのね、二人とも」
雄二「いや、相変わらずっていうか、変わらないはコイツだけですよ」
杏子「ちょっと!仮にも年上の女性に対してコイツはないでしょ、コイツは」
雄二「だって杏子だもん」
杏子「うるうる………『杏子だもん』の一言で納得しないでよ〜!」
マイナ「確かに杏子さんはあの時とあんまり変わってないように見えますねー」
雄二「でしょ?」
杏子「うう…マイナまで〜〜」
マイナ「じょ…冗談ですよ。 それで、御二人の仲はどこまで進展したんですか?」
杏子・雄二『えっ?』
杏子「お……御二人の仲って……私と雄二君?」
杏子「(私たちの仲って………マイナってばどういう意味かしら? なんだかそれじゃあまるで私と雄二君が………―)」
雄二「うわーーーっっ!!! そ、それより杏子。 お…お前の先輩っていつ来るんだよ」
マイナ「?」
杏子「まりな先輩? さぁ? 場所は教えたからすぐに来ると思うけど。 でもどうしたの?そんなに汗かいて……」
雄二「え? い、いやー、ここに来るまで結構暑かったじゃん」
杏子「そうだったっけ?」
マイナ「………あらあら。 現在は一方通行なのね」
雄二「………残念ながら」
杏子「?」
雄二「いいんだよ、別に。 杏子はまだ知らなくても…」
杏子「ふ〜ん。 あ…で、雄二君。ここでまりな先輩と落ち合うわけだけど、電話で話してた例のの専門家って?」
マイナ「!!」
雄二「へ? 杏子、お前それ本気で言ってんの?」
杏子「私……なんかおかしなこと言った?」
雄二「おかしいもおかしくもないも……その専門家なら……ほら、ここにいるじゃん」
雄二君はそういいながら眼前のマイナを指差す
杏子「へ? …………!!」
雄二「………思い出した?」
杏子「そ、そういえばマイナって……」
マイナ「ええ、こうみえても私一応遺伝子工学を学ぶために日本に来てるんですけど………」
雄二「LOST ONEのときを忘れたのかよ……おまえ」
杏子「きゃーっ、嘘嘘。ごめん! 私今の今までそのこと忘れてたわ………って……忘れてたわけじゃなくてその……ど忘れしてたっていうか………」
雄二「結局忘れてたん……だろ?」
杏子「………ごめんなさい」
そういえばマイナの助力であの事件が解決できたことを私は今思い出した
そして気のせいか………マイナの笑みが少し引きつって見えるんだけど………
マイナ「いいんですよ。どうせ私はこうしてウェイトレスやってるほうが似合ってるんですから………」
杏子「(うっわー………なんか遠まわしに責められてるわね。 マイナってば以外と根に持つタイプ?)」
マイナ「……なにか?」
杏子「(ブルブルブルブル)な、なんでもありません」
杏子「(や、やっぱちょっと傷ついてるみたい)」
杏子「(でもマイナってば……実際ウェイトレスのその格好が板に合うって言うか似合いすぎなのよね………)」
マイナ「あら?」
私のそんな考えをよそに、マイナの視線は私と雄二君の後ろに注がれる
マイナ「ごめんなさい、気が付かなくて。御二人のお友達?」
杏子「あ、この人は……」
モニカ「久しぶりだな……マイナ」
マイナ「え?」
杏子「(そういえばこの二人って知り合いだったわよ……ね?)」
マイナ「あの……私あなたと会うの………初めてなんですけど……」
杏子「え?」
モニカ「ひどいなモニカ。前はその小さな身体を愛らしく抱きしめてあげたのに」
マイナ・杏子「えぇーーーーッ!!」
マイナ「な…なななな………―」
モニカのその一言にマイナは顔を真っ赤に紅潮させて狼狽する
マイナ「な…なんなんですかアナタは一体! そもそも久しぶりに会ったっていうの………って……久しぶり?」
モニカ「相変わらずだなマイナは。顔は変わっても、この声には聞き覚えがあるだろ?」
マイナ「も…もしかして。 アナタ、も…モニカなの?」
モニカ「ご明察」
マイナ「ほ……本当に?」
モニカ「ゴースト(幽霊)じゃないし、ここ(日本)風に言えば足もちゃんとあるだろう?」
マイナ「………うん」
モニカ「………」
マイナ「だって…だって、モニカってエルディアで死んじゃったって………」
モニカ「悪いな。あの件で私はCIAに追われる立場に追い込まれたのさ。 それを回避するために死んだことにしたのさ。こうして顔まで変えてな」
マイナ「でも生きてたんなら連絡ぐらい! 私、アナタのことでプリシア様にもお願いして―」
モニカ「プリシア様も親しいものには生きてることの連絡ぐらいしてはどうかと言われたさ……」
マイナ「じゃあどうして……」
モニカ「私が断ったんだ。 どこかで私が生きていて、しかもエルディア女王に匿われているなんてことが知れたらプリシア様の立場が再び悪くなるからな。せっかくLost One事件の後処理などで得た信頼をも失う可能性があった。あらゆるリスクは避ける必要があったのさ」
マイナ「………」
モニカ「私としてもあの件でプリシア様の重荷になるのなら反逆罪だろうが逃亡罪に問われててでもアメリカに還ろうと思ってたさ」
マイナ「えっ?」
モニカ「私という存在がプリシア様の重荷になるのならアメリカの檻の中の方がましだとも思ったわけさ」
マイナ「で、でもアナタがしたことは………」
モニカ「違うんだよ。たとえ私のしたことが正しかったとしても、CIAという国家機関の命令に背いたんだからな。 それは覚悟してたさ」
マイナ「で…でも今こうして顔まで変えてここにいるってことは………」
モニカ「ああ。お前と同様、プリシア様の役に立つためさ。 裁かれるのはそれからでも遅くはないさ」
マイナ「モニカ……」
モニカ「それに………」
杏子「(なにかしら? なんか今一瞬言いかけたとき私のほうを観たような気がするけど)」
モニカ「(コイツへの借りも返さなくてわな………)」
雄二「あの〜〜〜〜………お話中申し訳ないんですけど、そろそろこっちの本題に取り掛からないと……」
杏子「あ!」
モニカ「う…うむ。そうだったな」
マイナ「本題って……モニカのことぢゃなくて?」
雄二「違いますよ! またマイナさんにあのときのように知恵を借りたいなって……」
マイナ「私の知恵って……遺伝子工学のこと?」
雄二「そうです!」
杏子「そっか……そういえばマイナってその道の専門家だもんね」
雄二「………だから言ったろ、お前も知ってる人だって」
杏子「そ…そうね。 アハハハハハハ……」
雄二「(コイツ……本気で忘れてたな。まぁ、わからなくもないけど)」
マイナ「?」
雄二「と…とにかくマイナさん!この画像ファイルを観てほしいんだけど……」
雄二君は持っていたノートパソコンを起動させ先ほど受け取ったファイルを開いた
モニカもにこやかな表情からスッと険しい表情へと変わってその画像を注視しだす
マイナ「…………これは、いわゆるクローン製造過程の画像ですね」
杏子「クローン? そういえばモニカもそういって……」
モニカ「ああ。だが残念ながら私には詳しいことはわからないんだ。 だがマイナなら………」
マイナ「ええ。クローン技術には『受精後発生初期の細胞を使う方法』と『成体の体細胞を使う方法』があるの。 例を挙げればイギリスの有名なクローン羊は前者の方に部類されるの」
雄二「イギリスのクローン羊って……ドリーとかいう?」
マイナ「ええ」
杏子「あ!それなら私も聞いたことある!」
マイナ「そしてこのクローンの方法には後者である『成体の体細胞を使う方法』が使われていますね」
杏子「具体的にいうと?」
マイナ「ええっと……つまりクローンの元となるDNA提供者の体組織……腕や足、果ては髪の毛などといった肉体のDNA情報を元に生成していくんです」
杏子「ふーん……雄二君わかった?」
雄二「お前……馬鹿にしてるだろ。 多分俺のほうがこういう分野にかけては杏子よりも上だと思うけど」
杏子「うぐっ……」
杏子「(な…なんか最近年上としての威厳が無くなってきているような………)」
マイナ「クスッ」
雄二「つまりこのデータはどこか身体の一部の情報から創り出されたクローンの資料画像……ってことですよね?」
マイナ「ええ。 ただ………」
杏子「ただ……?」
マイナ「このデータを見ると……未受精卵の核を取り除き、その細胞とを融合させる際の工程なんですけど………」
マイナ「ここです………」
マイナは数枚並んだ画像の一枚を指差す
当然ながら私にはなにがおかしいのかがわからない。けどマイナにはわかっているみたい……
マイナ「ここ……一見すると気付きにくいんだけど………」
マイナはそういうと再び食い入る様に画面を凝視する
私には初めからわけのわからない画像にしか見えないのだけれど………
マイナ「やっぱり……ここ、クローン。いいえ、人体のDNA配列としておかしいんです」
杏子「?」
雄二「つまり……クローンなだけじゃなく遺伝子を改造……みたいなことも行われているってこと?」
マイナ「ええ、おそらくは……。 でもこんな遺伝子構造……みたことがないわ。それにテロメアだって短すぎる……これじゃあそんなに長いこと生きられるとも思えない」
杏子「えっ!?」
モニカ「……それはそうだろうな」
杏子「え?」
モニカ「おそらくはそれがプロジェクト・ネクストとやらによって産み出されたものだ……」
マイナ「プロジェクト……ネクスト?」
(カランコロ〜ン)
マイナ「あ、いらっしゃいませー」
まりな「はろはろ〜」
杏子「げっ!」
まりな「あーら杏子。かつての教官に会った第一声が『ゲッ』とは……あなたもいい根性してるわねー」
(ぐりぐり)
杏子「アイタタッ……ちょ、ちょっとやめてくださいよまりな先輩」
まりな「あ〜ら、なんか言葉が足りないように聞こえるわよ!」
(ぐりぐり)
杏子「痛っ。 そ、そのーーー……どうもすいませんでした!」
まりな「よろしい」
(ピタッ)
まりな「……そもそも電話でそっちに行くって言ったでしょ?」
杏子「い…いや〜。えっとそうなんですけど〜〜〜……で、電話で覚悟はしてたんですけど……その覚悟も虚しく実際に会ったら新人時代にあった色々なことが思い出されまして………」
まりな「あ〜、あの頃の杏子ってば本当にとろかったもんねー………今でも変わってなさそうだけど」
杏子「シクシク」
杏子「(だから『げっ』なんて言葉が漏れたってまりな先輩気づかないのかしら………)」
まりな「なにか言いたそうね〜、杏子」
杏子「い…いえいえ! 滅相もありません!」
杏子「(こ…この人。実は人の考えてることが読めるんじゃ……余計なこと考えるのとりあえず止めとこう)」
まりな「まぁいいわ……杏子」
杏子「は、はい!」
杏子「(どうしたのかしら? なんだかさっきまでと私を見つめる表情が変わったけど)」
そんなことを私が考えていると、まりな先輩は突然私に抱きついてきた
杏子「なっ!」
雄二・マイナ『!!』
まりな「杏子……よかったわよ……アナタが生きててくれて―」
杏子「せ…先輩」
よくよく見るとまりな先輩の目から涙が零れていた
それを目にした瞬間………私の視界もぼやけ、頬を何かが伝わっていくのを感じたがそれがなんなのか私には分からなかった
to be continued
パラ「はい、Endless Rhapsody杏子編3rd DayのZをお届けしました! 今作で登場したマイナは実は設定時点では出すことは葵よりも先に決定していたのであります!」
杏子「え、そうだったんですか!?」
パラ「うむ、何しろ……今回の話でも語られたようにクローンが微妙に関わってきているのだからね。それならばゲーム中でも遺伝子工学の"勉強のために"日本に来ていただけの留学生があのLOST ONE事件に大きく貢献していたほどのスペシャリストを出さない手はないだろうと結論したから」
杏子「そういえばマイナって……留学生として勉強のために来ていただけなのに結構難しいこと知っていましたよね」
パラ「うん。あの若さであの卓越した想像力や知識………ちょっと無理があるなと今更ながらに実感」
杏子「で……でもでも。40や50を越えた科学者が出てきて解決してもプレイヤーはなんの面白みもなかったんじゃないかしら?」
パラ「ああ。現にあのLOST ONE発見した……もう名前も忘れたけど雄二がバイトしてた先の所長もおっさんだったしな。 それでまたおっさんでも出そうものならプレイヤーも飽きが来ると思ったのだろう」
杏子「つまりマイナは天才とか神童とかそういう部類に入るわけね」
パラ「うむ。 まぁもっと若くして科学の分野におけるスペシャリストはフィクションではたくさんいるからな」
杏子「例を挙げればR・M原作のK●OやA●MSですね」
パラ「お。杏子も分かってるじゃないか」
杏子「そりゃーあの作者はそれまでに神童を出すのが楽しみだったような節もありますから。ちゃんと精神面では子供として描かれていてそのアンバランスさが観ていて飽きなかったですよ」
パラ「まぁーここでその話題はそれまでにして…………杏子も無事にまりなとも再会を果たしたわけだ」
杏子「ええ。あの『げっ』ていう台詞は演技でなく地で出せました」
パラ「へー。演技にしてはそうは見えないと思ってたらやっぱそうだったのか」
杏子「だってまりな先輩ってば自分が出るまで散々私のことからかうんですよ! もうまるで行き遅れた嫁のお姉さんみたいに!」
パラ「それはそれは……本人には聞かせられない話だな」
杏子「あ、これオフレコでお願いしますね♪」
パラ「………これ生(原稿)だけど………」
杏子「え”っ!!」
(じゃーじゃん じゃーじゃん じゃーじゃん♪)
パラ「ジョ…ジョースのテーマ! なんて恐ろしい着メロ設定!」
杏子「ま……まさか」
(ピッ)
杏子「も……もしも―」
(ピッ)
パラ「まさか………」
杏子「はい……そのまさかです! ど、どうしましょう作者さん! このままじゃあ"私達"まりな先輩に!」
パラ「って、言ったのはお前だぁー! 俺を巻き込むなーーーっ!」
杏子「そんな!キャラと作者は一心同体という鉄の掟が!!」
パラ「ないないそんなの! ってわけで俺はこれで……」
(ダダダダッ)
杏子「ああ、そんな! 見捨てないでくださいよ作者さん! 待ってくださーーい!」
(ダダダダッ)
―――数分後……阿修羅のような形相の法条がこのスタジオを嵐のように駆け抜けていった (小次郎談)
杏子と再会したときまりなの瞳から零れる涙
それはかつての教え子(後輩)の無事を喜ぶ涙であった
だがその喜びも束の間………
深まる謎! 迫る危機!
まりなからもたらされた事実とは?
次回 杏子編[!
次も読まないと1919ぶっ放しちゃうわよ♪
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