杏子編X




――14:00


    (カタカタカタカタ……ピッ)


雄二「よし、準備OK! 繋がったよ」

モニカ「よし。 …だが逆探の心配は………なさそうだな」

雄二「当然でしょ。 ここはハッキングには最適な環境だから」

モニカ「フッ、そのようだな。 じゃあまずは…―」

杏子「あの〜……」

雄二「……どうしたんだ、杏子?」


杏子「お取り込中申しわけないんだけど〜……」

モニカ「どうした? なにか問題でもあるのか?」

杏子「いや……あちらはあのまま放っといていいのかな〜、と」

雄二「ん? ああ、氷室さんね」


そう、私達が今いる場所は天城さんの探偵事務所。昨日来たばっかだから何にも変わってないけど、相変わらず………な場所

そして事務所のソファでは、氷室さんが夢見悪そうにうなりながら横たわっている

何故なら………―






―――10分前


杏子「ここ……なの?」

雄二「そっ! 以前チラッと見ただけだけどここって結構環境いいんだぜ」

杏子「……そうは……見えないんだけど…」

雄二「あのな〜、杏子。 お前オレの言ってる意味わかってる?」

杏子「え?」

雄二「俺が言ってるのは、ここはこれから俺たちがしようとすることをするには最適な場所だって意味だよ」

杏子「あ、ああ……そういうことね」

雄二「だろ? ここほど最適な場所はないぜ」

杏子「(………それでもいまいちわからないんだけど……)」

雄二「まぁ、とにかく入ろうぜ」

    (ピンポー……―)

    (バンッ)

氷室「はぁーい、いらっしゃいませーーー!! 浮気調査から迷子のペット探しまでなんでもこなしちゃうあなたの街の―……って、雄二君じゃない」

杏子「(は、早かった……呼鈴の音が終わる前に扉が開いたわ……まさかずっとドアの前に立ってたんじゃ……)」

雄二「久しぶりです、氷室さん。今日はちょっと、お願いが……」

氷室「え、お願い?」

杏子「ど、どうも〜」

氷室「!!」


あら? どうしたのかしら……氷室さんの私を見る目がちょっと……

あらら? 顔がなんだかみるみる青ざめて来てるけど……しかも頬に汗が……

なんだか見てると、氷室さんまるで幽霊でも見ているみたいな………

………幽霊? あれ…そういえば私って………


氷室「で……で、でで………」

杏子「(ああ!! やっぱりこのお決まりの出だしって……)」

杏子「あ、あ、あ、あの……氷室さん? お…お……落ち着いてくださいね」

氷室「で、で、で……」

杏子「ちゃ…ちゃんと順をおってこれから説明しますから……って、聞いてます?」

氷室「でたぁーーーーーーっ!!」

    (がくっ)


………案の定氷室さんは叫ぶなりその場に崩れ落ちてしまった……

私って……一体……






―――

雄二「それで、モニカさんが俺たちに教えたいっていうのは?」

モニカ「ああ……まずは鏑木遺伝子研究所の研究者リストを……」

雄二「OK。 リスト、リストっと……」

杏子「どれどれ、私にも見せてよ」

雄二「あ、こら! いいけど、そこらへん下手に触るなよ」

杏子「な…なによそれ」

雄二「なにって……お前の内勤時代の話を聞かされりゃ………」

杏子「わ、わかったわよ」


そう、私は内勤時代に触れる電子機械を片っ端から壊して回っていたという前歴がある……

おかげで内調のデータが一部吹っ飛んだとか吹っ飛ばなかったとか……

た……多分それは噂よね、噂………う、うんうん


雄二「心配しなくても出した情報はプリントアウトして渡してやるよ」

杏子「うん…そうして」

雄二「さってと……お、これだな研究者のリストって」

モニカ「その中にある客員職員……そう、その中だ」

雄二「はい……うわっ、たくさんいますね」

モニカ「ああ、なにしろ戦前から続いてる研究所のようだからな。その中でエルディアからの客員職員がいるはずだ」

雄二「え〜〜っと……あ、1人いました。 えっと……ストールマン……孔……?」

杏子「(え?)」

モニカ「やはり…か」

雄二「なんなんです、この人…… 今度の事件にやっぱり関係してるんですか?」

モニカ「いや、直接は関係していない」

雄二「直接はって……なんか遠まわしな言い方ですけど……」


2人がやりとりしている間、私はその名前をどこかで聞いたことがあるような気がした

確か……4年前のプリシア女王も関わっていた事件で……


モニカ「ストールマン・孔は4年前に旧エルディア情報部によって殺害されている」

雄二「ふ〜ん……じゃあなんでいまさら?」

モニカ「問題はこのストールマンが研究所に引き渡したとされる研究データだ」

雄二「研究データ?」

モニカ「君は桐野杏子とともにエルディアに来たとき……EVE、御堂真弥子の出生については聞いていたとおもうが?」

雄二「え、ええ……確かプリシア女王のクローン体で、前国王の記憶を引き継いでいたとか……でもあれって……」

モニカ「ああ。 もともとその研究、μ101はストールマンの父親であったドールマン・孔が行っていた。だがドールマンは息子であったストールマンは研究の完成間近に殺害されている」

雄二「え? 息子が父親を!?」

モニカ「……あの国ではそう珍しいことではなかったのさ……」

モニカ「(そう、私の兄もあの時………)」

杏子「………」

モニカ「その際にストールマンはそれまでの実験データを全て消去した……と思われていたが日本へ逃げ込むための取引材料としてコピーしたデータを研究所に渡していた……と、私は推測していた」

雄二「なんだ、モニカさんの憶測か…… それって考えすぎなんじゃ?」

モニカ「いや、おそらく連中もそう考えたからこそ今更ながらに日本にまでやってきたはずだ」

雄二「……連中?」


モニカの意味するところは私にはすぐにわかった

そう、ネオ・ナチ………

わからないのはその研究データ、そしてそれをなぜネオ・ナチが求めているのか……ということだけど

気になるのは彼女が口にした………


杏子「モニカ……さん?」

モニカ「フッ……無理にさん付けなどしなくても構わない。日本人はそういうところに律儀だな」

杏子「そういってもらえると助かるわ。 じゃあ、モニカ…―」

モニカ「桐野、お前が考えていることはわかっている」

杏子「じゃあ……やっぱり"プロジェクト・ネクスト"って言葉がなにか関係してるのね」


モニカは返事の代わりにただコクリとうなづく

でもその計画はテラーと関係してると……


モニカ「桐野、EVE……御堂真弥子のことは覚えているな?」

杏子「ええ……今でもよく覚えているわ」


そう、最初は王宮の離れで静かに眠りについていたときを……

それが私が……いえ、私と雄二君が目覚めさせた

最後に会ったときは砂漠で……

そして今では再び眠りについてしまった

だが、砂漠上であったときの、彼女と会ったことは今でも覚えている

彼女はできるならもう一度日本に渡りたいと私に話していた…

コードネームEVEなんて呼ばれていたけれど私にはなんの変わりもない一人の少女にしか思えなかった

そして今でもそう思っている…


モニカ「では、単純な質問だが……なぜネオナチはエルディア旧情報部とつながりを持っていたか知っているか?」

杏子「え? そういえば……」


そう、そこがこの事件で未だ繋がりの見えない糸なのだ

エルディアとネオナチ……その二つの接点を私は未だ見出せないでいる

だが両者になにかしらの利点が存在するからこそ結びついているはずである

なら……


モニカ「ネオナチ、いや…旧ナチスの残党は戦後自分達の根拠地となる場所を求めたのさ」

杏子「……」

モニカ「第二次世界大戦の末期、ナチスの連中は主に南米へと逃亡を図っていた。だが、在る者は中東へと渡っていた」

モニカ「……連中が今まで行っていた表沙汰にできない人体実験の研究データを手土産にな。当然エルディアは新興国家でもあったことから喜んでそれを迎え入れたわけさ。そしてそれによってナチス残党はひきつづき研究を続けられ、エルディアはそれによる恩恵を受けた……というわけさ」

杏子「そ、それじゃあ……EVEは……」

モニカ「ああ、クローンの研究元はネオナチ側から提供されていたのさ……それまでに蓄積された膨大なデータとともにな」

杏子「………」

モニカ「なかでもカオス・エンジェルと呼ばれている科学者がいるのさ」

杏子「カオス・エンジェル?」

モニカ「ああ、戦時中10代ながらナチスの科学局で主任を務めていた天才だ。 そしてヤツの研究のために何千という人間が殺された」

杏子「………それって、もしかしてアウシュヴィッツ?」

モニカ「そうだ。 ヤツはそこで何千ものユダヤ人をある研究のためにモルモットにしていたのさ」

杏子「な…なんなの、その研究って……」


言いながらも私の脳裏には答えが浮かんでいた

だが、私はそれを自分で言葉には出したくはない…口に出してしまえば……私は平静でいられる自信が正直無い


モニカ「薄々わかっているんだろう……複製人間………クローンさ!」

杏子「………!!」

モニカ「ヤツは……Drカオスは優秀な人間を複製できればナチスの支配は永遠に続くと信じていた狂信者でもあったのさ。そして総統でもあったヒトラーもまたその研究を奨励した」

杏子「く…狂ってるわそんなの」

モニカ「……ああ。 だが元々狂っていたからこそ起こってしまった戦争でもあったのさ、アレは」

雄二「でも、それと今回の事件……一体どう絡み合ってくるの?」

モニカ「カオスは敗戦間際に全ての研究データを持ってエルディアに渡っている……ご丁寧にも自分の経歴等は抹消してな」

杏子「それでそんな愛称で呼ばれているのね」

モニカ「ああ……ヤツの本名、年齢、出生地、全て不明だ。 まさに『神のみぞ知る』と言ったところだな」

杏子「そしてDrカオスはエルディアで………」

モニカ「ああ、エルディアにかくまわれながらも研究を続けていたんだ。 そして後にμ-101と平行してヤツはプロジェクト・ネクストを発動させた」

杏子「それって……」

モニカ「じゃあEVEの……御堂真弥子の設計思想はどうだ?」

杏子「ええっと……確かプリシア女王のクローンで、前国王の記憶を引き継いでいるとか…クローンというのはともかく記憶の伝達なんかは信じられないけどね」

モニカ「だが、その記憶の伝達という研究はドールマン・孔によって成功したとされている。そしてだからこそストールマンは父親を殺害したのだ」

杏子「じゃ、じゃあ…その研究所に引き渡されたデータって……」

モニカ「おそらくその記憶伝達の研究データだろう。 そしてネオナチはそれを求めているからこそ日本まで来たのだ」

杏子「でも……旧エルディア情報部がそれを欲しがるのならともかく、どうしてネオナチがそのデータを?」

モニカ「おそらくは………これは、私の推測にしか過ぎないのだが………」


モニカはゆっくりとその口を開き、自身の予測を告げる









モニカ「―を、目的としているはずだ」

杏子「そんな! そんなことできるわけが―」


モニカの口から出された言葉はあまりにもとっぴであり、私には正直信じがたかった


モニカ「ない……と断言できるのか?」

杏子「………」

モニカ「そう、だからこそネオナチも元々有していたその研究データをエルディアに提供していたのだろう」

杏子「でも……そうなると、その鏑木研究所は……」

モニカ「ああ……私も確信がなかったので手出しができなかったが、ストールマンがこの研究所にいたとなれば……雄二君、どこかにヤツの研究データが保管されているはずだ」

雄二「う〜ん、そういうデータってネットワークから引き離されてんじゃないかな? 一応探して見るけど」


    (カタカタカタカタ…)


杏子「(雄二君のぶらいんどたっち……明らかにまりな先輩の一本指打法なんかとは比べ物にならないスピードね)」

雄二「よし……研究データはネットワークでリンクされてる……これなら!」


    (カタカタカタカタ……)

    (カタカタカタ……)


雄二「よし、繋がった! Code X(エックス)?」

モニカ「………繋げてみてくれないか?」

雄二「さて、なにがあるのかな……」

    (ピッ)

杏子「うわっ……なにこれ……」


そこにはなんだが顕微鏡で見たような画像が細かい説明で表示されている

なにやら難しそうな感じだけど……


モニカ「………専門的なことはわからないが、これはどうやらクローンに関するデータのようだな」

杏子「クローン? 記憶の伝達のじゃなくて?」

モニカ「ああ……他のも参照してくれるか?」

雄二「あ、はい……」

    (カタカタカタ)

雄二「……あれ?」

杏子「(どうしたのかしら? なんか雄二君、キーボードと画面を交互に見返してるわ)」

雄二「変だな……」

モニカ「どうした?」

雄二「いえ……それがなんだかアクセスしようとしてもこっちの指示を受けつけてくれなくて」

モニカ「なんだと!」

    (ビモッ)

杏子「なんの音………―!!」


私は耳にした音に疑問を持ちながらモニターを観た瞬間、その場から動けなかった

それは……モニカと雄二君も一緒だった




………… to be continued



今回の話の設定はあくまで作者の独創で語られています
原作となっているEVEシリーズでは、エルディアとナチスの繋がりは登場していません
故にEVEの研究がナチスの人体実験の研究データを元に作り出されたというのは作者の妄想から発生して描かれています。そこを留意した上、ファンフィクションと理解したうえで今度ともお楽しみ下さい
また作中でナチスが行った非人道的行為、なかでもアウシュビッツ収容所で行われたことは史実です
ですが本作ではそのナチスが行った非人道的行為を決して賞賛しているわけではありません。
50年以上経った今、その事実に直面した小次郎や杏子たちが立ち向かう姿として描かれています
―作者より



EVE出生の秘密を知った杏子
そして明らかにされていくプロジェクト・ネクスト
だがさらに核心に迫るべく時に……
杏子たちがそこに観たものとは!?
次回 杏子編Y!

次も読まないと1919ぶっ放しちゃうわよ♪


Next Back

EVE Endless Rhapsody