第10話「危機」
………は〜思い返してたら頭が痛くなってきた
そもそも葉月を大槻雄一の元へ連れて行ったのが失敗だ
家でおとなしく留守番をさせときゃよかった…だけどそう思っても今更後の祭りだが
などと思いながら俺は相変わらずじたばたしながらなにか唸っている葉月のほうに視線を送る
しっかし、よく見るとこの状況
俺は倉庫の中を注視してみる
30人はいるだろうか、そんな連中が手に手に木刀、鉄パイプやら鎖、そしておそらくはこの前のように拳銃さえ
まったく冗談じゃない、昼間の俺があんなものをまともに食らってしまえば大怪我間違いなし。下手すりゃ死んじまう
ここは無駄でも説得を試みるべきかな
「お〜い、お前達こんなことしてないでちゃんと働くか、学校にでも行ったらどうだ〜」
まぁ無駄だとは思うが俺は声をかけてみる
当然のごとく俺のその言葉に対する応えは無い。そしてその沈黙がやけに寒々しい
だが一人の男が連中の後ろからゆっくりと現われ俺を一瞥する
周りの連中もその男に対しては道を空け下手に出る
「ふざけた野郎だ…おい、本当にこんな奴にお前等はあの晩叩きのめされたのか?」
俺の目の前のこざっぱりとした格好ではいるが、人相は悪者といった風体の男が後ろに向かって怒鳴る
すると後ろのほうからオドオドと身を低くした格好で出てくる男がいる。顔に包帯を巻いて鼻が見えていない
俺は忘れたが話の内容からおそらくあの日俺に叩きのめされた連中の一人だろう
「は、はい…」
「で、そんなにアイツは強いのか?」
「そ、そりゃ…なにしろあの日だってこっちには10人以上が得物をもって襲ったのにそのことごとくが返り討ちにあって…」
そいつは言いながら視線を目の前の威張っている男から俺へと向ける
そして俺と目があうと一瞬その目の色が恐怖に染まる
「そ、それにバイクで突っ込んだ奴がアイツに……アイツに片手で押し返されて…」
「バイクを片手で押し返した? 嘘言って誤魔化してるんじゃねーぞ!」
リーダー格の男はその疑わしい言葉に怒りの声を上げる
「う、嘘じゃありませんって!それに俺は確かに奴に銃弾をぶち込んだんです!それでも奴は……」
銃弾、その一言でそいつがある程度誰だかはわかった
なにしろ俺のお気に入りの服に穴をあけてくれた奴だったからだ。そういやきつい一発を叩き込んでやったせいか、巻いている包帯が痛々しい
男が恐る恐るこちらに視線を向け、俺と視線があうと「ヒッ」という表情で慌てて目を逸らした
「銃弾を撃ち込んでなんであいつはピンピンしてるんだ?」
「あの時は防弾チョッキを着用してたのさ」
俺は沙異徒の連中がなにか言う前に言ってやる
もちろん防弾チョッキなどは嘘だが、本当のことを言うよりは真実らしく聞こえるだろう
「防弾チョッキ……?」
おそらくこいつが藤堂亮輔……沙異徒のリーダーだろう
いかにもお坊ちゃんといった感があるがどこか度胸も据わっているようにも見える
確かにそうでなければ神奈川で一番の勢力を誇るグループの頭にはなれんか
俺はそう観察しながら一人納得する
「パパから聞いていないのかい? これでも探偵だよ…それとも警察にでも見えるか?」
「へ、冴えない探偵もいたもんだな。そうか、それで雄一のことをいろいろ探ってやがったのか」
藤堂亮輔は納得がいったという顔で一人にやけだす。おそらくこれから起こることを一人頭の中で想像しているのだろう
こうゆうタイプは自分が有利な立場に立つと途端に威張りだすのが相場だからな
葉月を人質にとっていること、さらにはこうして大勢で取り囲んでいる状況から自分が絶対安全だと確信しているのだ
「それより雄一は連れてきたんだろうな?」
「ああ。外の俺の車の中で待たせてるよ」
「なに!?」
「当然だろ。 ヤツは俺の依頼対象だ」
「ほぉ〜。 じゃあなんで俺がヤツを始末しようとしてるのかも当然知ってるわけか」
「そりゃここまでの展開なら当然気がつくだろうぜ」
「ハハハハ、その結果お前は馬鹿をみるわけか」
「ほっとけよ……自分の不始末をパパ頼んでなんとかしてもらう暴走族のほうがよっぽど冴えないと俺は思うがね」
「なんだと!」
図星を突かれたらしく藤堂亮輔は怒りの声をあげる
どうやら典型的なお坊ちゃんらしく気は短いらしい。 付け込む隙があるとすればそこかもしれないと俺は思案する
「悪いな、気にしてたか?」
「ふざけたやろうだ…」
藤堂亮輔はそういうと片手を掲げて後ろの連中に合図する
そして後ろの連中も手にした得物を構えて俺に視線を投げかけてくる
…やばいな、夜の俺だったらこんな状況はなんでもないが今はやばい…
一人や二人ならなんとでもなったんだろうがこれじゃあ多勢に無勢、状況が悪すぎる
となると逃げるのが最良の手だが…
俺は入ってきた出口に視線を送るとそこにはすでに2人ばかりが出入り口を固めている。こうゆう場合の連中の動きは素早いなと御tれは半ば感心する
逃げるのが不可能ならと俺は葉月のほうに視線を送る
葉月もこの状況を理解したのか騒ぐのを止めてただこの状況を見つめている
どうやら葉月は俺の勝利を疑っていないようだが
だが俺は年中無休の吸血鬼じゃあない!今は普通の人間と同じで反射神経だってそこらの人間と変わらないし銃弾だって撃ち込まれれば死んじまう
だから逃げるのがやはり最良の手なのだが、だからといって葉月をここに放って行くわけにもいかない
まったくなんだってこんな面倒に…こうなりゃもうやけくそだな……
だがこんな人数と正直にやりあうほど俺だって馬鹿じゃない
こういう場合は頭を使わないとな、うんうん。俺はそう結論するや、
「だけど今まで大槻雄一の目的に気付かなかったとはな」
「気付いてたさ」
俺の一言に藤堂圭輔は間髪入れずに言い放つ
「あんなくそガキが俺達の仲間に入りたいだなんて言った時から俺は怪しいと睨んでたのさ。たとえそれが俺らの下っ端だとしてもな」
「………」
「あいつのことを調べたら、俺が轢き逃げをしちまった女の恋人だったことはすぐに分かったよ。 俺がそれをやっていう証拠を探していたこともな」
「つまりお前は遊んでいたわけか」
俺は嬉々として語る藤堂圭輔に対して嫌悪の感情を露にする。 何故なら藤堂圭輔は自分が轢き逃げをした相手、神の娘を轢き逃げしたことを笑いながら話しているからだ
そしてそれを追ってきた雄一の復讐心すらも己の悦楽のために利用する
ヤツはまるで世の中は自分を中心に回っているとでも思っている典型的な男のようだった
「そうさ。雄一も馬鹿なヤツだ、復讐なんて考えずに黙って震えていればよかったのによ」
「そしてまた同じような目に遭うヤツが出てくるってわけか」
「なんだ。 まさか正義の見方気取りかよ?」
「正義? まさか、俺は正義なんて言葉は飾りだって知ってるさ。何しろ正義なんてものは価値観によって異なるんだからな」
「ほぉ〜、なかなか面白いことを言うなお前」
「だからってお前等のやっていることに反吐が出そうだってことに変わりは無い」
「なら俺たちはあくまで敵対するってわけだな」
藤堂圭輔はそう言い放つと腰から拳銃を抜き放ち、その銃口を俺に向けた
い"っ!?この展開は予想していないだけにヤバイ
「そういやお前は銃が利かないんだっけ? おもしろい本当に効かないのかどうか俺が試してやる」
「おいおい、人の話を聞いていなかったのかよ」
「本当にお前が防弾チョッキを着ているのなら無傷なはずだよな」
日本の探偵が防弾チョッキなど着ているはずがないだろう!
ホントに撃たれたら洒落にならん…日没までまだ時間は少しある
せめて時間を稼がなけりゃ…
相手も俺の動揺を感じ取ったのか、口元に笑みを浮かべる
その笑みは正視するのがおぞましいほどに禍々しく俺には感ぜられる。どうせならその口を恐怖で歪ませてやりたいとすら俺は思ってしまう
「雄一のヤツは連れてくれば助けてやる……といったらどうだ?」
「冗談。彼は表で俺がお前を引きずって来るのを待ってるよ」
「交渉成らずだな。 ならお前を片付けたあとで会いに行くまでだ」
言いながら銃口をまっすぐ俺に向ける
何度も言うがここで撃たれたらヤバイ
「いいのか?ここで俺を殺したらいかにお前のパパでも早々は揉み消せないぜ」
「心配はいらねぇーよ…ここでお前を撃ち殺した所で俺の身代わりは幾らでもいるさ」
「………」
「それに警察にも親父から金を貰って言いなりになってる奴等がいるからな、こっちは安泰というわけさ」
「!?」
その言葉に俺の脳裏に一瞬神の顔がよぎる
その神の娘は病院送りにされ、そしてその恋人は命を狙われている
それ以前に相変わらず嬉々として話す顔つき、どうやらこいつは性根からして腐っているようだ
コイツはちょっとお灸を据えてやらなけりゃな
「もっともお前の登場は早すぎたがな…」
「俺の優秀さが仇になったようだな」
「…フフ、鼠にしてはな……さてショーを始めようじゃないか」
そう言った途端にパンッという乾いた音が倉庫内に響き渡ると同時に俺の足に衝撃が走る
「グァッ」
足を撃ち抜かれ俺はバランスを失い床に崩れる
撃たれた足からは血が噴き出し、やがて痛みが襲ってくる
「なんだ、やっぱ効くじゃないか…どうやら防弾チョッキっていうのは本当だったみたいだな」
クソッ、なんか悪態をついてるんだろうが足の痛みで聞こえやしない
まいったな、別に今までだって昼間にヤバイことは何度もあったけど今回のはヤバイかもしれない
「クククク、もっとおもしろいショーを思いついたぞ…」
下卑た笑い顔、こういうやつの考えはロクなことじゃないってのはわかってる…
だが悔しいことに今の俺は並の人間並、無敵の吸血鬼の能力を使えるにはまだ後1時間はかかる
その証拠に撃たれた足の傷は全然回復せず、出血が続いている
「…どうだい撃たれた気分は?」
「…最悪だよ。是非ともお前にも味合わせてやりたいぐらいだ」
「ハハハッ、この状況で面白いやつだなお前は。 だがな、所詮お前の存在なんか俺の親父の前じゃ目の前に転がっている石のようなもんなんだよ…雄一もな」
「じゃあ、今度親父に言っとけ………石に躓かないよう気を付けろってな」
「ああ、言っといてやるよ…もっともその時にはお前はこの世にいないだろうけどな。そうだ、変わりにあの女と話させてやろうか? 俺はこう見えても慈悲深いんだ」
藤堂はそう言うと仲間に目配せで葉月を俺の方に連れてくるように告げる
「もっともこの話を聞かれた以上、あの女にもここで死んでもらうことになるが……まぁその前にたっぷり可愛がってから殺してやる、安心しろ」
「て…てめぇ……」
俺は何故か怒りが込み上げてくるのがわかった
それが何でなのかはわからない
撃たれた痛みでアドレナリンでも分泌されたのだろうか
ただ目の前の藤堂の愉悦に満ちた表情が気に入らないっていうのはわかる
「クククッ、やっと怒りの表情を出したな。やっぱりこうでなくちゃ面白くない」
「水無月っ!」
「お、来たようだね」
葉月は後ろ手に縛られながらもすでに猿轡は外されており、俺の元に駆け寄ってくる
「よ、よぉ…無事みたいだな」
俺は軽口で葉月を迎える
こうして地べたに寝転んで迎えるっていうのがちょっと俺的には気に入らない
本来ならこいつら全員をぶちのめして救世主のごとくふんぞり返って葉月を救い出すってのが俺の理想だったのだが、とそんなことを思わず考えてしまう
「ちょ、ちょっと!私なんかより水無月の方が無事じゃないじゃない!」
「ハハハ。 お前が俺の心配をしてくれるのか!?」
「こ、こんな時になに言ってるのよ!それよりどうして傷口が塞がらないの!? あなたならこんな傷瞬時に塞がっちゃうでしょ!!」
「あ、ああ……あと少し経てばそれも可能になるんだろうがな」
「なにわけのわからないこと言ってるのよ!」
「葉月…今何時だ?」
「えっ!?」
「何時だ……今…」
「こんな時になに時間なんか気にしてるのよ!それよりも今は!!」
「い…いいから教えろ……血が抜けて意識が……薄れて…来た……」
撃たれたのは足だから大丈夫だろうと楽観していたが、出血の量が半端ではない
どうやら動脈層でも撃ち抜かれたのか出血が止まらない
その様子に葉月は再び慌てだす
「ちょ、ちょっと水無月!」
「葉…月……」
「じ、時間ね……今時間は……」
「そこまでだ!」
葉月が時間を告げようとしたとき、後ろから藤堂圭輔が俺達の邪魔に入った
「ちょっと、見て分からないの! 水無月はこんなに血が出ちゃってるのよ」
「わかってるさ。 だがな、サービスタイムはもう終わりだ」
藤堂は再び残忍な笑みを浮かべる
葉月はその表情に思わず背筋に寒気が走るが負けじと藤堂を見据える
「あんた頭のネジが何本か外れてるんじゃないの! おかしいわよっ!!」
俺は同感だと思いながらもマジで意識が薄れ始めてくたため考えがうまくまとまらない
これが死を迎える瞬間なのだろうかと俺は考えてしまう
「おい、女を抑えろ」
藤堂はそう取り巻きに命令し、取り巻きの何人かで葉月を俺の元から引き剥がした
葉月は男達に対して暴れるが後手に縛られているため力が出せない
そしてそれを見て取った藤堂はその銃口をゆっくりと俺に向け引き金に手をかける
だが俺の視界にはそれはもはや映らない
「ちく……しょ…… こんなことで死ぬんならアイ…ツに………」
「じゃあな」
乾いた銃声音が倉庫内に響き渡った
to be continued
後書
はい、「Half Vampire」第10話のお届けです
いや〜前話から急展開のお話しでついて来れない読者も多いのではないかと思いますが……このまま突っ走りますです!(爆)
このお話しも後2話ほどで終了の予定…どうなる次回、そして最終回!?
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作成 2001年3月20日
改訂 2003年3月30日