杏子編U
PM4:30-内調本部−
コンコン
杏子「桐野捜査官入ります」
甲野「おお〜桐野君お帰り!」
杏子「ギクッ!」
入るとそこには本部長の他にもう一人、私があまり顔を合わせたくない人物が立っていた。
…「…なによその『ギクッ』は?」
杏子「あ、あらなんのことかしら?お久しぶりね…葵さん…・」
そう、そこに立っていたのは別にまりな先輩ではなく、私と捜査官の研修同期だった葵、水見 葵(みずみ あおい)が立っていた。
葵「…ええ、研修以来かしら…」
甲野「おや?そういえば2人は同期だったけね〜」
葵「・…ええ、不本意ながら…」
杏子「アハハハ(うわっ、はっきり言われちゃったわ。私この人苦手なのよね〜)」
杏子「(でもなんで葵さんがここにいるのかしら…そりゃ報告かなんかだろうけど)」
杏子「(早く出ていってよね〜)」
葵「………」
葵「…で、本部長。私を呼び出したわけを聞きたいのですが…」
杏子「(あら?葵さんもあまり長居はしたくないようね…)」
甲野「ふむ、その前に杏子くんの報告を聞きたい。…いいかね杏子君?」
杏子「…え、あ、はい」
甲野「で、彼からは話は聞けたかね?」
杏子「それが…・」
葵「…駄目だったのね…」
甲野「そうなの?」
杏子「それが聞こうと写真を見せたとたん出て行っちゃったんです」
甲野「へっ?」
杏子「ですから聞こうにも小次郎さん急に顔つきを変えて出て行っちゃったんです」
甲野「…なにも言わずにかい?…」
杏子「いえ、ただ私にはこの事件での担当を代われ…・と」
葵「…ふ、その彼とやらもよくわかってるじゃない」
杏子「(ムッ)どういう意味?」
葵「そのままの意味よ…ま、あなたはおとなしくデスクワークに勤しんでいればいいのよ。なんなら私がこの事件を担当しましょうか?」
葵さん、いいえ葵はいかにも勝ち誇った顔で言っている
杏子「(うっわ〜嫌な性格…・いくら研修時代同期の中でトップで卒業したからって…)」
甲野「おや?ほんとうかい水見君?それなら話が早い、よかったよかった」
杏子「!?」
甲野「実はそのことで君を呼んだわけだが、いや〜よろしく頼むよ!」
杏子「ちょ、ちょ、ちょっと本部長!この件は私が担当なんですよ!!(よりによってこんな女に取られるなんて)」
葵「…・こ、こんな女ですって?」
杏子「?(あら)」
甲野「…杏子くん…声に出てるよ…」
やっばー…葵ったらこっちを睨んでるわ…
杏子「と、とにかく、この事件は私の担当なんですよ!それが1日と経たずに交代だなんて!」
葵「まあ当然の人選ってやつね。まかせて杏子さん、この事件は私が無事に解決してみせるわ」
杏子「……なんで『無事』ってところをわざわざ強調するのよ…・」
葵「あら?おもわず強調しちゃったようね。別に深〜い意味はないのよ」
今度は『深い』を強調する。
葵「とにかくこの件は私にまかせてあなたはまたデスクワークでもしてなさい」
杏子「な、な、な…」
葵「さ、本部長、早く私にこの任務を任命して下さい」
甲野「………君達なにか勘違いをしてないかい?」
杏子「は?」
葵 「え?」
本部長の言葉に私も葵もおもわず間の抜けた言葉を発してしまった。
杏子「……どういうことです?」
甲野「この事件は杏子くんと葵君で、つまり君達にはコンビを組んでもらいたいということなんだ」
杏子・葵「………えぇぇぇぇぇぇーーーー!!」
私はもちろん葵も不平の叫びをあげる…
葵「な、なぜ私が桐野さんなんかとコンビを組まなければならないんです!」
杏子「なんか?ちょっとなんかってなによ!」
葵「うるさいわね!あなたはちょっと黙ってて!!」
うっ、すごい剣幕で睨まれたわ…でも私だって
杏子「そうです!私だって嫌です!!」
甲野「まあまあ2人とも、桐野君も水見君も抑えてくれたまえ」
杏子「これが抑えてられますか」
ガックン ガックン
甲野「ゴ、ギゲゲゲゲ…(く、苦しいよ)」
葵「ちょっと桐野さん、本部長を殺す気?」
杏子「あ、つい」
甲野「…ぷはぁー、桐野君、君さ〜仮にも上司の首を絞めるなんて真似はよしてよ。私じゃなかったら即刻減俸処分だよ〜」
葵「まったく、口より先に手が出るんだから」
葵「で、本部長、なんで私が桐野さんと組んで事件に当らなくちゃならないんですか?」
甲野「それなんだけどねぇ〜…・聞きたい?」
私も葵もコクンとうなずく
甲野「見たまえ」
本部長は机の上に一枚の写真を置いた
杏子「(あら?横からだけどなかなか奇麗な人ね)」
葵「この女がなにか?」
甲野「その写真は3年前に撮られた物だが、彼女の通称は“ブラッディ=ベル”、ドイツの極右組織通称“ネオ=ナチ”の殺し屋だ」
杏子「殺し屋?じゃあこの事件の犯人はこの女!?」
甲野「違う…まあ最後まで話を聞きたまえ。彼女が殺しに使う道具はナイフでなくこれだよ」
いいながら本部長は何かを構えているような真似をする
葵「狙撃…ライフルですか…?」
甲野「うむ。彼女はそのなかでもとびきりの腕でこの間のドイツのアーヘンで起きたイスラエル大使の暗殺事件は覚えているかい?」
葵「ええ、それも確か狙撃でしたね」
杏子「(…そういえばそんな事件もあったような無かったような…全然覚えてないわ…)」
私はそうおもいながらうなずく
甲野「しかもその写真がどこで撮られたか分かるかね?」
杏子「ネオ=ナチなら…ドイツじゃないんですか?」
甲野「…エルディアだ」
杏子「!?」
葵「?」
エルディア…多分忘れたくても忘れられない名前…EVEと呼ばれるプリシア女王のクローンが眠り…そして見城先輩が…・
葵「エルディアって桐野さんがが活躍したあのエルディアですか?」
本部長はコクリとうなずく
葵「そのエルディアが係わっているのですか?」
甲野「…分からん…が、彼女は2日前にここ日本に来日しているのが分かっている…おそらく仕事としてね…」
甲野「実はこれはJCIAからまわってきた情報でね、一応容疑はドイツでの事件の重要参考人として身柄を確保せよとのことだから」
杏子「じゃあ今はそのブラッディ=ベルとかいうネオ=ナチと、正体不明のナイフ使いの2人の殺し屋がいるんですね?」
甲野「そういうこと。しかももしかしたらそのナイフ使いもエルディアに係わっている可能性がある」
杏子「!?(このナイフ使いも?)」
甲野「だから彼から情報を引き出してきて欲しいんだ」
葵「ちょ、ちょっと待って下さい!二人ともエルディアが係わってるなんて、この二人が協力して何かを犯すという可能性もあるんですね?」
甲野「だから2人に組んでもらって捜査をして欲しいんだ」
葵「…分かりました」
杏子「?(あら案外素直に認めたわね)」
葵「あなたはどうなの、桐野さん?まあ嫌なら私一人でもいいんだけどね」
杏子「(う゛、やっぱし嫌な人ね)これはもともと私が担当だったんです。もちろん本部長の命令には従います」
甲野「うむ、ではさっそく捜査に移ってくれたまえ。あ〜それと2人とも、用心のため拳銃の携帯を許可する」
え゛?……け、拳銃……
葵「ほ、本部長!本気ですか?彼女の射撃の評価知らないんですか?」
甲野「知ってるよ…・D-(マイナス)でしょ?」
葵「そ、そうです。まりな教官にはサブ・マシンガンでだって的に当てられないといわしめたほどなんですよ?」
う゛っ、悔しいけど言い返せない…・確かにはっきり言って私は射撃はこれでもかというほど下手だ
甲野「でも相手が相手だからね〜…丸腰で立ち向かえっていうのかい?」
葵「で、でも」
甲野「まぁー、お守りみたいなものだとおもってさ、ね?」
葵「……わかりました」
私が何も言えない間に話しは成立したようだ……
甲野「じゃあ今日はもういいから明日から捜査をはじめてくれたまえ。くれぐれも気をつけてね」
杏子・葵「はい!」
バタンッ
甲野「……・さてと、またしてもこの国が係わってしまうのに、厄介な火種まで背負い込んでしまったね〜」
甲野「…………」
プルルルルルルルルル
プルルルルルルルルル
甲野「お!?はいはい」
甲野「あ〜甲野だが?」
…「はろはろ〜」
17:00−内調本部・ロビー−
ふぅー、結局葵さんと組まされることになっちゃったのね……
まあこうなったらやるしかないんだけど
捜査に私情を持ち込むなんていけないことだからね
とりあえずは…
杏子「あの、葵さん?」
葵「何かしら?」
杏子「私ロビーに人を待たせてるんですけど、これからどうします?」
葵「どうするって、まず情報を集めなきゃ動けないんだから。"不本意"だけどあなたが会って聞こうとしている男に私も話を聞くつもりよ?」
う゛、やっぱしついてくるのね
葵「で、これから会おうとしている男って何者なの?」
杏子「何者って、普通の私立探偵ですけど?」
葵「私立探偵? 探偵が今度の事件に関わる情報を何か握っているの?」
杏子「それを聞くためにこれから行くんです」
葵「信用できるんでしょうね、その男?」
杏子「腕は確かですよ(多分)。まりな先輩も腕は頼りにしている一人ですから」
葵「教官が?」
杏子「ええ、で、今待たせている人はその人の助手なんです」
氷室「桐野さん!」
横合いから名前を呼ばれ、そっちを向くと氷室さんがいた
杏子「あ、氷室さんお待たせしてすいません。あ、葵さんこちらが今話していた探偵事務所の助手の…」
葵「氷室先輩!」
え?……先輩…?
氷室「…え?あなたもしかして ……葵なの?」
え?二人って知り会いだったの?
PM5:30−天城探偵事務所ー
氷室「さあどうぞ!」
杏子「お邪魔します」
葵「お邪魔します」
氷室「小次郎は…・まだ帰っていないみたいね」
葵「……ここが先輩の…職場…なんですか…?」
葵は事務所を唖然として見ながらつぶやいている
……無理ないわね、私だってはじめてきたときそう思ったもん
氷室「ええ、ゴメンね汚いところで」
葵「い、いえ別にそんな」
氷室「いいのよ別に無理しなくて。確かに寂れてて汚い事務所だもん」
氷室さんは口ではああいいながらとても楽しそうに言っている
…ホントにこの場所が好きなのね…
氷室「コーヒーでも煎れてくるからそこらへんで座って待ってて」
杏子「あ、はい どうも」
葵「あ、どうもすいません」
杏子「(それにしても)」
キョロキョロ
杏子「(うわ〜、なつかしい)」
杏子「(あの時まりな先輩とここへきたのがまるでつい昨日のよう)」
杏子「(でもあの時とちっとも変わっていないのね)」
to be continued
パラサイトこたつでみかんを食べながらくつろいでいる
パラサイト「あ〜ぬくい、ぬくい」
杏子「あ〜自分だけみかんなんて食べちゃって!私にもくださいよ〜」
氷室「あ、私も」
葵「氷室先輩が食べるんなら私もご一緒します」
ゴソゴソ
パラサイト「う〜む、なにやら一気に増えてこたつが狭くなったな〜」
葵「ならあなたが出てけばいいのよ」
パラサイト「…君…ひどいね…」
氷室「まあまあ二人とも、せっかく久しぶりに『杏子編』が更新できたんだからいいじゃないの」
杏子「そうですね〜」
パラサイト「うむ、葵という新キャラも出てきたからね。ではここで簡単に自己紹介をしてもらいましょう!」
パチパチパチ
葵「え〜ただいまご紹介にあずかりました水見 葵です!内閣調査室捜査官でこの杏子とは同期で、氷室先輩の後輩に当ります」
パラサイト「ってことは葵も教育監視機構に所属してたの?」
葵「ええ、でも私がやっと入ってこれから先輩と一緒にがんばれると思った矢先に辞めちゃったので、それから内調に転属するまではずっとそこにいました」
杏子「(ボソッ)そのままいればよかったのに…」
葵「ん?何か言ったかしら杏子さん?」
杏子「い、いえ何にも、アハハハ」
小次郎「う〜す、なんか笑い声がすると思ったらみかん食ってたのか。で?」
氷室「でって?」
小次郎「俺のみかんだよ」
パラサイト「ああ、それならここに…・!?」
氷室「あら?さっきまでここに3つあったのに……?」
葵「先輩、彼女ですよ」
氷室「え?」
一同の視線が杏子に向けられる
杏子の前にはすでに皮だけになったみかんが4つあった
杏子「え?アハハハ、ちょっと食べ過ぎちゃいましたね…・」
一同「…………」