杏子編W
13:11 −新緑公園−
杏子「ぷっはぁ〜〜〜〜〜……一時はどうなることかと思ったわ」
玲奈「杏子さん……」
杏子「う〜、それにしてもここのトイレの匂い臭〜い……目が覚めたら縛られてこんなところにいるんだもん。もう死ぬかと思ったわ」
玲奈「杏子さん……」
杏子「う〜、このトイレの匂い……当分この落ちなさそう……」
玲奈「杏子さん!!」
杏子(ビクッ)
杏子「あ、ああ〜……ごめんね玲奈ちゃん。玲奈ちゃんにまでこんな禁断の場所とも呼べるところに連れ込む羽目になっちゃって……って、どうしたの?」
玲奈ちゃんはなにやら頬を紅潮させ、怒っていいのか嘆いていいのかわからないといった表情をしている
そういえば彼女に会うのって随分久しぶりね……
あら? なんかよく見ると目元が潤んでるみたいだけど〜………
玲奈「杏子さ〜〜〜ん」
(ガシッ)
杏子「え? ちょ、ちょっと玲奈ちゃん。 どうしたのよいきなり」
玲奈「もう杏子さんのバカバカバカ! 杏子さんの部屋が爆発したって聞いて、もう死んじゃったのかと思ったんだから〜!!」
杏子「あ、ああ〜それはね〜〜」
玲奈「もう! いっつも、いっつも心配ばっかりかけるんだから〜〜」
玲奈ちゃんは私に抱きつき泣きじゃくりながら言い放つ
私が死んだと思っていた哀しみ。それが私とこうして無事に出会えたことでもはや哀しみを抑える必要もなくなったため、玲奈ちゃんの欲求のままに行動している
そして玲奈ちゃんが流す涙こそ、私のことを本当に心配していてくれたのだろう確たる証だった
杏子「ごめんね、玲奈ちゃん。 そして……ありがとう」
玲奈「うん……うん……」
私はにっこりと微笑みながら優しく玲奈ちゃんの頭を撫でる
玲奈ちゃんもにっこりと笑顔で返し、喋りながら頷く
そして私の視線は………
杏子「………雄二君も…心配かけてゴメンね」
雄二「………」
杏子「雄二……クン?」
雄二「………」
雄二君は私の呼びかけには応えず、ただジッと私のほうを見つめていた
その様子に何かを察したのか、入り口のところに立っていたモニカさんはスッとその場を離れる
そして玲奈ちゃんも………
玲奈「わ……私ちょっと顔洗ってくるね…」
杏子「あ、玲奈ちゃ―!」
(タッタッタッタ)
杏子「行っちゃった……なんなのかしら、突然……ねぇ、雄二君?」
雄二「………」
杏子「雄二……クン?」
雄二「………」
雄二君は再び私の問いかけには応えずにただジッと私を見つめている
私はなにも喋らないその様子に、というか返事もしない雄二君の態度に少し苛立ちを感じ口を開こうとした瞬間……
雄二「……」
(ガシッ)
杏子「え? え、え、え??」
雄二「杏子………」
雄二君はただ私のことを強く抱きしめた
私はその突然のことに困惑する。 そして頬はなにやら上気し紅潮する
杏子「ちょ、ちょっと雄二クン! ど、どうしちゃっ―」
雄二「杏子……杏子、本当に生きてた!」
杏子「………」
雄二「本当に…本当に生きててくれてた……」
杏子「や、やぁーね何度も。だからこうして………」
雄二「バカ野郎!!」
杏子「!!」
雄二「俺が……俺が一体どれだけ哀しんだか知ってるのか?」
杏子「……」
雄二「俺は…俺はお前が死んだと本気で思ってたんだぞ……」
杏子「そ、それは〜………」
雄二「なんだってお前はいつも危険なことに巻き込まれるんだよ! どうしてお前ばっかりが!!」
杏子「そ、それは私の仕事がこういった………―!!」
私が説明しようと口を開いたとき、雄二君はその言葉を最後まで聴かず、さっきよりも強く私を抱きしめる
………私を抱きしめているのがこんな公衆トイレの…しかも"男子の"という状況でなければなかなかロマンティックな展開なのだろうが……などと頭の片隅で考えてしまう
そしてそう考えてると、私の心臓の鼓動が雄二君に聴こえてしまうのではないだろうかと思うくらいに激しく鳴っている
杏子「(……何故?)」
私はどうして自分がこんな気持ちに突然なってしまったのか理解できない
杏子「(……どうして?)」
雄二君は私にとっては手のかかる弟のような存在。ならばこの鼓動は弟に対してのもの?
杏子「(でもこれって……ひょっとして……)」
私の脳裏にある一つの言葉が浮かび上がる
今まで考えたこともないその言葉が……
そして雄二君は抱きしめていた腕をスッと緩め私から身体を離す
だがその両腕は私の肩を掴んだままで、その視線はジッと私の目を見つめる
杏子「(雄二君って……こんな顔もするのね……)」
私は思わずそんなことを考えてしまう
そして雄二君はその口を静かに開き始めた
雄二「杏子……俺、昨夜…お前に…… お前に、言おうとしたことがあるんだ……」
杏子「(……え?)」
雄二「お前は俺のことを弟のように思ってたんだろうけどさ……」
杏子「(……げげっ! ば、ばれてたのね……)」
雄二「それでもいいと一時は思ってたよ…… 俺とお前の関係が良好なままで保たれているならさ」
杏子「(え、え? な、なによこの展開って……)」
雄二「でもさ、昨日玲奈と話して……そして、お前が死んだって聞いて……」
杏子「………」
雄二「言わずに後悔するよりは、今言っておきたいんだ!」
杏子「(な…なにを!?)」
雄二「杏子……俺、お…おまえのこと……」
杏子「!!」
雄二「そ、その……お、俺はお前が―!!」
雄二君がその言葉の続きを言うために口を開こうとする。私も思わず身体を前に押し出すように聴こうとしている
それはその後に続く言葉を私はなにか期待しているのか、それとも無意識に身体が動いているのかそれは私自身わからない
だが………
(コンコンコン)
雄二・杏子『!』
モニカ「お取り込みの途中で申し訳ないんだがねご両人」
玲奈「もう! 今いいところだったじゃないですか!!」
杏子「(ひょ……ひょっとして聞いてたの玲奈ちゃん………)」
モニカ「すまんな。 だがこっちのほうも時間が推していてね」
玲奈「それにしても………」
モニカ「こうして感動の再会は果たしたんだ…… 桐野杏子、お前も本来の任務に戻ったら?
杏子「え、ええっと〜〜………」
雄二「…コホンッ」
モニカ「それに、こんな場所でするような話じゃないと私は思うがね」
杏子「(そ、それは同感)」
雄二「あ"っ」
って、「あ"っ」って……雄二君、気づいてなかったのね……
モニカ「我々にはすべきことがあるはずだ。 そうだろ?」
杏子「え、ええ……」
モニカ「こうしている間にも連中はちゃくちゃくとその計画を進めている。早くしないと取り返しのつかないことにもなりかねない」
杏子「……そうなの?」
モニカ「………」
杏子「……て、っていう冗談はそのくらいにして〜」
雄二「……本当に冗談だったのか今の?」
玲奈「杏子さんのことだもん、本気だったんでしょ」
杏子「ちょ、ちょっと2人とも! それってひどいわよ!!」
玲奈「ふんっだ! 人を散々心配させた罰よ」
雄二「そうそ!それにそのほうが目の前にいる杏子が夢じゃなくて現実にいるってわかるしな」
玲奈「あ、それって言えてるかも〜」
杏子「ひっど〜っい………」
玲奈「クスッ」
雄二「ククッ」
杏子「……アハッ」
私達はお互いに顔を見つめあうと誰ともなく笑い始めた
ただこの時、一瞬を喜び合うために
モニカ「コッホン……話を元に戻したいのだがな」
杏子「あっ………ごめんなさい〜〜」
モニカ「さて、桐野杏子。これでお前の憂いは晴れたわけだな?」
杏子「そ、そうね…… これでしっかりとこの事件にも取り組めるわ」
雄二「取り組むって、杏子!お前あんな目にあったのにまだやるつもりかよ?」
杏子「まだって……あのね、これは一応私のお仕事なのよ」
雄二「そ…それはそうだけど………」
杏子「ありがとう雄二君……」
雄二「えっ!?」
杏子「私のことをそんなに心配してくれているなんて気付かなかったから……」
雄二「………」
杏子「でもね、私は私自身この事件の結末を見ないと納得できないのよ。わかるでしょ、雄二くんなら?」
そう、彼ならわかるはず………
9ヶ月前のあの時、自分もかかわったものとして私と一緒にエルディアに渡った彼なら……
こうして雄二君と向かい合ってるとあの時の雄二君の決意がはっきりと理解できる
そう……使命感とかそういったものではなく、自分でこの起こったことへの結末を見届けたいのだ
たとえどのような結果に………できれば危ないのはごめんだけどね
雄二「わかるよ……」
杏子「ありがとう、雄二君」
雄二「でも杏子……それなら何かまた俺に手伝えることはないのか?」
杏子「え?」
雄二「あのときだって俺がいて役立ったことはいっぱいあっただろ? 今回だって何か役に立てることがあるかもしれないじゃないか」
杏子「え、えっと〜〜〜……… ゆ、雄二君は一般人でしょ? 一般人にそんなことをさせるわけには〜……」
雄二「俺、あの時だって一般人だったけど」
杏子「で、でも雄二君には学校と家庭があって〜〜〜〜……」
玲奈「杏子さん、なに言ってるのかわからないんだけど……」
モニカ「桐野、お前の負けだ。確かその少年はパソコン関係に詳しかったと記憶しているが」
雄二「ええ、俺パソコンに関しては結構自信があります!」
モニカ「と、なると………非合法的な方法も大丈夫か?」
雄二「ええ、一応……」
杏子「非合法?」
モニカ「ハッキングだ」
杏子「ああ、なるほど。 ………って、ええぇぇぇー--ーッ!!!」
モニカ「面白い反応だな…」
杏子「は、ハッキングって雄二君! まさかまだやって……」
雄二「ご…誤解するなよ! 決してあの時みたいに他人名義のIDで何かやったりとかそんなことはしてないし……ただ……」
杏子「ただ…?」
雄二「ちょっとプロテクトがしっかりしているところには忍び込んでみたかな〜と」
杏子「結局やってるんじゃないの!!」
雄二「で、でもその技術が今回活かせるんだろ? だったら万事OKぢゃん」
杏子「屁理屈を言わないの……いい、今度の事件が終わったらもうハッキングを含めた違法行為は止めるのよ!」
雄二「……それって…」
杏子「こ…今回だけだからね」
私は何故かまともに雄二君の顔を見れないまま返事をする
当然それが意味するところは彼のこの事件に対してのサポートを依頼することだ
でも違法捜査、服務規程違反という言葉が私の頭の回りをぐるぐる回って離れようとしない
まりな先輩だったら「超法規的措置よ!」といって独断の元でやっちゃいそうだけど……
こ、ここは先輩に習えってことでOKってことにしとこう! うん、そうしとこう
杏子「じゃ、じゃあ…まずは……」
モニカ「ああ、まずはここを調査する。雄二君はパソコンの準備をしてくれないか?」
モニカはそう言って一枚のメモを手渡す
そのメモはよくみると血が付着しているように見えた
そして、そこに書かれているのは……
杏子「……【鏑木遺伝子研究所】?」
雄二「……遺伝子研究所?」
モニカ「今ではまっとうな研究所のようだ。が、戦時中そこは軍直属の研究所だった」
杏子「そういえば、旧日本軍の研究施設がどうとか……」
モニカ「それがここだ」
杏子「で、でも一体どういう研究をしているか知ってるの?」
モニカ「元々は軍直属の研究所だったぐらいだからな………戦時中には異能力を持った兵士を造る研究をしていたという噂もある」
杏子「異能力?」
モニカ「人間でないもの、つまり鬼を宿らせるとかだそうだ。 まぁ真偽の程は定かでないし、今回の事件にはそれは無関係だろう」
杏子「そ、そうなの?」
モニカ「だが、ここの研究所で気になる情報が見つかった」
杏子「気になる情報?」
モニカ「ああ…だがとりあえず場所を変えよう。ここでは彼の技能を発揮できないからな」
………… to be continued
杏子「パンカカパーン♪」
玲奈「ど、どうしたの杏子さん……いきなり……」
杏子「ふふふ、喜んで玲奈ちゃん! なんと今日でこの連載は4年目が経過したのよ!」
玲奈「えっ!?」
杏子「そう、4年前の1998年10月4日にこの連載はスタートしていたの……だから今日のこの話の公開で無事に4年が経ったってわけ」
玲奈「4年…も……」
杏子「そうよ、すごいでしょ?」
玲奈「でもでも杏子さん!」
杏子「なに?」
玲奈「私が登場したのってつい最近なんですけど……」
杏子「それは〜〜〜……作者の都合ってヤツねきっと♪」
玲奈「そんな都合に振り回されてようやく登場な私って……」
杏子「でも気にしちゃ駄目よ! なにしろ法条先輩だって出たのは"去年"なんだし!」
玲奈「ああ、あのLost One以外は主人公なあの人ね!」
杏子「一応Win版Lost Oneでは一部主人公務めてたんだけどね〜」
玲奈「でもそれより……この後物語りはどう進んでいくのか杏子さん知ってる?」
杏子「えっと、作者の話によると……」
玲奈「うんうん」
杏子「これから私達が調べようとしている研究所で氷室さんが何故か出てきて」
玲奈「え、あの人が!?」
杏子「一方の小次郎さんは、情報屋の黄さんと何故か内調のオフィスでやりとりするのよね」
玲奈「な…なんでそんなところで……」
杏子「さらに事態を重く受け止めたまりな先輩は、事件の鍵を求め霧の都、ロンドンへ行くのよ!」
玲奈「ええーーーーっ!! ……って、それ杏子さん明らかに騙されてる」
杏子「え? だって作者からの極秘情報よこれ」
玲奈「だってどう考えてもおかしい事ばっかじゃん。」
杏子「そ、そんな!!」 私ってば…騙されてたの……?」
玲奈「……みたいね」
杏子「で、でもこれから面白くなるっていうのは本当なんですよ読者のみなさん!」
玲奈「多分…だけどね」
杏子「れ…玲奈ちゃ〜ん」
玲奈「ああ、もう! 椎茸の断面図みたいな目で潤まないの杏子さん! 一応主役なんだから」
杏子「い…一応って」
玲奈「お後がよろしいようで」
杏子「ちゃんちゃん♪」
杏子は雄二の助力を得、事件解決に向かう
そしてモニカが見つけた情報とは?
だが一方では黄に接触を図る小次郎
果たして小次郎は弥生を取り戻せるのか?
次回 小次郎編X!
次も読まないと1919ぶっ放しちゃうわよ♪
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