第八話「闇」




「ファ〜〜〜〜……お腹がへったにゃ……水無月や葉月は一体どこへいったにょにゃら…」


ソファの上で丸まって永倉家の珍獣猫みかんはつぶやく

そして同時にお腹もグゥーと鳴り出すのであった


「ウー…..腹が減ったにゃ〜〜〜〜。食い物〜〜〜」


その言葉に反応してか再びみかんのお腹がグゥ〜〜〜〜〜と鳴り出す


「ク〜、なにか食いものはにゃいのか?」


みかんはそういうとソファから立ち上がりリビングを徘徊し、そのまま台所へと向かう

そしてキョロキョロとなにか食べれそうなのをと探しているうちに玄関の方からガチャガチャと物音が聞こえてくる

その音にみかんの耳はピクリと動き始め、そして顔を玄関の方へと向ける

するとガチャリと玄関の鍵を開ける音が聞こえみかんは台所から頭だけを出して玄関を覗く

そして勢いよく開け放たれたドアから元気のいい声が響き渡ってくる


「たっだいま〜〜〜!!」


永倉家の居候、櫻 葉月(サクラ ハヅキ)の帰宅である

そして葉月は靴を無造作に脱ぎ捨てると頭だけを出しているみかんを発見する

そして真っ直ぐに駆け寄りそのまま持ち上げる


「たっだいま〜……ああ〜みかん、元気だった〜」


そして葉月は目を輝かせてみかんを抱きしめるとそのままグリグリと頬擦りをしながら言う


「うにゃぎゃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」

「もうみかんってば可愛い声あげちゃうんだから。本当にイジメ、じゃなくて可愛がりがいがあるわね」

「うにゃ〜〜〜……葉月、なんでお前はそういつも嫌がることばかりするにゃ!」

「心外ねー……私はこうやってあなたとのスキンシップをはかってコミュニケーションを円滑にしようとしてるのよ」

「別に円滑にしたくないにゃ…」


みかんは即座に声に出して言い放つ。だが当の葉月の耳にはやはり届いていなかった

みかんがここに来てから毎度のこととはいえ飽きもせずにこのパターンを繰り返しているのである

さすがのみかんもたまったものではないため葉月とは距離をとろうとしても、葉月の方から近づいてくるのでたまったものではない

「なんか言った!」

「(フルフルフル)な、なんにも言ってないにゃ!」


そして葉月の恐ろしさというものも熟知したために逆らうことすらできないのであった


「そう♪ ならばよし」

「それより早くメシをくれにゃ!」


みかんは葉月に己の欲求を素直に伝える


「え?水無月いないの?」


みかんのその一言に葉月は反応する


「昼間出て行ったきり帰ってきてないにゃ」

「………変ね〜……連絡ぐらいは入れてもいいと思うのに…」

「どこかで遊んでいるんじゃにゃいか?」

「う〜〜〜ん……確かこの間の依頼人に会うとは聞いたけど。ハッ、まさかあの人とどこかで遊んでるんじゃ!?」

「ありうるにゃ〜……水無月はああ見えて美人には弱いにゃ」

「え、そうなの?」

「そうにゃ。水無月はああ見えて昔から美人には弱いから違う女を睦月の店に連れてきていたにゃ」

「ふ〜〜〜〜ん」

「……葉月、なにを怒っているにゃ?」

「別に怒ってなんかいないわよ」


葉月はそういいながらみかんの頭を撫で始める。

しかしその手には力が込められているのか、グワシッグワシッというとても撫でている音とは思えない音が聞こえてくる


「にゃ!?にゃががが!!い、痛いにゃ葉月」

「……あのな〜、二人そろって言いたい放題言ってくれるじゃないか」

「水無月!」

「にゅ!?」

「水無月…いったいいつからそこにいたの?」

「お前らが俺が美人に弱いっていう陰口を叩いていた時からだよ」

「ふ〜ん、聞き耳立ててたんだ。いやらしい」

「なっ!! ……いやらしいっておま……ここは俺の家だ。しかもそんな大きな声で言ってたら誰にでも聞こえるって」


俺は葉月の理不尽な言われようにちょっぴり腹を立てる。そもそもなんで陰口を叩かれている俺がイヤらしいとまで言われなきゃならんのか


「あ、そういや水無月こんな時間まで何してたのよ!!」

「そうにゃ!餌のことを忘れて一体なにをやっていたにゃ!」

「そんなことはどうでもいいの!!」

「うぐっ……」


みかんのその一言を葉月は一喝して黙らせる

みかんは、どうでもいいと言われた事に恨めしげな視線を送りただ一言だけもらす


「に゛ゅぁ!?」


だが俺にはそんな一言さえ耳に入らずただ目の前の葉月の剣幕に押されていた


「水無月、あなたこんな時間まで何してたのよ!」

「何って…仕事してたんだよ」


俺は正直に答える


「嘘っ!」


だが何を証拠にか葉月はただ一言だけ言って俺の証言を力一杯に否定する


「おい!お前なにを疑ってるんだ?」


俺には葉月が一体なにを怒っているのかわからなかった

みかんに餌をあげ忘れたことだろうか?

それとも今朝のイタズラ(六話参照)のことだろうか?

それともなにか別の理由でか?

様々な理由を頭の中で考えるがやはりどれも思い浮かばない


「本当に俺は仕事でいろいろ動きまわっていたんだよ」

「ホントでしょうね〜?そんなこと言ってあの人とデートでもしてたんじゃないの?」

「あの人?」

「こないだの依頼人よ!」

「ああ、優子さんか! バーカ、彼女とは依頼の件が終わってからゆっくりと……(ハッ)そうじゃなくて!!」

「み〜な〜づ〜き〜〜〜〜〜〜〜」

「う、うわ待て!冗談だ!!」

「問答無用!」

「ぎぇぇぇーーーーーーーーー!!」


怒りに満ちた葉月の感情は俺への攻撃へと転化し飛び蹴りが俺の脇腹にもろに命中する。不覚にも俺はそれを避けることができなかった

そして俺の絶叫が部屋中にこだまする

そしてそれを今やいつもの光景のように見つめているみかんは


「……こりは今晩餌抜きかにゃ?」


とだけつぶやくのであった







「………ってわけで今までずっと調査してたんだよ!」


15分後、やっと俺の話を聞く気になった葉月がソファの上でみかんを抱きながら聞いている

俺の服はボロボロになり、頬には引っ掻き傷が残っている

俺はそれを手鏡で覗きこみながら言う


「ふ〜ん、いまいち信じられないわね」

「だから俺のこの服についた血が証拠だろ?」


俺は襟元に附着している血を指で示しながら強調する


「でもなんで水無月がいきなり刑事に殴られるの?」

「…それはだな」


俺はその時のことを苦々しく思い出す








…………


俺は目の前につきつけられた手帳と、男とを見比べながら驚愕する


「わかったか?」

「ああ、わかったけど最近の刑事は職務質問をこんな感じで行なうのか?」

「一般市民以外にはな」

「おい、俺だって一般市民だぜ」

「フン、あんな連中の手先になって働くようなやつは一般市民じゃないさ」


あんな連中?


「おい、ちょっと待て…なんか誤解があるようだが……」

「言い逃れようたってそうはいかんぞ!」

「俺の話を聞け!アンタは俺がなんだと思ってたんだ?」

「ん?決まってるだろ。大方沙異徒のリーダー藤堂に雇われたチンピラ探偵だろう?」


藤堂?沙異徒?

だが俺はチンピラ探偵と言われたことにカチンときた

確かにまっとうな探偵ではないだろうが面と向かって言われれば頭に来るものだ

それが例え国家権力を傘に着た警察であろうと。 いや警察であるからこそかもしれない


「おい、人が黙ってれば好き放題やってくれるじゃないか」


俺は頭を掴まれている手を握る

すると刑事は素早く俺の足でも払おうと、右足で払いにくる

この辺の機敏な動作は確かにこの男が刑事であるというのは疑いようがない

そこらへんのチンピラだったらせいぜいさらに殴りかかってくるとか稚拙な攻撃に転じるからだ

その刑事の動きは俺の動きを止め、さらに戦意を削ぐという意味で最も効果的な手段であっただろう

もちろんそれが決まればの話である。夜の俺にはそんな動きもスローモーションの如しだ

俺はもう片方の手で逆に払いにきた足を逆に払い返す。柔道技でいえば燕返しとでもいったところだろうか


「なっ!?」


刑事も俺のその反撃は予想外だったらしくまともにくらって背中から地面に落ちた


「貴様ぁー!」


だが素早く起きあがると今度は怒りに任せた鉄拳でもお見舞いしようというのか俺に殴りかかってくる


「おい、今のであいこのはずだぜ」


「それにあんた刑事だろうが」という台詞はあえて言わずに俺は刑事の次々に放ってくる拳をかわす

だが刑事にはそれすら癇に障ったのか、ますます激昂する

前言撤回!「本当に刑事かコイツ?」と思いながら俺はその攻撃をかわしつづける

だいたいさっき食らったのは相手を油断させて情報を得るためだ

つまりは俺のうめきなんかも演出といったところだ

でなければそう簡単に夜の俺は攻撃をくらいもしないし、くらったってたいしたことはない

仕方無しに俺は掌で受けとめると、刑事の動きもその一瞬は止まる

それを機に俺は刑事の男の襟首を素早く掴む

刑事の目には目にも止まらない早さに見えただろう

そしてそのまま片手で宙吊りにする


「うわぁ!」

「どうだ!これでちょっとは俺の話を聞く気になっただろうが!!」


さすがにこれにはまいったのか、刑事は素直に頷き返す

ここでやっとこの刑事は自分と俺との力の差に気付いたのだった

その返答を見て俺はゆっくりと地面に降ろす

刑事は肩で息をしながらゆっくりと俺を見つめ、そして憎々しげな目で見つめ、


「ハァー、ハァー…お前、一体何者だ?なんでお前ほどのヤツが沙異徒の手先なんかに?」


その一言に俺は掌で顔を覆い、ヤレヤレという心境になったのは言うまでもない

果たしてこの刑事は俺の言うことをきちんと聞く気があるのだろうか。いや聞いたところで納得はしないのではないかと不安に思えるからだ

だが話さないわけにもいかないと、俺は刑事に事情を説明するに及んだ







「……ってわけで俺の職業は探偵、確かにあんたの言うとおり堅気な商売じゃないさ。 それで依頼人の要請でこの写真の男を探しているんだよ」

「依頼だと?誰がそんな依頼をしたんだ?」

「……あのな〜、依頼人の名前をそうほいほいと喋れるか?例えそれが警察であってもだ」


やっと話を聞く気になった刑事に俺は簡単に説明する

刑事のほうもその写真と俺の顔を見比べながら聞いている


「信用してくれたかい?」

「……まぁ、全部とは言い難いがな」

「じゃあどうすれば信用できるんだ。第一俺だってアンタが刑事だなんて信じられないぜ」


俺がそう言った瞬間、再び俺の前に警察手帳をつきつける


「よく見ろ!これが偽造に見えるか?」

「…あ、ああ確かに見えないわかったからそいつをしまってくれ」


俺がそう言い放つと、フンッと一言漏らして手帳を胸ポケットにしまいなおす


「で、………」

「神だ……神奈川県警生活安全課の神 英明(ジン ヒデアキ)。それが俺の名前だ。お前は?」

「俺は永倉 水無月。まぁあんたみたいなむさ苦しい男に覚えられても嬉しくないがな」

「フンッ」

「で、神さん。あんたはどうして俺が沙異徒の手先だなんて勘違いしたんだ?」

「……フン、いいだろう教えてやる。そのお前が探している大槻 雄一…そいつには俺も色々と聞きたいことがあるんだよ」

「聞きたいこと?」


俺はBarで大槻雄一のことを探している刑事がいると聞いていたので内心いぶかしんだ

この神という刑事の様子からするとどうにも穏やかな話ではない


「どうやら本当に沙異徒の手先ではないらしいな」


俺がその話を聞いたのが初めてといった反応からやっと神も俺が沙異徒の手先でないということに納得したらしい


「くどいぜ。で、続きを」

「ん?ああ……事件は2ヶ月前……江ノ島で一人の女子高生が引き逃げ事件に遭った」

「!?」


俺はどこかで聞いた話だと記憶の糸を辿る

だが神は俺の様子は無視するかのごとく話を続ける


「その女子高生は腰の骨を折る重傷で、一時は生死の境もさ迷うほどだった。幸いにも一命は取り留め現在はリハビリに努めている」

「!!」


俺はそこまで聞いてやっとその事件のことを思い出した。たしか大槻雄一の姉、依頼人である大槻優子が俺に話したことだ

もっとも大槻優子自身は弟の失踪とは無関係であろうと思い至っていたらしいが


「その話なら俺も聞いたことがあるぜ」

「ほぉ、さすがは探偵だな」

「けっ……警察は全然その犯人の目星すらついていないらしいじゃないか」

「………」


俺のその言葉に神は苦虫を噛み潰すような表情をする

その表情は明らかに「違う」と否定している反応であった


「……違うのか……?」

「当然だ。犯人の目星はすでについている」

「!?」


俺はその言葉に驚きを隠し得ない。大槻優子の話では未だに犯人の目星すらついていないという話だった。だが目の前の神は目星はついていると言い放つ


「なら何故犯人逮捕に………」


俺はそこまで言ってある一つの仮定に思い至る

神は相変わらず苦虫を噛み潰すような表情のままだ


「………まさか…」

「ああ、そうだよ!砂異徒の幹部が犯人なのさ!!」


神は声を荒げて言い放つ。その言葉には理不尽なことに対する怒り、なによりそれに抗えない自分自身に対する怒りも込められている

砂異徒のリーダーは有力な県会議員の一人息子。故に県内で起こった事件なら大抵はその力でもみ消されてしまう

県警察のトップも己の出世欲のためだけに暗黙にそれを認めてしまってもいるのが現状だ

俺はその話を聞いてなにか寒気のようなものに似た衝撃が走った

そのような沙異徒の恐ろしさにではなく、そのような行いが平然と行なわれている世の中の不条理に…だ


「まったく、少年法などといってあんなものはガキ共を更生させるためのものじゃない。アレは犯罪を犯したガキを守るための法だ」


その意見には俺も素直に賛成できる

近年増加している未成年者の犯罪などもそのいい例だろう

その多くは少年法という隠れ蓑によって厳しい罰が与えられることはない

それどころかそれを盾に平然と大人顔負けの犯罪を犯すやつだって現れる


「で、なんで俺を?」

「あの店に大槻雄一が出入りしているのは所轄の情報でわかっていたからな。で、俺があの店をマークしていたらお前が現れて来たってわけだ」


なるほど、それなら納得できる話だ。


「しっかしこんなガキが犯罪を犯しながらも、それを捕まえる側が黙認しちまうなんざ世も末だな」


俺のその一言に神はキッと鋭い視線を俺に投げつける

その目は明らかに自分をそんな連中と一緒にするなと言い放っている

そして俺は今一つ納得できないことが脳裏に浮かぶ


「一つ聞いていいか? 何故県警が動く。こんな簡単な事件で、捜査に圧力がかかっているのならなおさら県警が動くこともないだろう…」

「フンッ…なかなかいい質問をしてくるな。確かにこんな事件は所轄に任せておけばいい。だが俺が動いているのは警察という組織としてではない。あくまで俺個人として動いてるんだ」

「あんた個人で?」

「そうだ……」


その一瞬神の表情に陰りが見えた

それは哀しみ、または怒りともとれる表情だと俺には思えた


「………轢き逃げに遭った女子高生の名は神 奈月(ジン ナツキ)」

「神!?」

「……俺の娘だ」

「!!」



to be continued


後書き

はいどうも!HalfVampire第8話をお届しましたが如何であったでしょうか?
まだ水無月のヴァンパイアとしての能力は1話以降発揮されていないのが現状ではありますが、そこはそれ!さっさと続きを書いてそこにまで持って行きたいと思っております
代りに葉月とみかんとのスキンシップを冒頭に持っていったことで面白かったのではなかったのかと勝手に自分で判断しております(笑)

そして今回は初登場キャラがまた出てきました!
その名も神 英明!いや〜なんというか安易なネーミングなような気もしますが、そこは適当に読んで流してくださいませ!

さて、次回から水無月が沙異徒激突か!?
次回を活目して待っていてくださいませ!!

作成 2000年11月7日
改訂 2002年9月5日


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